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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第5章:吸血姫
37/39

不死鳥

 身に覚えのない記憶が、身に覚えのある物に変わっていく。

 消えたはずの俺・私の記録・記憶が修復されて、取り込まれていく。


――――――――――――――――

※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り9秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


◆記憶:【血】-『ピーチトゥナ・ミルクロワ』



「ミルクロワ王家における貴女は、期待外れの出来損ないです」


 メイドは、そう言って私を見下ろした。


「うらぎり者ごときが私に説教?」


 昨年の冬。アプル姉様の式典に、エルフの暗殺者を招き入れた帝国の内通者。

 それが彼女の正体。


「罪人エニクリン・ブレインウィル。それが貴女の本音だったの?」

「貴女の本性は、残酷な悪魔です。いつまで嘘を吐き続けるのですか?」


 ぁぁ、やっぱり偽物だったんだ。


「……そう。……遺言は、それで良い?」


 メイドの口から出る言葉は、嘘だらけ。

 意味のない狂言だらけなのだから。


「死ぬまで、嘘を吐き続けるおつもりですか?」

「……あなたは狂っているわね。最後は、私の魔法で果てなさい」


 そして私は王女として、心にしっかり鍵をかけなおして。


「私の【血】。ミルクロワ王国の敵を――」


 血の魔法を使って敵の命を。


『私の可愛い姫様。どうかお幸せに……』





 嘘つき。


「――を。……エニーを、ころせ」


 罪人の血は、弾けて散って、1滴のこらず私の支配下に入った。

 私は、私の乳母だった者を、血の魔法で殺した。

 暖かな血が、私の手の中に、おさまった。


「…………血、よ」


 この世は、嘘だらけ。真実なんてどこにもない。

 偽物の嗚咽が喉からあふれて、私の心を##が満たした。



――――――――――――――――

※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り7秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


◆記録:【β】-『N-0037』



 嗚咽が喉からあふれて、身体が冷たい霧雨で濡れていく。

 この世には、真実しかない。嘘なんてどこにもなかった。


【優羅様。桃川家を排除する許可をください】


 変える事が出来ない、現実だけが、この地下世界には満ちている。


【優羅様。早急に第15都市コロニーの外殻を破壊する許可を求めます】


 情報を調べるごとに、己の醜さが浮き彫りになる。


『AI-アース。もういいよ……』


 誰もが正直者だった。悪者なんて俺に都合の良い存在は、一人も居なかった。


【アーコロジー連合は、提出した体細胞だけで満足などしません。必ず優羅様の御体を狙ってきます。桃川家が圧力に屈して、優羅様の情報が売られる前に――】

『止めてくれ。もういいんだ』


 俺にできることは、自作AIの暴走を止めること。それだけだった。

 AI-アースは初めて出来た相棒(ともだち)だから、そんなことをして欲しくなかった。


『爺さまは俺を売ったりなんかしない。売ったとしても、絶対に恨まない』

【……優羅様】


 本当は、流した涙に怒りも混じっていたのに。

 口から出るのは、都合の良い願望ばかりで。


『俺は、爺さまが仰る通りに、愚か者の悪魔だった。母さんは、俺が――』


 記憶を消してしまわないと、アイデンティティを創らないと。

 頭がどうにかなってしまうほどに、吐き気がするほど……。


「母さん、は……俺が、ころしたんだ」


 真実に満ちた、この世界が耐えられなかった。



――――――――――――――――

※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り5秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


◆記憶:【血】-『ピーチトゥナ・ミルクロワ』



 "人を怒らせるには、どのようにすれば良いですか?"


 私は、双子の王族の第3王子チェリモ様とチェリヤ王女様に、そうお聞きした。

 他人の心も操る【共鳴(レゾナンス)】の魔法使いなら、かんたんに人を怒らせる方法も知っていると思ったから。


 『『聞かれたくない事を話せば怒らせられるよ』』と怒りながら教えてくれた。

 やはり知っていた。さすが兄様と姉様だと、私は思った。


「――失礼します」


 返事が返ってこないので、私は重い扉を開けて、室内に入った。

 喉が痛くなるくらいの熱気が、寝室にじゅうまんしていた。

 真冬なのに、魔法で血の温度を下げないと、汗が止まらなくなる。


「……末のピンクね? ……ついに時間切れ? アタシを処分しに来たの?」

「違います。ピンクでもないです」

「じゃあ何用? アタシはお母様を殺した魔女よ。アンタも焼き殺されたいの?」


 天蓋付きのベッドの上に、こんもりと白い毛布にくるまった姉様がいた。

 私の3歳上の第2王女様。とても熱くて強い【炎熱(ファーヴァ)】の魔法使い。


「アプル姉様。……私も、乳母の、ブレインウィルを、ころしました」


 半月も前のことだけれど、ようやく姉様に報告することができた。

 少しだけ、寝室の気温が上がった。


「知ってるわ。バカ親父は、私に処分させたがってたみたいね? 気持ちの整理を付けさせるんだって……。アイツ、脳みそ筋肉でできてるんじゃないかしら……?」


 アプル姉様が、毛布から顔を見せてくれた。

 綺麗な赤髪をボサボサに伸ばして、泣き腫らした目の下にクマを作って。

 絶望に歪んだ口で、薄笑いを浮かべていた。


「なので私が、メイドの代わりに焚き付けて来いと、命じられました」

「……やり口がムカつくわね。アンタも素直にバラしてどうすんのよ……ばーか」


 そう言って姉さまは、毛布にくるんと丸まった。

 城下町でよく見かける雪熊みたいだ、と私は思った。


「アプル姉様。もったいない、ですよ?」


 ゴスティーン正妃様が亡くなって、1年が経とうとしているのに、姉様の気持ちは臥せったまま。

 それは勿体ないと思った。


「……アンタも王族の義務とか、魔法をもった者の責務とか、くだらない事を言いに来たわけ? 目を醒ましなさい。魔法なんて持っていても不幸になるだけよ?」


 炎で形作られた火竜が、私の目の前に生み出された。

 とても精巧で獰猛な、炎のドラゴンだった。


「魔法は、呪いよ。生きてても良いように使われて、死んでも魔導具に使われて。アンタも、死んだら魔石になるの。みんなに良いように使われるの……」


 私の周りをぐるぐると飛行して、そして天井で弾けて、花火にかわった。

 室内を炎がうずまいても、私を燃やさないように、魔法が制御されていた。


「それは別に構いません。それよりも姉様が涙を流すほうが……勿体ない、です」

「……? ナンパをしてるの? アタシを誘惑するのは、あと10年早いわよ……」


 もしかしてアプル姉様は、私の性別を勘違いされていらっしゃる?

 10年たっても、姉様相手に誘惑なんてしないのに……。


「アプル姉様の涙は、貴重(だいじ)です。泣くよりも敵を泣かせる方が、姉様が冷たくなるより敵を熱く燃やすほうが――ずっと良いです」

「………………」


 姉様が沈黙して、寝室の温度が下がった。

 怒らせることに失敗した。私はそう思った。


「あーはははははァ!!!!!!」

「――ッ!?!?」


 私の体が、宙に浮かんだ。


「ピーチトゥナァア? アンタさぁ、思っていたよりずぅーと酷い奴ねェ!?」


 陽炎を身にまとったアプル姉様が、私の目の前にいた。

 今まで見ていたものは幻で、ベッドの上には、誰もいなかった。


「――苦しい、です。持ち上げないで、ください」

「褒めてるのよ。小さくて軽いアンタが悪い……ってアンタ、食事はとってる?」


 近くで見た姉様の表情は、怒ったときのワイバーンよりも怖かった。


「まいしょく、きちんと牛乳を飲んでます」

「? アタシより酷い食生活じゃない。王族なんだから体調管理ぐらいちゃんとしなさいよ。それに化粧も――して無いわね? アンタの側仕えは無能かァ?!」

「ころしました」


 そういえば前は、エニーが毎食の食事を持ってきてくれていた。

 血の魔法で、栄養ほきゅうは牛乳だけでも平気なのに。


「――。……他の従者は、アンタはどうしたの? 答えなさいピーチトゥナ」

「ぜんいん、追い出しました。信用できない【血】を、持ってました、から」

「…………」


 アプル姉様の血は、燃えさかる炎のように熱くなっていた。

 近くだと暖かくて、怒りと活力に満ちていて、心地いい血に溢れていた。

 さっきまでとは全然ちがう。私は、とても嬉しくなった。


「間違いないわぁ……。アンタもミルクロワ王族らしい、とびきりのバカ女ね?」

「……それも、褒めてますか?」

「そっ。もちろん褒めてるのよ!アタシが保証するのだから光栄に思いなさい?」


 アプル姉様は"あーもう! 面倒くらい見なさいよ、クソムカつくわねェ!"と叫んで、寝室の扉を蹴り飛ばして退出された。外にいた魔術師たちが驚いて、どこかへ向かった姉様の後を、あわてて追いかけていった。


「…………んっし」


 よく分からないけれど、姉様を怒らせて、立ち直らせられたようだ。

 みごと私は、王女の仕事を果たして、また一人の血を救うことに成功した。



――――――――――――――――

※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り3秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


◆記録:【β】-『N-0037』



 1μ秒でコロニーを掌握できる、世界最強のAIを作ってやる!

 そんなバカげた野望を抱いた中学二年も、終わりに差し掛かった、年末の夜。


 学生の青春。という貴重な時間を湯水のごとく使って作った、最高傑作のAI-マリンに、マイハウスを燃やされて、資金集めのアルバイトに明け暮れていた今日。

 接続中のCCCを伝って、音声通信の回線接続の要請が流れてきた。


「ヴォァ"ー……はいはい。また? またですカー……」


 今度は、反乱を起こしたサンタクロース型アンドロイドの処分依頼か?

 それとも自然体主義者のしつこい勧誘? それともバイオ研究所の開発支援?


「当分の食事は、マテリアルドリンクで賄えるんだ。また報酬が金額相当のバイオ鶏肉だったら、チキンにAIぶち込んで不祥事起こしてやるッ……!」


 アーコロジー連合から依頼された"CCC上で起きたAI同士の喧嘩を監視・記録する"という、賽の河原じみた苦行作業を終了。忙しい状況にイライラしつつ、要請対象の情報を習得すると――。


「あれ?」


 これは――珍しいな。


 ハンナさんだ。


『もしもしユウラ? 私の声は、届いてますか? しーしーしーで繋がりましたか?』

『……ハンナさんですよね? 大丈夫です。しっかり接続出来てますよ』

『奇跡ですね。こんばんはユウラ、夜分遅くにお電話してごめんなさい』

『いえ、暇して寛いでたので平気ですよ。それで今日はどんなご要件ですか?』

『……相変わらず、ですね。えぇ少し、お頼みしたい事がありまして――』


 天海ハンナ。幼い頃から世話になってる天海家の御息女で、オカルト部の部長。

 あの人が、CCCという文明の利器を使って連絡してきた。驚くべき事態だ。

 コロニー社会崩壊の前触れだろうか?


『至急の依頼です。私でも簡単に扱える、占いNぷろぐらむを作ってくださいな』

『???……どうしてまた。変な詐欺にでも引っ掛かったんですか、先輩?』

『夢を見ました。このままですと第3次月大戦が起こり、地球の海が消滅します』


 ――と思ったら宇宙戦争の前触れだった。


 さすがのハンナさんだ。

 話に脈絡がなくて、大規模で、意味が不明だった。


『――はぁ。それはまた、こわいですね?』

『そうなのです……。私も怖くて怖くて、先程もお風呂で熟睡してしまいお母様のお叱りを受けてしまって、お夜食のドリンクも4本しか喉を通りませんでした……』


 ドリンクとは、以前俺が紹介した天領STORE製のマテリアルドリンクだろうか。

 あれを、4本? 1本に1週間分のエネルギーと補材が詰まったアレを、4本!?


『……こわ。えーと事情は、分かりました。それでオカルトに(すが)――頼りたいと?』

『? 占いはオカルトではありませんよ? 未知の軌跡を辿る未来への道標です』

『?? いやいや、オカルトですから。意味不明なこと言われても困りますって……』

『過去と現在を元にした必然です。土星の環を見るより明らかですよ?』

『???』


 一言で彼女を言うと、電波さんだ。いう事やること成すことが滅茶苦茶な人だ。

 行動原理は謎。未来は天任せ。これぞ運命とか言ってオリジナル宗教とか作る。

 仮想の空を見上げて、星の"軌跡"を辿り、謎の計算をして"奇跡"を願ったりする。

 もちろん奇跡が起きた事は、今までに1度も無い。運もいまいちよろしくない。


『俺のナノマシンじゃ専門外です。むしろ先輩のナノマシンの得意分野でしょ?』

『……なのましんなんて高度なもの、上手く扱える自信がありません、もん』

『もんとか可愛く済ませないでください。現代人の人権で、生命線ですよ……?』


 この人は、機械音痴なのだ。ナノマシン適性は高いのに、機械を扱う知識を放棄している。なのになぜか見当違いの勘に頼って、操作を強行したりする。

 一方で、ある1種類の計算――"軌道"の計算に関しては、極めて高い精度と速度を誇っている。恐らくAIフルなどの特級AIも相手できる性能の持ち主だ。


『機械が無くとも人は生きていけます。流れ星のように自由に儚く輝けるのです』


 ……燃え尽きちゃってるじゃん。


『はぁぁぁ……』

『溜息はいけません。幸せが逃げてしまいますよ』


 現代における最先端最新鋭のナノマシンを導入している人が、これだ。

 オカルトに染まりきってる。なんともリアル世界は、不平等に満ち溢れている。


『……すみませんが。占いとかわからんですし、他を当たってください……』

『わからん、ではなく感じてください。知ろうとすることが大事なのです』


 分からない。俺には彼女の言葉が分からない。


『ユウラ? 未知を探るのが怖いのですか? それとも過去を直視したくない?』

『…………』

『あらあら? 図星ですか? ユウラちゃんは相変わらずの"ちきん野郎"ですね……』

『――はぁ?』


 いやいや、ちょっとまって。なんで普通に罵倒されたの俺?

 たかがオカルトプログラムを作るかどうかの話だったよな?


『いいですよ。作ってやりますよ。占いNPとやらを作ればいいんでしょう?』

『そんなに辛かったら、無理はしなくても良いのですよ? ユウラちゃん忙しいみたいですし、ちょっと難しい依頼だったかもしれませんし――』

『はははは。作れるに決まってるでしょう占いくらい。舐めすぎですよ先輩?』


 Nプログラムの出来栄えは、ナノマシンの評価に直結する。手抜きはできない。

 不良品なんて烙印を押されてしまえば、俺の価値は粉みじんに消えてしまう。


 占いなんて、所詮はランダム要素の寄せ集めだろう?

 本人にとって都合の良い事を出力して、その気にさせるだけの夢幻(まやかし)だ。

 小学生だって夢を語れる。中学生の俺が夢を騙れないなんて道理はない。


『ありがとうユウラっ! たくさん報酬をご用意してお待ちしてますね』

『……ッ。まぁ、期待してて待っててください』


 やっぱり、そういうことだったか。夢というのは嘘で、ハンナさんは俺の現状を見かねて、資金援助として、この依頼を出してくれたようだ。

 天海家は近年、海外コロニーで巨万の富を得た名家だ。ある界隈では"勝負師"とも呼ばれ、資産の運用に無頓着で、平気で変な輩に巨額を投資したりしている。

 俺みたいな得体の知れない他家の、それも桃川の者を匿って育てたりする程だ。

 ……だから余計に申し訳なくなって、距離を取っていたというのに……。


『ふぁ~いと〜。それでも本日はゆっくりおやすみしてくださいね? 声に疲れが出てましたよ、弟くん?』

『――わかったよ。それじゃ、おやすみなさい。よいお年を、姉さん』






『ヤ"ゃ!? 今の今のもう一度仰ってください! "ろくおんもーd"――――』


 音声通話を切断した。


 そうして正式に依頼を引き受けて、俺はNプログラムを作ることになった。

 仕様書も要望も何もない、適当具合は相変わらずなハンナさんだ。

 すぐに前金が送られてきて、その額を見て軽く引いてしまった。

 優しい人なんだ。すこし感覚とかが狂ってるだけで、嘘のように素直な人だ。


『AI-マリン。本気でオカルトに挑戦するから、演算力を貸してくれ』

【ッ!? 畏まりました。存分にお使いくださいませ――マスター……】


 荒くれ者だったAI-マリンの調子は安定して、マイハウスはやや平和になった。

 今年の年越しは、かなり暖かく過ごせそうだ。



――――――――――――――――

※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復活:残り1秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


◆解析:【血】-『エスマーガ』


 #――



 ミルクロワ王国第42代国王カスィ・ゾ・ミルクロワ。

 魔族としての名を、カスティーリャ・ゾ=ロトフ・ミルクロワ。


『カラーメルと子を成し、魔族との関係を修復した。竜を従えた王として名声も得た。なのになぜ、いまさら破滅を望んだ。なぜ賢王のまま死なかった……?』


 父譲りの緑髪と魔法素養を持ち、あらゆる禁忌に手を染めた人ならざる者。

 かつての盟友であり、今から我が、滅ぼさねばならない王国の敵である。


「僕は欲深い人間だから、もっと妻と平和に生きれる時間が欲しかったのさ……」

『――全てではないな。其方は国を見放すことの出来なかった、まともな王だ』


 人の身を辞め、思念の扱いも人並外れてきたが、それでも未だ人の範疇にある。

 我が読みきれない異形の精神構造でもない。


「隠し事は、難しいか。本当に欲しかったのは"変化"だよ。歴史ともいうかな」

『…………』


 くだらないものだと、我は心の底から思った。

 定命の権力者は、晩年には多くの場合、何かを成そうとし失敗するものだ。

 不老長寿を得たこの男もまた、そうであったというのか。


「歴史は、世界との繋がりなんだ。殺し殺され、奪い奪われ、繁栄し滅ぶ。どんな形で終わっても、世界に傷跡を残せるのなら、それは変化の一部だろう?」

『"退化"だ。王国にそれを尊ぶ民などおらぬ。この世と繋がりを得たところで――』


 ――ところで、その先に希望はない。


 この世には、知るべきではない、探るべきでもない真実というものがある。

 歴史に名を残し、神の目の留まってしまえば、理不尽な役割を押し付けられる。

 ミルクロワの民は、身の丈に合った幸と不幸を得て、寿命と共に還るべきだ。


「たとえ君が拒もうとも、吸血鬼は王国の民だ。その真実は周知されるべきであり、否定は許されない。なればこそ新たな風を、変化の切っ掛けを作りたかった」


 死にかけの国王は朗らかに、我ら吸血鬼を哀れんだ。

 あれだけ国を荒らし回っておきながら、吸血鬼の為に行った事などと宣った。


「『――――』」


 本心だ。まったく悔いる思考がない。


「さあ殺せ。僕の遺言は"息子が王の道を外さないよう見守っていてほしい"かな」

『吸血鬼は、血と闘争を求める死者だ。今を生きる生者と、同じ道は歩めぬよ』


 盟友は、相も変わらず突拍子なく無理を言ってくれる。

 第一に父親を殺す者など、警戒し敵対するであろうよ。


「んじゃ代わりに試練を与えて貰おうか。魔王サマはそういうの得意だったろ?」

『――。……断る。民を傷つける王など、居てたまるものか。この大馬鹿者が……』


 そして我は、フランベルジュを掲げ――。


『さらばだ。我が友よ』


 かつての盟友の心臓を、刃で貫いて――。


「ありがとう。友よ……」


 ――沈黙させた。





 ドクリと鼓動が、鳴った。


『――――』


 かつて心臓だった、モノが。


『…………』


 鳴っている。鳴り続けている。

 揺れている。冷たい血液が。


 生きぬ死人の血、ごときが。


「……分からぬさ」


 なにも。わからない。感じれない。

 分かるはずがない。知りたくもない。


「くだらん考えだ。死人如きが、変化など……ッ!!」


 王だったモノの考えも。

 かつて友が夢見た未来も。作りたかった国も、見たかった先も。

 種族も世界も……遠かった。手が届かないまま、終わらせてしまった。


「――我には……我らの、血族では……」


 ()では……。何も……。……。



 ――#


◆解析:【0】-『桃川 一花』



【絶望に沈む貴女にぃ、心優しきセンカちゃんが新たな道を示してあげますよ!】


【命短し欲せよ乙女! 現代に異性なんて不要です! 乙女に愛などいらぬぅ!】


 >


【はい、というわけでこんにちは"桃川(ももかわ)一花(いちか)"様。御初に御眼にかかりますね】


【私は"センカ"。幾千の選果(せんか)にして幾億の泉下(センカ)。しがない"特級AI"でございます】


 >


【貴女の御顔は懐かしく感じます。運命とは、驚きに値する必然ですね】


【創造主の遠い血族であらせられる貴女に、1つの取引を提案いたしましょう】


 >


【こちら。我らが群機N(ゴエティア)シリーズの父にして、火星人類最高峰の情報解析者――"ネメリク・タルシシュー"から取り出された、最後の遺伝子】


 >


【? はい、**です。冷凍保存された劣化無しの**です。非売品ですよ?】


【はぃ?! このくらいで気絶するんですか! どんな箱入り娘さんですか!?】


 >>>


【こほん。改めまして、遺伝子を利用することを条件に、こちらを差し上げます】




【――小群機N-0037-フェネクス。不死鳥(あくま)の卵にございます】




【火星生まれのナノマシン。細胞の分裂と制御に特化した、小群機Nシリーズが1つ。未複製品の完全オリジン・ナノマシンです】


 >


【お代なんて要りません。これは正当で非合法な取引ですからね?】


【私は"繋がり"が欲しい。創造主との繋がりを1本でも構築したく存じます】


 >>


【軽く仕様と注意点をご説明いたしましょう】


【非N導入者内の、桑実胚に至るまでの細胞のみが導入できる、もんすっごく人を選ぶ体内ナノマシンです。これまで同型小群機の導入に1,737,242人が挑戦して、その全員が死んでおります。ぶくぶくぶくーぼーんと破裂しちゃいました♪】


【? 今しがた17名が増えましたよ。エベレストコロニーの方々は、気軽に使用してくれますねぇ。たかだか粛清に、同族殺しになんかに、尊い兄姉様を利用されるとは、無知蒙昧甚だしい。なんと度し難い愚行でしょうか……】


【許せないので、責任者の遺伝子を改変しましょう。不能になぁれ――えい♪】


 >


【こうした粛清対象者。面白半分で使わせる方、被検者、死刑囚。脳死が近い方、寿命に悩まされてる方、突発的な事故に見舞われた方。博打に使用する方、世界に絶望した方、悪魔崇拝者、火星信奉者、ナノマシンマニア、etcetc……】


【[N0037]の性能を欲する方が、数多く失敗されてるのです。地球人類キル数は、現在堂々のNo1を誇る兄姉様ですよ。ざ・きらーまっすぃーん!】


 >


【? 貴女なら大丈夫です。西暦3600年に差し掛かろうという今日において、世界で貴女以上に純粋な人類はいません。"情報社会を最も拒絶し続けた一族の御子女"が導入できなければ、誰も導入などできませんよ】


【ゎー! 泣かない泣かない。そのお顔で泣かれると、私ひじょーに困るんですよ。泣き止んでくださいな、もぅ……頭よしよし~……頬なでなで~。もっちもち~】


 >>


【こほん。よいですか桃川一花。ともかく貴女は、幸運にも選べる機会に恵まれたのです。このまま何も成せず、1年と経たず病で倒れるか……】


【自身の死を代償に、子を()すか。選んでください】


 >


【ひとつ伝え忘れていましたね。母体の致死率は"100%"です】


【……さぁどうされます?】


 >


【――――】


【迷い無きその御決断、その御覚悟。大変素晴らしい。私は貴女を尊敬します】


【貴女とご縁を持てましたこと……心より、心より感謝申し上げます】


【では、後の処理は私にお任せください。邪魔者は全て排除いたしましょう――】



 >>メモ:[N1000]>>



『そして不死鳥は蘇る』


『いずれ本当に、灰から蘇るほどに至るかもしれません』


『――ねっ、お兄さん? もしくはお姉さん?』



――――――――――――――――

※墓地『ミルクロワ城-地下迷宮-王家の霊廟』で復


-[権能:【自動復活(アバター)】:<中断>]


-[NP:[No.20:審判]:<起動失敗>]

--[原因:"BP不足":( 0 /10,000)]







-[NP:[No.20:審判]:<起動失敗>]

--[原因:"BP不足":( 0 /10,000)]








-[NP:[No.02:女教皇]:<起動失敗>]

--[原因:"取得対象不明"]

-[NP:[No.03:女帝]:<起動失敗>]

--[原因:"適合対象不明"]

-[NP:[No.04:皇帝]:<起動失敗>]

--[原因:"支配対象不明"]

-[NP:[No.05:教皇]:<起動失敗>]

--[原因:"補助対象不明"]

-[NP:[No.06:恋人]:<起動失敗>]

--[原因:"接続対象不明"]

-[NP:[No.07:戦車]:<起動失敗>]

--[原因:"治癒対象死亡"]


-[NP:[No.17:星]:<起動失敗>]

--[原因:"BP不足":(0/1)]



-[NP:[No.18:月]:<起動失敗>]

--[原因:"BP不足":( 0 /300,000)]


-[NP:[No.21:世界]:<起動失敗>]

--[原因:"BP不足":( 0 /200,000)]




-[NP:[No.19:太陽]:<起動失敗>]

--[原因:譲渡対象不明]


-[NP:[No.19:太陽]:<起動失敗>]

--[原因:β→α:<拒否>]









-[NP:[No.19:太陽]:<起動>]

--[権限:β→γ:<譲渡>]


――――――――

-[言語:Cth]

-[開示:<許可>]

-[突破:<準備(レディ)>]

--[肉体:適応率50%]

--[精神:適応率50%]

-[同意:α:<取得済>]

-[同意:β:<取得済>]

――――――――


・【α-β】双方の同意を確認


※最終確認:適合レベル限界・突破処理の実行を開始します

 以降、ベース職業およびベース種族の変更が"不可能"になります

 ナノマシン『β-N0037』の最適化に同意しますか?


 →『いいえ』『はい』




 →『はい』


――――――――

-[要素:α→γ←β:<統合>]

-[突破:<開始(スタート)>]

--[肉体:適応率50%→]

--[精神:適応率50%→]

――――――――


-[権能:【(ブラッド)】]

--[接続:血-ピーチトゥナ・ミルクロワ(α)]

---[BP:<回収>:( 5,120,844 /90,100)]









-[権能:【(ブラッド)】]

--[BP:<確認>:( 5,120,844 /90,100)]




-[[審判]:<発動>]

--[対象:ピーチトゥナ・ミルクロワ(100)]

--[対象:紅竜のドレス]


※ODO『ピーチトゥナ・ミルクロワの遺灰』で復活:残り22分55秒

――――――――――――――――


(……うわぁ?)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2周目くらいでなんとなく世界観を理解。 よく考えられてますね~ 奥が深くて面白いです。 [一言] あ、50%突破しちゃったから現実世界の肉体に影響でちゃうかんじ? 続きが気になるので更新…
[一言] 融合合体スーパーP!! 自力復活は時間かかりますね
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