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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第5章:吸血姫
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始祖 -前-

 心臓が再構築されて、血管が張り巡らされて臓器が生まれる。骨が生えて肉が付き、皮膚が張られて服に包まれ――そして意識が覚醒した。


「…………」


 身体から"違和感"が完全に消えて、以前と比べて認識が大きく異なっている。

 アバター体の血肉が、ようやく自分の物――自身そのものになったような感覚。

 体中の血がドクドクと鼓動を発しているのが、知覚できている。

 突き動かされるような怒りが、消えている。溢れてくる欲求は1つだけだ。


「あぁ、血が飲みたい……」


 起床から最初に出てきた言葉は、なんとも酷いものだった。一旦冷静になろう。

 魔法の習得の影響だろうか、血の気配が濃密に感じる。世界が異なって見える。


(感じ取れる情報が多すぎるのに、これが自然みたいに、処理ができる?)


 何はともあれ、ひとまず起床である。

 戦闘行動の終了を条件にアラームセットをしていたらしく、その指示どおりに心臓ぶっ刺して自動復活したのがついさっき。


「……自動復活に保険をかけてたんだったか?」


 やらないよりはマシだろう、という理由で自動復活に関する記憶を消しておいたようだ。この一手間で、最低1回は確実にここで復活できると見込んだ。


(忘れ物は無いな。 んっし――[No.0:愚者]起動)


 記憶を再び消去して、オレは地下室を出た。

 ついに決戦の時、来たれり。



 ◆



 ――の前に、少し寄り道だ。


(フワフラーの弓だな。和弓の形をした金属複合弓で、芯の部分は骨か……?)


 ハッコの刀と同じく2m超えのお化け武器、同一製作者と思われる造りだ。

 どんな付与が乗ってるのか気になるけど、矢が無ければ無用の長物だった。

 ひとまず適当な場所に安置しておく。


 朽刀と鞘を回収して、地面に散乱するガーゴイルの1体を調査する。

 フワフラーの血から、知識の残骸を読み漁り走査走査――走査完了。


 ガーゴイルの仕組みと使役方法を理解した。


 なんでわかるの? と疑問は湧いたが、出来てしまえたのだからしょうがない。

 血の魔法とは、血に関する事なら不可能も可能にする、とんでも能力ゆえに。


(――[No.3:女帝]起動)


 ガーゴイルの魔石に即席のAIを打ち込むが……? あぁ、これはダメなヤツだ。

 動かせるには動かせたが、動きが鈍い。関節部分が粘土のように変形していて、維持するだけで、けっこうなBPが持っていかれる。


 専用に作られたロボならまだしも、体を構成する要素は、ただの石塊だ。

 生きた石の怪物なんて無理を通すには、相応の無理(BP)が必要なようだ。


 高コストで戦力外なので、縦にぶった斬って即殺。食堂の跡地へと向かう。

 道中で<王女の踏み付け>を発動して、内容の検証をはじめる。


「んりゃっ、とぅりゃっ、へぁー!」


 進路を塞ぐ瓦礫群(ガーゴイル)を、ことごとく足裏で蹴り砕いた。

 横蹴り(サイドキック)に、後ろ蹴り(ローリングソバット)に、ドロップキック。足裏なら例外なく効果が乗った。

 能力の基本性能は<王女のビンタ>と同じで、BP(SP)に応じた力場を足裏に展開。そして頭部を正しく踏みつけると、追加で拘束効果(バインド)が乗るらしい。

 ネタ技っぽいのに、地味に使えそうな能力だな……。


「<癒しのボイス>発動ぅ――んぎゅっ!?」


 もう一方の職業能力<癒しのボイス>は、総合レベルと同じ量のBP(MP)を消費して、声にHP回復効果を乗せるという能力だった。

 声帯を介して発した言葉を、脳で理解した者すべてが対象になるらしい。

 敵も味方も、当然のように自分自身も。この判定のゆるさは、頭おかしいぞ?

 無機物には効果がなく、不死者と悪魔は回復せずに、ダメージを受けるようだ。

 つまりは自爆技である。


(1秒で91BP? 使えない能力じゃないけど……ぅーん)


 鼓膜と体内に残ったダメージを治癒させて、能力検証はひとまず終了した。

 食堂の階段をおりて地下道へと向かう。目的地はこの先だ。



 ◆



 漂う多くの血臭の中から、ネオマから得た血と似た臭いを選別していく。

 フワフラーの血から読んだ、新鮮な記憶も頼りに地下を進んでいった。


「この風が流れて行ってる先に、いる……」


 途中で雪解け水が流れる水路にぶつかった。積み重なった黒い灰の層が混じった氷の洞穴だ。壁面と天井には、人工的な補強された跡がある。

 匂いの元は更に下流のようだ。〔飛行〕を発動して、翼を使って下っていく。


「――っ!!」


 やがて辿り着いたのは、発光するサファイアの壁面で覆われた巨大な地下空洞。

 幻想的で緑豊かな自然環境が広がり、中央の丘には、白亜の城が鎮座していた。


(あれが旧カスィ城の天守(キープ)? こんな地下深くにあったのか……)


 吸血鬼の親玉の住処だ。いつ死ぬかも分からない太陽の下にあるはずもないか。

 空洞は楕円形で直径500mほど。天井もかなりの広さだ。

 城自体が巨大な柱として、空洞の天井を支えているような作りである。


「都市コロニーの上層部と似てるな。かなり独特な構造だけど……っん?」


 遠くから、微かな獣の鳴き声が届いて来た。

 それと共に、小さいが揺れも伝わってきている。


「――――」


 ここまで来て予定外な展開(イレギュラー)は、少し不味いな。

 周辺調査を切り上げて、早めに突入しよう。



 ◆



 身に覚えのある血を1体分を除いて、外からは誰の気配も感じ取れない。

 見た目が綺麗なぶん、不気味な城だなぁ。


 城本体は深い堀で囲われて、下には魔力に満ちた雪解け水が流れている。

 跳ね橋は上がって、城門も閉じている。吸血鬼が流水に弱いって伝説は……。


(……よし)


 ODOの吸血鬼には問題はないようだ。

 飛行で堀を渡り、適当な窓に取り付き、そして〔変化〕を発動。

 霧に変わって、内部へ侵入する。


 〔変化〕の効果内容は単純明快。BPを消費して体の構造を変える能力だ。元の形から変われば変わるほど消費量が増して、自身とは無関係な物には変われない。


(……するり。そろり)


 ということで侵入に成功。この能力があれば、どこでも不法侵入し放題だな。

 霧に化けたというが、半ば物質次元から逸脱しているような挙動だ。

 肉体の情報化とでも言うのか。仮想世界だからこそ許されてる、やべぇ能力だ。


(――静か、だな。トラップもない。ほんとうに他に誰もいないのか?)


 廊下を慎重かつ迅速に進んで、血の気配を辿る。

 天井は光る宝石のシャンデリア。床には赤くてふかふかな絨毯が敷かれている。

 調度品は、豪華というか派手で目が痛いな。魔導具なのか、魔力を含んでいる。


 1つ1つの美術品の価値は高そうなんだけど、いかんせん統一性が無い。

 エスマーガの感性がゴミなのか。それとも先王カスィが残念センスだったのか。


(まぁいいや……罠じゃなければいい。このまま進もう……)


 地面はまだ、かすかに揺れている。むしろ徐々に強くなってきているようだ。

 静かな城内を進み、血の臭いのしない調理場を進み、螺旋階段を登って上階へ。

 広い大食堂と、煌びやかな大広間を横目に、廊下を進んで控えの間に到着する。


(…………)


 血の気配と魔力の元は、すぐこの扉の向こうのようだ。

 手元に朽刀があることを、最終確認。深呼吸を1つ。

 分厚い扉を〔念動〕で開けて――そして。


「其方、遅かったな。我は待ちくたびれたぞ」

「ッ……希望通りの奴だったか?」

「そうであって欲しいと、渇望していたとも」


 吸血鬼の始祖、エスマーガと邂逅した。



 ◆



 玉座の間の中央に、そいつは立っていた。

 赤い燕尾服を着込み、後頭部には捻じれた2本の黒い角。血色に光る瞳は縦に細く、ネオマと非常によく似た顔立ちをした、黒髪の少年(・・)だった。


「ネオマ? 同名の者が我が子孫に1人いたな。上位へ至れる素養の持ち主と見込んで、生かしておいたが――其方、会ったか。殺して食らったか?」

「…………」

「ほう、冷静のようだ。残滓に囚われ襲い掛かって来るかと思ったが……そうか」


 こちらも少し、予想外だった。

 てっきり奴は玉座に座って、悠々と待っているかと思っていた。

 そういう劇場型の愉快犯で、隙の多いの奴だと……。


「盟主は血族の長だが王位ではない。そして我は、王などではないのだ」


 エスマーガは自戒のような言葉と共に、王侯貴族に対するような礼儀作法を見せてきた。非常に整った自然な所作で、優雅な態度で……明確に、殺意が芽生えた。


「改めて名乗ろう。我はエスマーガ。そして問おう。貴様は何者だ?」

「――吸血鬼ピーチトゥナ。これからお前を滅ぼす、ただの吸血鬼だ」


 オレがそう宣言をすると、始祖エスマーガは笑った。

 非常に嬉しそうな、少年のような笑みで。

 そして〔変化〕で身長を伸ばして、私がよく知る(・・・・・・)姿に変わった。


「では来い、我が"同胞"よ」

「――――」


 朽刀の鞘に、必要以上の力がこもる。

 体には溢れんばかりの戦意が満ちていて、殺意も研ぎ澄まれて集中できている。

 なのに……なのに心が凍り付いたように、動かない。


「どうした。何故かかって来ない?」


 その言葉を、オレは耳にして、ひどく複雑な気分がした。

 これが言われる側の心情だったのかと、今更ながら理解した。

 精神が揺れている。怒りよりも強い恐怖で、足をすくませている。


「挑む覚悟のない者を相手するのは、興が削がれるぞ。……先に飲むが良い」

「――っ?!」


 エスマーガは腕を爪で割いて、こちらに向けて振った。

 顔に向かって飛来してきた血の雫を、手の平で受け取る。


「……なんのつもりだ?」

「飲め。盟主である我が、客人に食事一つ出せないなど恥であるからしてな」


 ふざけているのか。どこまでも、こいつは、どうしてこいつは……。


「気分を害するな。これは余裕ではなく、我らの矜持だ」

「……矜持、だと? 吸血鬼ごときに何のプライドが、あると?」

「有るとも。我らに目的など無く、あるのは"吸血鬼"というプライドのみ。求めるのは血沸き肉踊る戦だ。それだけの生き物だ。其方も、すぐに理解できるだろう」

『――ッチ!!』


 湧き出る殺意もろとも、血液を口に含んで、嚥下(えんか)する。

 喉を焼くような旨味が広がる。ドス黒くて熱い、ブラックコーヒーのような味。

 そうして血の解析が――終った。


――――――――――――――――

 解析:<終了>


 対象:エスマーガ [200]

 種族:始祖 [Lv:100]

 職業:深淵騎士 [Lv:100]

 HP: 2300/ 2300

 BP:27156/30820

 血族:エスマーガ血族-盟主

 眷属:コンソフ

 能力:〔吸血〕〔暗視〕〔念動〕〔状態異常無効〕

    〔魔眼:恐慌〕〔支配〕〔飛行〕〔変化〕

    〔透明化〕〔ダメージ耐性:物質〕

    〔相転移〕〔運動干渉〕

    <剣術><盾術><肉体強化><精神強化>

    <制約><騎乗戦術><不屈の闘志>

    <連帯感覚><危険知覚>

    <属性付与><魔力衝壁>

 魔術:【闇:S】【影:A+】


※吸血鬼化――不可

※血族加入――不可

――――――――――――――――


 なるほど。ラスボスだ。

 未知の能力が盛り沢山だ。勝ってる要素はBP量ぐらいしかない。

 手段を選ばずに戦っても相手にすらならないかもしれない。


(……だけど、それがどうした!!)


 オレは手のひらを爪で引き裂いて、同じ量の血をエスマーガに飛ばした。


「飲め! お前なんかに借りを作るのは、許されない!!」

「――ほう。ならば有難く頂くとしよう」


 盟主エスマーガは愉快気に笑って、オレの血を飲んだ。

 1度血の魔法で痛い目を見ていたにも構わず、躊躇することなく飲み干した。


「ふむ、不思議な風味だ。幾何学的に混ざり合いながら調和の取れた味わい。体内を浸食し、内臓を食い破らんとする暴力的な血だ。100点中の、90点だな」

『…………』


 食レポはともかく、点数を付けるな。しかも100点満点じゃないのかよ。

 ナチュラルに腹が立ったぞ。


『それでは死ぬまで戦おうぞ。吸血鬼』

『ああそうだな。……消えろ。吸血鬼』


 朽刀を構えて〔飛行〕の翼を展開して〔念動〕を纏う。

 そして(オレ)は、血の魔法を放った。



 ◆



 心臓が狂ったように脈打ち、早鐘を打つ。

 眼球が充血して、世界を身近に実感する。


 ――【血】よ


 血の魔法によって、全身の血液の全てを、己の支配下に置いた。

 異質で異常な量のエネルギーリソースが、手中に納まる感触がする。

 とめどない全能感と飢餓感と……得も言われぬ快感に満たされていく。


『んっ――』


 翼に血を注いで床面を滑空、欲望のまま吸血鬼に襲い掛かる。朽刀が備えている分解能力を開放して、無防備なエスマーガの死角から、最大最速の斬撃を放った。


『よい太刀筋だ。ハッコより学習したようだな』

『……ッ!?』


 刃が、ただの指1本で止められていた。分解が効いていない。触れてもいない?

 刀が全く動かない。念動――違う。物体そのものの運動に、干渉されたのか?


『この力、すべて其方に返そう』

『なンッ――?!』


 エスマーガの思考が流れ込んできた。"刹那の先"の行動に、冷や汗をかく。

 朽刀を手放す代わりに、刃を強引に折って……直後、刃が霞んで消えた。


 ――〔変化〕発動。


 最小の血を消費して、0.001秒の瞬間的な霧化を実行する。

 再使用に最低0.5秒は掛かるが、これ以上ない結果が得られた。

 認識できない速度で跳ね返って来た刃の破片が、心臓と重なり――通り過ぎる。


『――ッシ!!』

『? この情報は――?』


 霧から実体化。直後に、反撃に移る。

 周辺情報を思念波で叩きつけて、修復する間も惜しみ、折れた朽刀を振るう。

 〔凍結〕による幻影で腕の位置を偽装。ディレイを混ぜて、死角から攻撃した。


 ――【血】よ。刃を象れ


 刀の延長線上に、血液を放出する。

 うねる極薄の血の刃で、エスマーガの心臓を、両断した。


「「…………」」


 まずは1殺。


『其方を選んだのは、間違いではなかったようだ……』

『……っ!』


 けれど、奴は無傷。

 始祖エスマーガは、燃えることもなく、優雅な笑顔を浮かべて立っていた。

 こうなることは知っていた。何もかも予想通りだ。けれど、こうまで――。


『我が血族、最後の宴だ。派手に行こうぞ』


 エスマーガが片手を伸ばし、ズルリと、自身の影から1本の剣を取り出した。

 波打つ刃の大剣……漆黒色のフランベルジュ。


 吸血鬼の騎士が、剣を構える。

 ただその姿に、全身の産毛が逆立った。


 ピーチトゥナ・ミルクロワの最期。死の記憶が重なる。


『<属性付与・炎(エンチャントブレイズ)>』


 天に掲げられた剣が白く染まり、青色の炎に包まれた。

 無造作に、振るわれた刃が空を裂いて、熱波が襲い掛かる。

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― 新着の感想 ―
[一言] Sマーさん真祖じゃないんや。 真祖だったホイップはもしかしてすごい素養の持ち主?
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