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セカンド・ワールド  作者: ここなっと
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証明

コナンが自分の中にある2年間のヒントを探します

「アリス、今大丈夫か?」


魔物討伐から帰ると、中庭で串焼きを食べていたアリスを見つけたので俺は声をかける。こいつ、だいたいなんか食ってるんだが。よほど普通の食事に憧れていたのだろう。そのうち体重計の上で悲鳴を上げそうだが。


「ん、何?」


串焼きを飲み込んでからアリスが振り向く。


「お前、なんでフェイに俺を監視させるように指示出した?」


その一言にアリスはむせた。何度かせき込んだ後、そっぽを向く。


「なんのことかしら?」


「誤魔化すの、無理あるからな?確かに他の人から見れば、俺は不審な点が多いとは思うけど」


アリスが露骨に誤魔化し始めるので、俺はげんなりしつつ、アリスの懸念点を踏まえて踏み込む。その言葉にアリスはプルプルと震えだした。


「なんで監視対象から救いの手を差し出されなきゃならないんでしょうね………?」


アリスが怒りで震える。


「文句ならフェイに言え。もっとも、あの様子じゃまともに自分で判断することはないだろうけど。指示されたら、誰の命令でも聞いちまうだろうな」


本当に傀儡である。正直、手の施しようがない。人に対してはどんなにぶたれても文句の一つも言わないだろうし。


「ま、その件は別にいいよ。俺自身、自分の存在に疑問を覚えたところだ」


自分の本当の年齢、空白の2年。疑問を覚えない方がおかしい。そして、それを確認するための手法が一つ、思い浮かんでいる。持っていることはわかっていたのに、気にせずに使ってこなかったスキルが。


「アリスには俺の持つ、次元収納のスキルの中身の検分を協力してもらいたい。俺じゃ、何がなんだかわからんものが入ってる可能性がある」


「は?何言ってんの?次元収納内の検分なら協力してもいいけど、自分で知らないものが入ってるわけないじゃない」


俺の依頼にアリスが疑念の目を向けてくる。アリスは俺の年齢の異常について気付いているわけじゃなさそうだ。


「さっきガイアに指摘されたんだけど、俺の記憶にある年齢と実年齢が2年ほどずれているんだ。空白の2年があって、その間の記憶が全くない。アリスが俺に疑問を抱くのも、そこから来てるのかもしれない」


例えば刀。俺は何気なく練習で振っていたが、考えてみれば素人であそこまで振れるわけがない。記憶はなくてもスキルに、体に身についたものだったのだろう。


「ははあ、2年分の記憶がない、ね。そりゃおかしいね」


アリスが興味を持ったように近づいてくる。俺は頷き、次元収納内に入っているアイテム一覧を他人にも見せる魔法、リストを使用した。――うん、なんでこんな魔法知ってんだろ。


「どれどれ」


この魔法自体は別に珍しくもないのか、何の疑問も抱かずアリスがリストを覗く。そして絶句した。俺もその中身に驚愕した。


まず一番に目に入るのが、容積オーバーという文字。おそらくこれは、俺のレベルが下がったことが原因と考える。上がってたことすら知らなかったが、もし本当に別世界にいたのなら、今以上にレベルが上がっていたとしても不思議じゃない。その次に目に入るのが、大量に入れられたアイテムである。当然、俺は身に覚えがない。第一、フルポーションやエリクサーといったゲームなら終盤じゃないと手に入らないような、超レアアイテムが入ってる時点でおかしい。武具もだ。名前からして尋常じゃない武器がいくつも眠っている。しかも刀だけじゃない。弓矢や杖、戦槌などが入っている。さらに魔物の素材、と思しきものまで眠っている。防具も大量で、マジックアイテムと思しきものも含まれている。


止めとして入っているが。


「………なんで女性服?しかも下着まで入ってるし」


「………俺に聞くな」


これである。想定の左斜め上を行くアイテムである。男性服も入っているが、これはまあいい。自分用だろう。今ここで次元収納を開くと、容積オーバー分のアイテムまで一緒に吐き出される可能性が高いので、それらを確認することは出来ないが。


けどこれでほぼ確定だろう。俺の記憶にある世界だけじゃなく、別の世界にもいたのだ。その影響でこれほどのアイテムが次元収納に眠っている。女性服はまあ、その時一緒に冒険した仲間の物、だとしよう。俺がただの荷物持ちだった可能性もあるし。


「しかしこれほどの物を詰めてるとか、どんだけレベル高かったのよ。私も見たことがないようなアイテムが入ってるし。容積オーバーじゃなかったら出してもらうところよ。とりあえずこれらのアイテムをぶちまけても平気なスペースを借りるわよ。検分はそれからね」


アリスが指を鳴らす。するとアリスの姿が消えた。やっぱり転移が出来るのか。後で教わろう。


「私たちが召喚された講堂を借りられたわ。ガイアも検分に立ち会うみたいだけど」


すぐにアリスが帰ってきて、場所を借りた旨を伝えてくる。それから再度指を鳴らし、俺ごと講堂へ転移した。


「まさか異世界のアイテムまで持ち込んでいたとは。嬉しい誤算だな」


講堂ではホクホク顔のガイアと、興味深そうに俺を見ているシャネルの姿があった。その手には例の激マズ秘薬が握られていた。貰ったらしい。


「俺だって好きでもってたわけじゃないわ。とりあえず出すぞ」


顔を顰めつつ、俺は次元収納を開く。途端、入りきらなかったアイテム群が一気に吐き出された。その勢いに、近くにいたアリスが流されていった。


「ちょ、殺す気!?」


山となったアイテム群の中からアリスが顔を出す。


「悪い、ミスった。つーか、マジで多い………」


俺はげんなりとしてその山を見る。1000点くらい、アイテムがありそうだ。その上、消耗品と思しきアイテムだけはまだ次元収納の中だ。ほとんどが素材なので、それはガイアに譲り渡して資金を貰えばいいだろう。


「異世界の素材か………。こいつは扱い用がねえな。用途がわからん上、加工する技術がない。仮に確立したとしても、もうその素材が手に入らん」


ガイアが適当な動物の皮を持ち上げる。売れそうにもなかった。


「となると、金になりそうなのは魔道具ね。もしくば武器」


シャネルが山を崩しにかかる。てかなんで勝手に参加してんだ。


「これとかすごい業物みたい――うげっ」


すぐに一本の刀を持ち上げようとし、その重さに扱けた。顔を真っ赤にして持ち上げるが、置いた方がいいだろう。


「これ、設計ミスでしょ………!重すぎるんですけど!」


「変なもんも入ってるんだなあ」


俺はその刀を持つ。………全然重くない。かなり力に差があるようだ。


『レギン・ゲイス  刀

使用者を選ぶ魔剣の一つ。炎の力を宿し、操る。使用者以外では持つことが出来ない。

現在の使用者:新山 琥南』


………刀の特性だった。しかも魔剣って。それと、この刀はかなり使い込まれている。好んで使っていた武器なのかもしれない。手にも恐ろしいくらいに馴染んだ。


「魔剣だと。火を操る魔剣。なんかしっくり来るし、だいぶ使い込まれているみたいだ。ちょうどいいし、護身用にこれは持っておくわ」


俺は今腰に差していた刀を抜き、代わりにレギン・ゲイスを鞘ごとホルスターに差し込む。念のため引き抜いてみると、赤みかかった刀身が姿を現す。問題なさそうだ。


「上位の魔剣だな、それは。同等の武器はなかなか見つからないぞ」


ガイアが剣を見てくる。


「………そのはずなんだかなあ、なんでその手の魔剣がゴロゴロしてんだよ、コナンの次元収納の中には」


それから呆れたように周囲に散らばった剣を見る。ガイアから見てどれも上位の装備なのだろう。俺は適当に別の刀を持つ。これは非常に重く、とても持てるものじゃなかった。自分で使うから持っていた、というわけでもないようだ。第一弓とかも混じってるし。これはマジで使えないだろう。


「ほんと、いったいなんでこんなものが入っているのよ」


アリスが別の道具を持ち上げる。ペンダントの形をしていた。武器などではないだろう。


「それは?」


「避〇具」


………見なかったことにしよう。つーか、なんでペンダントなのに避〇具?それになんでそんなもんが入ってるんだよ。


「こっちはコナンが使うリフレクションを付与した防具か………。コナンが付与したのか?」


ガイアが盾を持ち上げる。軽そうな盾だ。リフレクションが乗ってる盾なら重量なんて関係ないからだろう。


「………ねえ、なんでこんなとんでもないもんが大量に入ってんの?」


ほとんど検分をしていないが、とんでもない武器や防具、アイテムが大量に入っているのがすでに分かった。もちろん、俺は何も覚えていない。


「さてね。一個人に与えるようなものじゃない物も入ってるし。これなんか、特にヤバい」


アリスが何かを指さす。三人でその指さした先を見ると、一本の折れた刀があった。


「折れた憎悪の刀。力のほとんどを失ってるみたいだけど、それでも持っただけでまともな人間じゃ精神が壊れる。それだけ濃い憎悪が込められてる。もしこれが正常な状態なら、近くにいるだけで狂い死ぬ人が出るかも」


「うげっ、なんでそんな物騒なもんが入ってるんだよ」


思わず俺はその剣から離れる。


「次元収納の中に封印してたんじゃない?衝撃で一緒に飛び出てきちゃったけど。今のコナンじゃ手に負えないだろうし、これは私が管理しとくわ」


アリスがその剣に手を伸ばす。次の瞬間、その剣は姿を消した。


「アリスも次元収納使えるのか?」


「使えないわよ。これは魔力変換の応用。自分の魔力で別空間を作ってその中に保存してるの。魔力をそれなりに扱えれば誰にでもできることよ」


アリスが手を動かす。その動きに沿って、大量の魔力が動くのを感じた。


「私は生粋の魔術師だからね。このくらいのことは出来て当然。出来なくちゃ魔術師は名乗れない」


「なかなかいないけどね、次元収納の真似事が出来る魔術師は」


アリスが当然、と口に出すとシャネルが肩を竦める。かなり高度な術式のようだ。


「あら、そうなの?私のいたところでは空間収納が出来てようやく一人前よ?」


シャネルの言葉にアリスは首を傾げる。


「世界が異なるから認識が異なってることもある。コナンを見てみろ。俺たちとは根本的な認識が異なっているぞ」


アリスとシャネルの言葉にガイアが割り込む。何故か俺が引き合いに出されていた。確かに俺は異常なんだけど。


「そうね。今までの常識はないものとした方がよさそう。私だってもしかしたらずれているのかもしれないし」


ガイアの言葉にアリスは頷く。


「まあな。アリスの魔力の操作技術ははっきり言ってこの世界の基準よりはるかに高い。ヴァンパイアってのもあるだろうが、それにしたってレベルが高い」


「私から見ても、今の操作技術は異常ね。あ、私はシャネル、エルフよ。よろしく」


ガイアがアリスの魔力操作技術を褒め、シャネルも褒める。アリスはシャネルの自己紹介に応じて、自分も名乗った。


「それとコナン、これ貰ってもいい?」


それからシャネルが目の色を変えて何かを突き出してきた。その手に握られているのは、かなり緻密な装飾が施された、高そうなネックレスだった。


「………マジックアイテム、じゃないわね。状態保存の魔法がかかってるくらいで隠蔽もされてない。高そうだけど」


アリスがそのネックレスに何の秘密がないのを即座に見破る。


「そりゃそうよ!高く売れそうだから貰うの!」


シャネルの目が$マークに見えた。こいつ、守銭奴か。つーか、せめて隠せ。


「そんな目的じゃ譲れねえよ。返せ」


俺はシャネルからネックレスを奪い取る。ケチ、と睨まれた。むしろなんで貰えると思った。


「とりあえず、これらの魔道具は検分を兼ねて国で預かってもいいか?何か新しい発見や技術が見つかるかもしれん。必要なものがあれば好きに持って行って構わん。所有権はコナンにあるからな」


ガイアがありがたい提案をしてくれる。一部持ち逃げされるかもしれないが、大切そうな物は今のうちに次元収納内に戻してしまえばいいのだ。何がなんだかわからないので、選ぶ必要もなさそうだが。少なくとも刀は一本、押さえた。


「助かる。何かわかったら俺にも教えてくれ」


「あ、コナン、あの剣を預かる代わりにこれ、貰っていい?」


今度はアリスから物乞いが来た。シャネルと違い、断りにくさもある。提示してきたものは、リフレクションを付与された軽量盾。


「どうにも近接戦は苦手なんで、これあるとないとじゃだいぶ違いそうなのよ。物理攻撃を完全に無効化出来るとか、私にとって理想の防具よ」


「まあ、そういうことなら」


アリスが提示してきたものは、俺にとって不要なものだ。別に渡してしまっても問題ないだろう。魔法は強いが、物理攻撃には弱いアリスの戦力強化にはもってこいな装備でもある。アリスが強くなるのなら、俺が前線に出る可能性も低くなる。


「ガイア、これらの装備で異世界組の戦力を強化できるなら、使えそうなに装備を融通してくれ。あ、でも意地の悪い鎧男とドワーフ、ダークエルフには融通しなくていい」


フェイを虐めていたあの三人組である。


「いいのか?これほどの装備、かなりの戦力強化になるぞ?こちらとしたらありがたいが………」


「いいって。もともと知らんかったもんだし。その代わり、あんまり俺を前線に立たせないでくれ」


俺のその言葉にガイアは苦笑した。


「お前は相変わらずだな。だが、約束はしかねるぞ。それほどまでにお前のユニークスキルは強力なんだ。どうやってか防具に付与することもできるみたいだが、その技術は覚えてないんだろ?ならそれ持ったアリスかお前が前に立つしかない」


「ちょっと、魔術師に盾役は無理よ。というかチーム組むの?それならこれ、そんなに必要ないんだけど?」


アリスが盾を振る。確かに他の盾役がいるなら必要なさそうである。


「アリスはそれを持っておけ。俺が見ている限り、今回の召喚でお前が一番強い。次点でドラコだ。レベルの問題もあるだろうが、下地が違いすぎる。失うわけにはいかない」


「あ、そう。じゃ、遠慮なく」


ガイアがアリスに貴重なリフレクション盾を持たせる許可を出すと、アリスは空間収納にそれを仕舞った。


「ちなみにシャネルにも例の薬渡したのよね?」


「貰ったね。すごくまずかった」


シャネルが嫌そうな顔をした。確かにあれは非常にまずい。


「それなりに見込みがあったからな。戦闘能力なら4番目か5番目だろう。後はフェイの戦闘能力も高いが、あれはまた別格だろう。もう一本、今回分の奴が残っているが、そいつは誰に渡すか決めかねている」


ガイアが頷く。フェイに渡すつもりはないようだ。確かにあの性格をどうにかしない限り、渡したいとは思えない。


「そういう差別はよくないと思うけど………。ちなみにコナンはどうなのよ?」


「性格の問題だ。コナンは不確定要素。俺じゃ計りきれん。下手したらアリス以上かもしれないし、呼ばれた中で最弱かもしれん」


アリスとガイアがフェイト俺の事で口論を始める。つーか、俺は本当にわかってないのね。俺自身、証明されてしまった空白の2年がある時点で、自分のことなんてなんもわかってないんだろうけど。その事実に深く、息を吐いた。

コナンの実際の実力は………?

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