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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第0章:集え群機Nシリーズ!
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おやつは食費に入らない

 正午過ぎ、高校のすべての講義が終わった。


 午前中かけて、体内ナノマシンの全てのリソースをチケットの解析に捧げた。

 解析開始1時間で、自分だけじゃ無理だと悟った。変な笑いが出た。

 近隣のビルに入っていた2級AIを30ほど利用した。無理だった。

 それらを足掛かりに、教育区画の1級AIマナブ先生の手を拝借した。無駄だった。


 ゆえに成果は0。――堂々のゼロ!


(まじで何なんだよこれぇ……ッ!)


 叫びだしたい衝動を強引に抑える。

 惨敗だ。暗号化技術に数世代どころか2桁クラスの隔たりを感じる。

 無力感が、やばいし、悔しい!



 ○



 ……というわけで、自宅へ帰宅である。

 登校時の失敗を繰り返さないように、最短最速ルートで校舎から脱出。窓からダイブ。

 さすがに骨は折れたが、すぐに治るので問題ない。監視カメラのデータは――今消した。


「……よし、いない。……いない、よな?」


 入手したデータを解析して安全を確認。今朝の遭遇は想定外だった。

 如月さんとは無傷で開放されたが、別れ間際にナノマシンの通信履歴とか提出させられた。

 やんごとなき一族だ。厳重すぎるチェック体制は生活の一部なんだろう。

 女性SPの紅葉さんには、提出後もしつこく疑いの目を向けてきたので「お疲れ様です」と言ったら、形容しがたい表情で見つめられた。

 ……最後の言葉は、かなり余計だったかもしれないな。如月家のブラックリストに入らないことを祈ろう。


(――ん? やっぱりもう来てたか)


 道中の端末からCCCのメールバンクを確認すると、第五都市コロニーの天領STOREで購入した品が届いていると連絡が入っていた。

 なので少し寄り道をする。

 駅前の共同発着場に行くと、待合室で特殊輸送犬のフライング柴犬がお座り待機していた。


「バゥ!」『こんにちは浦島太郎様。N端末で首輪に触れて、品物をお受け取りください』


 喋れない動物とサポート用のAI。鉄板コンビである。

 凛々しくも丸まった尻尾を振るその姿は、コロニーの癒しでもある。


「こんちは。ちょっと待ってくれ」


 カバン内からいつもの品を取り出しながら、体内のナノマシンに意識を向けて、左手親指に接触型の端末を露出させる。

 重要な取引に使用される通信端末だ。生体認証に加えて、ナノマシンの型番まで提示させなければならない。

 ……当然、偽名同様に型番号も偽装している。命が掛かっているから当然の処置だ。

 暗黙の了解になるが、企業側もそれは承知している。準特級AIは気軽に騙せるほど甘くはない。


「はい、ご苦労さま。いつもありがとうなワンコ」

「くぅンくぅん」『認証完了。ご利用ありがとうございました』


 首輪に指で触れて認証を済まして、宅配のお礼に犬用おやつを渡す。

 ごく普通のバイオ豚肉である。味付けも定番の焼き豚味だ。


「ガフっ。へっへっへ♪」『浦島様。マスターに餌を与えないでください』

「悪い、また俺が勝手にやった。いつも通りブリーダーさんにはよろしく伝えておいて欲しい」

『――畏まりました』


 サポートAIに怒られてしまったが、フライング柴犬は嬉しそうにペロっとおやつを平らげた。

 視線でおかわりをくれとキラキラした瞳で見てくるが、残念ながら今日の分は今ので全部だ。

 頭を撫でるとそれを理解したのか、尻尾がしゅんと垂れ下がった。


 彼らは生来の食いしん坊というか、生まれつきの巨体と余分な部位が背中に付いてる関係で、体の燃費が悪い。

 仕事中も腹は減るものの、知能が強化されており、見た目より遥かに賢いので我慢をしている。食べ過ぎは飛行能力に悪影響が出るうえ、業務態度に問題があると後が怖い。飼い主である天領STORE所属のブリーダーにもなかなか甘えられない。つらい。


 ――という世知辛いワンコの記憶情報を初回認証時に取得した。

 なので栄養補給に毎回おやつを渡すことにしている。善意ではなく同情による迷惑行為だな。


「……。じゃあな」


 そんな輸送犬のフライング柴犬ともお別れだ。

 わしゃわしゃと首を撫でていた手を離すと、柴犬は背を向け翼を広げて猛ダッシュ。


「わぉーん!」『今後とも天領STOREをご贔屓くださいませ』

「また1ヶ月後によろしくなぁ」


 翼をはためかせて急上昇。小さく遠ざかっていく姿を見送った。

 惚れ惚れするくらいの、いい飛びっぷりだった。


(――さて。中身は入ってるな。破損も無い。よし……)


 手元に残ったのは、なんら仕掛けのない簡素なダンボール箱。

 その中には、注文通りの品がたっぷり詰まっていた。


 天領STOREが誇る、超お徳用マテリアルドリンク。

 一本の値段は驚きの350円[税込]である。


「帰るか」


 空飛ぶワンコは本物の大空へと舞い上がったが、これから俺は地下の奥底へと急下降だ。

 箱を抱えて、駅のゲートへと向かった。



 ○



 無音稼働の昇降車(リフター)が停止する。


 辿り着いたのは、第百都市コロニー最下層の一つ上。同コロニーにおける居住区の僻地である。

 その僻地でも自宅はかなり端っこに存在していて、遊歩道を利用しても到着まで時間が結構かかる。

 徒歩での移動は暇だけど、間違っても箱は落とさないようにだけ注意する。


 そして何事も無く自宅に到着。

 飾り気のない、真っ白で四角い家が見えてきた。


(……ほっ)


 大丈夫だった、今日もちゃんと残ってた。

 例の身バレで差し押さえられてはいないし、説得(・・)で潰されてもいない。良かった。

 この自宅は見た目はアレだが、質素で頑丈な物件を選んだからな。その恩恵が出ているのだろう。


 ドアの端末で認証を行い、ロックを解除する。

 来訪者履歴は無しだ。今日は珍しく、自然体主義派の勧誘員が来ていない。


 連中、導入者がナノマシンを放棄するわけ無いだろ、って毎回言ってるのに聞かないんだよな……。

 今からでも人間に戻れだのなんだのと、どういう思考回路してるのかさっぱりわからん。


【【【お帰りなさいませ優羅様】】】

「ただいま。早速だけど[――]やって、[――]やって、[――]やったあとは好きにしてて」

【【【畏まりました】】】


 制服から着替えつつ、自宅のAI達にデータを送って、それぞれに家事雑用等々を指示する。

 これでもう今日やるべきことは無くなった。

 課題やレポートは帰宅途中で終わらせてしまったし、あとは温泉のスチームバスに入って寝るくらい。


 ……現実空間でやれる事なんて、こんなもんだ。


 現代地球人はみんな揃ってインドア派である。なんでも大昔の人類は、野外でアウトドアとかキャンプとかいうものをやって楽しんでたらしい。控えめに言ってクレイジーというか、なんというか。

 当時の生活模様の記録データは、どれもこれも誇張が過ぎるものばかりだ。あれで改竄はされていないと主張するのは無理があるよなぁ。


〔現在13時55分。すーぱーフルチャンネルの時間だ。忘れていても確認しろ〕


 ん、んんん? アラームか? こんな時間にアラーム設定した記憶は無いが……?

 まぁ不思議には思ったが、見てみることにする。通信波を飛ばして、自宅AIにテレビ回線に繋ぐように指示を出した。


『――"AI-マリン"。今日は特に慎重に頼む』

【畏まりました。万全を期してCCC接続を試みます。しばらくお待ちください】

『よろしく』


 通信波は、手軽に使用できる通信方法だ。そして手軽ゆえに危険も多い。

 変質させた自身の髪の毛を使用するため、夜間の降雨中や入浴中は使用できなくなるほか、屋外で無作為に発信すると簡単に割り込まれたり改竄されるなど、部分部分でデメリットがある。

 古い恋愛映画では、恋人同士で通信波を飛ばし合って愛を確かめるという、風変わりな使われ方がされていたらしい。自ら丸裸になって命を曝け出す露出狂としか思えないが、現在でも海外コロニーでは、通信波関係で年に3桁の死者が出ているという残念な記録がある。


『――そしてっ、こちらが企画者代理のアバター、"ライオンマスク"さんです』

『はーい、ライオンマスクでーす! やほー、がおがおー!!』


 変な番組が始まったぞおい。



 ○



『全国のコロニー附属の孤児院に送られた寄付金! その総額はなんと178億円! す、凄い金額ですね~』

『うぃー……みんなで協力した結果でーす。おーい企画者さーん、ちゃーんと見てますかー!?』


 カメラのある座標に向かって、投げやり口調で大きな手を振るライオンマスク。実に堂々とした匿名寄付者だった。

 その姿はライオンのマスクを被った人型アバター、ではなく猫のマスクを被ったライオンである。猫かぶりとでも言いたいのだろうか?


『子供はパンもケーキも好きなだけ食べれば良いんだよー。大人はー……ピンハネなんてしたら、ライオンがやって来て食べちゃうぞー! がおがおー!!』


 いったい誰なんだろうとか、とぼけるのは無理だった。なんせ直接本人から話を聞いたばかりなので。

 ところであのライオン型アバター、四足歩行で操作難易度が高めなのに、危なげなく操ってるな……。


『つ、続きまして、そちらの"ラクダライダー"さん。よろしいでしょうか――』

『…………』

『え、と、何かコメントを頂けると嬉――』

『…………』

『――ハイ! では次の方!』


 司会者の切り替えが早い。

 そして紅葉さんも登場していた。SPの同行者として巻き込まれてるのか? 可哀想に……。

 更に、その後ろにも被害者がいた。それぞれ変なマスクを被ったアバター体が350名ほど並んでいる。


『ぬ、ぬぅ。妾はコメントを控えさせていただく。ほんの、ほんの出来心じゃったんじゃぁ……』

『……ボクは、その、贖罪というか、証文というか。寄付金額も、オマケみたいな、もの、でして……はい』

『大切なのは気持ちでしょー? 私達はデータ(・・・)を分かち合った仲間でしょー?』

『『『!?!?』』』

『それはッ! ぉ、ぉぉ、恐れ、多いです……し!』

『…………?』

『ッイ、いえいえいえいえ!? 逃げるつもりはありません! 仲間です、ハイ!』

『子供たちよ! 存分に食すがよい! さらばじゃー!!』

『エ?! 勝手に終わッ――』


 司会者の焦り顔を最後に、映像が途絶えた。

 そして番組の代わりに、穏やかな音楽と共に月面のメンテナンス宇宙船の映像が流れ始めた。


 ……酷いものを見た。放送事故だこれ。

 まぁ共同の寄付に加わった人物が、まさかの如月家じゃあこうなるよなぁ……。



 ○



「……さてと」


 小休止もそこそこに、昼食の時間だ。

 気合の入れ時なので両頬をベチンとぶっ叩く。


 箱からマテリアルドリンクを1本を取り出して、ボタンを押し込み、変形・開封。

 保険のエチケット袋を準備してから、中身を確認……よし。

 最後に周辺に機械類が無い事を確認。もう一度チェック……ヨシ!


 数回深呼吸を挟んで、呼吸を整える。

 そして覚悟を決めてから、一気に、飲み込む!


「ンぐんぐんごぶっ、ごッごごゴッ……!」


 不味イ"。昔から変わらない激マズ飲料である。

 ほんのりついてる抹茶風味は、きっと製作者が残した唯一の良心だろう。

 むしろ強引に飲料品と言い張るための邪心か?

 これを苦もなく飲める奴は人間じゃない。


 ちなみに吹き出さずに飲みきるコツは、マニュアル操作のナノマシンで味覚機能をマイナス値まで麻痺させて根性でイッキ飲み。それに尽きる。

 慣れないのだ、どうあがいても。


「モげゅ!?」


 いまなんか口の中でちょっと動いた、のは、間違いなく気のせいだ。

 胃の中に入ってさえしまえば俺の勝ちなのだから気のせい――はい、気のせい!


「ぐぅ……ふぅぅぅぅううう」


 空気がくっそおいしい。

 ほんとまじでこれ、色とか半透明の緑色なのがどう考えても……いや原材料とか詮索しないっていう契約は守らなければいけない。

 今どき購入するだけで契約データ作らされる上に、受け取りに接触型認証までさせられる飲料てなんだよとか。

 店員のサポートAIが毎月ごとに親身になってきて怖いとか、思ってもいない。


 コスパは最強だ。だから文句はない。

 すべて納得した上で1ヶ月分にあたる3ダースも買い込んだんだ。意地でも飲みきってやる。


「……よし」


 そんなわけで、憎っき人類の大敵もとい飲料もどきの処理を終えて、3日ぶっ続けで作業できるだけの栄養補給が済んだ。

 全ナノマシン群をフル稼働させても1日は大丈夫だと、既に実証済みである。


『――"AI-テンクン"、しばらく潜る。フルダイブ中の体調管理は頼んだ』

【畏まりました】


 いざ始めようか。オプドリとやらを!

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