懸念
今回はコナン視点ではありません。また、GW中は毎日更新予定です
「ちょっといい?」
「はい」
私は後ろを従順な犬のようについてきていたフェイに声をかける。この子、生まれた時からの奴隷身分の子ね。そうでなければ、こんな風に従順な奴隷にはならない。反抗心が芽生えるためだ。そのため、この子を本質的に変えていくには不可能に近い。完全に人格構成がされてしまっているから。
「コナンに何かされなかった?」
「いえ、何もされていません」
私も質問にその子は即座に答える。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
「あなたの名前は?」
「フェイです」
「フェイ、今のうちに言っておくけど、あんまりコナンを信用しない方がいいわよ」
私の言葉にフェイは首を傾げる。
「優しい方だと思うのですが………」
「そうね。私もそれは否定しない。今のところ、しっぽを掴ませそうにないし」
フェイの言葉に私は頷く。今のところ、怪しいところはない。魔法に関する知識が完全に抜け落ちているくらいで。その抜け落ちている知識を別の、異質な知識で補ってはいるが。いや、むしろその知識があまりにも規格外すぎて、それが主力となってしまっている。
「しっぽ、ですか?」
フェイがしっぽをゆらゆら揺らす。それじゃない。
「本性って意味よ。気づいてる?」
私は声をひそめる。
「国王の説明だと私たちは全員で30人。これは絶対よ」
「そうなんですか?」
私の言葉にフェイは首を傾げる。そこからか、と私は躓く。
「これは大前提よ。覆ることはない」
私はビシッとフェイを指差す。
「なのに私たちは31人いる。1人多い」
「そうなんですか?」
私の言葉にフェイは無感動に驚く。なにかがずれている気がしなくもないが、私は頷く。
「そう。そのあぶれた1人は何者?なんの目的で、私たちの中に潜り込んだの?第一、どうやってユニークスキルを隠しているの?」
「目的、ですか?」
フェイが私の言葉に首を傾げる。
「そう。異世界の人物になりすます目的。それを成すことで得るモノは何?単純に私たちの監視役としてならいい。けど、そんな素振りは見られない。なんのために私たちに潜り込んでいるのか」
私は人差し指を立てる。
「この1人は敵か味方かもわからない。警戒はしておくべきよ。特に変わってる人は監視していた方がいい」
「わかりました」
私の言葉にフェイが頷く。
「優しくされたから、いい人だと思うから、と思わせるのは相手を騙す上での常套手段よ。特にあなたは騙されやすそうだから警戒しておいて損はないわよ」
「かしこまりました」
フェイが私に深く頭を下げる。本当にわかってるのかなあ。なんか素直に話を聞きすぎている気がする。
「何か質問とかある?」
「いえ、疑問を持つ、という恐れ多いことはしません」
私の問いにフェイはそんなことを返してくる。思わずその場に足を取られる。まさか根本的なところでずれていた。
「考えることを止めちゃダメよ。これは私たちが人でいる証拠。モノじゃないんだから、自分で何をするべきなのかを考えなきゃ」
「はあ」
私がフェイを諭すと、フェイは首を傾げる。ここまでずれていると、逆に何を言えばいいのかがわからなくなってくる。
「なかなか難しいわね」
ここまでずれていると、何かを教えるのは非常に難しい。まずは性格的な部分を改善していく必要があるからだ。何度か教師まがいのことはしたことがあったけど、相手にしていたのは学ぶ意欲のある相手だけだ。このように学ぶこと自体を放棄している人を相手にしたことはない。想像以上の難敵だ。
「参ったな」
これじゃ、何も教えることが出来ない。言いつけることは出来るだろうが、それだけだ。
「とりあえず、まずは男性陣を信用しない。これは絶対として、覚えておいて」
「かしこまりました」
私の言葉にフェイは頷く。ただこれ、そう言っても守らなさそうだなあ。その場その場の内容に応じてしまいそうで。
「それと、コナン――さっきの男性の行動に、不審な点があったら教えて」
だから私は、フェイにいったんの行動を指定しておく。さすがに監視対象に対して秘密をばらすようなことはしない、はずだ。
「かしこまりました」
機械のようにフェイは同じ言葉を繰り返す。それとこのお願いはもう一点、フェイに対する教育も兼ねている。不審な点、というのは自分で考えないとまず見つからない。なかなかいい指示だろう。
もっとも、この指示も後に、間違っていたことに気付いたのだが。
疑われるコナン………