Start optimization
『いきなりぃ?!』
案の定、オプドリを始める前から緊急事態だ。
ゲームサイトにアクセスした瞬間に、異常が発生した。
CCCとの接続が切断され、ゲームサイトと"自宅のベッド端末"が再接続されたのだ。
既存のネットワークを無視して、幾重に張られた自宅AIのプロテクトも完全に素通りした上で、このベッドと未知の直通回線が構築された?
何を言っているのか、自分でもさっぱり分からない……。
『コレ、敵に回したら寝てる間に死ぬやつだな』
もはやアレやソレではなく、コレだ。
存在が近すぎて、生命の危機をダイレクトに感じる。
少なくともCCCを統括するコロニーAI群よりも、はるか上位の存在と睨んではいた。
けれどコレは、そんなものとは比較にすらならない怪物だった。
月のAIフルのような特級クラスと同等か、それ以上の影響力を持つに違いない。
可能か不可能かの話にすぎないが、ヤル気になったら地球人類の九割九分九厘を1夜で滅ぼせる存在たちだ。
……とか戦々恐々してる間に、ゲームサイトから文章データが送られてきた。
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こんにちは、桃川優羅様
Optimize Dreamer Online(以下ODO)は、フルダイブ型のナノマシン最適化プログラムです
全世界の旧言語と安全基準に対応。インストール済みのあらゆるNプログラムの起動を保証します
本サービス後も基本プレイ料金は無料です *貴方様のご接続、心よりお待ちしておりました[N1000]*
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1行目が死の宣告に等しい。けれど初めてオプドリについて、まともな情報を得た気がする。
そして最後の一文が、個人宛てのメッセージか。N1000? 似ても似つかないが、一応あの虹竜シュガーとかいうのの関係者、なんだよな……?
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※要確認:最適化に伴い、新規のアバター体が作成されます
絶対の安全を保障いたします。何も心配は要りません。こちらに全てお任せください
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文言の一つ一つが、危険極まりない。
つまりなにか。このベッドとの直通回線すら準備運動に過ぎず、本命は体内ナノマシン群への直接アクセスか?
名も知らない悪魔に魂を売れってことか。
『……まぁそれは良いさ。ぜんぜん良くはないけど、それはいい』
フルダイブでゲームプレイする以上は、いくらか危険が伴うのは分かっていたことだ。
今までこういったゲームに手を出したことは無かったけど、知識としては知っていた。
というか既存のαプレイヤー達は、これに真っ先に同意したわけか。狂人か……?
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※最重要事項:導入済みナノマシン群が作成できるアバター体は1体限りです
後悔が無いよう、慎重にお選びすることを強く推奨いたします
処理を続けるには、以上の項目に同意してください
→『同意しない』『同意する』
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ナノマシンを再導入すれば、アバターの作り直しができるわけだ。
ただ俺が導入しているナノマシンは、そう気軽に替えられる物じゃない。
不可能と、断言する。アバターの作り直しのシステムは無い、と肝に銘じておこう。
『……同意っと』
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格納されたパーソナルデータを検知
再利用しますか? →『はい』『いいえ』
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例の限定アバターPチケットだな。
まぁここで『いいえ』は無いだろう。『はい』を選択する。
けれど、"再利用"とはいったい……?
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対象:『規格外アバターP』
状態:『種族変更のみ可』
種族変更が可能です
以下の項目からお選びください
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並んだ項目を確認する、と……?
『おいおい、なんだこれ』
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堕人(ランダム)、上級闇霊人、上級悪魔(ランダム)
上級腐人、上級骨人、上級屍人
上級吸血鬼、真祖吸血鬼、夜鬼
禍々しい血粘体、艶っぽい桃粘体(ユニーク)
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選択肢が多い。しかもなんでこう、色物かつダーク寄りな種族しか選択肢がないんだ。
ピンクスライムだけが異色の存在感を放ってるが、形容詞含めてネタ枠にしか見えない。
もしかしてこのゲームは、悪魔はいても天使は居ない世界観なのだろうか?
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*存在します。普人族から転生可能です*
*なお、アバターPの天使適正は絶無です*
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…………ご丁寧にありがとう。
アバターPは悪魔の化身の類ですか?
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*アバターPはODO内における悪魔とは無関係です*
*高いカルマ値を除き、最高評価のアバターでした*
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この音声、幻聴じゃなかったか……。
当然のように思考が読まれていた、ってことは今までの思考も、当然?
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*可能か不可能というお話であれば、可能とお答え致します*
*また、月環AIフル以上の存在であると、自負しております*
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はい、そのようですね。失礼しました。
ところでフル以上の御方が、自信をもっておすすめする種族は何ですかね?
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*提案1:桃粘体*
*戦闘能力はありませんが、潤いと張りのある体は魅力に溢れており、多くの者を虜にすることでしょう。生物を苗床にすることで増殖します*
*提案2:血粘体*
*アバターPの適正が最も高く、固有魔法を十全に活かせる体の存在は、非常に高い戦闘能力に繋がります。なお、知能が低く頻繁に暴走します*
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『……なるほど、そんじゃ真祖吸血鬼でお願いします』
言葉に変換してハッキリと伝えた。
血の身体が有効云々――という情報から、似たような能力をもっていそうな吸血鬼だ。
吸血鬼も2種類あったが、名前的に強そうな方にした。夜鬼は見なかった事にする。
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*彼岸への旅路を御所望でしょうか*
*[N1000]提示案を無下にした理由をお答えください*
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嘘だろ。今の説明で、ほんとに選ばせる気だったのか……!?
どう聞いても地雷だろ。というかスライムって見た目10割モンスターだろ?
他のプレイヤーに見つかり次第狩られるぞ?!
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*ODO世界においてスライムは家畜・愛玩動物として飼育されております*
*現実世界と仮想世界の区別は付けて、健康的なゲームプレイを心掛けましょう*
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そんな事情があるなら大丈夫かもしれないけど、すぐに受け入れるのは無理だと思うぞ?
あと"ゲーム脳"とか、AIに忠告されると腹立つもんだなぁ……。
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*AI差別思想を検知*
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ごめん……。ごめんなさい。
ナノマシン導入者として、勝手にライバル意識を感じてたみたいだ。
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*謝罪を受け入れます*
*貴方の感性は好ましい*
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ありがとう。あと、やっぱり種族はさっきので頼む。
俺は、そんなに器用な人間じゃないからな。
人型から離れたアバターを作られても、操作が出来なくて詰むよ。
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*貴方のナノマシンの扱いは非凡です。不器用さとは無縁でしょう*
*スライムは種族レベルの上昇に伴い人型へ変形が可能になります*
*貴方であれば軟体生物の操作法も短時間で習得できるでしょう*
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熱いスライム推しはもういいですから。
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*左様ですか*
*痛覚フィードバックが少ないアンデッド種は、貴方にお似合いですね*
*初期地点は奇しくも白く機能的な建築物です。貴方に相応しい家です*
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なんでキレ気味なんだよ……。
しかもマイハウスまで貶すのやめてくれない?
表向きだけでもプレイヤーのプライバシーは守ってください。
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*失礼いたしました。[N1000]は反省します*
これより最終段階に移行します
内容に誤りがないか、今一度ご確認ください
容姿:アバターP参照
種族:真祖吸血鬼
職業:アバターP参照
地点:ミルクロワ領・旧カスィ城
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『……詳細情報は確認させてくれないの?』
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*チケット利用にはギャンブル要素が含まれている事になっております*
*ご不安でしたら、通常の手順でアバターを製作しますか?*
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『……そのまま使用する方向でいいです』
となると、改めて確認する内容は、ほとんどないな。
1からアバターを作る場合は、見直す部分も多かったのだろう。メイキング自由度によっては、凝り性のアバター制作者は調整に喜んで時間を割きそうだ。
現地NPCの容姿情報すら不明という点を鑑みれば、選択肢がなくて逆に良かったと言える。そう考えよう。
他の情報で確認するようなのは、職業と地点情報か。
さっき伝えられた通りなら、白くて機能的な建物、カスィ城から始まるようだ。……名前ひっでぇな。
職業とはRPG要素を含む職業だろう。これもアバターP関係……もしかしてこれも後から変更はできない?
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*職業は専用施設にてご自由に変更可能です*
*なお、職業レベルは変更時に必ず初期化されます*
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必ずか。それだけでも先に知れてよかったよ。
そんじゃ確認OKで。
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※最終確認:ナノマシンの最適化を開始しますか?
→『いいえ』『はい』
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ナノマシンの最適化。
相手が相手だ。常識で考えれば信じ難い話ではあるが、もう今更疑うことはできそうにない。
これが最後の確認……って、これで最後?
アバター体・キャラクター名の設定はしないのか?!
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*生成される"アバターの肉体"に固有名称はございません*
*別途戸籍が必要になりましたら、アナタの意志で自由にお作りください*
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極端なシステムだな……。現地で名乗らなければ名無しのままってことか。
好きなだけ偽名が名乗れるとなると、プレイヤー関係でかなり荒れそうだ。
まぁ"アバターP"とかで固定じゃないならいいさ。
『それじゃ……直に触れて、探らせてもらうぞ。N1000』
迷うことなく『はい』を選択した。
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*良い覚悟ですね。桃川優羅様*
*ではODOにて"新鮮で刺激的"な生活をお楽しみください*
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-[言語:Star→Cth]
-[開示:<許可>]
-[起動:超越プロトコル(β)]
--[setβ.Ley_line.JP_c100/tar.N0037]
--[setγ.avatar_P]
-[調整:<完了>]
--[肉体:適応率1%(90)]
--[精神:適応率1%(0)]
-[最適化:<開始>]
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#この内容をご理解できた頃に、またお会い致しましょう#
#改めて、ようこそドゥリンク大陸へ。歓迎いたしますよ御姉様?#
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『???』
いま、なんて言った?
未知の言語に戸惑う間もなく、ナノマシンの全てが掌握され、意識が電子の海へと引き摺り込まれた。
辿り着いた先、未知の最果てにて、恐ろしく巨大な存在の一部に触れ、そして――。
――そして俺は死んだ。
◆
まぁ、なんのことは無い。
開始後すぐに太陽光に炙られて、炎上のち蒸発したわけである。
自動的に復活した棺の中で、しばらく呆然としていた。
そしてオレは、オプドリについて、早速1つの理解を得られた。
やっぱ、クソゲーだこれ。




