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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第0章:集え群機Nシリーズ!
3/39

ネットの海が三途の川になろうとも

 ――西暦3610年。

 人類の大多数がナノマシンを体内に導入して、より深く直感的に情報を操れるようになった今日。

 インターネットなるシステムは、その言葉が生まれた旧時代と比べると、はるかに危険で面倒な存在に変わった。


 人類史の記録を全面的に信用するのであれば、かれこれ千年以上もの間、セキュリティの攻防で防衛有利(セキュア)の状況を保っていたらしい。そしてその差が決定的に覆ったのは意外と近年……といっても39年前も昔のこと。

 某国の某個人に製作された自己進化型の特級ウイルスAI、通称【人造悪魔(サイバーデーモン)】の被害を受けて、対抗可能なAIやナノマシン導入者の管理下に無かったシステムが全滅した。


 製作者はすぐに特定されて処刑された。処刑と同時に元凶のウイルスAIも活動を停止したのは、全世界にとって不幸中の幸いだろう。

 その後は酷いもので、模倣犯によって類似&劣化したウイルスAIが大量に作られ、狭まったネット世界はAI同士の戦場に成り果てた。

 いまだ根本的な解決には至っていない。けれどネットの海が三途の川になろうとも、多方面に情報を流せる便利なツールには変わりないわけで……。リスクがあろうとも、強かに利用しようとするのが人間だった。


 現在、稼働しているもので最低限の安全と安定が保障されたネットワークは、片手で数えられるくらいしかない。

 1つは地球人類社会における最初の矛にして最後の盾、月のAIフルが支配している大陸間の光速通信システム。

 その次に信頼されているものが、コロニーAI群によって構築された情報網【CCC:Colony Cybernetics Connectome】

 あとは大企業や特定組織が保有する小都市、通称シェルシティの最高AIが管理している独自のシステムなどだ。



 ◇



 展開していたデータを折り畳む。


(こういった基礎知識は、小学3年の頃に歴史データベースごと脳にぶち込まれたけど、まとめて廃棄した方が良いかもしれないなぁ……)


 今日さっき、その安全が保証されている筈の場所で、個人情報が引っこ抜かれた。

 世界が謳うCCCの不敗神話とはなんだったのか。やっぱり個人が信用できるものは、個人が保有する体内ナノマシンだけなのだろう。


(……それすら破られるとは思わなかったけど。方法すら分からないから現実感も薄いし。なんにしても、今後も侵入対策は必須だ。過剰なくらい備えても、まだ足りなかった。もっと必要なんだ、もっと)


 思考を巡らせながら、CCCのルート上に残った痕跡を掃除していく。


 仮想世界における精神の入れ物であり、あらゆる外部の干渉から身を守る防具でもあるアバター体。そのデータ量は決して小さくはない。

 ラグなしで動かせることが前提な存在のため、情報の移動に必要な経路は太く、痕跡の後処理にも時間がかかる。


 リアルの身体は自宅から学校までの道を移送中。意識は天領STOREから帰還中のアバターの中。

 通信を切断すれば、即座に意識をリアルの人体に戻すことは可能だ。けれど遠出した際に、こういう細かな後始末を疎かにすると、後々の個人情報の漏洩――しいてはナノマシンの侵入(クラッキング)に繋がる。

 抜かれた情報の重要度によっては、ふつうに生死に関わる問題だ。技術と個人情報と通信経路さえ確保してしまえば、地球の裏側からでも対象の心臓を停止させることすら可能なのだから。


(……だけどまぁ、そんな強力な信号を送ってAIに発見されず、なおかつ個人のプロテクトを突破するなんて行為は、それこそ悪魔でもないと無理だけど……)


 くだらない事を考えてしまったが、ようやく終了だ。

 現実時間にして20秒程度の処理を終えて、リアルの身体を乗せた自動昇降車(リヒター)の端末まで戻って来た。

 塵データ1つも残してないぞ。我ながら完璧な掃除の手際だなぁと自画自賛。


(時刻は……)


 まだ少し時間に余裕があった。

 ついでに車両の端末から入手できるニュースを集めていこう。



 ◇



 車両に搭載された3級AIには頼らない。

 マニュアル処理で走査を終えて、無作為に手に入れた記事の総数は4216。


 うち3割は、フリーのウイルスAIが作成した偽装記事だ。

 対策なしに展開すると、不正侵入の経路が構築され、体内ナノマシンにウイルスAIを植え付けられる。手法そのものは古典的だが厄介な罠である。

 しかし脅威があると分かってしまえば、それらのデータは最新のウイルスAIを学べる教材の山に変わる。

 未確認のパターンを抽出&学習後、すべて破棄する。


(……今日はやけに大陸系のウイルスが混じってる。ハズレ日だなぁ)


 次の2割は、企業や商店がネットに放流している無害な広告だった。

 天領STOREのチラシだけ抜き取って破棄する。

 添付データには、なんと本日限りの全品5%OFFのクーポン券が、がぁ……?!


 破棄。


(……まじか)


 気分が少し……いや、問題はない。5%なんて誤差だろぅ……誤差。


 次の1割は、ナノマシン導入者がCCCを通して、直接的かつ巧妙に紛れ込ませてきた偽装データだ。

 特定の年代の興味を惹きやすい比較的健全な画像がずらりと並んで……うわぁ。


 十中八九ナノマシンを扱い慣れていない小中学生を狙ったものだろう。

 画像データの中には、コロニーAIに感知されないギリギリのラインを狙った、未完成品のナノマシン用プログラムが隠蔽されていた。

 画像閲覧時に補正機能を用いることで初めて完成する医療用プログラムを流用した人体スキャン……普通に盗撮だ。ザル過ぎるだろCCC。


(朝っぱらから、こんなイタズラして何が楽しい? しかも組織ぐるみで仕掛けているのか? そんなに子供が好きなら――手伝ってやる)


 体内ナノマシンによる情報戦は、現代人の嗜みだ。

 たとえ高度な情報教育を受けた大企業会長の愛娘だろうと、親から情報教育を受けていない孤児だろうと、仮想世界では平等に悪意に晒される。ここには情けや善意、容赦なんて文字はない。

 半端に喧嘩を買うような行為は、"俺を狙ってください"と全方面に発信するに等しい愚行だ。

 であるからこそ――半端ではなく、全力で――殴りつける。


 体内ナノマシンの演算リソースを確保。

 取得した偽装データをもとに、即席の通信経路を構築。

 処理対象425名、各個人のアバター体をクラック。

 導入者パーソナルデータの一部取得に成功、解析。

 保有するサイバー銀行口座にアクセス。預金残高の50%を確保。

 捕捉できた被害者に8割を送金。残り2割をコロニー附属の孤児院に寄付。

 適当にコメントを添えて、逃げ道も塞いでおく。アラームも設定。

 あとは入手した被害者データもろとも、痕跡を完全に抹消して、完了。

 総処理時間は――43秒。


(……意外に時間が掛かった。さっさと続きやろ)


 時間だけでなくカロリーも無駄にした。5%OFFなら余裕をもって補えたエネルギー量だと考えると、なおさら腹が立った。

 やっぱり5パーはでかいよなぁ……。


 作業を再開して、残りの記事を選別する。ここからがメインだ。

 選別。選別――?【強化モグラ兵! 地底探索中に女神と遭遇! 美味しく可愛がられる!?】

 このオカルトじみたニュースは……。破棄。


【S級カンガルーVSジャンボチワワ! 日本国第81コロニー研究区画にて、No1アニマルソルジャー決勝戦が――】

【ワールドクラックから今年で50年。火星の生存者は未だ見つからず。アーコロジー連合所属の調査船団は――】

【特級AI『フル』の発表によると、日本時間3時に月環『ICSMR-F』メンテナンスが終了。大陸間通信は復旧――】

【全地球人類驚愕。エルスワース山脈コロニー群にて幻の鳥ペンギンのミイラが発掘される――】


 残った情報は……しかし、どれも昨日までに得たものと同じものばかり。目新しさはなかった。

 今日はゲームカテゴリの記事を見てみよう。例のゲームの情報も……あった。


【ゲーマー必見! 2倍速の仮想世界! ODOオープンβテストが本日正午より開始――】

【今日ついにベールが明かされる。隔絶したリアリティ。オプドリの世界へ再び――】

【あの仮想世界は異常だ。人々もモンスターも世界も、生きている。外界への憧憬が――】

【ODO世界に適応し、千差万別のアバターを育て上げ、あなたらしさを手に入れよう! by虹竜シュガー】


 記事数は21だ。βテストの段階としては、わりと多いように思える。

 最後のは、記事というより個人コメントだ。あの自称ドラゴン、リアルでスパムまで送って来るのか……。


 オプティマイズ ドリーマー オンライン。略称は旧言語に則りODO(オド)やオプドリと呼ばれているようだ。

 簡単に調べてみたが、出回っている情報はテストの日程を除けば、ゲームサイトへの接続方法だけだ。


 肝心な具体的なゲーム内容についての情報が無かった。

 日程表を見れば、以前にαテストがあったようだが……その詳細も公開されていない?

 情報の流出を完璧に規制している? できる、ものなのか?


(……まぁこのデータを作った組織だ。どんなことがあっても不思議じゃない、か)


 例のチケットデータを確認して、体内ナノマシンのストレージへ転送する。

 処理完了、異常なし。


 このデータに関連する技術は、リスクを負っても手に入れたい。喉から手が出るほど欲しい代物だ。

 だからといって詳細不明なβテストに参加するのは、無謀を通り越して手の込んだ自殺に等しい。

 ならば、さっき仕掛けてきた400名あまりを脅迫して、オプドリを調査させるという手、もあるにはあるが……それはさすがにやり過ぎだろう。却下。


(いいさ、直にやってやる。こうなりゃ調べ尽くしてやる)


 俺はオプドリをプレイするぞ!

 誘いに乗ろうじゃないか、待ってろよ蛇もどきめ。





 ……しかし、その前に高校へ行かねばならぬ。

 いかに現代人と言えども、日常生活を送りながらフルダイブ型のゲームがプレイできるほどの技術は無いのである。

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