訳ありドレスとお爺様
血液を飲んだ影響か。少しだけ興奮しているルピスさんは、ネオマが持っていたハルバードの刃を無造作に掴んだ。
どうやら<鑑定>は、対象物に触れることで起動できる能力らしい。
5秒ほど掛かった後、鑑定の情報が送られてきた。
――――――――――――――――
対象:薄明の鉾槍
種類:武器[近距離]-槍・斧-ハルバード
品質:A
付与:修復、頑強
info:これは魔力を与えると修復される
これは硬い。そして重い
メモ:拾ったらモニングまで届けろ
報酬に10万キュテル分の血を支払うぞ
――――――――――――――――
1つ目はハルバードだ。効果は、何というか普通だな?
雑に扱っても壊れない作りで、それに応じた能力も備わっている。
モニング。それがこの槍の持ち主で、上空から奇襲で倒した吸血鬼の名だろう。
単位名"キュテル"というのは気になるが、それよりも……。
『ルピス。最後のメモの部分って、柄や刃に記号が刻まれてたとかじゃなくて、そのままの内容が載ってたの?』
『はい。槍に籠もった思念……のようなものを読み取りました』
『……思念? というと、念話で"書き込み"ができるのか。なるほど……』
ハルバードという情報体に、思念波で個人コメントを書き加えたようだ。
暗号化すれば、同じ血族だけで読み取れるといった条件も付けられそうだな。
ゲーム内の仕様と考えるべきか。それとも現実のマテリアルにも情報を付与――。
『主様……?』
『――あぁごめん。続けてどんどん送ってね』
『畏まりました。次はこちらの剣になります――』
――――――――――――――――
対象:ルージュ・フルール
種類:武器[近距離]-細剣-レイピア
品質:A
付与:修復、採血
info:これは魔力を与えると修復される
これは刻んだ傷口から血液を奪う
メモ:不遜にもこの私ベニバを下した者
褒めて差し上げます
――――――――――――――――
……褒められた。
小洒落た名称のレイピアだ。こちらにも修復の能力が付いてる。
あの女吸血鬼はベニバという名前らしい。記憶には、残しておこう。
最後の品は鞭である。
ルピスが、さっき獲ってきたばかりの戦利品だ。
――――――――――――――――
対象:渦巻く鞭
種類:武器[中距離]-鞭-長鞭
品質:A
付与:修復、かまいたち
info:これは魔力を与えると修復される
これは魔力を消費して衝撃波を収束させる
メモ:偉大なる主君ケキマソフ様の遺品
ここにヌテーレクスが名を刻み、誓う
必ずや聖女アナナースに復讐を……!
――――――――――――――――
悲壮感が漂うメモだった。
まるで物語の主人公が、墓標を前に宣言するような内容である。
『一瞬で滅んじゃったけどね、ヌテーレクス君』
『ヌテーレクスさんの血は、香り豊かで脂っぽさが少なく、舌触りも滑らかでヘルシーな味わいでした』
『……。そっか』
急に女の子から血液の味について食レポされたら、どう反応を返すべきなんだろうか。
ぺろりと舌なめずりしているところを見るに、本当に美味しかったようだ。
思わずちょっと飲んでみたくなってしまったのは……悲しいかな吸血鬼の性なのかもしれない。
◆
城内を巡回していたガーゴイルの集団を発見する。数は5体。
屋内だと処理に困るし、数も多いので、嬉々として突撃しかけたルピスを引き止めて、天井の窪みに張り付いてやり過ごした。
念動による自身に掛かる重力ベクトルの反転である。ネオマ君は自前の足で器用に掴まっていた。
ルピスは念動を難なく扱えているようだ。これなら護送を任せても問題なさそうだな……。
『――そうだ』
装備と言えばコレがあった。
詳細を調べたいと思っていたんだった。ついでに見てもらおう。
『ルピス。この服も鑑定してくれる?』
『主様のお召し物ですか? わかりました――失礼しますね』
ドレスの袖にそっと触れて鑑定。
そしてルピスは、表情を一変。目を限界まで見開き、驚くべき速さで袖から手を離した。
信じられない物を見る目でドレスを見てくる。上から下まで舐めるようにじっくりと。
『ッ…………』
『? なに? なにを読み取ったの?』
まじで何か問題あったの?
気になるから情報プリーズ。はよぅ。
――――――――――――――――
対象:紅竜のドレス
種類:軽装備-ドレス
品質:A+
状態:呪い『死に装束:ピーチトゥナ』
付与:陽炎、自動調整、汚れ知らず
info:これは対象者が復活時に修復・着用される
これは着用者の幻影効果を高める
これは着用者に合わせて変形する
これは汚れがつかない
メモ:こちらはカスィ様から下賜されたドレスです。国が傾くほどの資金を投じて作り上げたのだそうです。「エルフの秘伝魔術を取り入れたぞ」とイタズラっ子のように語っておりました。技術盗用が発覚した時に、国際問題にならなければ良いのですが……。
あなたがご覧の通り、脱色させた紅竜の翼膜に、ミルク色の刺繍とフリルがふんだんにあしらわれた、可憐で華やかなオフショルダー型のロングドレスです。私に似合うはずもありません。私は、300歳を超えたおばあちゃんですからね? そんな年齢をお伝えしてもカスィ様は気にされません。あの方の感性は大きくズレております。そして……とても頑固なのです。
純血の魔族である私を、第1王妃に迎え入れる用意をされているようです。彼は本気で、人族と魔族の問題を強引に解決なさるおつもりです。これから王国に多くの血が流れる予感が致します。私は間違ってしまったのでしょうか。私は、身を引くべきなのでしょうか。ですが1人になる彼のことを考えると、どうしても決意ができません……。あなたの時代の王国の民は、幸せになっておりますか?
このドレスを着用したのは、お披露目の1度限りです。血税を支払ったミルクロワ国民の皆様のためにも、身に纏うに相応しく、そして似合う方の手に渡ることを切に願っております。私が生きている間に、ご縁がありましたらお会いしましょう。~カラーメルより~
――――――――――――――――
『『「…………」』』
メモが長い長い長い。ただの1着のドレスに、情報をこれでもかと詰め込まないで欲しい。
ただの、って事はないか。竜の皮という意味不明な素材だ。国が傾くほどの衣服らしい。
そして内容が重い。もう気軽に、引き千切れなくなってしまった……。
案の定呪い付きだったし、どうせ直るんだから、必要なら千切るけども。
『カラーメルって何者か知ってる?』
『いいえ。存じておりません』
「……知らない名です」
ルピスは素で知らないようだが、ネオマは……やや硬い口調で首を横に振った。
ははん。こやつ何か知ってるな? それも、あまり良くない感じの情報を。
300歳オーバーの人物らしい。それだけ長生きしたなら、悪い噂の1つや2つあるのだろう。
まだ生きているなら、今後出会う可能性がある。
先入観は持ちたくないので、詳しく聞き出すのはやめておこうか。
『んじゃカスィの、名は……どういう形で国に広まってたか、教えてくれる?』
『――王国にワイバーン便を普及させた先代の国王陛下です。様々な改革をなして、[商王][竜王]の二つ名で知られております。商人からの評価は、高いお方でしたよ?』
「……王国史上、最悪の愚王です。黒竜を飼いならそうとして失敗し死亡。北方地域に甚大な被害を出しました。現在でも魔族からの評判が悪い男です……」
やっぱり、知らないと不自然な程の有名人だったか。それも先代国王ときたもんだ。
評価は正反対だったが、ルピスはかなり言葉を選んでいる様子だった。
そしてネオマの話を否定しないところ、評判はよろしくは無いのだろう。
『そうだ、此処。カスィ城って名称みたいだよ』
『「…………」』
二人とも真顔になった後、無言のまま表情を曇らせた。
若干――どころか、かなり怒っていた。ネオマ君に至っては、鼻頭に皺まで寄ってる。
元国王の城が、吸血鬼の根城になってるとか、ね……。しかも、そんな城に攫われて来たとか、あり得ないよな。
オレからしてみたら不便な初期地点だけど、被害者本人達からしてみれば、たまったものじゃない。
ちゃんと管理していて欲しいもんだ。先代のカスィ国――。
『……ぉぅ?』
今気づいたけど、このODOアバターにとっては"爺さん"に、あたる人物なのか?
世襲の君主制なら、血縁関係があるのは間違いなさそうだが……。
『ぅん、気を取り直して進――ん? 到着した?』
3人でコソコソと情報交換しながら、廊下の天井を進んでいると、ようやく最初の目的地に到着したようである。
数多の血の香りを漂わせる――吸血鬼の食糧庫。
人間外の香りもあるのは期待半分、不安半分。
おニューの鞭を持って、グニグニと手に馴染ませながら、周囲を確認する。
廊下に置かれたガーゴイルは、念のために……遠方から破壊した。
放った"かまいたち"の射程と精度は、実用的な範囲収まっている。
消費されたのはBPで、決して少量とは言えないが、魔石を胴体ごと真っ二つにするだけの凶悪な威力を秘めていた。
部屋内部に待機している吸血鬼は確認できるだけで――8体か? 少し、多いな。
現在のアバターなら十分いけると思うが、問題は外部に逃がさないかどうかと、他の2人を死なせないかどうか。
『数が多い。ここで待ってい――』
『――いけますっ』
「……大丈夫です」
2人とも、やる気だなぁ。
ネオマ君は消音だけして――えっ、戦いながら維持もできるの? 器用だね……?
まぁ数が数だ。最後のレベリングと思って、キッチリ囲んで倒しきって貰おうか。
彼女らの戦闘能力は、今後の子供達の安全に繋がる。
『そっか。んじゃ――襲撃に行こうか!!』
持ってる食料を全部出してもらおうか吸血鬼ども!




