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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第3章:血族 -中編-
22/39

生贄は鬼の血で満たされて

 意識をONからOFFに変更。

 能力の解除を受けて、身体動作が切り替わる。


「……ふぅー」


 〔念動〕を用いた奇襲攻撃は、ド安定の畜生具合だった。

 一方で職業能力<演技:プリンセス>を使ってみた結果は――いまいちだな。

 教科書データ通りというか。動きが理想的すぎて、逆に違和感を憶える程度のものだった。


 並行して起動していた<オーラ:プリンセス>の効果は、"プリンセスらしい印象を振りまく"というもの。

 まるで意味が分からん。精神干渉もしくは観測できない粒子でも放出しているのだろうか?


『上手くいきましたね主様』

『だね。油断しないように、引き続き注意して進めていこう』


 城の外から内部を探り、ちょうど良く孤立してて、始末できそうな吸血鬼たちを見つけたのが5分前。

 そして、付近に仲間がいないか確認し終わって、廊下から奇襲をかけたのが2分前である。


『ネオマ君、終わったよー』

「……もう片付いたんですか」


 廊下の天井に張り付いていたネオマを呼び戻して、合流。

 彼は"魔術"とかいうものを使って、消音と見張りを行ってくれていたようだ。

 一応こっちでも確認したが、集まってくる敵の気配は……無いな。

 屋外には、まだガーゴイルが何匹かいるが、全部倒していたらキリがない。

 こちらに気付いていないようなので、無視で良いだろう。


 部屋を漁ろうと思うが、探索に掛ける時間の余裕はない。

 全体を対象にして[No.2]を起動。脳内に周辺情報をフルコピーする。


『ッ――――』


 得られた情報は、ろくでもないものばかりだった。

 床に染みついていた血痕は、過去に殺されたと思しき被害者が数十人分。個人の趣向か、9割がAB型だ。

 棚にある空の容器にも血の跡がある。殺風景で整っているように見えて、だいぶ血生臭い部屋だ。


「使えそうな戦利品は、これくらいか……」


 吸血鬼の持ち物だったレイピアを〔念動〕で引き上げて、付着した遺灰を全て払う。

 現れた剣身は鮮やかな紅色で、柄はバラの装飾が施されている。形だけでも現代の芸術品としても飾れるほどの立派な品だ。

 情報の上では、ただの旧型の超硬合金製のレイピアに見えるが、中身は普通じゃなさそうだな。

 オレが使って調べてもいいけど、今のところ素手で十分だし、どうせならここは――。


『ルピス。これ使う?』

『……申し訳ありません、主様。私は戦闘の心得はないのです……』


 宝の持ち腐れになってしまうという理由で断られてしまった。

 そうか。なら、心得があれば大丈夫だろう。


『んじゃ使い方を送って(・・・)教えるね』

『???』


 思念波で送った情報を理解できたのなら、戦闘術のデータも理解できるだろう。

 身体の動作に落とし込めるかは個人のセンスだ。実際に確かめてくれればいい。

 ――[No.13]起動。中身を適当に吸血鬼用に再調整して…………送信と。


『はい、これ。"近接武器を用いた戦闘術"一式ね』

『「!?」』


 アーコロジー連合軍が所有していた、最新式の総合近接戦闘術(CCQC)だ。

 何でも焼き斬る現代の魔剣"プラズマブレード"を軸にした戦闘データなどが含まれる。

 ルピスは理解できるだろうか?


『――わ、わかりました! わかりますっ! 主様、ありがとうございますっ』

「ぅ、がぁあっ!?!?!」


 ルピスは喜んでくれたが、なぜかネオマ君が泡を吹いて床にぶっ倒れた。


『ネオマさん?』『……え? どうしたの?』


 顔色を悪くして、けろけろと床に胃液を吐いている。ほんと、どうしたの?

 あれはまるで、情報過多で脳にダメージを受けたような反応で……。


『あー』


 そういえば、勝手に内容が聞こえて来るって言ってたか。

 受け取ったのか。そして処理しきれずダウンしてしまったのか。


「ご、ごめん……大丈夫?」

「……ッ……平気、です。大変、勉強に、なり……ました……」


 ふらふらとした足取りで立ち上がったネオマ。その表情は、どこか鬼気迫るものがあった。

 さっきの2倍くらいのデータ送ったら、頭爆発しちゃいそうだなこの子。


「少し休もうか?」


 心配になってそう提案すると、ネオマは軽く首を振って、渡していたハルバードを構えた。

 旋回、薙ぎ、刺突。虚空を切り裂く連撃の動作は、かなり洗練されて様になっている。

 生身の肉体で行えるように工夫された流麗な舞だ。驚嘆すべき学習速度と吸収力である。


「足手ま、といには、なりません」

「――みたいだね。安心したよ」


 ネオマくんは優秀だ。それは間違いない。

 ただ、さっきの戦闘術で引き出せる本来の出力は――。


『…………』


 彼の動きを見たルピスが、無言で眼前にレイピアを構えた。

 1呼吸の後――完全に息を止めて、気配も消す。


『――ッシ』


 瞬間的に体がブレて、ピシリと空気が()いた。

 構えた姿勢は変わらず――的にされた石像だけが、バラバラに崩れて落ちた。


「……!?」

『ふふー?』


 唖然とするネオマに向かって、ルピス渾身のドヤ顔。

 ……ただし、筋肉痛の痛みでやや涙目になっている。


 反動による肉体の損壊を前提にして、限界以上の力を引き出した鬼の挙動だ。

 完全に使いこなしてるのはいいけど……どうして張り合ったの君?



 ◆



 廊下を進んだ先で、男の吸血鬼と遭遇した。


「そこの娘。止まれ。どなたの眷属か名を――」

『――お命、頂戴します』


 名も知らぬ吸血鬼くんは、反応する間もなく体を12分割にされた後、心臓を串刺しにされて、滅んだ。

 あっという間の出来事である。ひどい。


『ぷはっ……。主様、こちらの剣はどうやら魔剣のようです。出血させたばかりの新鮮な血が、口に吸い込まれてきました』

『吸血鬼の為に作られた装備なのかな? 丁度よかったね』


 装備の効果も凄いけど、ODOのNPCが、予想以上に凄まじい。

 相手の動きに対する反応速度がおかしい。1ms毎に動作を修正できていたのは[No.13]……『死神』を併用しているからか。

 処理能力は、現代人が備えている一般型ナノマシン導入者を、ほぼ間違いなく越えている。


 これもう、オレが何もしなくても制圧できるんじゃなかろうか?

 お任せ姫プレイで完全クリア目指してしまってもいいんじゃないか?


『……ルピス。今の君の状態が知りたいから、血液ちょうだい』

『はい。分かりました――どうぞっ』

『ありがと。いただきます……』


 差し出された首筋を、背伸びして、ガブり。

 吸血鬼になっても変わらない、自然と頬が緩む味わいだ。

 気がゆるむと、際限なく飲んでしまう、至高の美味しさである。


――――――――――――――――

 対象:ルピス・エライ [69]

 種族:吸血鬼 [Lv:28]

 職業:商人 [Lv:41]

 HP: 703/ 703

 BP:1868/10059 [共有:1806/16250]

 状態:高揚

 血族:ミルクマ血族第1世代

 主君:ピーチトゥナ・ミルクロワ

 眷属:未統合

 能力:〔吸血〕〔暗視〕〔念動〕

    〔状態異常耐性〕〔魔眼:魅了〕

    <根気><鑑定><話術:商人>

    <シミュレート><契約>

    『死神』

――――――――――――――――


 調査結果。ルピスさんのレベルの上がり方がおかしい。


「……わお」


 どうやらNPCアバターは、プレイヤーよりも経験値の獲得効率が良いようだ。

 それと職業レベルと共に名称も変化していた。商人なので、なにか取引をして上昇したと考えられる。

 さすがにモンスターを倒して、商人としての技術が上がりました――は、RPGとして間違ってるだろう。

 ……情報か血液が、商材にでも含まれていたのか? 試しに情報を大量に送るのは、今は無理か。


「? ……俺の血も、飲みますか?」

『んや。いらないよ』

「――そうですか」


 若干がっかりしているのは、どういう心境の変化だろう。


 調べたいことは山積みだが、共有BPの最大値の変化が気になったな。

 オレ自身にも変化があるようだ。血を飲んで調べてみよう。


――――――――――――――――

 種族レベル:12→22 Up!

 種族能力:〔生命吸収〕 New!

 職業レベル:13→14 Up!


 対象:ピーチトゥナ・ミルクロワ [36]

 種族:真祖吸血鬼 [Lv:22]

 職業:プリンセスごっこ [Lv:14]

 HP: 406/ 406

 BP:13126/32500 [共有100%]

 血族:ミルクマ血族-盟主

 眷属:ルピス・エライ

 能力:〔吸血〕〔暗視〕〔念動〕

    〔状態異常耐性〕〔生命吸収〕

    <演技:プリンセス>

    <オーラ:プリンセス>

――――――――――――――――


 ――生命吸収とは何ぞや?


 同じ吸血鬼でも、習得できる能力に違いが出て来るのか。

 効果は……言葉通りにHPの吸収能力らしい。近くを歩いていたネオマ君を範囲に入れてしまった。

 もっとも効果量は微々たるものだ。相手との距離に反比例した量のHPを奪えるようで、"心臓に触れた状態"が最大効率とのこと。

 どんどんアバターが人外化していくな……。もはやBP量については、言う事もない。


『あのー。る、ルピスさん? ちょっと槍と剣と……今の吸血鬼が持ってた鞭を<鑑定>して、情報送ってくれない?』

『? 鑑定ですか? ――あっ<鑑定>ですね? 畏まりました主様』


 また新たな1体の吸血鬼を、薄い笑みを浮かべながら串刺しにしたルピスさんに頼み事である。

 全身を撫で斬りにして噴き出させた大量の血液が、宙を(うごめ)いて流れて、新鮮なBPとして彼女の唇に吸いこまれていく。

 その姿は、壮絶の一言だ。ネオマ君はかなり、オレも正直ちょっと引いている。


 大丈夫かなこの子。そのうち闇堕ちして、吸血鬼のボスと取って代わったりしない?

 少し心配になってきたぞ……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界観がわかり始めたら面白さが爆発したw 名前がわかりやすくて誰が誰かごっちゃにならないのは本当にありがたい…
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