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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第4章:血族 -後編-
30/39

吸血鬼 -前-

 とある雪国の人里離れた山の奥深く。

 絢爛豪華(けんらんごうか)な白亜のカスィ城にて、1体の吸血鬼が目を覚ました。


「…………騒々しい」


 黒髪の男吸血鬼は瞼を開けると、不快気に体を起こして、天井を見上げた。

 城全体が鳴動するほどの振動。巨大地震に匹敵する揺れだった。


 室内各所の本棚から次々と埃が落ちて、安置された棺に降りかかる。

 それを見た吸血鬼は、頭部に指を添えて溜息を吐き出した。


 そこでピタリと、吸血鬼の動きが止まる。


「――我らの反応が減っている?」


 吸血鬼は驚きの声あげた。そして吸血鬼は――(わら)った。

 血族の総数が減っていたことに、大いに喜んだ(・・・)のである。


「ほう、素晴らしい! 起床早々にハッコを滅したか!!」


 その喜びの思念は、城の隅々まで届けられた。

 声を聞いて女吸血鬼が入室してくるまで、男吸血鬼は上機嫌に嗤い続けた。


『…………』


 女吸血鬼の蔑むような目を見て、男吸血鬼は少しバツの悪そうな表情になる。


其方(そなた)の主だったな。不快な思いをさせた。許せ」

『――――』

「そうか。ならば()け。精々愉快な夜を過ごすが良い」


 男吸血鬼が鷹揚(おうよう)に手を振ると、女吸血鬼は忽然(こつぜん)と城から姿を消した。

 部屋に1体となった男吸血鬼は、棺から起き上がって、部屋を出る。


「我らが盟友にして宿敵……カスィ・ミルクロワ」


 彼は廊下を歩き、やがてある場所の前で立ち止まった。

 城の大広間の台座に飾られた、緑色の小さな魔石。

 莫大な魔力を内包したソレを手に取り、男は静かに言葉を吐き出した。


『貴様の孫娘の成長だ。喜べ。そして我らを……呪え』


 吸血鬼の男は、働く者のいなくなった城で一人。

 優雅で寂しい微笑みを浮かべていた。



 ◆



 夜空に浮かんだ月が、地上の風景を明るく照らし出している。


 昔に使われていた"月相"という言葉に当てはめると、満月と呼ばれる形である。

 ODO世界の月は、地球環境を整えるために、人工的に6つの円環状に分けられた衛星装置などではなく。

 一つの自然の天体として浮かんでいた。


 翼を畳むように形を変えて、空を蹴り、上空から一気に急降下(ダイブ)


 100m。敵が、近づく。口内が渇いて、ごくりと喉が鳴る。

 50m。アバター体の心臓が、トクトクと脈打ち、速くなる。

 20m。左手で、刀の鞘を握りしめて、右手を、柄に添えて。


「ッン――!!」


 接触。すれ違い様にガーゴイルを1匹――3匹――6匹と、連続で撫で斬る。

 振った刃がスルリと通る。斬った感触は、ほとんど無い。凄まじい斬れ味だ。


 大太刀『朽刀』の扱い方は、必然、夜鬼ハッコの動きを取り入れたものになる。

 異次元の動きを可能にする〔転移〕を併用した挙動は、さすがに再現できない。

 空中の不安定な姿勢から放たれる、重い刀身を最大限に利用した高速連続攻撃。

 その動作は、新鮮で参考になった。計11のガーゴイルが2秒で石クズになる。


 風景が流れて伸びて、高速で駆け抜けていく。

 速度を維持したまま、地上付近に到達した。

 こちらを見上げて敵意を露わにしている敵は――今は無視だ。


 翼を広げて軌道を直角に折り、倒壊した城の直上を水平飛行していく。


 瓦礫の中に埋まったままの吸血鬼を捉えた。

 [No.2]を使わなくとも今なら分かる。血液量が少なく動きが鈍っている個体だ。

 保有している血液は冷たい(・・・・・・)。吸血鬼であることは間違いない。


 〔念動〕を起動。付近の瓦礫を杭状に成形して――。


(――射出)


 総数12体の吸血鬼の心臓を、背後から同時に貫いた。


『『『GAaaaAaAaaAAァァアアア!!!』』』


 崩壊した城の各所から炎が吹き上がり、人ならざる思念の断末魔が聞こえて来た。

 同時に、こちらに向けられる敵意が、一気に膨れ上がる。


 識別して整理するのも面倒になるくらいの数だ。

 35体……残りのガーゴイルを含めると100を越えている。

 それらは武器を〔念動〕で引っ張り出して、翼を展開し始めた。


 上空に退避しつつ、ダメもとで一発くらいは撃っておこう。


「こんばんは塵どもー!!」


 挑発して注意を引きつつ、再び瓦礫の杭を、死角から射出。

 それらは当然――すべて避けられてしまう。

 霧になった者が半数。武器で弾くなりして、心臓の直撃を回避した者が半分か……。

 多少傷付けたくらいじゃ、すぐに治癒して戻る。BPの無駄だなぁ。


『『『『****!!!!』』』』


 そして頭に伝わって響いてくる、罵詈雑言の数々。

 ガキとかチビとか、ピンクとか。まぁ好き放題言ってくれている。

 あげく¥¥¥だの####だの……**? 心臓ぶち抜くぞこのやろぅ?


 戯言がすぎて、聞くのもアレなので[No.10]を起動して、シャットアウトした。

 情報を一切処理せずにそのまま相手に送り返す、極めてシンプルな情報防御用Nプログラムである。


 個体ごとの回避と思考のパターンは確保した。

 強さも思考も、想定していたより低レベルな連中だった。


 戦う前からテンション下がってどうするのって話だが、流石にこれは……。

 さっさと終わらせてしまおう。



 ◆



 敵は吸血鬼とガーゴイル。

 武器は剣や槍や斧や槌、矢に投げナイフと多種多様。

 炎に氷。雷に木に鉄に酸などの飛来物が、空を切り裂いて、次々に襲い掛かる。


(魔術の攻撃は、軌道が変わって厄介だな。……当たればだけど)


 それら全ては〔飛行〕と〔念動〕の併用だけで対処できた。


 飛行で得た翼に雑にBPを注げば、速度が跳ね上がる。

 念動による急制動は、予測不能で異常なマニューバを可能にする。

 全身にかかるGで身体がひしゃげるが、すぐに再生治癒する。

 なんら問題無く戦闘は続けられる。


「貴様ぁッ、盟主様の期待を裏切ったか!!!」

『裏切る? はんっ、寝言は棺桶で言え』


 思念波が届かないとわかると、今度は声で直接伝えて来るようになった。

 うっとおしい事この上ない。口で話す余裕がある相手だと思われている。

 1体1体無力化して牙を刺して、血液を回収していくのは時間がかかる。


(……どうするか?)

「愚かなガキが! 我らの眼の前で――」


 翼を曲げて、その場で横回転。

 朽刀を払い、背後と左右から〔透明化〕で奇襲してきた敵の首を刈る。


 視線と言葉でヒントを与えるとか、本当に舐めているとしか思えない。

 大声で誤魔化しきれていない気配と、翼を動かした際の風切り音もだ。

 正面の鬼は、胸部を3方向に斬り裂き、素手で心臓を抜き取った。


「「「ッ――――」」」


 どくんどくんと、脈打っていてグロイなこれ。

 傷付けさえしなければ、心臓は引っこ抜いても燃えないものらしい。

 物は試しに、そのまま心臓に牙を突き立てる。リンゴを齧るように。


「カプ……ぅぇっ。不味いよ君。もっとお野菜食べよ?」


 脂っこくて普通に不味い。ルピス達と違って、喉にキュっとくる旨味もない。

 ……味に凝りだすとか。美味しい血を吸い過ぎて、舌が肥えたかもしれない。

 体積以上の、大量の血が吸い出せた。心臓が吸血鬼の本体と見て良さそうだ。

 ちなみに血液の解析結果は、普通だった。LV100の上級吸血鬼。名前は――。


「――レッシュマ!? よ、よくも兄者をッ殺ったな、お前ぇ!!」


 燃えて灰に変わった吸血鬼の代わりに、新たな敵が急接近。顔も口調も似た弟さんらしい。

 兄弟の敵だと。殺してやると。息巻いた鬼が長剣片手に、猛スピードで襲い掛かって来る。

 回避に移ったが振りきれない。飛行が巧みで速い。相当量のBPも注ぎ込んでいるようだ。


「仲間殺しのクズ鬼がァ! 逃げるなぁ!! 殺してヤル!!!」

「…………」


 どの口で言うのか。まるでこちらが悪者のような暴言だ。誠に遺憾である。

 こういった理不尽な殺意を浴びたのは――久しぶりだ。初めてじゃないな。

 過去同じような目で、恨み言をぶつけられた事は、リアルでも何度かある。

 オレの事を悪魔だとか罵ってきた実家の親族とか、自然体主義者とか。

 自称人間(ニンゲン)様の騎士とか、敵国の諜報員だったメイドとか……。


『んぁ……? まぁ安心しなよ。すぐに同じ場所に送る。灰が素材になるなら、仲良く有効活用だ』

「ッ!? ッタバレ***ガぁあアアアAA!」


 一直線に突撃を仕掛けて来る、冷たい血の熱い吸血鬼。

 それはそれは、酷く単調で、対処しやすい動きだった。


 1合2合と切り結んで、戦闘術を解析。

 突き出された長剣に合わせて、刀の(しのぎ)を滑らせて〔念動〕で加速。

 剣身を受け流すと共に、カウンターで胴体をぶった切り――?――飛ばす。


「――ガァッ!!」


 驚嘆すべき事に、この吸血鬼は負け(ソレ)を前提にして行動していたらしい。

 オレの首筋を狙って、分断された上半身だけで、襲い掛かって来た。〔吸血〕狙いだ。

 恐ろしい執念だな。けれど、破れかぶれの攻撃が、そうそう通じるはずもなく。


『『――――』』


 吸血鬼の首を掴んで止め。その隙を狙って乱入してきた吸血鬼と、魔術の雨を朽刀で打ち払う。

 いくらか避け損なって、身体の3割が欠損。4割が焼けたり溶けたりした。すこぶる痛い。

 オレの傷の深さを見た吸血鬼は、ニヤリと壮絶な笑みを浮かべて――。


 遅れて、目の前に飛んで来たモノ。

 グニャリと、オレの手の中に納まった赤い塊を見て、固まった。


「…………」

『吸血鬼なら、これくらいは、ね?』


 [No.7]による高速再生。重ねて〔生命吸収〕

 受けた重傷は、一瞬で、無傷の状態に戻る。


『……ッ化け物』

『いただきます』


 キャッチした彼の心臓に、牙を突き立てた。

 怨嗟の籠った瞳と表情で睨まれながら、血液を吸い出し尽くし。

 そして吸血鬼は焼けて……灰になった。


 彼の名はイフレッシュというらしい。

 味はさっきの兄の血と似ていたが、そこそこ美味しかった。


『――――』


 だからきっと、そんな味のせいだろう。

 喉から洩れる、クツクツという笑いが。

 形容しがたい凄惨な笑みが、止められなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  違和感なくひととおり読むことが出来ました。  良いと思います。  作者様 お疲れ様です。
[一言] 生き残り吸血鬼おもったより多い レベリングはかどる
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