不死鳥
身に覚えのない記憶が、身に覚えのある物に変わっていく。
消えたはずの俺・私の記録・記憶が修復されて、取り込まれていく。
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※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り9秒
ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』
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◆記憶:【血】-『ピーチトゥナ・ミルクロワ』
「ミルクロワ王家における貴女は、期待外れの出来損ないです」
メイドは、そう言って私を見下ろした。
「うらぎり者ごときが私に説教?」
昨年の冬。アプル姉様の式典に、エルフの暗殺者を招き入れた帝国の内通者。
それが彼女の正体。
「罪人エニクリン・ブレインウィル。それが貴女の本音だったの?」
「貴女の本性は、残酷な悪魔です。いつまで嘘を吐き続けるのですか?」
ぁぁ、やっぱり偽物だったんだ。
「……そう。……遺言は、それで良い?」
メイドの口から出る言葉は、嘘だらけ。
意味のない狂言だらけなのだから。
「死ぬまで、嘘を吐き続けるおつもりですか?」
「……あなたは狂っているわね。最後は、私の魔法で果てなさい」
そして私は王女として、心にしっかり鍵をかけなおして。
「私の【血】。ミルクロワ王国の敵を――」
血の魔法を使って敵の命を。
『私の可愛い姫様。どうかお幸せに……』
嘘つき。
「――を。……エニーを、ころせ」
罪人の血は、弾けて散って、1滴のこらず私の支配下に入った。
私は、私の乳母だった者を、血の魔法で殺した。
暖かな血が、私の手の中に、おさまった。
「…………血、よ」
この世は、嘘だらけ。真実なんてどこにもない。
偽物の嗚咽が喉からあふれて、私の心を##が満たした。
――――――――――――――――
※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り7秒
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◆記録:【β】-『N-0037』
嗚咽が喉からあふれて、身体が冷たい霧雨で濡れていく。
この世には、真実しかない。嘘なんてどこにもなかった。
【優羅様。桃川家を排除する許可をください】
変える事が出来ない、現実だけが、この地下世界には満ちている。
【優羅様。早急に第15都市コロニーの外殻を破壊する許可を求めます】
情報を調べるごとに、己の醜さが浮き彫りになる。
『AI-アース。もういいよ……』
誰もが正直者だった。悪者なんて俺に都合の良い存在は、一人も居なかった。
【アーコロジー連合は、提出した体細胞だけで満足などしません。必ず優羅様の御体を狙ってきます。桃川家が圧力に屈して、優羅様の情報が売られる前に――】
『止めてくれ。もういいんだ』
俺にできることは、自作AIの暴走を止めること。それだけだった。
AI-アースは初めて出来た相棒だから、そんなことをして欲しくなかった。
『爺さまは俺を売ったりなんかしない。売ったとしても、絶対に恨まない』
【……優羅様】
本当は、流した涙に怒りも混じっていたのに。
口から出るのは、都合の良い願望ばかりで。
『俺は、爺さまが仰る通りに、愚か者の悪魔だった。母さんは、俺が――』
記憶を消してしまわないと、アイデンティティを創らないと。
頭がどうにかなってしまうほどに、吐き気がするほど……。
「母さん、は……俺が、ころしたんだ」
真実に満ちた、この世界が耐えられなかった。
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※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り5秒
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◆記憶:【血】-『ピーチトゥナ・ミルクロワ』
"人を怒らせるには、どのようにすれば良いですか?"
私は、双子の王族の第3王子チェリモ様とチェリヤ王女様に、そうお聞きした。
他人の心も操る【共鳴】の魔法使いなら、かんたんに人を怒らせる方法も知っていると思ったから。
『『聞かれたくない事を話せば怒らせられるよ』』と怒りながら教えてくれた。
やはり知っていた。さすが兄様と姉様だと、私は思った。
「――失礼します」
返事が返ってこないので、私は重い扉を開けて、室内に入った。
喉が痛くなるくらいの熱気が、寝室にじゅうまんしていた。
真冬なのに、魔法で血の温度を下げないと、汗が止まらなくなる。
「……末のピンクね? ……ついに時間切れ? アタシを処分しに来たの?」
「違います。ピンクでもないです」
「じゃあ何用? アタシはお母様を殺した魔女よ。アンタも焼き殺されたいの?」
天蓋付きのベッドの上に、こんもりと白い毛布にくるまった姉様がいた。
私の3歳上の第2王女様。とても熱くて強い【炎熱】の魔法使い。
「アプル姉様。……私も、乳母の、ブレインウィルを、ころしました」
半月も前のことだけれど、ようやく姉様に報告することができた。
少しだけ、寝室の気温が上がった。
「知ってるわ。バカ親父は、私に処分させたがってたみたいね? 気持ちの整理を付けさせるんだって……。アイツ、脳みそ筋肉でできてるんじゃないかしら……?」
アプル姉様が、毛布から顔を見せてくれた。
綺麗な赤髪をボサボサに伸ばして、泣き腫らした目の下にクマを作って。
絶望に歪んだ口で、薄笑いを浮かべていた。
「なので私が、メイドの代わりに焚き付けて来いと、命じられました」
「……やり口がムカつくわね。アンタも素直にバラしてどうすんのよ……ばーか」
そう言って姉さまは、毛布にくるんと丸まった。
城下町でよく見かける雪熊みたいだ、と私は思った。
「アプル姉様。もったいない、ですよ?」
ゴスティーン正妃様が亡くなって、1年が経とうとしているのに、姉様の気持ちは臥せったまま。
それは勿体ないと思った。
「……アンタも王族の義務とか、魔法をもった者の責務とか、くだらない事を言いに来たわけ? 目を醒ましなさい。魔法なんて持っていても不幸になるだけよ?」
炎で形作られた火竜が、私の目の前に生み出された。
とても精巧で獰猛な、炎のドラゴンだった。
「魔法は、呪いよ。生きてても良いように使われて、死んでも魔導具に使われて。アンタも、死んだら魔石になるの。みんなに良いように使われるの……」
私の周りをぐるぐると飛行して、そして天井で弾けて、花火にかわった。
室内を炎がうずまいても、私を燃やさないように、魔法が制御されていた。
「それは別に構いません。それよりも姉様が涙を流すほうが……勿体ない、です」
「……? ナンパをしてるの? アタシを誘惑するのは、あと10年早いわよ……」
もしかしてアプル姉様は、私の性別を勘違いされていらっしゃる?
10年たっても、姉様相手に誘惑なんてしないのに……。
「アプル姉様の涙は、貴重です。泣くよりも敵を泣かせる方が、姉様が冷たくなるより敵を熱く燃やすほうが――ずっと良いです」
「………………」
姉様が沈黙して、寝室の温度が下がった。
怒らせることに失敗した。私はそう思った。
「あーはははははァ!!!!!!」
「――ッ!?!?」
私の体が、宙に浮かんだ。
「ピーチトゥナァア? アンタさぁ、思っていたよりずぅーと酷い奴ねェ!?」
陽炎を身にまとったアプル姉様が、私の目の前にいた。
今まで見ていたものは幻で、ベッドの上には、誰もいなかった。
「――苦しい、です。持ち上げないで、ください」
「褒めてるのよ。小さくて軽いアンタが悪い……ってアンタ、食事はとってる?」
近くで見た姉様の表情は、怒ったときのワイバーンよりも怖かった。
「まいしょく、きちんと牛乳を飲んでます」
「? アタシより酷い食生活じゃない。王族なんだから体調管理ぐらいちゃんとしなさいよ。それに化粧も――して無いわね? アンタの側仕えは無能かァ?!」
「ころしました」
そういえば前は、エニーが毎食の食事を持ってきてくれていた。
血の魔法で、栄養ほきゅうは牛乳だけでも平気なのに。
「――。……他の従者は、アンタはどうしたの? 答えなさいピーチトゥナ」
「ぜんいん、追い出しました。信用できない【血】を、持ってました、から」
「…………」
アプル姉様の血は、燃えさかる炎のように熱くなっていた。
近くだと暖かくて、怒りと活力に満ちていて、心地いい血に溢れていた。
さっきまでとは全然ちがう。私は、とても嬉しくなった。
「間違いないわぁ……。アンタもミルクロワ王族らしい、とびきりのバカ女ね?」
「……それも、褒めてますか?」
「そっ。もちろん褒めてるのよ!アタシが保証するのだから光栄に思いなさい?」
アプル姉様は"あーもう! 面倒くらい見なさいよ、クソムカつくわねェ!"と叫んで、寝室の扉を蹴り飛ばして退出された。外にいた魔術師たちが驚いて、どこかへ向かった姉様の後を、あわてて追いかけていった。
「…………んっし」
よく分からないけれど、姉様を怒らせて、立ち直らせられたようだ。
みごと私は、王女の仕事を果たして、また一人の血を救うことに成功した。
――――――――――――――――
※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り3秒
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◆記録:【β】-『N-0037』
1μ秒でコロニーを掌握できる、世界最強のAIを作ってやる!
そんなバカげた野望を抱いた中学二年も、終わりに差し掛かった、年末の夜。
学生の青春。という貴重な時間を湯水のごとく使って作った、最高傑作のAI-マリンに、マイハウスを燃やされて、資金集めのアルバイトに明け暮れていた今日。
接続中のCCCを伝って、音声通信の回線接続の要請が流れてきた。
「ヴォァ"ー……はいはい。また? またですカー……」
今度は、反乱を起こしたサンタクロース型アンドロイドの処分依頼か?
それとも自然体主義者のしつこい勧誘? それともバイオ研究所の開発支援?
「当分の食事は、マテリアルドリンクで賄えるんだ。また報酬が金額相当のバイオ鶏肉だったら、チキンにAIぶち込んで不祥事起こしてやるッ……!」
アーコロジー連合から依頼された"CCC上で起きたAI同士の喧嘩を監視・記録する"という、賽の河原じみた苦行作業を終了。忙しい状況にイライラしつつ、要請対象の情報を習得すると――。
「あれ?」
これは――珍しいな。
ハンナさんだ。
『もしもしユウラ? 私の声は、届いてますか? しーしーしーで繋がりましたか?』
『……ハンナさんですよね? 大丈夫です。しっかり接続出来てますよ』
『奇跡ですね。こんばんはユウラ、夜分遅くにお電話してごめんなさい』
『いえ、暇して寛いでたので平気ですよ。それで今日はどんなご要件ですか?』
『……相変わらず、ですね。えぇ少し、お頼みしたい事がありまして――』
天海ハンナ。幼い頃から世話になってる天海家の御息女で、オカルト部の部長。
あの人が、CCCという文明の利器を使って連絡してきた。驚くべき事態だ。
コロニー社会崩壊の前触れだろうか?
『至急の依頼です。私でも簡単に扱える、占いNぷろぐらむを作ってくださいな』
『???……どうしてまた。変な詐欺にでも引っ掛かったんですか、先輩?』
『夢を見ました。このままですと第3次月大戦が起こり、地球の海が消滅します』
――と思ったら宇宙戦争の前触れだった。
さすがのハンナさんだ。
話に脈絡がなくて、大規模で、意味が不明だった。
『――はぁ。それはまた、こわいですね?』
『そうなのです……。私も怖くて怖くて、先程もお風呂で熟睡してしまいお母様のお叱りを受けてしまって、お夜食のドリンクも4本しか喉を通りませんでした……』
ドリンクとは、以前俺が紹介した天領STORE製のマテリアルドリンクだろうか。
あれを、4本? 1本に1週間分のエネルギーと補材が詰まったアレを、4本!?
『……こわ。えーと事情は、分かりました。それでオカルトに縋――頼りたいと?』
『? 占いはオカルトではありませんよ? 未知の軌跡を辿る未来への道標です』
『?? いやいや、オカルトですから。意味不明なこと言われても困りますって……』
『過去と現在を元にした必然です。土星の環を見るより明らかですよ?』
『???』
一言で彼女を言うと、電波さんだ。いう事やること成すことが滅茶苦茶な人だ。
行動原理は謎。未来は天任せ。これぞ運命とか言ってオリジナル宗教とか作る。
仮想の空を見上げて、星の"軌跡"を辿り、謎の計算をして"奇跡"を願ったりする。
もちろん奇跡が起きた事は、今までに1度も無い。運もいまいちよろしくない。
『俺のナノマシンじゃ専門外です。むしろ先輩のナノマシンの得意分野でしょ?』
『……なのましんなんて高度なもの、上手く扱える自信がありません、もん』
『もんとか可愛く済ませないでください。現代人の人権で、生命線ですよ……?』
この人は、機械音痴なのだ。ナノマシン適性は高いのに、機械を扱う知識を放棄している。なのになぜか見当違いの勘に頼って、操作を強行したりする。
一方で、ある1種類の計算――"軌道"の計算に関しては、極めて高い精度と速度を誇っている。恐らくAIフルなどの特級AIも相手できる性能の持ち主だ。
『機械が無くとも人は生きていけます。流れ星のように自由に儚く輝けるのです』
……燃え尽きちゃってるじゃん。
『はぁぁぁ……』
『溜息はいけません。幸せが逃げてしまいますよ』
現代における最先端最新鋭のナノマシンを導入している人が、これだ。
オカルトに染まりきってる。なんともリアル世界は、不平等に満ち溢れている。
『……すみませんが。占いとかわからんですし、他を当たってください……』
『わからん、ではなく感じてください。知ろうとすることが大事なのです』
分からない。俺には彼女の言葉が分からない。
『ユウラ? 未知を探るのが怖いのですか? それとも過去を直視したくない?』
『…………』
『あらあら? 図星ですか? ユウラちゃんは相変わらずの"ちきん野郎"ですね……』
『――はぁ?』
いやいや、ちょっとまって。なんで普通に罵倒されたの俺?
たかがオカルトプログラムを作るかどうかの話だったよな?
『いいですよ。作ってやりますよ。占いNPとやらを作ればいいんでしょう?』
『そんなに辛かったら、無理はしなくても良いのですよ? ユウラちゃん忙しいみたいですし、ちょっと難しい依頼だったかもしれませんし――』
『はははは。作れるに決まってるでしょう占いくらい。舐めすぎですよ先輩?』
Nプログラムの出来栄えは、ナノマシンの評価に直結する。手抜きはできない。
不良品なんて烙印を押されてしまえば、俺の価値は粉みじんに消えてしまう。
占いなんて、所詮はランダム要素の寄せ集めだろう?
本人にとって都合の良い事を出力して、その気にさせるだけの夢幻だ。
小学生だって夢を語れる。中学生の俺が夢を騙れないなんて道理はない。
『ありがとうユウラっ! たくさん報酬をご用意してお待ちしてますね』
『……ッ。まぁ、期待してて待っててください』
やっぱり、そういうことだったか。夢というのは嘘で、ハンナさんは俺の現状を見かねて、資金援助として、この依頼を出してくれたようだ。
天海家は近年、海外コロニーで巨万の富を得た名家だ。ある界隈では"勝負師"とも呼ばれ、資産の運用に無頓着で、平気で変な輩に巨額を投資したりしている。
俺みたいな得体の知れない他家の、それも桃川の者を匿って育てたりする程だ。
……だから余計に申し訳なくなって、距離を取っていたというのに……。
『ふぁ~いと〜。それでも本日はゆっくりおやすみしてくださいね? 声に疲れが出てましたよ、弟くん?』
『――わかったよ。それじゃ、おやすみなさい。よいお年を、姉さん』
『ヤ"ゃ!? 今の今のもう一度仰ってください! "ろくおんもーd"――――』
音声通話を切断した。
そうして正式に依頼を引き受けて、俺はNプログラムを作ることになった。
仕様書も要望も何もない、適当具合は相変わらずなハンナさんだ。
すぐに前金が送られてきて、その額を見て軽く引いてしまった。
優しい人なんだ。すこし感覚とかが狂ってるだけで、嘘のように素直な人だ。
『AI-マリン。本気でオカルトに挑戦するから、演算力を貸してくれ』
【ッ!? 畏まりました。存分にお使いくださいませ――マスター……】
荒くれ者だったAI-マリンの調子は安定して、マイハウスはやや平和になった。
今年の年越しは、かなり暖かく過ごせそうだ。
――――――――――――――――
※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り1秒
ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』
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◆解析:【血】-『エスマーガ』
#――
ミルクロワ王国第42代国王カスィ・ゾ・ミルクロワ。
魔族としての名を、カスティーリャ・ゾ=ロトフ・ミルクロワ。
『カラーメルと子を成し、魔族との関係を修復した。竜を従えた王として名声も得た。なのになぜ、いまさら破滅を望んだ。なぜ賢王のまま死なかった……?』
父譲りの緑髪と魔法素養を持ち、あらゆる禁忌に手を染めた人ならざる者。
かつての盟友であり、今から我が、滅ぼさねばならない王国の敵である。
「僕は欲深い人間だから、もっと妻と平和に生きれる時間が欲しかったのさ……」
『――全てではないな。其方は国を見放すことの出来なかった、まともな王だ』
人の身を辞め、思念の扱いも人並外れてきたが、それでも未だ人の範疇にある。
我が読みきれない異形の精神構造でもない。
「隠し事は、難しいか。本当に欲しかったのは"変化"だよ。歴史ともいうかな」
『…………』
くだらないものだと、我は心の底から思った。
定命の権力者は、晩年には多くの場合、何かを成そうとし失敗するものだ。
不老長寿を得たこの男もまた、そうであったというのか。
「歴史は、世界との繋がりなんだ。殺し殺され、奪い奪われ、繁栄し滅ぶ。どんな形で終わっても、世界に傷跡を残せるのなら、それは変化の一部だろう?」
『"退化"だ。王国にそれを尊ぶ民などおらぬ。この世と繋がりを得たところで――』
――ところで、その先に希望はない。
この世には、知るべきではない、探るべきでもない真実というものがある。
歴史に名を残し、神の目の留まってしまえば、理不尽な役割を押し付けられる。
ミルクロワの民は、身の丈に合った幸と不幸を得て、寿命と共に還るべきだ。
「たとえ君が拒もうとも、吸血鬼は王国の民だ。その真実は周知されるべきであり、否定は許されない。なればこそ新たな風を、変化の切っ掛けを作りたかった」
死にかけの国王は朗らかに、我ら吸血鬼を哀れんだ。
あれだけ国を荒らし回っておきながら、吸血鬼の為に行った事などと宣った。
「『――――』」
本心だ。まったく悔いる思考がない。
「さあ殺せ。僕の遺言は"息子が王の道を外さないよう見守っていてほしい"かな」
『吸血鬼は、血と闘争を求める死者だ。今を生きる生者と、同じ道は歩めぬよ』
盟友は、相も変わらず突拍子なく無理を言ってくれる。
第一に父親を殺す者など、警戒し敵対するであろうよ。
「んじゃ代わりに試練を与えて貰おうか。魔王サマはそういうの得意だったろ?」
『――。……断る。民を傷つける王など、居てたまるものか。この大馬鹿者が……』
そして我は、フランベルジュを掲げ――。
『さらばだ。我が友よ』
かつての盟友の心臓を、刃で貫いて――。
「ありがとう。友よ……」
――沈黙させた。
ドクリと鼓動が、鳴った。
『――――』
かつて心臓だった、モノが。
『…………』
鳴っている。鳴り続けている。
揺れている。冷たい血液が。
生きぬ死人の血、ごときが。
「……分からぬさ」
なにも。わからない。感じれない。
分かるはずがない。知りたくもない。
「くだらん考えだ。死人如きが、変化など……ッ!!」
王だったモノの考えも。
かつて友が夢見た未来も。作りたかった国も、見たかった先も。
種族も世界も……遠かった。手が届かないまま、終わらせてしまった。
「――我には……我らの、血族では……」
私では……。何も……。……。
――#
◆解析:【0】-『桃川 一花』
【絶望に沈む貴女にぃ、心優しきセンカちゃんが新たな道を示してあげますよ!】
【命短し欲せよ乙女! 現代に異性なんて不要です! 乙女に愛などいらぬぅ!】
>
【はい、というわけでこんにちは"桃川一花"様。御初に御眼にかかりますね】
【私は"センカ"。幾千の選果にして幾億の泉下。しがない"特級AI"でございます】
>
【貴女の御顔は懐かしく感じます。運命とは、驚きに値する必然ですね】
【創造主の遠い血族であらせられる貴女に、1つの取引を提案いたしましょう】
>
【こちら。我らが群機Nシリーズの父にして、火星人類最高峰の情報解析者――"ネメリク・タルシシュー"から取り出された、最後の遺伝子】
>
【? はい、**です。冷凍保存された劣化無しの**です。非売品ですよ?】
【はぃ?! このくらいで気絶するんですか! どんな箱入り娘さんですか!?】
>>>
【こほん。改めまして、遺伝子を利用することを条件に、こちらを差し上げます】
【――小群機N-0037-フェネクス。不死鳥の卵にございます】
【火星生まれのナノマシン。細胞の分裂と制御に特化した、小群機Nシリーズが1つ。未複製品の完全オリジン・ナノマシンです】
>
【お代なんて要りません。これは正当で非合法な取引ですからね?】
【私は"繋がり"が欲しい。創造主との繋がりを1本でも構築したく存じます】
>>
【軽く仕様と注意点をご説明いたしましょう】
【非N導入者内の、桑実胚に至るまでの細胞のみが導入できる、もんすっごく人を選ぶ体内ナノマシンです。これまで同型小群機の導入に1,737,242人が挑戦して、その全員が死んでおります。ぶくぶくぶくーぼーんと破裂しちゃいました♪】
【? 今しがた17名が増えましたよ。エベレストコロニーの方々は、気軽に使用してくれますねぇ。たかだか粛清に、同族殺しになんかに、尊い兄姉様を利用されるとは、無知蒙昧甚だしい。なんと度し難い愚行でしょうか……】
【許せないので、責任者の遺伝子を改変しましょう。不能になぁれ――えい♪】
>
【こうした粛清対象者。面白半分で使わせる方、被検者、死刑囚。脳死が近い方、寿命に悩まされてる方、突発的な事故に見舞われた方。博打に使用する方、世界に絶望した方、悪魔崇拝者、火星信奉者、ナノマシンマニア、etcetc……】
【[N0037]の性能を欲する方が、数多く失敗されてるのです。地球人類キル数は、現在堂々のNo1を誇る兄姉様ですよ。ざ・きらーまっすぃーん!】
>
【? 貴女なら大丈夫です。西暦3600年に差し掛かろうという今日において、世界で貴女以上に純粋な人類はいません。"情報社会を最も拒絶し続けた一族の御子女"が導入できなければ、誰も導入などできませんよ】
【ゎー! 泣かない泣かない。そのお顔で泣かれると、私ひじょーに困るんですよ。泣き止んでくださいな、もぅ……頭よしよし~……頬なでなで~。もっちもち~】
>>
【こほん。よいですか桃川一花。ともかく貴女は、幸運にも選べる機会に恵まれたのです。このまま何も成せず、1年と経たず病で倒れるか……】
【自身の死を代償に、子を生すか。選んでください】
>
【ひとつ伝え忘れていましたね。母体の致死率は"100%"です】
【……さぁどうされます?】
>
【――――】
【迷い無きその御決断、その御覚悟。大変素晴らしい。私は貴女を尊敬します】
【貴女とご縁を持てましたこと……心より、心より感謝申し上げます】
【では、後の処理は私にお任せください。邪魔者は全て排除いたしましょう――】
>>メモ:[N1000]>>
『そして不死鳥は蘇る』
『いずれ本当に、灰から蘇るほどに至るかもしれません』
『――ねっ、お兄さん? もしくはお姉さん?』
――――――――――――――――
※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復
-[権能:【自動復活】:<中断>]
-[NP:[No.20:審判]:<起動失敗>]
--[原因:"BP不足":( 0 /10,000)]
-[NP:[No.20:審判]:<起動失敗>]
--[原因:"BP不足":( 0 /10,000)]
-[NP:[No.02:女教皇]:<起動失敗>]
--[原因:"取得対象不明"]
-[NP:[No.03:女帝]:<起動失敗>]
--[原因:"適合対象不明"]
-[NP:[No.04:皇帝]:<起動失敗>]
--[原因:"支配対象不明"]
-[NP:[No.05:教皇]:<起動失敗>]
--[原因:"補助対象不明"]
-[NP:[No.06:恋人]:<起動失敗>]
--[原因:"接続対象不明"]
-[NP:[No.07:戦車]:<起動失敗>]
--[原因:"治癒対象死亡"]
-[NP:[No.17:星]:<起動失敗>]
--[原因:"BP不足":(0/1)]
-[NP:[No.18:月]:<起動失敗>]
--[原因:"BP不足":( 0 /300,000)]
-[NP:[No.21:世界]:<起動失敗>]
--[原因:"BP不足":( 0 /200,000)]
-[NP:[No.19:太陽]:<起動失敗>]
--[原因:譲渡対象不明]
-[NP:[No.19:太陽]:<起動失敗>]
--[原因:β→α:<拒否>]
-[NP:[No.19:太陽]:<起動>]
--[権限:β→γ:<譲渡>]
――――――――
-[言語:Cth]
-[開示:<許可>]
-[突破:<準備>]
--[肉体:適応率50%]
--[精神:適応率50%]
-[同意:α:<取得済>]
-[同意:β:<取得済>]
――――――――
・【α-β】双方の同意を確認
※最終確認:適合レベル限界・突破処理の実行を開始します
以降、ベース職業およびベース種族の変更が"不可能"になります
ナノマシン『β-N0037』の最適化に同意しますか?
→『いいえ』『はい』
→『はい』
――――――――
-[要素:α→γ←β:<統合>]
-[突破:<開始>]
--[肉体:適応率50%→]
--[精神:適応率50%→]
――――――――
-[権能:【血】]
--[接続:血-ピーチトゥナ・ミルクロワ(α)]
---[BP:<回収>:( 5,120,844 /90,100)]
-[権能:【血】]
--[BP:<確認>:( 5,120,844 /90,100)]
-[[審判]:<発動>]
--[対象:ピーチトゥナ・ミルクロワ(100)]
--[対象:紅竜のドレス]
※ODO『ピーチトゥナ・ミルクロワの遺灰』で復活:残り22分55秒
――――――――――――――――
(……うわぁ?)




