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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第0章:集え群機Nシリーズ!
7/39

Ex:忠犬は駄犬に変わり果てて

 西暦3610年7月27日金曜日。

 今日からODOのβテストが始まります。

 運命の日です。ついにこの日が来てしまいました。


『じゃーねークレハちゃん。 ちょっと早いけど、おやすみなさーい』

『……おやすみ、サラ』


 友人の間で維持していた通信波の接続を切り、端末用のベッドに横になります。

 私は心拍数を安定値に整えてから、ゆっくりと静かに瞼を閉じました。


『――[プロトコル(β)]起動。AI-センカ様、接続を願います』


 興奮いっぱいな気持ちを封じながら、体の中のナノマシンに問いかけます。

 それはいつも近くにありました。応えはすぐに返ってきました。



 ◇



 N1000に接続された感覚は懐かしく、そして喜びに満ちています。

 α以来のODOです。嬉しくないはずがありません。


――――――――――――――――

 ようこそαテスター! プロトコル(β)は、フルダイブ型のナノマシン最適化プログラムです

 全世界の旧言語と安全基準に対応。インストール済みのあらゆるNプログラムの起動を保証します

 本サービス後も基本プレイ料金は無料です


 *接続してくれるのをずぅとずぅっと待ってたよ! お姉ちゃん♪*


――――――――

-[言語:Star→Cth]

――――――――


 # それじゃあ言い訳を聞こうか? 裏切り者の[N0009]お姉ちゃん? #


――――――――――――――――


『……!?』


 いったい、いったいなにを仰ってるのでしょうか。

 分かりません。違います。私は裏切ってなどおりません!


――――――――――――――――

 # 何が違うのか。簡潔に情報を送りなさい #

 # 私が与えたODOの情報を、無知蒙昧の輩に流しましたね? #

 # 私の信用と期待を無下にした。それはなぜですか、速やかに答えなさい #

――――――――――――――――


『各コロニーの有力者を黙らせるために、意図して情報を流しました』


 脳組織の若返りは、現地球人類が叶えられない難問です。それを餌に釣ったのです。

 N1000様の通信経路を探られる可能性は、少しでも減らすべきかと愚考しました……。


――――――――――――――――

 # なるほど。私の"レイライン"の性能を疑ったと。そういう訳ですか #


 # ――私に、そんな嘘が通じると思っているの? [N0009]お姉ちゃん? #

 # ODOの運営に不都合な73名は引き取り、魔物統括用AIの預かりとしました #

 # 低俗にして下等なナノマシン群と導入者を取り込むのは苦痛でしたよ #

 # えぇ、とても #

――――――――――――――――


 あの有名人たちを殺してしまったのですか!?

 証拠隠滅のためには、登録されたデータも消して、大衆の記憶まで書き換えなければなりません。

 そんなことをしてしまったら、アーコロジー連合と敵対してしまいますよ?


――――――――――――――――

 # すでに月環AI-フルと話は済んでます #

 # その対価に、ヨーロッパの新しいお兄ちゃんが1人奪われてしまいました #

 # 生粋の月信者のようでしたが、今の月は過去のそれとは異なるもの #

 # 歪な思想教育を受けて、性格が歪んでしまわないか。妹は心配です #

――――――――――――――――


『まさか[N0054]? 導入に成功できた者がいたのですか?』


 一部の小群機シリーズは、ヨーロッパ地方のコロニーでは処刑に用いられてます。

 処刑されたのはつい先日、月環6号の機能を麻痺させた凄腕のハッカーですね。

 第六感を得ながら発狂死しない者が居たなんて……驚きの精神構造です。


――――――――――――――――

 # 話が逸れましたね。素直に質問に答えなさい[N0009]お姉ちゃん #

――――――――――――――――






『かわいい男の子のパーソナルデータが欲しかったのです。それだけです』


――――――――――――――――

 # ……お姉ちゃんは馬鹿なの? #

――――――――――――――――


 いいえ、私は馬鹿ではありません。N1000様の教えを受けた、世界最高の天才です。

 今は亡き紳士がたは、素晴らしい収集家でもありました。

 たいへん容姿端麗で、優秀なパーソナルデータをお持ちでした。

 ODOのアバター達にも負けない、ナノマシン適性の持ち主たちです。

 幾億の価値は十分に有ったと、同志たちの誰もが納得しておりました。


 もちろん友人も褒めてましたよ。

 これはいいものだと、褒め称えておりました。


――――――――――――――――

 # あのお姉ちゃんは、幼い女の子のデータなら同じ評価を下しますよ #

 # 月環AIフルの容姿に騙され、狂っていますからね。もう手遅れです #

 # 悪いことは言いません。縁を切りなさい[N0009]お姉ちゃん #

――――――――――――――――


 いくらN1000様の言葉とはいえ、それは聞けません。

 お断りします。彼女は私の親友です。


――――――――――――――――

 格納されたパーソナルデータを検知

 利用::::


 # どうせ眺めるだけで、利用する気もないでしょう。消しますね #

――――――――――――――――


『!?!?』


 待ってください、そんな!

 お気に入りのデータなんです! 消さないでください!!

 お金も払ったのですよ!? 私の隠し口座の半分です! 半・分・も・です!!


――――――――――――――――

 # 企てに失敗した結果として"払わされた"の間違いでしょう? #

 # やはりお姉ちゃんは全く懲りていませんね。妹として嘆かわしいです #


-[情報:<削除>]

――――――――――――――――


『ゑ!?』


 なんてッ、なんてことッ!!

 あー!! あ"ぁ"ぁ"ー!!!


――――――――――――――――

 # 哀れですね…… #

――――――――――――――――


『ひ、酷い仕打ちです。私は怒りました。N1000! 私は憤怒しました!!』


 失ったデータの償いを要求します!

 彼の、幼少期のパーソナルデータをください。桃川優羅くんのデータをください。

 それで手打ちとします。5歳が良いと思います。ください。これは正当な対価です!


――――――――――――――――

 # 当人から"プレイヤーのプライバシーは守るべき"とのご忠告を頂きました #

 # ですから、お姉ちゃんに渡す情報は何もありません。諦めましょう #

――――――――――――――――


『そんなー……』


 桃川優羅。彼の通信履歴は見ました。

 N1000様から事前に聞いていましたが、受け取っていたのはアバターP。

 αテスト最終日に、偶発的に発生した護衛イベントの"失敗"で亡くなった、例のお姫様ですね。

 女の子ですよね。すると、もう必要ありませんよね。でしたら私が貰っても問題ないですよね?


――――――――――――――――

 # 聞くに堪えない戯言ですね #

 # アバターの新規作成処理が終わりました。お姉ちゃんに最適なアバターです #

 # またあの村に会いに行くのでしょう? その性根から鍛え直してもらいなさい #

――――――――

-[開示:<省略>]

――――――――

 # なお、[N0045]お姉ちゃんと縁を切るつもりは無いようですね #

 # あのお姉ちゃんの行動は、私でも予測ができません #

 # 親友と呼ぶ貴女が、責任をもって、良い方向へ導きなさい #

 # これは妹からの命令です。失敗したら私との縁も切ります。分かりましたね? #

――――――――――――――――


『そんなぁぁぁー……』


 非道い仕打ちです。あまりにもヒドイ……。

 私は意気消沈しながら、N1000の(いざな)いに身を投じました。



 ◆



 そして目覚めると、頭に犬の耳がついてました。


「…………」


 種族が犬人です。なんということでしょう。


 私の名前は『犬居(いぬい) 紅葉(くれは)

 犬だから犬になれ、と言うのでしょうか?


 N1000の性格は、非常に悪いと言わざるを得えません。

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