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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第3章:血族 -中編-
21/39

とある女吸血鬼の最期

 棺の蓋が動かされて、空気が流れ込んできました。


『申し訳ありませんベニバ様。緊急事態です』


 眷属の思念に頭を揺らされて、私の意識が浮上します。


『……血は?』

『ございません。粗末なものですが、私の血をお飲みください』

『――お前の血など要りません、結構です。用件を聞きましょう』


 血液が不足していて頭の回転が鈍いですが、仕方がありません。

 緊急事態なのです。我儘は言っていられませんね。


『門衛のモニングが亡くなりました』


 たかが眷属の1体が滅んだ程度で、この私を休眠から目覚めさせてくれたのですか?

 ……貧血気味で良かったですね。激怒して最後の眷属を殺してしまわず済みました。


『――敵は誰ですか?』

『不明です。城内に侵入の形跡はみられません。人員不足のため、屋外にガーゴイルを放ち調査中です』


 私の手元には、このような役立たずの眷属しか残っておりません。

 精鋭を失った影響が顕著に出ているのです。嘆かわしい状況ですね。

 あの憎っくき聖女……。近々出向いて、吸い殺して差し上げなくてはなりません。


『…………』


 城の位置が、おおかた王国側に漏れたとします。

 広大な極寒の領域を探索できる者など、多くはないでしょう。


 王族たちの魔法は脅威ですが、扱うのは普人の体に過ぎません。

 最も警戒すべき第1王子の魔法は、正確な座標が必要になるようです。

 第2第6王女たちの魔法は、環境の影響を無視できません。

 未知数の多い第4王子の魔法も、未だ使い熟せてはいないようです。


 問題は、領域を踏破可能な他種族を送り込んできた場合でしょうか。

 厄介者の屍人(リッチー)族は、魔道を探求する以外に興味を持ち合わせていません。

 他の不死族も同じ。身も心も腐って、張り合う心意気もない、干乾びた者たちです。


 此度(こたび)城に侵入してきたのは、無法者の悪魔族でしょうか?

 あるいは調停者(バランサー)気取りで口うるさい、魔機人(ゴーレム)族の古老衆でしょうか?


 門衛の上級吸血鬼を、短時間で滅せられる者は限られています。

 隙を上手く狙われた? それが可能なのは――身内の血族という線もありえますね。


『コンソフが裏切った可能性――? ……今あの女は何処で何をやっているのかしら?』

『盟主様のご命令を受け、太陽国にて情報収集と戦力補充に励んでおられるようです』


 そうでした。あの女は宮廷魔術師団の長としての表の顔を作っておりましたね。

 盟主様から授かった吸血鬼の御業を研鑽せず、小技ばかりに精を出す馬鹿な女。

 そう笑っていましたが……そうですか。そうですか。

 盟主様の役に立てているのですね。……ぁぁ、憎い。憎い憎い、憎い憎い憎い!!


『盟主様に、ご報告なさらないのですか?』

些事(さじ)で眠りを妨げてはなりません。使い捨ての糧に志願したいのなら、止めはしませんよ?』

『いいえ。ですが――』


 ですが? この愚図、私に口答えする気か――


「こんばんは。今お邪魔しても、よろしいでしょうか?」


 聞きなれない高い声が、私の部屋に響き渡りました。

 桃色のドレスを着た、小さく風変わりな吸血鬼が、そこに立っていました。



 ◆



 薄桃色の長髪――あの髪には、見覚えがあります。

 王国で行った"大晩餐(だいばんさん)"の際に、盟主様が戯れに持ち出された食事の成り変わり。

 強引に同族に引き入れるために、盟主様が古い魔術を用いた個体。もう目覚めたのですか?


「お初にお目にかかります。私は新入りの吸血鬼です。キマツルさんから、こちらをお届けするように仰せつかりました」


 ドレスを摘まんで腰を落とす動作。宮廷マナーの指南書に載るお手本のような、優雅な仕草です。

 死体から発生した不死族が、生前の記憶を色濃く残しているなんてお話は聞きませんね?

 それにこの気配――血族に加わっておりません。盟主様が失敗なさるとは、にわかに信じられませんが……。


『あの子が言っているキマツルの帰還は、事実かしら?』

『未確認です』


 本当に役立たずの眷属ね。今すぐ(くび)り殺してしまいたいわ。


 それよりもあの子。食事の子供を持ち込んできてますね。

 質素な服に白い髪。かすかな血の香りが、私の喉を鳴らします。


「ご苦労様。それは上物かしら?」

「"白離"の最上級品のようですよ」


 ハクリ。最上級の血――ああ、なんてことでしょう!

 そのような品を、盟主様を差し置いて私が頂くなんて、なんと恐れ多い!!


「デザートに、こちらもどうぞ。最低級の"木片"です」





『『!?』馬鹿、避けなさい!!』


 瞬間。眷属の首が飛んで、その背中から木片の先が生えました。

 心臓破壊による発火現象。この子――盟主様のお膝元で、なんてことをしてくれたのかしら!


「そう――お前は失敗作ね? 死になさい」


 〔変化〕を発動して、片腕をキチン質の刃に変化させます。

 失敗作の首を薙ぎ払い――あら、避けられてしましたか。

 反撃で、私の腕が持っていかれています。なんて筋力でしょう。


「あらあら、元気な吸血鬼の新入りさんね?」


 ――それに速い。成りたての吸血鬼に似合わない、異常な反応速度。治癒速度。

 得物のレイピアを抜剣。技能を発動して心臓を貫いて――これも避けられますか。

 私の動きを読んでいますね? 動いた時には、もう避けられている。未来予知?

 意識の隙間を縫うような巧みな動き、ミルクロワの宮廷武術かしら?


「おイタが過ぎるわよ」


 けれどね。そんな小手先の技術は、熟練の吸血鬼の前には無意味なのよ。

 視線を合わせて〔支配〕で硬直。〔変化〕で霧に変わり、〔透明化〕で死角から刺突。

 これでおしまいです。


『愚かでお馬鹿なお姫様。今度こそ死になさい』


 血族に反抗なんて、愚かな考えを持ってしまったばかりに、優秀な子を失ってしまう。

 この子でしたら、私の眷属に相応しい働きができたでしょう。勿体ない、残念です。


『あぁ。ソレはもう知ってます』

『? 何を言っ――――あら?』


 私の体が、動かない? 身体に痛み……炎?

 いつの間にか、無数の木片が、私の全身を貫いていました。



 ◆



 ……そうですか。勝負が、ついていたようです。


(私が負けた? この子に、殺されるのかしら?)


 そう考えていると、心臓に刺さった木片が、緩んできました。

 もしかして生かしてくれるつもりなのかしら?


「ルピス。こいつは君の分だよ」


 床に落ちていたハクリの娘が、起き上がってました。

 気配の薄い子供。金色の瞳。その口の鋭い牙が――。


(っ!? 生きて、この子も吸血鬼――?)

「……ほろべ、吸血鬼(けいけんち)


 牙が首に刺さります。

 この娘と繋がった(・・・・)


『吸わせて貰いますね?』

(――ヒッ!?)


 (ちから)が抜ける、奪われる?!

 駄目ッ吸われる! 私の血が! こんな子供如きに! 嫌ぁ!!

 こんな形で終わるくらいなら、せめて盟主様に捧げて――!!


「今回は死ななかった。やっぱキマツルが強すぎたんだなぁ……」

(ッ!?)


 なによそれは! ふざ、ふざけるな! 貴様、この私があんな男に劣る?!

 認められない!! 訂正しなさい!! その牙を退けなさい小娘ぇ!!!!


『ッ……(っぁぁぁぁあああ!!!!)』


 伸ばした指が、腕が、体が灰になって。視界が、真っ白に染まっていく。


 意識が薄れていく? 私の意志が、大いなる存在に、集められる?


 私の精神は、私だけのもの、なのに? どうして?


 やめてN****、還りたくなんてない。


 いやよ、還リ――。


 還。。。


 。。


 .

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