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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第2章:血族 -前編-
15/39

闇の先に救いを求めて

 ――夢じゃない夢を見た、気がした。


 今回のそれは、いつもと少し違う死亡の感覚だった。


――――――――――――――――

 種族レベル:1→12 Up!

 種族能力:〔状態異常耐性〕 New!

      〔念動(サイキック)〕New!


★P専用夢想ストーリー:『裏切り者の吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)』Clear!

┣敵対:"禍々しき門/エスマーガ血族" New!

┣ルート消失:『禍々しき吸血姫』『開放された少女』etc.

┗職業レベル:1→6 Up!


 ※拠点『儀式用の石棺』で復活:残り5秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


(……ストーリぃに敵対ィ?)


 急に来たな。なんだこれは?


 まず種族レベルが一気に上昇した。

 これは想定内だ。状況から推測して、吸血鬼を倒して上がった分だろう。


 その結果、新たな能力を2つ習得した。

 前者は、そのまま状態異常に対する抵抗力の獲得か。どんな異常に効いてくるのかは不明だ。

 後者は吸血鬼らしい超能力……? キマツルの最期が硬かったのは、これ使って防御していたのか?

 どちらも解説やフレーバーテキストが無いから、実際に試してみて使い心地を確かめる必要がある。


(……不親切なシステム)


 そして夢想ストーリーとかいう、後付け臭いゲーム要素が出てきたぞ。

 勝手に変な名称のルートとか設定するなと、N1000あたりに文句を言ってやりたい。

 裏切るもなにも味方のつもりなんて無かったし。姫とか、なぜか妙にイラっときたし。

 しかしこれで、アバターにキャラ背景があったというのが確定したわけだ。


 専用と言えば、事前に[N1000]から固有魔法を持ってると情報を得ていたか。

 【自動復活】以外でも魔法が使えるはずだけど、使い方は今のところ不明だ。

 謎の言語と共に炎を発生させたり、氷漬けにさせたり、プラズマジェットらしき現象を発生させたりと、キマツルの魔法も非常に気になるが、分析が不十分のまま中断したからなぁ……。

 アバター関係のストーリーを辿っていけば、習得の機会やヒントが得られるのだろう。そう願おう。


 そしてクリアの報酬なのか、職業のレベルも上がっている。

 RPGらしく、職業に沿った行動をとった覚えは……無いな? そもそもこのアバターの職業は何なんだ?

 ボーナス分の経験値でも得られたのか。それともストーリー自体が職業に沿った行動だったのだろうか?


 なんにせよ、今はやるべき事がある。

 時間が経過し終えて、アバター体の再構築が完了した。



 ◆



復活(ふっかぁつ)!!」


 【自動復活】完了と同時に全力スタートダッシュ。ここからは時間との勝負だ。

 城の吸血鬼らに見つかる前に、シロクマを回収しに向かうのだ。

 誰にも渡さんぞぅ。あれはオレのものだ。オレだけのシロクマだ!


「くまっくまっわはははっ! ――ゎガッががががぼ?!」


 予想外の速度が出て、階段で転んだ。あげく顔面が凹み下ろされた。

 おのれ石階段、段差と角っちょに思いやりがない欠陥建築めっ!


「……ぐぅっ!?」


 治癒完了――まで時間が短い? 死ぬ以前と比べて、体の調子がだいぶ違うようだ。

 レベルの上昇分だけ、基礎能力が底上げされている、のか?


 地面を蹴ってジャンプする。上昇分は――1.1倍くらいだ。

 仮定、種族Lv1で+1%だな。職業レベルが関わっているのかは不明だ。

 最大何レベルまで上がるかは知らないけど、このまま上昇し続けたら……まぁ凄いことになりそうだ。


(ほっ、やっ、トトト、せい!)


 ジャンプ。ダッシュ。壁蹴り連続ジャンプ。空中三回転捻り。

 操作感覚を最新のアバター体へ更新しつつ、前回の死亡地点である城の搬入口まで戻って来た。


「ごとーちゃー……くぅ?」


 ストップ。馬車とシロクマが、変な奴らにわらわら(たか)られている。

 ――ッチ、早いな。もう敵が来ていたか。

 まじゆるすまじ。速攻で排除しよう……と思ったのだが、なにやら状況が変だ。


(……んんンン?)


 その集団は、全員が子供だった。



 ◆



 薄く質素な服を着た子供たちが総勢――19名。吸血鬼では無さそうだが、人間でもない。

 獣の耳とか翼とか角とか、人間にはない部位が生えている。種族がバラバラだ。


 敵か味方かプレイヤーかNPCか。いったい何をやっているのか。

 怒り焦りもろもろを鎮めながら、城壁の上から少し観察してみることにする。


「落ち着け。馬車だけでは、領域を抜ける前に死ぬぞ」

「このまま居っても食われるだけやろ。そこを退きぃ、急がなあかん」


 背中に羽を持った黒髪の男と、狐っぽい耳の青髪の男が言い争いをしていた。

 青い狐耳の方は、ハルバードで武装している。あれを回収されたか。


「だからこそ落ち着けと言っている。吸血鬼を1体、なんとしても生け捕りにしろ」

「あの怪物を相手に? 最前(さっき)の戦闘見たやろ、関わるんは命を投げ捨てる阿呆だけや」


 そうだね。キマツル君は怪物だったね?

 命を大事に考えているので、プレイヤーじゃないな。ODOのNPCかな。


「だが、方法はそれしか無い。極寒の外気への耐性。雪に嵌らないよう荷台を浮かす魔術……念動の異能だ。あの吹雪の領域を生きて抜けるには、最低限それらの対策が必要だ」


 彼等にとっても緊急時のようだが、冷静で判断力を残している。

 ODOの知識があって、分析もできると……なるほど。

 キマツルもそうだったが、ODOのNPCに搭載されているAIは、リアル寄りで優秀らしい。

 仮に彼らが敵だったとしても、最低一人は捕えて情報源にしたいところだ。

 AI作りの参考にもしたい。……ダメだ、段々と子供たちが情報資源の山に見えてきた。


「ほな軽くしよか。そしたら最後ん数人くらいは抜けれるやろ?」

「ッ! 可能性は、0ではない。だがそれは――」

「みぃんな助かるなんて夢物語は言わんといてな。冷気が恐ろしゅう感じるんなら、一端立って僕が外で御者になったる。僕が死んだら赤髪ぃ、次はお前がクマを牽きい」

「はぁ!? 無理に決まってんだろ? 俺は変温の種族で――」


 青狐くんは、赤髪の男の子に向けてハルバードを突き付けた。


「……あんさんも男やろ? 戯言ほざくんなら、シバくで?」

「お、おぅ。分かった、やるよ! やりゃ文句ねえだろ?!」


 笑顔で脅してますよ、あの狐っ子。こわい。

 リアル少し下の中学生くらいの年齢っぽいのに、覚悟決まってるなぁ。


「ラディ兄! し、死んじゃだめ! ぼうりょくもやめて!!」


 ――と、ここで間に割って入ったのは、狐耳で薄黄色の髪をした女の子だった。

 あまり顔は似ていないけど、耳は狐耳だし兄妹だろうか?

 とすると、もしかして妹を守ろうとして見境なくなっている感じか……。


(――んむんむ)


 とりあえず、現段階の敵らしいエスマーガ血族とは、直接的な関係は無いと判断する。

 子供を吸血鬼の囮にするのは気分が悪いし、シロクマ連れて逃げられるのもアレだ。素直に介入しよう。

 時間も無いので、城壁から大ジャンプする。2回目の飛び降りともなれば慣れたものだ。


「吸血鬼が、ドーン!!!」

「「「「――ッ!?」」」」


 集団のド真ん中に着地&乱入。見事な直立姿勢で決まった。

 地点誤差は5mm以内。身体制御は完璧に掴んだな。


「はい。とりあえず、こんばんは?」


 シロクマ泥棒の子供たちに、ご挨拶。

 これがオレと彼等とのファーストコンタクトになった。



 ◆



「女吸血鬼ッ! 馬鹿な――!?」

「う、嘘や! あんた、確か、死んだはずやろ?!」

「?!?!?!」


 一部ビビりまくってるけど、問題ない。この3人なら、どう行動を取られても対処はできる。

 主導権を握りたいなら暴力よりもインパクトだ。スマートかつ平和的な解決法と言える。


「「――――」」


 偶然(・・)すぐ近くにいた狐耳の女の子とラディくんへ、交互に笑顔と視線を送る。

 すると騒ぐのを止めて、引き攣った顔でハルバードを返してくれた。

 ほんとに優秀だ、一瞬で現状を把握してくれた。勘のいい子は好きだ。


「ふぁー生き返ったっす! 姉御は無敵なんすかっ?!」


 姉御? 急になに言ってんの、この……うさみみ娘?

 金髪でウサ耳生やした女の子が、ぴょこぴょこ跳ねながら無警戒で近寄って来た。


 跳躍の動作に違和感がある。この足……両足とも義足だ。

 素材は骨と金属で、ずいぶんと造りは原始的だが、決して雑ではない。

 一部にギミックが付けられているような箇所も確認できた。

 仕込み兵器で暗殺企んでる可能性があるな。要警戒対象だ。


「末姫様ぁっ!? 御無事でしたの!!」


 こっちは姫? 奇麗なドレスを着た紫髪の子も近寄って来る――が。


「待ってキャノちゃんっ。あの方はお亡くなりになったの、人違いだよっ!」

「――クきゅ!?」


 鎮圧された。緑髪の子が、的確に体幹を崩して頸動脈を絞め落とした。

 システマの流れを汲む暗殺術みたいだな。……プレイヤーか?


 警戒対象が多すぎる。吸血鬼側のスパイが紛れ込んでる可能性も捨てきれない。

 やっぱり子供相手だけど、予定通り隔離する方向で進めていこうか。


「君たちが何なのかは知らないけど、あんまり時間が無い。一旦安全な場所まで運ぶから、早く馬車に乗って」

「「「「――――」」」」


 彼らは困惑した様子で視線を交わし合って、そして頷いた。

 すぐに荷台に入る子供たち。考えていたよりも素直に乗ってくれた。


 移動の前に、シロクマの回収も忘れてはならない。

 馬車と繋がれた金具を力技で破壊して――も良かったが、折角だからここで試験運用を済ませておこう。


(〔念動〕起動――?!)


 その瞬間。アバターの座標情報が書き変わるような異様な感覚と、情報の洪水が全身を駆け巡った。

 〔念動〕扱い方そのものはNプログラムと同じで、直感的に操作ができる、みたいだ。

 Nプログラムと類似したシステムのようだが、その原理というか処理は全くの別物。

 対象のベクトルを認識&干渉して、物体を移動させるというトンデモ能力だった。まさに超能力だ。


(……ぅ"ぉー途端にリアリティが低くなった。チートかこれぇ?)


 Nプログラム[No.2]で観測した金属分子に、圧を掛けて金具をせん断。シロクマを開放した。

 ゲーム的な能力と言えども、流石にこれは、酷いと思う。使えるものは使うけど……ぅーん。


「? 君は、逃げないの?」


 開放したシロクマがお座りしたまま動かない。逃げ出す気配が無い。

 輸送牽引用の動物として訓練を受けているのか。この世界の動物もまた、良いように使われているのだろう。

 仕方が無いので、シロクマ様を背負って運ぶことにした。体格差があるけど例によって馬鹿力があれば問題ない。

 ふわふわな腹毛がぬくい。獣特有の匂いもする。仕方がないなぁ、もう仕方がない。


「んぅ――――、あっと全員乗ったかな?」


 最終確認のために荷台を覗き込む。

 すると、その中に未確認の子供が1人混じっていた。

 やけに白い猫耳の女の子が、オレを凝視している。


「た……た、助けて、ください!」

「へっ?」


 なぜ、初対面の子供に命乞いをされている。

 何も怖がらせるような真似はしてない、よな?

 やはりキマツルか。城に来るまでにキマツルが悪いことしたんだな? そうに違いない。


「オケー、OK。危害は加えないよー。大丈夫だよー?」


 某如月さんの口調を真似て、無害をアピールする。

 リアル遭遇が若干のトラウマになっているから、記憶情報からの再現程度なら楽勝だ。


 白い子の反応は、首を一生懸命に横に振って否定していた。

 若干、表情に恐怖も浮かべている。……人選を間違ったか。


 まぁいい、言葉より行動だ。このまま運んでしまおう。


「そんじゃ動かすからねー、掴まっててー」


 吸血鬼の遺灰は残したままだ。

 灰を追跡するような手段が無いとも限らないし、門番が居なくなる以上、証拠隠滅にもならないだろう。

 絶対なんかの素材に使えるな。後で残っていたら回収しよう。


 ――〔念動〕起動。

 荷馬車全体に掛かる重力ベクトルに干渉。均等に6/10を反転させる。


(……ん???)


 浮かないな。念動は他人に直接干渉はできないのか?

 だったら20人分の総重量を加味した上で、反転・増大……浮いた。


「ぉぅファンタジー、ゎぉふぁんたじー」


 子供を乗せた馬車とシロクマを担いだ自身の体が、フワリと浮かび上がり上昇していく。

 体内のエネルギー残量的なものが、ちょいちょい減っていってる感覚はあるが、まだまだ余裕がある。

 なんで吸血鬼キマツルは、最初から使わなかったのかと、不思議になるくらいの低燃費具合と便利さだった。


(ベクトルを45度折ってー、速いな。減速してー、降下してー……はい到着っと)


 ほんとに余裕で馬車まるごと運べちゃったよ。

 無茶苦茶すぎるなぁ。


「到着したから出てねー。入り口はその噴水。馬車隠すから早く降りてねー」


 子供たちを促して、秘密の地下室に誘導する。

 馬車の荷台は、隠蔽するために一旦解体しておこうか。


(――ん、あぁやっぱりそういう子達なのか? でも、外したのか。やるなぁ……)


 荷台の床には、手錠や鎖が散乱していた。あの子達が自力で外したもののようだ。

 外せるような道具は無かったように見えたが、どうやったんだろう。


 手錠の作りを確認しながら、馬車の釘を一本一本抜いて板や車輪を分解する。

 どちらも構造は単純だ。遅くて15秒もあれば復元できるだろう。

 ほんとなんなの、この汎用性極まった万能能力。なんか腹立ってきた!


「はぁー。今までの苦労(くろー)とか、オリジナルNプログラムがゴミみたいだぁ……」

「あの……あのっ――けほっ」

「ぅん?」


 ODOの仕様に嘆いていたら、さっきの白い女の子が、噴水の脇で座り込んでいた。

 この子、気配が薄いから心臓に悪いな。


「……お願い、します。助けて……助けて、ください」


 死人のような白濁した瞳には、異様なほどに熱が篭っていた。

 こうまで必死に命乞いとは、さては本格的にオレの心を折りに来ているな?


「あーと、ね? 何度も言うけど、オレは危害を加えるつもりは無いから――」

「違います! ち、違うんです……」


 別の用件か。黙って聞き役に徹しよう。


「ぉ、お願い……ごほっ――します。私をッ――」


 そして、白い女の子は言った。

 信じられないことを。


「私を、吸血鬼に、変えてくださいっ……!」

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