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セカンド・ワールド  作者: ここなっと
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自分の正体に思い悩むコナン。そこにドラコが現れて………?

「うーん………」


ガイアに大量の装備を提供した翌日、俺は訓練場で唸っている。昨日判明した、自分の出身の謎を考えるためだ。別に訓練場に来る意味はない。与えられた自室より、誰かに会う可能性が高いからだ。


「あん、コナンはなんでここにいるんだ?」


実際、長考しているとドラコがやってきた。こいつの場合、訓練しに来たのだろう。竜人としての高い身体能力に頼り切らず、努力を怠らないタイプだ。口や態度は悪いが、周りを心配する器量もある。ガイアの見立てでは、実力はアリスに及ばないそうだが、勇者として考えると一番の適任である。


「考え事。俺が何者なのか、っていう」


「余計にわけがわからねえぞ」


俺の言葉にドラコが怪訝な顔をする。


「いやね、どうやら俺には2年間、こことも生まれ故郷とも異なる世界にいたみたいなのよ。その間の記憶が完全に吹っ飛んでるけど」


「それがどうかしたのか?たいした問題じゃないだろ?」


俺の悩みにドラコが問題あるか?的なことを言ってくれた。うん、こいつ、ノーキン派閥だったわ。相談する相手間違えた。


「問題あるだろ。つーか、問題しかねえよ。何も覚えてないんだぞ。自分が何者なのかもわからない。不安でしかねえよ」


「コナンはコナンだろ。お前は頭いいから考えすぎてるだけだ。そもそも2年前のことなんて俺も覚えてねえよ。それと同じだろ」


俺の不安を他所に、ドラコがそんなことを言ってくる。うん、なんかこいつみたいにシンプルに考えられたら、どれだけ楽なのだろう。俺にそんな真似は出来ない。現代っ子だし。


「ただの忘却と同じにすんなよ。俺は何も覚えてないんだ。不安になる。そのシンプルさは羨ましいけどな」


ふう、と俺は壁に寄り掛かる。考えすぎても仕方のないことなもかもしれないが、考えずにはいられない。何故俺は2回も世界を渡ったのか。覚えていない2年間、何をしていたのか。しかもこの2年間、俺は相当に体を鍛えていたみたいだ。もやしだったはずの体には、しっかりとした筋肉がついていた。だから特訓しても筋肉痛にならなかったのだろう。


「それよりも見てくれ、この剣!すげえ魔剣だぞ!斬った相手の傷を増幅されるっていう化物じみた能力が付与されてやがる!」


ドラコが目を輝かせながら、昨日俺の次元収納から飛び出してきた魔剣を自慢してきた。そんな物騒なもんも入っていたのか、と俺は驚く。


「ガイアがくれたんだ!コナンも行けば何か貰えるかもしれないぞ!」


「………いや、ガイアが配ってる武器、俺が提供したものだし。それにこいつがある」


ガイアの言葉に俺は苦笑して返す。それから昨日提供しなかった一本の刀を見せた。


「あんだよ、コナンが提供したものだったのか。それでその剣は………なんつーか、他の武具に比べたら見劣りしそうだな。十分強力な武器なんだが………」


ドラコが俺の武器を見て唸る。なんつーか、火を操る魔剣が見劣りするような武器群の方が恐ろしいんだが。どんだけとんでも武器の宝庫になってたんだよ、俺の次元収納。


「あ、いたいた。コナン、話があるんだけど」


今度はシャネルが姿を現し、俺に声をかけてくる。


「知り合いか?」


「昨日、実戦に駆り出された仲間だ。それで、シャネルは何の用?出せるもんはないぞ」


ドラコの質問に返しつつ、シャネルに牽制をしておく。


「それは求めてないよ。それより、アリスのことなんだけど、そいつも話聞いて平気?」


シャネルが俺の言葉を否定してから、アリスのことについて話を始める。


「別にいいんじゃね?犬猿の仲だけど」


「その言葉が何なのかはわからないけれど、いいのなら一緒に聞いて。昨日、アリスが私に31人目の異世界人の話をしてきたの」


シャネルのその言葉に俺は目を細める。31人いたのか、俺たちは。30人”くらい”とは聞いていたけれども。


「それが?」


俺はシャネルの言葉を促す。


「私たちは30人召喚されたはずよ。なのに31人いる。この1人はなんなの?って話。敵なのか、味方なのかもわからないあぶれた1人」


シャネルが召喚された人数が30人、という前提のもと話を進める。


「アリスはそのあぶれた1人としてコナンを危険視してる」


「妥当じゃね?」


シャネルがアリスの考えていることを伝えてくると、俺はそれを肯定する。その言葉にシャネルがその場でこける真似をした。


「い、いや妥当って………。自分の事でしょ?」


「だってそうだろ?2年分記憶がなく、とんでもない武器群を持ってた。さらにもともといた世界は、他の世界とはかけ離れ過ぎていて、作り話にしか思えない。そう考えれば、俺を疑うしかないだろ。つーか、俺も俺を疑うわ。呼ばれていないのに、何か別の事情で飛ばされたんじゃないかって」


「………」


俺の説明に、シャネルが半眼になる。


「で、シャネルはそんな話をしてきたアリスが怪しい、って思うんだろ?あいつヴァンパイアだし。俺に焦点を当てることで自分への警戒心を薄れさせようとしている、って」


「………話が早すぎるんだけど?なんでこれだけ聞いただけで、そこまで話を持っていけるのよ」


俺の推測に、シャネルが呆れる。正解なのだろう。


「くそっ、やっぱアリスは早いうちに潰しておく必要がある。犠牲者が出る前にな」


ドラコが自分の掌に拳を打ち付ける。


「潰すな。疑いがある、って話だ。しばらく様子を見ろ。疑いがある、ということで31人目と思える相手を潰して行ったら、誰も信じられなくなる。そうなったら、31人目の思う壺だ。それだけは避けろ」


ドラコがアリスを襲いかねないので、俺は先んじて釘をさしておく。もっとも、アリスに渡した盾の影響で、ドラコじゃまともにダメージを与えられないだろうが。


「一発でその31人目を潰せばいいんだろ?それがアリスだ」


うん、やっぱシンプルな思考回路はダメだ。どうやって説明しようか。


「可能性は31分の1。それを引き当てんのは無理だろ。勘で引くのは止めとけ。それこそ、31人目の思う壺だ。仲間内で同士討ちしてくれるんだからな」


31人目が敵だった場合、だが。本当に31人召喚された可能性も否定できないし、ガイアの意向を受けた内部監視役、って線もある。というより、内部監視役の可能性が一番高い。それなら無害であり、放っておくのが正解だ。


「けど、誰かが襲われてからじゃ遅いんだぞ!」


ドラコが叫ぶ。俺は呆れて首を横に振った。


「だからってお前が襲うのか?余計な被害が増えるだけだぞ。そもそも敵が本当にいるかもわからず、仮にいたとしても、俺たちを間引くのが目的とは限らない。実態のない相手と戦うのは得策とは思えないな」


俺の言葉にドラコが黙り込む。


「つまり、怪しい奴全員ぶっ飛ばせばいいのか?」


「何がどうなったらそんな結論に至るんだよ!?」


想像以上のバカっぷりに思わず叫んでしまう。


「もういい、ドラコ!お前は俺の指示を聞いてから戦え!お前を自由にやらせたら余計な被害が増えそうだ!」


「ああ?なんで俺がお前の指示を従う必要があるんだよ!俺を従わせたきゃ、力を示してみろ!」


俺がドラコを抑えようとすると、なぜかドラコがぶちぎれて剣を向けてきた。さすがに馬鹿すぎて呆れてくる。俺は軽く手招きし、ドラコを挑発した。額に怒りマークを浮かべたドラコはまっすぐに、俺に突っ込んできた。


「ちょ、なんであんたらが戦うのよ!?」


突然の展開にシャネルが驚き叫ぶ。俺はその声を無視し、ドラコの足元の摩擦を0にする魔法を使った。ついでに壁まで同様の魔法をかけておく。踏ん張りの効かなくなったドラコはスケート選手のように滑り出す。


「のわああああ!?」


ドラコはそのまま止まることなく壁に激突し、ひっくり返った。そして沈黙した。


「俺相手に力押しはバカのやることだ。リフレクションを使わなくても、な。俺の最大の武器は知識なんだし」


小手先の技なんざ、いくらでも思いつく。そんな相手に力押しが通用するはずがない。


「何、今の?地面滑ったんだけど………?」


恐れ戦いたようにシャネルが俺を見る。


「地面の摩擦をなくしただけ。摩擦なけりゃ止まれないからな」


「………ごめん、当たり前のように知らないこと解説しないで。何が言いたいのかまったくわからない」


シャネルが額を抑えて俺にわからない、と告げてきた。結構常識的な内容だと思うんだけどな。とりあえず俺の持つ知識だけはいろんな意味で、一線を画していることだけはわかった。


「………はあ」


俺はスマートフォンを取り出し、再度この中に何かしらの情報がないかを確認する。電波はないので、ネットの情報を漁ることは出来ない。電池切れたからもう使えない、と思っていたのだが、俺に空白の2年間があるとわかると、この世界の初日に何故動いたのか、という疑問が浮かんだのだ。それで調べてみたところ、改造されていることが判明した。自分の魔力で充電ができるようになっていたのだ。だから動いたし、再度魔力を込めることで動かすことが出来る。もっとも、データ領域にアクセスすることは出来なかったみたいで、中身は記憶にあるものと一緒なのだが。日付と時間は無茶苦茶になっていたけれど。日記くらい残ってないかなあ、と思ったが、それもない。時間に合わせて目覚ましが設定されているくらいだ。それ以上の用途はなかったのだろう。メモくらい残して欲しかった。そんなマメな性格じゃないから俺もやらないだろうけど。


「それは初日にドラコを脅してた道具よね?どんな道具なわけ?」


シャネルがスマートフォンを興味深そうに見る。


「ちょっと便利な光る板だよ。本来有している機能のほとんどを失ってるから、今じゃただの時計兼カメラ付メモ帳だけどな」


「何それ?時計兼メモ帳って………。って時計!?」


俺のすっごいざっくりとした説明に、シャネルが食いつく。俺からスマートフォンを奪い取り、画面を凝視する。


「読めない………」


そりゃ、俺の世界の文字だからな。


「返せ。どのみち個人設定してあるから俺以外使えねえし。時計もメモ帳も別に珍しいもんじゃない。型古いから容量もそんなないし」


メモくらいなら無尽蔵に近い容量あるけど、写真を保存するとなれば、心もとない容量である。この写真も、前にいた世界と思しきものは一切なかった。一枚くらい、残してると思ったんだけどな。


「いやいや、時計よ時計!時間を計れる道具って、とんでもない魔道具よ!?なのに何!?その無価値みたいな反応!?メモ帳も時計に比べたら価値はだいぶ下がるけど、紙は高級品だし、なかなか手に入るものじゃないよ!カメラはなんなのかわからないけど………」


シャネルが意味がわからない、と俺に訴えてくる。そういうものなのだろうか。


「別に大したもんじゃねえし。俺に言わせれば、時計も紙も、身の回りにありふれたものだったよ。カメラはまあ、こんなもん」


俺はスマートフォンを操作し、シャネルをカメラで撮る。それを画面に表示させ、見せた。


「………誰これ?」


………そう来たか。まともに鏡がなければ、自分の顔もわからないってことね。


「シャネルだよ。自分の顔くらい。覚えとけ。今カメラで撮ったんだ。まあ、一瞬で絵を描く装置だと思ってくれ」


「………はあ!?何それ!?コナン、あんたほんとに、どんな世界から来たのよ!?色々吹っ飛びすぎてて逆に信じられないんだけど!?でも目の前に現物あるし!?」


すんごいざっくりとした説明に、シャネルがまた叫ぶ。完全に理解が追い付いていないのだ。


「こんなのたいしたことないだろ。それにここじゃ、機能のほとんどが死んでるんだ。これだけでそんなに驚いてたら、俺のいた世界を知ったら腰が抜けるぞ」


「それだけで腰が抜けそうなのに、まだ用途があるの、それだけで!?あんたのいた世界、恐ろしすぎるんだけど!?」


シャネルが目を見開く。やっぱ俺のいた世界は、魔法世界として見たら異質なのね。


「行き過ぎた科学は魔法と変わらない――その言葉は真実だったってことね」


俺はポケットにスマートフォンを仕舞い、立ち上がる。シャネルの様子を見る限り、俺の知識はやはり、異常なのだろう。それこそ、世界そのものを覆しかねないほどに。


「………情報開示は慎重に行った方がよさそうだな」


絶句しているシャネルを横目に、俺はそれだけを呟いた。過剰に情報開示を行えば、何が起こるのかわからない。驚かれるだけならいいが、俺を巡って戦争が起こる可能性も否定できないのだ。それだけは避けなければならない。そもそも他の国があるのかすらわからないけれど。

一切役に立たないドラコでした

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