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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第3章:血族 -中編-
24/39

大人なお子様たちのお茶会

※微ゴア注意

 食糧庫への襲撃を開始する。

 といっても手段は、女吸血鬼ベニバを襲撃した時とあまり変わらない。


 オレが囮になって近寄り、周囲を取り囲ませる。

 ルピスは入り口に、ネオマも部屋に一ヵ所ある窓の外に待機させて、合図と同時に突入してもらう。

 初手から〔念動〕を用いて強襲。優勢の状況を保ったまま、一気に制圧する。スピード勝負だ。


 吸血鬼の数は全部で8体。[No.2]で周囲を探ったが、他に敵の姿はない。

 最初の一撃で確実に最低3体を滅ぼすとして、残り5体のうち2体はオレ。ルピスも2は抑えられるだろう。ネオマは1体……オレが援護しながらならいけるか?

 逃亡する相手が出た場合は、城の一部を崩してでも、本気で仕留めに行こう。


『大体そんな感じだよ。タイミングはこちらで調整するから、命大事にしつつ臨機応変に、好きなように仕掛けていこう』

『畏まりました主様』「――了解」


 そしてルピスは入り口の影に隠れ、ネオマ君は羽を広げて窓から屋外に飛び立った。

 あー……空を飛べるっていいな。念動は、飛ぶっていうより飛ばされてる感が強いんだよな。

 オレも早く翼生やしてパタパタ飛びたい。



 ◆



 そのためにも、作戦開始(レベルあげ)である。


 パタパタの代わりにペタペタと足音を立てて、部屋の正面扉に立つ。

 ちなみに、ここまでずっと素足である。靴下すらないのは文明人としてかなりアレだ。

 不燃性もしくは自動復活する実用的な戦闘ブーツが欲しいところだ。


「失礼します。お邪魔しても、よろしいでしょうか」


 そんな事を聞きながらも勝手に室内に踏み込む。

 部屋の内装は、豪奢な大食堂だ。広さはテニスコート2面分ほど。天井にはシャンデリアが吊り下げられ、壁際には大量の椅子とテーブル、そして大型の樽が並べられている。中身は空のようなので全部で10荷。


 敵の姿を視認。この中の吸血鬼のボスは――あいつか。

 赤い光を放つ宝珠を持った、神経質そうな目つきの灰色髪の女性。

 年齢は16~17歳くらいか? 若い容姿の吸血鬼たちが勢揃いだ。


「……盟主様がお連れになった新入りか。何用でここに来た?」


 よし、全員こちらを見ていても警戒はしてないな。1人だと思って油断をしているのか?

 今回は<オーラ:プリンセス>だけ起動して、それじゃ演技(さくせん)を始めようか。


「こんにちは。私は――」

『こんにちわです』



 ――――



 ……



 ?



 オレのすぐ真横に、見知らぬ少女が、立っていた。

 至近距離から、オレの顔を、覗き見ている。


「こんにちわです?」


 9体目、の出現? 即座にNプログラム[No.13]を起動。

 脳に最大負荷をかけて、体感時間を一気に引き延ばす。

 1ミリ秒を1秒に――。


『――主様。突入しますッ』


 ルピスが、いち早く危険を察知して動いた。〔念動〕まで起動して急加速を行っている。

 隣の少女に向かって、死角からレイピアを突き出すつもりだ。


 その軌道、狙いは――心臓。1撃で殺すモーションに入っている。

 少女の瞳は動いていない。ルピスを視界に収めてもいない。


『ッ!?』


 正体不明の怖気が、全身に走った。

 アバターの肉体が、警鐘を鳴らしている?


『待てッルピス!!!』


 思念波を送って静止が、出来ない!

 ならば敵意をこちらに向けるため、オレが先に少女の脅威に成る!

 ――[No.8][No.15]起動。

 瞬時に殺害可能な、最適な計算(ぼうりょく)を――はぁ?


 これじゃ殺しきれない、だと?


『礼儀が足りない子()です』


 オレの手は空振り。遅れて届いたルピスのレイピアも、虚空を裂いた。

 [No.2]周辺情報を取得。姿を消した少女は、食糧庫の奥に再出現した。


『『――――』』


 ……なんだ、今の動きは? 霧化じゃない。

 1μsのラグすらなく、瞬間的に座標を移動した。

 魔法? 魔術か? 幻影、あるいは吸血鬼の能力か?


 解析しなければならない。

 あれだけは何としても把握しておかなければ、状況が完全に、詰む。


『ルピスは隙を見つけて逃走の準備を。馬車の仕組みは"コレ"だ。組み立て方は分かったな?』

『か、畏まりました。分かりましたっ……しかし主様は、どうなさるのですか?』

『……知ってるだろ? 死んでも石棺で復活できる。オレの事まで考える必要は無い。自分たちの安全だけ考えて行動してくれ』


 ルピスからの了承の声は聞こえないが――大丈夫か?

 食料確保は、最悪諦めよう。あんな奴がいると分かっていたら、こちらから姿を晒すなんて馬鹿な真似はしなかった。

 件の少女。黒髪で質素な黒服を着た少女は、行動を起こすつもりのようだ――が?


「ガリク。お手――」

「ハッ」


 青年の男吸血鬼に、お手を、させていた。

 ……いったい、何をしているんだ? お手?


 ふざけた状況についていけず。それでも警戒して、注目せざるを得ない。

 黒髪少女は、男の手を取り――その腕を、強引に……噛み千切った。


「ッ――!!!!」

『『???』』


 吸血鬼が無音の苦鳴を上げている端で――。


「ハグッ……ボリボリりッ……ムシャッ……」


 血肉を、咀嚼(そしゃく)して飲み込んでいる?

 同族を、食ってるぞ? えぇえ?

 まじで何をしているの、あの子……。


「もぐもぐもぐん――ぺふっ。活きが良い吸血鬼がきたのです。皆で"歓迎"するのです」

『『『『『『『『ハッ!!』』』』』』』』


 食糧庫の吸血鬼たちは返答するやいなや、訓練された軍隊のように整列。

 彼らは、オレ達を攻撃してくるか――と思えば、それも違った。

 床にテーブルを置いて、椅子を並べて、テーブルクロスを敷き、大きな皿とグラスを並べて……。

 そして、オレ達の目の前で、一斉に首を切り落とした。


『『…………』』


 えぇ?



 ◆



 食器の中に血液いっぱい。ご飯いっぱい。

 すごい、頭おかしい状況だな?


「座るといいです。席はいくらでも開いてるのです。"大晩餐"でたくさん死んだのです」


 オレとルピスは、狂気じみた晩餐会に招待された。

 首を切り落とした吸血鬼たちは、全員すぐに治癒して、黒髪少女の背後に並んで立っている。


 少女は彼ら眷属の肉を、モリモリ食っている。むろん生で。

 この子供が、この集団のボス格らしいな。……世も末である。


「もぐもぐもぐ……お前がいま考えたこと、そっくりそのまま返してやるです」


 心を読んだ、というより微弱な思念を察した、という感じか。

 ……あれ? どちらも意味は同じじゃないか?


「――コくコくっ」


 ルピスさんが、いった。飲んじゃうの? 嘘でしょ?

 無料(タダ)で出された物なんて何入ってるか分からないぞ。

 お腹壊すから、やめたほうが良いよ?


「いい香りのする白頭、お前の飲みっぷりは良いです。根性と見込みがあるのです。うち来るです?」

「――ごクっ?! けほっ――いいえっ謹んで辞退します。私の主様は主様だけですから」


 黒髪少女は上機嫌にルピスを褒め、そして勧誘した。

 あいつほんとに、どういうつもりだ……?


「バ・ターシッタ。どうやらこのピンク頭は眷属、子供を保護したがる変わり者のようです。お前は大人に変化するといいですよ。目障(めざわ)りです」

「ハッ。主の仰せのままに……」


 バ・ターシッタと呼ばれた吸血鬼の背が、急激に伸びた。というより加齢した?

 吸血鬼の変化か。肉体の年齢まで自由に変えられるのか? 何でもありかよ。


「――それで? お前はなにが目的なんだ?」

「? 食事です。せっかくアクエリア連合から登城したのに、ろくな出迎えもご飯もないのです。なので眷属を食べているのです。ご飯は弱い順で、骨まで残さず食べるのが私の流儀(マナー)なのです」

「……オレ達を誘った理由は?」

「食事は皆で楽しく食べるものです。音を立てて啜ったり、うるさくするのはダメです。そんな奴は下品なゴミ虫エルフ野郎です」


 会話にならない。

 さっきから君、ボリボリ音を立てて食ってるじゃん。めっちゃ喋ってるじゃん。


 黒髪少女は、また1体の吸血鬼に命令をして、食事の部位を補充した。今度は脚か。

 眷属の扱いが大概酷い。見ていて不快になるレベルだ。


「ピンク頭。主と眷属は上と下、捕食者と被捕食者、たったそれだけの関係です。そんな簡単なことも分からないでどうするのです?」

「…………」


 ……あぁ。やはり吸血鬼は、不愉快だ。滅するしかない。

 予測演算は終わった。対策も立てた。あとは実行するだけだ。


「最後に聞く、お前の名前は?」

「聞く前にピンクが名乗りやがれです。お前は、何者のつもりなんです?」


 ピンクピンクと言われると、地味に腹が立つな。

 質問を質問で返すなとも怒りたいが、そういえばオレも名乗っていなかったか。

 まぁ吸血鬼相手に名乗る名なんて、こんなもので十分だろう。


「職業王女のピーチトゥナ。ミルクロワ王国民代理の吸血鬼狩りだ」

「? ――お前は吸血鬼です。利己的で孤立した、ただの吸血鬼……嘘つきは嫌いです」


 好き勝手に言ってくれるな、ただの吸血鬼が。


「そうだな。厄介な吸血鬼だよ……だが配下を人間を、食料としか見なさない獣じゃない。お前らと同じモノと考えるな」

「頭の中までピンクなんです? 違うと否定して、どうすると言うのです」

「オレ達以外の吸血鬼(けもの)は不要だ。今日ここで、全て滅んでもらう」

「……お前は矛盾した半端者のようです。そーゆー奴は何もできずに死ぬんです」

「はんっ? 敵相手に悠長に食事を出して……情報(・・)まで渡してきた奴が、矛盾してないとでも?」

「これは"余裕(・・)"というのです。大人のお遊びです。ガキには分からんようです???」


 こいつ、鼻で笑ってやがる。どこまでも不快な。

 食事の終わりが近づき、ピリピリと張りつめて、漂う空気の質が変わってきている。

 正体不明の圧力を感じる。"魔力"とでもいうのかこれは。


 ルピスもそれを察して、ゴクリと――血液を飲み込んだ。

 ……この空気で、よくまだ血が飲めるね?


「お子様ピンクと違って、私はやりたい事をやり尽くした大人レディなのです。殺したいものは全員殺して、美味しいものもたくさん食べて、満足したのです。200年も生きれば、やれる事なんて無くなってしまうのです」

「…………」


 こいつも100歳オーバーのおばあちゃんだったか。

 どうなってるんだよ、この世界。平均寿命高すぎるだろう。


「――でも、たった今、久々にやりたいことが出来たのです。嬉しいです」


 黒髪少女が、立ち上がった。

 低級AIが搭載された機械人形(アンドロイド)のような、生物らしさを感じない無機質な動き。


 そして少女は、眷属の男吸血鬼から、武器を受け取った。

 無骨な一本の刀。小さな身体に不釣り合いな大太刀(おおたち)


『ルピス。敵の情報は得られたな? その情報を持って――』

『た、戦いますっ! 私も戦えます!!』

『……。……そうか。なら悪いが……他の吸血鬼を全員、任せても良いか?』

『っ! ハイ、お任せください!』


 もはやルピスを援護する余裕もなさそうだ。

 身長を伸ばして、黒髪の美女となった元少女が、スラリと刀を鞘から抜いた。


「自己紹介を忘れてたです。私は――エスマーガ血族、第1世代(・・・・)ハッコ」


 幾十の閃光。双方の間にあったテーブルが、食器ごと粉に変わり、空中で輪郭を失って散った。

 [No.2]起動。情報を取得。切り口は腐食……分解、させたようだ。


「大好きなマナーはどうしたんだよ?」


 ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 ルピスも、名残惜しそうにグラスを飲み干してから、立ち上がった。

 〔念動〕を起動。効果対象は……周辺物、すべて。


「ピンク。お前は美味そう。私と本気で(あじわ)うのです」

「……話が長い。最初からそうしろ」


 そして、振り抜く動作を省略して、鬼の心臓目掛けて鞭を叩きつけた。

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