表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

妄想の帝国 健康管理社会

妄想の帝国 その19 健康管理社会 ニホン国再生治療、“ニホンスゴイネ病”を治します見栄っ張りメタボ国家から自己修復可能なスリムミニ国家連合へ

作者: 天城冴

不健康がすぎて事実上の独裁国家となったニホンに介入しようとする国際機関カッコクレン。健康警察研究部門代表のジュウヤクはそれに待ったをかけるため、会議に出席し、ニホン人のかかっている病、ニホンスゴイネ病について説明を試みて…

増大する一方の医療費削減のため政府はある決定を行った。

“健康絶対促進法”の設立である。健康維持のため、あらゆる不健康な行動、食生活や生活習慣などを禁止するという法案である。個人の権利を侵害するとして反対もあったが

“政府に健康にしてもらえるんだからいいじゃん”

“自分の不摂生で病気になるやつのために医療費を払いたくない”

などの法案賛成の意見が多数あり、法案は可決された。

そして、不健康行動を取り締まる“健康警察”が設置された。

健康警察の活動は次第に拡大し、不健康を生じる組織、企業までが、取り締まりの対象となり、それに伴い違反者の裁判、収容、更生を担う健康検察や健康管理収容所などの組織が作られていった。やがて国民の理解や支持を得てゆき健康絶対促進法関連の組織は次第に権限を増していくことになった。

国民の不健康を是正するため邁進する健康警察、その追及は財界、マスコミそしてついに政府と同等の規模にまで成長した。


ニホン国からちょいと、いや大分離れた国際機関のカッコクレン本部ビルの会議場の舞台に一人のニホン人女性が緊張の面持ちで立っていた。

「さて、お集まりカッコクレン加盟国の皆さん、今のニホン国の現状について述べさせていただきたいと思います」

「ニホン健康警察、研究部門代表者ジュウヤクさん。今のニホン国はあなた方健康警察とニホン国政府の内紛、いや内戦状態に突入したとのことですが」

「議長、それは違います。我々はニホン国政府というより現ニホン国政権がニホン国民の不健康の原因であると主張し、政府に治療をうながしているのです」

「貴女の言い方ですと、ニホン国政府、閣僚や官僚、与党支持者が重篤な病だと主張しているようですが。確かに今のニホン国は国内外にフェイク情報を流したり、文書を隠蔽したり、野党を貶めて事実上、議会の議席を与党独占しているという独裁国家にちかづいています。カッコクレンでも対応を考えていますが」

「カッコクレンでは軍事介入も辞さないという意見も出ていると聞きます。しかし、私の研究報告をお聞きになってから採決をお願いしたいのです。ニホン国、与党支持者は独裁を目指すというより病気、一種のパラノイアなのです、“ニホンスゴイネ病”という精神疾患を患っているのです」

ジュウヤクの言葉にカッコクレン加盟国代表がどよめく。

「な、なんだね、そのニホンスゴイネ病とは」

「驚かれるのも当然です。これはまだ正式名称も決まっていない新種の精神病、いや神経症と言いますか、ナショナリズム、オルタナライト的思考を極限までこじらせたものです。お手元の資料をご覧ください」

事前に配布されたジュウヤク作成の研究資料をめくる代表たち。

「確かに、エドエイジからメイジエイジの転換期、帝国主義国家から自国をまもるため、と時の政府の面々はいろいろと奔走したようだが」

「そうです、ニホン国は列強各国の植民地となるのを逃れるため、立憲君主国家のフリをし、西洋市民のフリをするため一生懸命背伸びをしていました。ゆるくのんびりとし、女将さんやらお母さんに頼りつつなんとかやってきたニホン男子はいきなりマッチョな西洋男性の真似をしなければならなくなったのです。表面的にはなんとかやっていけましたが、内心のストレスは相当なもので、その反動で」

「戦争突入か。ロシア帝国も清帝国も、相手がたまたま別の理由で弱体化したスキをついたという点で有利だったにすぎなかった。だいたいニホンの上官はよく無謀な作戦をやらかした、運よく勝利したものもあったが。ロシアがあと何年か続ける気だったら、かの有名な革命家が帰国しなければ、ニホン国は負けていたかもしれないのに」

「ですが、ニホンは勝ちました。というより実際は引き分けともいえる講和であったのを時の政府と民衆は大勝利とした。その流れですっかり天狗になった民衆、軍部は冷静な政治家、知識人の意見も聞かず大戦に突入してボロボロに負けたのです。第一戦争中行われたこと自体がひどく病んだ精神状態を物語っています」

「物資などの補給を無視した南アジアでの作戦、兵士だけでなく住民にまで餓死者が及んだという。よく考えてみればニホンと南アジアではとれる食物も違うというのに。さらに現地女性のみならず、占領下にあった隣国の女性たちに卑劣な行為を行い、挙句の果てに意味のない特攻に、軍が市民を盾にして撤退という前代未聞のオキナワ戦か」

「マンシューでは軍が逃げたため、開拓民は命からがら、若い女性を敵国の兵士に差し出すという本末転倒なことまでやって逃げ延びたのです。そんな屈辱的な負け方をして、ニホン国民、特に男性のプライドはズタズタです」

「自業自得だろう。自分が偉いと思い込んでいたが、実際は母親の着物の裾に隠れて強がっていた子供に過ぎなかったわけだから。そしていざ自分が攻撃を受けそうになると女、子供を盾にして自分は助かったわけだ。こんな男どもに利用された女性たちには同情するがね、それだって男どもを甘やかしたせいだろう」

過去の戦争で大被害を被ったチュウゴク代表の言葉は容赦がない。しかし、ジュウヤクはそれに構わず続ける。

「とにかくプライドがマイナスまで落ちた旧ニホン帝国、特にその政府関係者の大部分が敵国であったアメリカとの交渉により死刑を免れました。彼らは何年か経ったのちに、まんまと新しいニホン政府に潜りこむ、いや堂々と政治家に返り咲きニホンのまやかしの復興を鼓舞したのです」

「まやかしとは?」

「ニホン国民の身体的、精神的健康を犠牲にした経済成長です。負けたのは資本がなかったせい、金のせい。自分の浅はかな作戦の失敗を顧みず、陸軍と海軍の意味のないいがみ合いを続けて無謀に戦争を拡大したことも忘れ、ニホンの資本力不足で敗戦を招いたと思い込んだのです。資料をすべて焼き払って検証不可能にし、都合の悪いことをすべて記憶から排除した」

「確かに、あったことを忘れようとする健忘症は耐えられないショッキングな出来事のためにおこるというが、旧ニホン帝国の関係者は自らその状態になったということか」

「その通りです。政府関係者だけではありません、政府を支持した知識人、新聞などのメディア、そして国民もです。敗戦を終戦と言いかえ、敵国であったアメリカに従って経済復興への道を邁進した。もちろん、それらに疑問をもつものもいた。またアメリカの標榜する民主主義に心から賛同し、旧ニホン帝国をはっきり否定するものもいました。しかし…」

「経済成長が成功したことで、ニホン国は再び世界の舞台に返り咲いた。そのことが悪いというのかね」

「悪いというか、早すぎました。ニホン国民の生活は急激に変化しました。大家族や近隣で仕事や育児、介護も相互扶助という形から、父親は労働者として会社に拘束され、母親は父親が抜けた穴を補う。年老いた両親や親族を故郷に残し、友人・知人もロクにいない都市労働者となることを政府自ら推奨しました」

「いわゆるサラリーマンというやつか。そうか、一日中仕事をしているのも同然の長距離通勤だの、ウサギ小屋的持ち家にこだわったりしたのはニホンの歴史では最近だな」

「新築のマイホーム信仰はいわゆるゼネコンを潤すためでもあるのでしょうが、会社勤めにしばりつけるためにローンを組ませるためというのもあるかもしれません。簡単に会社を辞められませんし、銀行も楽に儲かる」

「はあ、ニホンの銀行マンとやらと話がかみ合わないとおもったら、そういうことか。顧客を調査して融資する場合は我々よりないのか。そういえば保険会社もライフスタイル提案というより縁故知り合いで契約を取るという話だな。性行為を代償に保険契約をとるというおぞましいこともあるようだが」

「残念ながら売春ともいえる行為で男性から契約をとるという男尊女卑的行いが横行しているのは事実です。いまだ封建主義的悪しき慣習が残っているのです。そうです、ニホン人の考え方は本来ムラ社会と呼ばれるものに近いのです、それを無理に欧米資本主義、民主主義国家に合わせようとしたのです。エドエイジからの近代化も突貫と言えるものでしたが、大戦直後はさらに酷い。なにしろテキストの都合の悪い部分を塗りつぶして新しいことを書き込めばいいというものでしたから」

「国民が民主国家とは何か、資本主義とは何か、わからず真似をしただけということか。しかしながら成功したし、他のアジア諸国も欧米の民主主義とまったく同じとはいえないのでは?」

と発言するブラジル代表。

「しかしながら、ニホンと異なり欧米との差異を考慮しつつ、国際社会の一員としてどうあるべきかを模索している国がほとんどです。欧米的価値観と自国の伝統的価値観とどう折り合いをつけるか、また欧米的価値観の欠点を乗り越えた新たな価値観を創設しようとする国もある。しかしニホン国は違います。欧米的価値観と同じと思いつつ実は全く違う言動をしているという病にかかっています。そしてそれは高度経済成長とバブル崩壊後に症状が悪化しました。抑えられていた病が表に出たのです」

「病とは?君のいっていたニホンスゴイネ病かね、このページにはまだでてきてないようだが。慢性の睡眠不足や家族関係の悪化や生活習慣病が蔓延したことは書いてあるが」

「経済成長のため休暇も惜しんで働いたため、ニホン人男性の大半が睡眠不足になりました。また過度のデスクワークのために運動不足、さらに家族との時間が取れずストレスで飲酒」

「このハズバンド・シンドロームとかいうのは何だね、一体」

「ニホンでは夫源病とよばれるものです。欧米、いや世界でもまれにみるニホン特有の病なのでニホン語でもよいのかもしれません。夫が傍にいることにより妻の心身の健康が悪化する病です」

「なんですって、ニホン国の婚姻制度は男女平等であり、家や身分に縛られないでしょう」

とインド代表が驚く。

「結婚当初は一応自らの意志で婚姻したのですが、夫は仕事中心で家には寝るだけ、休日も寝るか一人で趣味に没頭、“フロ、メシ、ネル”の三語しか夫婦での会話がないなど、極端なコミュニケーション不足に陥った夫婦が、夫の退職後、ほとんど一緒に過ごさなければならないことにより妻が不調をきたすことがありまして」

「リタイアしたら夫婦一緒にどこか行くとか、庭いじりを楽しむとかはないのかね」

イギリス代表がいぶかしむ。

「夫のほうで妻と一緒に何かを行うのに意欲的ということもありますが、妻は夫以外の地域社会での人間関係のほうが重要となっており、すでに夫は精神的に不要となっているという哀しむべき事態があるのです。夫と話すどころか、家に一緒に居ること自体が不快だと。逆に夫の方が趣味に夢中になり妻を顧みないということもありますが」

「なんということだ、それでは夫婦でいる意味がないではないか、なぜ離婚しないのだ」

フランス代表が疑問を呈した。

「ニホンの制度のせいです。女性が自活できるほどの資産を形成することができないです。国の援助も不十分です。男性を過度に会社に依存する労働者とするために、家事、育児、介護、地域社会とのかかわりのすべて女性に負わせた。そのため女性は賃金労働から除外され自分の資産をつくるどころか金銭的に自立するのも難しいのです。あらたに労働市場に参入しようとしてもスキルがないか、役立つスキルを身に着ける場所があまりないのです。また女性の賃金は一般に低く抑えられ、シングルマザーでも満足な支援はうけられません」

「はあ、少子化とかいいながらシングルマザーは認めないか、なぜなのだね」

事実婚だろうがなんだろうが、母親援助を怠らないフランス代表はわけがわからないという風にさらに突っ込む。

「男性の地位が低下するとの恐れでしょう、というより妻に見捨てられるという恐怖心があるようですね。試験的なメンタルテストを行った結果ですが」

「は?ニホン男性にはそんなに魅力がないのかね?女性を惹きつけるのは金だけ?それではATMと言われるのも道理ではないか」

「はっきり言えばそうですね、全員ではない、ですが」

フランス代表の身も蓋もない発言にさらに追い打ちをかけるように同意をするジュウヤク。

「だいぶ話がそれましたが、家族基本単位である夫婦間でさえこの有様です。家族間のコミュニケーション不足は深刻。さらに会社中心の生活を長年送ってきたため、それ以外の人間関係が極端に少ないニホン男性は少なくなく、それがネット依存やネット関連の詐欺に騙される、家に閉じこもり運動不足やバランスの悪い食生活など心身の不健康を招いています」

「医療費の増大はそのせいもあるのか。つまりニホンは経済を発展させるために国民の心身を犠牲にしたと言いたいのかね、ジュウヤクさん」

「その通りです。ニホンの急激な経済成長はニホン人の身体的健康やメンタル、家族や地域間のコミュニケーションを犠牲にしたものです。さらに悪いことに子供たち、未来を担う若者にまで悪影響を及ぼしています」

「家庭や地域のつながりがおかしくなれば、そこに生まれる子供たちがおかしくなるのも当たり前だろう。本来夫にむける愛情を子供にむける過保護母も多いと、この報告書にもある。異性との付き合いがわからず、性犯罪に走る男性、成人女性と交際できず未成年どころか幼児をレイプするという憎むべき犯罪も少なくなく、加害者に対し甘い傾向とは、先進国とは思えないな。母親が過度に子供をかまうなど成長の阻害や、育児がわからず虐待に走る父親もいるということだし。ニュージーランドでもそういったことはあるが、ニホンは先進国にしては極端だということか」

「それもありますが、他にも若者に悪影響をおよぼしていることがあります。ニホンの経済成長が鈍化した後も、発展を無理につづけようとし低賃金長時間労働をニホンの若者や技能実習に名を借りた若い外国人労働者に強いたのです。当然のことですが彼らは精神的にも肉体的にも疲弊しました。現在のニホンの若者は思考能力が衰えたメンタル的なゾンビ状態ともいえます、まるで家畜です」

「シャチクとかコクチクという奴ですね。モノを考えない人間が増えた。私の子供たちもニホンの官僚の子供たちと話そうとしても、会話にならない、ロクに世界のことも知らないしといってました。一般庶民だけでなく申し分ない教養を身に着けたはずの官僚の子供たちでさえそうとは恐ろしいことですね」

「そう、恐ろしいことです。経済発展に固執するあまり、基礎的な知識や教養を身に着けることを疎かにした結果、ニホンの知力は確実に衰退しています。みせかけの繁栄を保つために若者、女性や外国人という弱者が犠牲となり、すぐ役にたたない知的教育への資金をどんどん削った。そのため彼らは人間が生きていくために必要な知識、心と体の知識すらロクに知らないのです。体や心についての無知がさらに病を引き起こしています」

「それが君の言うニホンスゴイネ病かね」

「違います、説明が長くなりまして申し訳ないのですが、もう少し続けさせてください。ニホンの課題は山のようにあります。今まで申し上げた停滞した経済のほかに、皆さんご存知のように各種事故災害による深刻な国土の汚染、財政の悪化、少子高齢化、家族間のコミュニケーション不足による病、犯罪などなど。しかしニホン政府や財界、マスコミ、与党に賛同する国民は解決に尽力するどころか、それらの問題から目を背けるため“ニホン最高、ニホン一番”と思い込もうとしました、それが“ニホンスゴイネ病”です」

「やたらニホンの技術だの、建物だのをもちあげる番組が増えたということかね。国際的イベントを誘致するのに熱心だ。そういったことをすることでニホンはすごい国なのだから問題はない、あったとしても取り組めばすぐ解決できるはず、と思い込もうとしたのか」

「それだけでなく、近年みられる周辺諸国を貶める発言を政治家や知識人するということもです。おそらくアジア諸国の経済的台頭がニホンの地位を脅かすと考えたのでしょう。ニホンがアジア唯一の資本主義大国であったことが彼らのプライドのもとであり、ニホンにはスゴイ、解決しなければならない重大な問題などないという根拠です。謝った根拠ではありますが、彼らはそう信じている。その謝った思い込みを訂正しかねない、近隣国の経済発展が許せなかったのでしょう」

「そういえば隣国やチュウゴクを敵視する市民や政治家が極端に増えた、しかしそれなら自分自身を向上させればよいだろう。互いに切磋琢磨していけば双方に利益になりうるし、問題解決の一助にもなるのはないかな」

とチュウゴク代表がクビをかしげる。

「前に申し上げた通り、ニホンはすでに身の丈以上に無理をして発展したのです。これ以上は現状維持でさえ困難です。女性や若者、移民といった力を借りれば、なんとか低調な経済発展は保てますが」

「ならばそれをすれば、ああそうか、ニホン男性、特に経済発展を享受してきた中高年男性の地位が相対的に下がるから積極的にやりたくないということか。国民全体、自分の子孫の将来を左右する問題の解決より自分のプライドを維持することが優先とは病んでいるな、確かに」

「そうです、彼らの病んだ自我が解決を妨げているのです。場当たり的で効果のない、言い訳じみた政策しか与党が提案せず、財界やマスコミでさえ追随したのはそのためです。しかも男性だけでなく、そういった自己像が肥大化した男性をおだてて経済援助をうけてきた女性もいるわけです。彼女らも猛反対している。さらに悪いことに自分より若者世代の生活が向上することを嫉妬する人もいる。国民の知的レベルが向上しにくいのはそういった事情もあります」

「なんという、ニホン人の精神状態は大丈夫か。子孫の繁栄を自ら邪魔するとは、我々人間、いや全生命が目指す方向と真逆をいっている」

「ですから深刻な病に陥っていると申し上げているのです。自分の自我さえ保てれば、子孫や家族、自分自身の生命でさえ犠牲にしかねないのです。正確に言いますと“ニホンスゴイネ病”は症状が深刻化してでてきたものです。また、トップの総理、官邸の面々の問題もあります」

「この資料によれば新型のプリオン病をわずらっているというが。思考力が落ち享楽的な行動に走り、被害妄想がひどくなるとか。各種不正や隠蔽はそのためかね」

「逆ですね、自分たちが偉いんだと現在の地位を死守するため、不正、隠蔽工作を行った副次的な負の副産物です。マスコミ、財界との癒着を深めるため、税金を湯水のように使った暴飲暴食が招いた結果です。さらに寝不足や運動不足、ネット依存といった状態で脳の老廃物を溜め込んでいます。二重の意味で脳細胞を痛めつけているのです」

「正常な精神とは程遠い。なるほど総理や閣僚、側近らのいうことが矛盾し、時に論理が破綻している理由がよくわかった。こんな重篤な病をかかえているとは。財界、マスコミと言った一種の権力機構でさえ、その状態では大変危ういということかニホン国は」

「彼らに賛同する知識人も同様の病にかかっています、総理らと何度も会食をしているので当然ですが。一部市民も同様の状態が見られます。ただし、これは先に述べた不要家族となった夫やキャリア命の女性などが会社を辞めた反動で心身ともに不健康になったのが原因とも考えられます。ニホン国、特にトーキョーで流通している高級焼き肉、総理らが食べた肉を彼らも食べている可能性があるので新型プリオン病を罹患している可能性もありますが。しかし、原因はともかく彼らが“ニホンスゴイネ病”にもかかっており、状態が悪化していることは事実です。更にこれがすすめば」

「先の大戦の屈辱を晴らすためにまた戦争をやりだす恐れがあるということか。異常な精神状態のままでは状況を冷静に分析できず、些細なことで怒りだし開戦の狼煙をあげかねない。しかしニホンの国力では、だいいちその、武器は」

アメリカ代表が語尾を濁す。

「まあロクな武器をもっていないというのは、アメリカの方はよくご存じですよね。しかし私が申し上げたいのはニホンが戦争をして勝てるかということではないのです。精神的な病のためにニホンが今危うい状態になりつつあり、カッコクレンの参加国がニホンに武力介入という強硬手段も辞さないと考えていること。逆に言えばこの病を治癒できれば、ニホンは健全な民主主義国家として再生でき、カッコクレン軍がニホンに攻め入る必要はなくなるということです」

「で、その治療というのはどうするのだね。確かに健康警察研究部門は数々の医療機器、薬品、治療法を発明し、カッコクレンの国々も多大なる恩恵を受けているが、総理らはともかく国全体のかかった病を治すことなど…」

「いえ、ニホン人の身の丈にあった国を作り直すこと、これが我々の考えた治療法です。では、次の資料をお読みください」

「何なに、タイトルは、新生ニホン健康国家連合の樹立案?“ニホンを県単位でわけた国家連合にする、中央政府は不在で各都道府県の代表らで構成した議会で外交や災害対応などを決定、他は各自治体の裁量にまかせる。首都をおかずに首長は各県が持ち回り”とは、なかなか画期的だな。ミニ国家をたくさんつくり、各国に自治をまかせ、全体としては連合国としてまとまって、国際社会と渡り合う。盆栽が発展したニホン人にふさわしいミニマムだが優れた国家形態かもしれんな」

「“エネルギー、食糧などの自給率を各自治体で60%確保”か。ニホンの気候と省エネなどの技術があれば実現は不可能ではないが、資金もいるだろう」

「わが健康警察が当面の間、主導しますので、資金面も。今回の議題ではないですが、先ごろ、重度性犯罪再犯者の治療法に画期的な発見がありまして」

「また、資金をもぎ取る気ね、ジュウヤクさん。あなた方の研究があれば資金面の問題もないでしょうけど、肝心のニホン国民はどう考えているのかしら」

「その点はすでに協議済みです、インド代表」

ジュウヤクはスマートフォンに届いたメールをちらっとみた。

“協議終了、予想通り二つを除きほぼ賛成、我らトーキョーに向かいつつあり、ヨウジョウより”

素早くメールを読んだジュウヤクは自信をもって新たな国家連合についての説明を続けた。


健康管理社会、健康警察シリーズも終盤に入りまして、残すところあと一話+オマケ二話の予定となっております。

 これはどうなった、説明しろなどのご要望がございましたら、お早めに感想欄にておもうしでください。

(ターンからいくと最終話八月中頃以降、オマケは九月ごろになる予定です)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 昔、ビートルズの〝When I'm sixty-four〞を読んでこういう老後いいなと思ったことがありますが、現実はなかなか厳しいようですね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ