大人なお子様たちのお茶会
※微ゴア注意
食糧庫への襲撃を開始する。
といっても手段は、女吸血鬼ベニバを襲撃した時とあまり変わらない。
オレが囮になって近寄り、周囲を取り囲ませる。
ルピスは入り口に、ネオマも部屋に一ヵ所ある窓の外に待機させて、合図と同時に突入してもらう。
初手から〔念動〕を用いて強襲。優勢の状況を保ったまま、一気に制圧する。スピード勝負だ。
吸血鬼の数は全部で8体。[No.2]で周囲を探ったが、他に敵の姿はない。
最初の一撃で確実に最低3体を滅ぼすとして、残り5体のうち2体はオレ。ルピスも2は抑えられるだろう。ネオマは1体……オレが援護しながらならいけるか?
逃亡する相手が出た場合は、城の一部を崩してでも、本気で仕留めに行こう。
『大体そんな感じだよ。タイミングはこちらで調整するから、命大事にしつつ臨機応変に、好きなように仕掛けていこう』
『畏まりました主様』「――了解」
そしてルピスは入り口の影に隠れ、ネオマ君は羽を広げて窓から屋外に飛び立った。
あー……空を飛べるっていいな。念動は、飛ぶっていうより飛ばされてる感が強いんだよな。
オレも早く翼生やしてパタパタ飛びたい。
◆
そのためにも、作戦開始である。
パタパタの代わりにペタペタと足音を立てて、部屋の正面扉に立つ。
ちなみに、ここまでずっと素足である。靴下すらないのは文明人としてかなりアレだ。
不燃性もしくは自動復活する実用的な戦闘ブーツが欲しいところだ。
「失礼します。お邪魔しても、よろしいでしょうか」
そんな事を聞きながらも勝手に室内に踏み込む。
部屋の内装は、豪奢な大食堂だ。広さはテニスコート2面分ほど。天井にはシャンデリアが吊り下げられ、壁際には大量の椅子とテーブル、そして大型の樽が並べられている。中身は空のようなので全部で10荷。
敵の姿を視認。この中の吸血鬼のボスは――あいつか。
赤い光を放つ宝珠を持った、神経質そうな目つきの灰色髪の女性。
年齢は16~17歳くらいか? 若い容姿の吸血鬼たちが勢揃いだ。
「……盟主様がお連れになった新入りか。何用でここに来た?」
よし、全員こちらを見ていても警戒はしてないな。1人だと思って油断をしているのか?
今回は<オーラ:プリンセス>だけ起動して、それじゃ演技を始めようか。
「こんにちは。私は――」
『こんにちわです』
――――
……
?
オレのすぐ真横に、見知らぬ少女が、立っていた。
至近距離から、オレの顔を、覗き見ている。
「こんにちわです?」
9体目、の出現? 即座にNプログラム[No.13]を起動。
脳に最大負荷をかけて、体感時間を一気に引き延ばす。
1ミリ秒を1秒に――。
『――主様。突入しますッ』
ルピスが、いち早く危険を察知して動いた。〔念動〕まで起動して急加速を行っている。
隣の少女に向かって、死角からレイピアを突き出すつもりだ。
その軌道、狙いは――心臓。1撃で殺すモーションに入っている。
少女の瞳は動いていない。ルピスを視界に収めてもいない。
『ッ!?』
正体不明の怖気が、全身に走った。
アバターの肉体が、警鐘を鳴らしている?
『待てッルピス!!!』
思念波を送って静止が、出来ない!
ならば敵意をこちらに向けるため、オレが先に少女の脅威に成る!
――[No.8][No.15]起動。
瞬時に殺害可能な、最適な計算を――はぁ?
これじゃ殺しきれない、だと?
『礼儀が足りない子達です』
オレの手は空振り。遅れて届いたルピスのレイピアも、虚空を裂いた。
[No.2]周辺情報を取得。姿を消した少女は、食糧庫の奥に再出現した。
『『――――』』
……なんだ、今の動きは? 霧化じゃない。
1μsのラグすらなく、瞬間的に座標を移動した。
魔法? 魔術か? 幻影、あるいは吸血鬼の能力か?
解析しなければならない。
あれだけは何としても把握しておかなければ、状況が完全に、詰む。
『ルピスは隙を見つけて逃走の準備を。馬車の仕組みは"コレ"だ。組み立て方は分かったな?』
『か、畏まりました。分かりましたっ……しかし主様は、どうなさるのですか?』
『……知ってるだろ? 死んでも石棺で復活できる。オレの事まで考える必要は無い。自分たちの安全だけ考えて行動してくれ』
ルピスからの了承の声は聞こえないが――大丈夫か?
食料確保は、最悪諦めよう。あんな奴がいると分かっていたら、こちらから姿を晒すなんて馬鹿な真似はしなかった。
件の少女。黒髪で質素な黒服を着た少女は、行動を起こすつもりのようだ――が?
「ガリク。お手――」
「ハッ」
青年の男吸血鬼に、お手を、させていた。
……いったい、何をしているんだ? お手?
ふざけた状況についていけず。それでも警戒して、注目せざるを得ない。
黒髪少女は、男の手を取り――その腕を、強引に……噛み千切った。
「ッ――!!!!」
『『???』』
吸血鬼が無音の苦鳴を上げている端で――。
「ハグッ……ボリボリりッ……ムシャッ……」
血肉を、咀嚼して飲み込んでいる?
同族を、食ってるぞ? えぇえ?
まじで何をしているの、あの子……。
「もぐもぐもぐん――ぺふっ。活きが良い吸血鬼がきたのです。皆で"歓迎"するのです」
『『『『『『『『ハッ!!』』』』』』』』
食糧庫の吸血鬼たちは返答するやいなや、訓練された軍隊のように整列。
彼らは、オレ達を攻撃してくるか――と思えば、それも違った。
床にテーブルを置いて、椅子を並べて、テーブルクロスを敷き、大きな皿とグラスを並べて……。
そして、オレ達の目の前で、一斉に首を切り落とした。
『『…………』』
えぇ?
◆
食器の中に血液いっぱい。ご飯いっぱい。
すごい、頭おかしい状況だな?
「座るといいです。席はいくらでも開いてるのです。"大晩餐"でたくさん死んだのです」
オレとルピスは、狂気じみた晩餐会に招待された。
首を切り落とした吸血鬼たちは、全員すぐに治癒して、黒髪少女の背後に並んで立っている。
少女は彼ら眷属の肉を、モリモリ食っている。むろん生で。
この子供が、この集団のボス格らしいな。……世も末である。
「もぐもぐもぐ……お前がいま考えたこと、そっくりそのまま返してやるです」
心を読んだ、というより微弱な思念を察した、という感じか。
……あれ? どちらも意味は同じじゃないか?
「――コくコくっ」
ルピスさんが、いった。飲んじゃうの? 嘘でしょ?
無料で出された物なんて何入ってるか分からないぞ。
お腹壊すから、やめたほうが良いよ?
「いい香りのする白頭、お前の飲みっぷりは良いです。根性と見込みがあるのです。うち来るです?」
「――ごクっ?! けほっ――いいえっ謹んで辞退します。私の主様は主様だけですから」
黒髪少女は上機嫌にルピスを褒め、そして勧誘した。
あいつほんとに、どういうつもりだ……?
「バ・ターシッタ。どうやらこのピンク頭は眷属、子供を保護したがる変わり者のようです。お前は大人に変化するといいですよ。目障りです」
「ハッ。主の仰せのままに……」
バ・ターシッタと呼ばれた吸血鬼の背が、急激に伸びた。というより加齢した?
吸血鬼の変化か。肉体の年齢まで自由に変えられるのか? 何でもありかよ。
「――それで? お前はなにが目的なんだ?」
「? 食事です。せっかくアクエリア連合から登城したのに、ろくな出迎えもご飯もないのです。なので眷属を食べているのです。ご飯は弱い順で、骨まで残さず食べるのが私の流儀なのです」
「……オレ達を誘った理由は?」
「食事は皆で楽しく食べるものです。音を立てて啜ったり、うるさくするのはダメです。そんな奴は下品なゴミ虫エルフ野郎です」
会話にならない。
さっきから君、ボリボリ音を立てて食ってるじゃん。めっちゃ喋ってるじゃん。
黒髪少女は、また1体の吸血鬼に命令をして、食事の部位を補充した。今度は脚か。
眷属の扱いが大概酷い。見ていて不快になるレベルだ。
「ピンク頭。主と眷属は上と下、捕食者と被捕食者、たったそれだけの関係です。そんな簡単なことも分からないでどうするのです?」
「…………」
……あぁ。やはり吸血鬼は、不愉快だ。滅するしかない。
予測演算は終わった。対策も立てた。あとは実行するだけだ。
「最後に聞く、お前の名前は?」
「聞く前にピンクが名乗りやがれです。お前は、何者のつもりなんです?」
ピンクピンクと言われると、地味に腹が立つな。
質問を質問で返すなとも怒りたいが、そういえばオレも名乗っていなかったか。
まぁ吸血鬼相手に名乗る名なんて、こんなもので十分だろう。
「職業王女のピーチトゥナ。ミルクロワ王国民代理の吸血鬼狩りだ」
「? ――お前は吸血鬼です。利己的で孤立した、ただの吸血鬼……嘘つきは嫌いです」
好き勝手に言ってくれるな、ただの吸血鬼が。
「そうだな。厄介な吸血鬼だよ……だが配下を人間を、食料としか見なさない獣じゃない。お前らと同じモノと考えるな」
「頭の中までピンクなんです? 違うと否定して、どうすると言うのです」
「オレ達以外の吸血鬼は不要だ。今日ここで、全て滅んでもらう」
「……お前は矛盾した半端者のようです。そーゆー奴は何もできずに死ぬんです」
「はんっ? 敵相手に悠長に食事を出して……情報まで渡してきた奴が、矛盾してないとでも?」
「これは"余裕"というのです。大人のお遊びです。ガキには分からんようです???」
こいつ、鼻で笑ってやがる。どこまでも不快な。
食事の終わりが近づき、ピリピリと張りつめて、漂う空気の質が変わってきている。
正体不明の圧力を感じる。"魔力"とでもいうのかこれは。
ルピスもそれを察して、ゴクリと――血液を飲み込んだ。
……この空気で、よくまだ血が飲めるね?
「お子様ピンクと違って、私はやりたい事をやり尽くした大人レディなのです。殺したいものは全員殺して、美味しいものもたくさん食べて、満足したのです。200年も生きれば、やれる事なんて無くなってしまうのです」
「…………」
こいつも100歳オーバーのおばあちゃんだったか。
どうなってるんだよ、この世界。平均寿命高すぎるだろう。
「――でも、たった今、久々にやりたいことが出来たのです。嬉しいです」
黒髪少女が、立ち上がった。
低級AIが搭載された機械人形のような、生物らしさを感じない無機質な動き。
そして少女は、眷属の男吸血鬼から、武器を受け取った。
無骨な一本の刀。小さな身体に不釣り合いな大太刀。
『ルピス。敵の情報は得られたな? その情報を持って――』
『た、戦いますっ! 私も戦えます!!』
『……。……そうか。なら悪いが……他の吸血鬼を全員、任せても良いか?』
『っ! ハイ、お任せください!』
もはやルピスを援護する余裕もなさそうだ。
身長を伸ばして、黒髪の美女となった元少女が、スラリと刀を鞘から抜いた。
「自己紹介を忘れてたです。私は――エスマーガ血族、第1世代ハッコ」
幾十の閃光。双方の間にあったテーブルが、食器ごと粉に変わり、空中で輪郭を失って散った。
[No.2]起動。情報を取得。切り口は腐食……分解、させたようだ。
「大好きなマナーはどうしたんだよ?」
ゆっくりと椅子から立ち上がる。
ルピスも、名残惜しそうにグラスを飲み干してから、立ち上がった。
〔念動〕を起動。効果対象は……周辺物、すべて。
「ピンク。お前は美味そう。私と本気で戦うのです」
「……話が長い。最初からそうしろ」
そして、振り抜く動作を省略して、鬼の心臓目掛けて鞭を叩きつけた。




