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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第3章:血族 -中編-
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お勧め進め、ミルクマ血族!

 さっそくルピスに今後の方針を伝えておこう。


『ルピス。"かくかくしかじか"で吸血鬼を狩り尽くすことにしたよ』

『わかりました主様。ミルクマ血族以外の吸血鬼は皆殺しですね!』


 驚きの理解力だ。吸血鬼化を祝った直後の殺害宣言と考えると、矛盾が酷いな。

 情報を圧縮して送ったのに、正しく理解してくれたのが地味にすごい。

 ルピスの処理力が優秀なのか思念波が優秀なのか。たぶんどちらもだろう。


『主様。お手をどうぞ』

『――ん? ありがとう』


 ルピスの手を取って棺の外に出る。すると、すぐに部屋にいた子供たちの視線が集まった。

 皆の視線はオレよりも、ルピスの変わり様に驚いている。まるっきり別人を見る目だ。


 ……うん、わかるよ。オレも内心、結構ビビってるからね。

 たぶん思考加速しすぎた疲労とか。深夜のテンションでアレな感じなんだろうきっと。


「皆さん、御機嫌よぅ? 調子はどう?」

「「「…………」」」


 いまいちっぽかった。まぁ空腹状態じゃ気も緩まないだろう。

 寝られている子は少なく、起きている面々は、隅の方で固まって暖を取っていた。

 頑なに床の血の模様を避けている。それ警戒する必要は、ないんだけどな……。


『シロクマ君はまだ平気? 食べられてない?』

騎乗雪熊(スノーベアー)ですか? あちらで兎人の方とお休みしておられますよ』


 ルピスの視線を辿ると――。


「すぅ……すぅ……」


 ウサ耳少女が、実験器具が置かれたあたりを占領して、シロクマを抱き枕にして爆睡していた。

 見守るってそういう……。暖かそうで羨ましいな?


『まぁしばらく寝させてあげようか。あの子も疲れてるみたいだし』

『……気持ち良さそうに寝てますね。だんだん私も眠くなってきました……』


 まだ寝れるの? すごいなこの子。


『ルピス自身のBPは――"血液(BP)"の残りはどのくらいある? 噛んで調べてみてくれない?』

『はぷっ……。82で()主様』


 すると最大値の約1/7……かなり危険域じゃないか?

 ほんとうに職業が商人見習いなのか疑わしい浪費具合だ。


『そのまま寝ると死ぬ可能性があるから、起きていような?』

『――ッ!?』

『あと、共有分は自由に使って良いけど、もうちょっと節約してね?』


 ルピスは高速で頷いた。分かってくれたようだ。

 当然ながら死ぬのは怖いらしい。


「それじゃ次は……少し君たちと"お話"しようか?」


 さて、まだ話していない子供たちと親睦でも深めるとしよう。

 来週の課外活動の予行演習がてら、現代人のコミュ力を見せてやろう。



 ◆



 そして、オレは何もできなかった。


「やっ! ゃぁー!!」

「ゆるしてっー! (ゆぅ)してっー!」

「わゎわ悪いことしませんっ、ぼくを食べないでくださいっ」


 オレが笑顔で輪に入ろうと近付いた途端。

 遠ざかってうずくまってガン泣きして、あげく命乞いする子供達。


『……えぇ?』


 変だな? 地味に辛いぞ? 木片で刺すよりも、心が痛む。

 なのに彼らの泣き顔をジーと眺めていると、喉が渇く……のは吸血鬼由来のダメな感覚だな?

 [No.12]を起動して、五感を正常化――完了。


『ン、んんんーと? ルピス? どうして子供達がこうなってるか、分かる?』


 困ったときのルピスさん、いわく。


『主様を畏れているのです』

『……それは見ればわかるよ』


 明らかに、それだけじゃないでしょ。

 こっち見て怯えているようで、こちらを見ていない。

 トラウマ――記憶に起因した恐怖を感じてるような反応だ。


『怒らないで聞いていただけますか……?』

『? 分かった』

『ミルクロワの一般家庭では、親から"悪い事をすると吸血姫がきて食べちゃうぞ"と、教わっているのです』

『――はぁ? そんな、情操教育にまで、使われてたの?!』


 地味にショックだった。……いや、なんでオレがショックを受けてるんだ?

 酷いとばっちりじゃないか。怒るべき場面だろうこれ。


『こちらの念話を通せば、意思疎通もしやすくなるかと思われます。みんな吸血鬼に変えますか?』

『……ルピス。君もか』


 AI-マリンと同じようなことを言う。

 真顔で言ってるところ、かなり真面目に考えてくれた結論なのだろう。


『仮にそれを提案したとして、受け入れられると思う?』

『はい。日中に活動できなくなるデメリットを除けば、血液だけで飢えを凌げられて、寒さや痛みにも苦しまなくなれます。雪国のミルクロワでは、とても高い需要があると思いますよ?』

『……ごめん、変なことを聞いた』


 彼女たちは、吸血鬼の食料にされるべく城へ連れて来られたらしい。

 なのに、ここまで割り切って考えられたルピスは、ある意味とても吸血鬼として適性が高かったように思える。


「――変でもない。種族としての吸血鬼は優秀です。感情を天秤にかけても、魅力的なのは間違いありません」

「? ネオマ君、だっけ?」


 黒髪のネオマ君が、とつぜん思念波の会話に割って入ってきた。

 びっくりした。傍受できるのかこれ。


『聞こえてるの?』

「……種族の特性で、近距離だと嫌でも聞こえてしまうんです。それと雑談は言葉に出した方が良い。念話が聞こえない他の者達には、貴女方が視線で良からぬ事を計画しているように見えます」

「なるほど、それもそうか。――ありがとうネオマ君」


 そう感謝を告げると、"呼び捨てで結構です"と言って集団に戻っていった。

 彼はツンデレキャラだろうか? と失礼にも笑いかけてしまった。

 なんにせよ早々に教えてくれて助かった。

 思念波――念話?は助言通りに、乱用は控えておこう。


『………………』

「――ルピス?」


 ふと見ると、ルピスが若干しょんぼりしていた。……なぜ?



 ◆



 それから何人かの子達と話し合えた。もっとも出来たのは簡単な自己紹介くらいだ。

 1言2言交わして、名前を聞けた程度――って事は無いな。名前は大事だ。大きな一歩である。


 彼らの中で、そこそこの会話が成立したのは、ほんの数名だ。

 黒髪で羽持ちの"ネオマ"は、さっきと同じく気負いなく話してくれた。

 青髪で狐耳の"ラディアータ・スクリィフ"は、訛り言葉でこちらを見測るように話しかけてきた。

 その従妹の"モレン・ビタブレー"は、残念ながら歯をカチカチ震わせるくらい怖がって対話不可能。

 金髪で兎耳の"ピカンカ"は「うちはピカンカっす、よろしくっす姉御」と言って再び爆睡。なんなの?

 赤髪で角持ちの"ゼフイル"は、冷や汗を流しつつも握手をしてくれた。指は潰れないほど頑丈だった。


 そして、紫髪の"キャノラン・ハスシュキー"と、緑髪の"ピスタッチ・ハルヴァニア"。

 ……ミルクロワの貴族だ。なにか問いたげに、こちらを伺っている。


 意外なことに、彼女達の視線には恐怖がほとんど無かった。

 地元で"なまはげ"扱いされているピーチトゥナ・ミルクロワを恐れていない。

 変に(こじ)れる前に、王女と無関係を宣言をしておくべきかとも思ったが――それは後でも良いか。

 つまり、棚上げである。やったぜ。


「城に潜入して食料を集めてくるね。皆は少し待っててね」


 ちょっと行って殺って奪って帰って来るだけの簡単なお仕事である。

 なお、平和主義者な現代人のコロニー市民は、中学1年生で拠点制圧に必要な戦術知識が脳に叩き込まれる。目的は人材発掘とされているが、実情は不穏分子の炙り出しだ。


「いってらっしゃいませ主様」


 ん? ……おいこらルピス?

 ごく自然に横になって、二度寝しようとするんじゃない。

 あとその枕、どこから持ってきた? そんなもの部屋に無かったよな……?


「君も行くんだよ。血が足りないって言ったよね?」

「――ハぃ。行きますっ」


 血が足りないというのは方便だ。ルピスを連れていく目的は、パワーレベリングである。

 最低でも〔念動〕は覚えておいてくれないと、いざという時に子供達だけで脱出させられなくなる。

 とれる手段は少しでも多い方が良い。これは必須事項だ。


 ルピスの腕を引っ張って連れていく。

 こちらのほうが背が低いので、ルピスが保護者みたいになってるのは、やや解せぬ。


「俺も、連れて行かせてください――」


 誰かと思えば、ネオマが名乗りを上げた。

 これは、ちょっと予定になかったな。どうするか。


「……ついて来てもいいけど、死ぬかもよ?」

「覚悟の上です。それに足手まといにはなりません」


 ネオマは自前の羽をバサリと広げて、自信ありげに断言した。

 広げると意外に大きな――"コウモリの羽"?

 まさしく人外の証拠といえる立派な羽だけど、まるで吸血鬼のようだな?


「「…………」」


 まぁ逃走手段があるなら、簡単に死にはしないか。

 最悪オレが囮になれば、その間に逃げることくらいできるだろう。


「――いいよ。そんじゃ行こっか」


 2人を連れて、暗い地下室の部屋から出発だ。

 ――目指すは城の食糧庫。

 ミルクマ血族の初陣。襲撃作戦の始まりである。



 ◆



 隠し扉を開いて、城の中庭に上がると――早速、敵と遭遇した。

 空を飛ぶ悪魔像だ。幸先(さいさき)悪いし、見るからに敵っぽい。


「ッ!? ガーゴイル! もう広場に展開してい――」

「はい1番槍」


 身体をフル強化。投擲したハルバードの穂先が、ガーゴイルの胸部を貫いた。

 空中にいたソレは、声を発さず、すぐに力を失って地面に墜落してきた。


「そうだネオマ君。あいつの弱点とか分かる?」

「……。投げた後で聞かないでください。……胸部に埋まっている魔石です」


 あの砕けた宝石が、そうだったようだ。

 分かりやすく赤くピカっていたから、間違えようがなかった。

 なんで当たると一撃で死ぬような弱点を外部、それも前方に露出させているんだ?


「あってたなら良かった。んじゃ――2体目」


 ガーゴイルから槍を引き抜いて小ジャンプ。〔念動〕を維持しつつ構え。

 ――[No.8][No.15]起動。槍を理想のフォームで全力投擲。

 槍は大きなS字を描いて、城壁から姿を見せる直前(・・)のガーゴイルを射抜いた。


『曲がりました?! 主様っ、今のは魔術ですか?!』

『念動だよー。吸血鬼の基本的な能力だよー。ルピスも後で覚えようねー?』

『が、頑張って練習します!』


 魔術? 魔法と何が違うのか分からないけど、少しでもやる気を出してくれるなら良いさ。

 〔念動〕は卑劣な種族能力だけど、腹立つくらいに便利で万能じみた力だ。

 投擲の軌道を後からどうにでも曲げられるし、ついでに仕留めた死体も引っ張っても来られる。


 そんな感じで、死んで動かなくなったガーゴイル2体を回収。

 どうやら吸血鬼と違って、死後は灰にはならないらしい。

 ただ、回収したところで使い道がわからない。とりあえず、噛む。


『……硬いです主様』

『ほんとだね……。石像から血は採れないかぁ……』


 ガジガジ噛んでもBPは吸い出せなかった。ルピスも同じらしい。

 どう噛みしめても石の味である。普通に牙が刺さるのは、さすが吸血鬼というべきか。

 ガーゴイル。インテリアにするにしても悪趣味な置物だなこれ。


 ふと視線を感じて、後ろを見ると……?


「…………」

『?』『どうしたの?』


 ネオマ君が、何とも言えない渋い顔で、こちらを見ていた。……なに?

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