知らない天井
新作です。私の事知らないと思いますが(汗)
時にギャグに、時にシリアスにストーリー展開をしていきます。更新ペースは1週間を目途にやっていく予定です。
「う………」
俺は意識の浮上と共に、目を開ける。そこには知らない天井が広がっていた。
「知らない天井だ………」
とりあえずテンプレートを呟くことにした。
「って、マジで知らねえし!?」
それから慌てて飛び起きる。
「あだっ」
「あぐっ」
そして何かと額をぶつける。
「いつつ………」
額を摩り、俺は何とぶつかったのかを確認する。
「いきなり体起こすなよ………」
そこには俺と同様に、額を摩っている一人の男性がいた。肌は浅黒く、頭頂部から角が生えていた。さらに背中にはごつごつとした翼が生えている。
――うん、コスプレか何かかな?
異様な姿に俺はそう推測する。そう推測するしかない。こんな人種、聞いたことがない。それはつまり、コスプレか特殊メイクをしている、ということなのだろう。俺が知らないところで寝ていた、ということは病院か何かだろうし。
………うん、なんで病院でそんなことする必要があるんだ?そんなことするのはドッキリだろ。そして俺は、そんなドッキリかけられるような立場の人じゃない。ごく平凡な学生です。そもそも俺が病院に行く理由がわからない。そもそもこんなところに連れてこられる前、何してたっけ?
「大丈夫か?」
コスプレ男が俺の心配をしてくる。
「いや、なんか直前の記憶が混濁してて………」
俺は眉間を揉みながら、男の質問に答える。自分のことはわかる。新山 琥南 17歳。いたって普通の高校2年生。ちょっと名前にキラキラ感があるが、まだマシな方だろう。有名な作品だし。少々頭のいい高校に通っているくらいで、そのくらいしか他の人と比べて違いはない。運動能力は平均的で、彼女いない歴=年齢。
うん、ちょっと悲しくなってきた。
「そりゃ、異界召喚の弊害だな。ま、基本的に死ぬ直前だったはずだから思い出さない方がいいぞ」
するとコスプレ男からそんなことを言われる。
「は?イカイヨウ?」
聞きなれない言葉に俺は自分の耳を疑う。胃潰瘍、だよな?いや、高校生で胃潰瘍になる時点でやばいし、そもそもそんな簡単に死ぬような病気だっけ?
「胃潰瘍じゃない。異界召喚だ」
「………確認だけど、ここ、日本だよな?」
再度同じ内容を言われ、俺はまた眉間を揉む。それから現在地を確認する。
「二ホン?それがお前のいた世界か?」
「………」
言葉が通じるのに日本がわからないとは………。信じられないんですけど。
「………えっと、俺が今話している言葉って、日本語だよな?」
「何を言っている?今話しているのはエルドラル語………って、なんでお前が話せるんだ?まだ魔法はかけていないはず」
聞いたのはこっちなのに、逆に聞き返された。
「………」
もう何がなんだかわからなくなった俺は、頭を抱えてふさぎ込む。
「何なの、いったい俺の身に何が起きたの?ここはどこなの?理論的に考えてありえない。異世界?日本語通じるのに日本がわからない?もう無茶苦茶すぎるよ………」
「おーい大丈夫か?」
ふさぎ込んでいると、再度声が掛けられた。
「俺は今、自分の中の常識を疑っている………。ありえないだろ、異世界なんて。どうやったら移動するなんてことが起こりうるんだよ」
異世界がある、というのはまあいい。観測できないものがあったところで不思議はない。
が、その世界間を移動する、となると話が違う。何故そんなことが起きたのか、それ自体がわからない。
「お前さんみたく、その現実を受け入れられない人は何人か見てきたな。が、そういうもんだと受け入れちまった方が楽だぞ」
コスプレ男が俺の肩を叩く。向こうさんは何回か俺のような人間を呼んだことがあるらしい。
「………ん?異世界召喚が初めてじゃない?」
そこに俺は引っ掛かりを覚える。いやまあ、異世界召喚そのものを受け入れたわけじゃないけど。
「ああ。俺たちは定期的に一定人数の異世界人を召喚、受け入れているんだ。大体30年に一度、30人程度だな。ほら、他にもいるだろ」
コスプレ男は周囲を指さす。それに釣られて周囲を見渡すと、俺と同じようにベットの上に寝かされている人と、それに連れ添っている人が何人もいた。見た目もそれぞれである。耳が長かったり、ケモミミがついてたり。ベットの上にいる人も同様だ。そっちには皮を剥いだような服を着ている人もいたが。どうなってやがる。
「様々な世界からいろんな人を連れてきて、その血と文明を取り込む。ま、他にも恩恵があったりするが、主な目的がそれだ。お前さんもそのうちの1人、ってわけだ」
「………」
なんかラノベとかにある異世界召喚と事情が異なりすぎている。血筋と文明を取り込むため、って。
「あ、俺はガイアって言う。見た通り魔族だ。お前はデミヒューマンか?」
それから男が自己紹介をする。魔族って、敵じゃないのか?もう突っ込みところが多すぎる。
「………俺は新山 琥南。種族はまあ、人間?日本人?」
デミヒューマンと言われても俺にはわからんから、とりあえず自分の名前と人間である旨を告げる。
「は?人間?純血の人間か?」
すると男が額を抑える。
「こりゃまたけったいな。お前さん、ここじゃまともに生きられんかもしれんぞ。繁殖力が強いだけの人間じゃ、ここは荷が重い」
それから生存は絶望的と告げられた。
「え、いやいやちょい待て!何そのいきなりな展開!もう俺、頭パンク寸前よ!?」
異世界転生やら多種族やら、それだけでお腹いっぱいなのに、さらにお前はまともに生きられない宣言を食らった。
「ああ、いや、他意はないんだ。街から外に出ない仕事なら問題ないし、異世界召喚された人は一人残らずスキル所持数が10あるから、それを活かせば何とかなる可能性もある」
「せめてわかるように説明して!スキルって何!?」
さらに追加の情報をもたらされた。いったん制する時間が欲しい。
「まず大前提に、これは夢、とかじゃないな」
自分の頬を捻り、これが夢じゃないことを確かめる。
「一つ、ここは俺がいた場所、というか世界ですらない。理由は知らないが、俺は異世界に召喚されてしまった」
「そうだな。ちなみに召喚される人は例外なく、元の世界で死にかけていた人だけだ。ある意味異世界召喚に助けられた、と思っていい」
俺が確認程度に言葉に出して呟くと、ガイアが補足してくれた。こちらの方が理解しやすそうだ。
「その時点で突っ込みどころが多いが………それは置いておいて。何故か言葉が通じる。俺が話しているのは日本語なのに」
「おそらく何かしらのスキルが発動しているのだろう。コナンは前の世界で似たようなスキルを持ってなかったか?異世界召喚で付与されたものかもしれないが」
さらに追加情報を呟くと、余計な情報を補足された。スキルなんてもん、あるわけねえよ。何かしらの能力のことなんだろうけど。付与されている場合、後天的理由だろうな。
「で、俺たちは度々異世界人を召喚し、その知識と血を取り組んでいる。ついでにいろんな種族がいる」
「そうだな。純血種のヒューマンは珍しいが。この世界にいるのはデミヒューマン、混血種だけだ」
つまり俺は独りぼっち、と。なんか悲しくなってきた。
「ついでに何かしらの危険が身にまとい、平和ボケしている俺のような存在には優しくない世界、と」
俺は腕を組む。うむ、詰んだ後に偶然救われたが、結局詰んでる、ってとこか。まずはこの現実を受け入れる必要がありそうだが。
「魔物のことだ。あれは危険だからな。魔法が使えれば多少マシだが、ヒューマンは総じて魔力の扱いには不向きだ」
「おっと、まさかの魔法世界っすか。異世界ならそんなもんなのか?」
さらに新しい情報をもたらされた。魔法ありか。使えるかどうかわからんけど。ついでに魔物もいる、と。
うん、今んとこわかった情報はこのくらいかな。一つ言えること。
「詰んだ」
これに尽きる。こんな仕打ちするくらいなら大人しく殺してくれよ。
「いやいや、早くね!?」
ガイアが驚き、俺に突っ込みを入れる。
「いやだって、これ詰みでしょ!なんも知らないところで放り出されて!しかも世界は危険にあふれてて、俺は平和ボケした一般人学生!魔法とかスキル言われても何のことか予想は出来ても、中身はわからん!これで詰んだ言わずに何を詰んだという!」
俺は開き直って叫ぶ。明らかに今の俺の状況は詰んでいる。
「最低限の知識は教える!生きる術もだ!勝手に呼び出して放り出すような真似はしねえよ!」
ガイアが俺を宥める。ちゅーか、なんで最初に会うのが魔族のおっさんなんだよ。魔族=敵ってわけでもなさそうだし。
「と、順番が来たようだな」
別の女性(こっちはエルフ耳の美人)が透明な水晶玉を持ってくる。
「んー?ガラス、じゃないな」
俺はそれを見て首を傾げる。
「これはスキル球と呼ばれるものです。手をのせることであなたのスキルを見ることが出来ます」
女性が球について説明してくれる。
「それってこの球を見てる人全員に?さらに内部に記録されたりは?」
思わず俺は聞いてしまう。なんか筒抜けになるのはプライバシーがなくて嫌だ。
「あー、確かにこれだと見てる人全員にわかってしまいますね。内部に記録されるような構造にはなっていませんけど」
俺の質問に女性が苦笑する。それだとなんか嫌だな。現状、俺に秘められている可能性があるスキルが生命線だ。あまり周囲に知られたくない。
『所持スキルを表示します』
すると何故か、脳内にそんな無機質なアナウンスが流れる。それからいくつかの単語が並べられた。
『ノーマルスキル
翻訳
解析
魔力操作
次元収納
魔眼
刀術
高速思考
魔力変換
魔力耐性
ユニークスキル
ロック』
………うん、なんだこれ。俺のスキルか、これ?個別に内容見れないかな?
『翻訳
あらゆる発声言語を理解し、話すことが出来る。ただし、読み書きは出来ない
解析
得た情報に対する詳細を得ることが出来る。ただし、解析単体では自分以外の情報を得ることは出来ない
魔力操作
体内にある魔力を操ることが出来る。ただし、魔力操作では魔力を変換することは出来ない
次元収納
魔力を操ることで別空間に物品を収納できる。一覧表示も可能
魔眼
発動対象の情報を得ることが出来る。ただし、得た情報を読み解くことは出来ない
刀術
刀の扱い方の上達が早くなる
高速思考
思考速度を早める。元から高い知能がある人にはさほど影響がない
魔力変換
魔力を魔法に変換できる。ただし、単体では十分な魔力を操作できない
魔力耐性
外部からの魔力操作を出来なくする。ただし、魔法に対しては効果がない
ロック
現在使用できません』
ゴ ミ の オ ン パ レ ー ド !
内容は見れたけど、あまりにもゴミすぎる内容に頭を抱えてしまう。どれも単体で活躍できないスキルばかりである。どれもありがちなスキルだが、まさか単体ではゴミに成り下がっているとは。単体で使えるのは翻訳、次元収納、刀術、高速思考、魔力耐性か?いや、魔力耐性の意味がわからんけど。魔法に効果がないっておい。しかも最後のユニークスキルがロック状態って何よ。
――ただ、あくまで単体では使えない、だな。解析と魔眼、魔力操作と魔力変換、これらはセットで真価を発揮しそうだ。その関係で10個あるスキルが、実質7個になってるけど。
「どうした?」
ガイアが頭を抱えた俺を、心配そうに覗き込む。
「あー、どうやら俺に解析のスキルがあったみたいで、どんなスキルがあるのかわかっちゃって………。そのゴミっぷりに思わず頭を抱えちゃいました。てへっ」
思わず拳骨で自分の頭を小突く。まったく可愛くないだろうな。
「あー、解析ね………。確かにあれはゴミスキルだよな………。他にはどんなスキルがあったんだ?答えられそうなのだけ教えてくれ」
ガイアも眉間を揉む。
「後使えそうなのは翻訳、次元収納、刀術、魔力変換、ってとこかな」
ガイアの質問に俺は“単体で”使えて、表面に出やすいだろうスキルの名前を口にする。
「ユニークスキルはどうなっていますか?召喚された人は必ず、ユニークスキルを保持しています」
するとエルフの人が口を挟んでくる。余計なことを聞いてくるな。
「ロックされててわかりません」
まあ俺もわかってないんでどうでもいいけど。
「ロック、ですか。珍しいこともあるものですね」
エルフの女性はそれだけを呟き、何かをメモすると水晶を持って立ち去ってしまう。
「あー、あいつは堅物だからな。あんま気にすんな」
ガイアが女性の用語ををする。そこに関して、俺は何も知らないので何か言うつもりはない。俺はこっそりとガイアに対して魔眼を使用し、解析でその情報を見る。
『ガイア・アドレンス 134歳 魔族
スキル 闇魔法 怪力 超再生 剣術
召喚者の面倒を見る魔族の男性。魔族であるので誤解されやすいが、部下や召喚者の面倒見がいい。そのため部下からの信頼も厚い。国王からの信頼も厚く、騎士団の指導役もやっている。魔王とは無縁』
おい最後。魔王とは無縁て。魔王いるのかよ。
「あー、他に聞きたいことはないか?ないから今日の寝室に案内するが。色々あって混乱してる頭も整理するといい」
「………お言葉に甘えます」
もう色々突っ込みどころが多すぎて、頭がパンクしそうな俺は、本日休むことにした。
ゲームなどの知識はあるけど、オタク言われるまでめり込んでやっていなかった琥南。彼の冒険は、これから始まる――かもしれない