ここは……?
ブックマーク、ご感想ありがとうございます。
ちょっと長めです。
――ここは……?
ふと、気がつくと俺は音のない真っ白い空間の中にいた。事態が呑み込まず辺りを見渡して見れば、遙か遠くに光の渦のようなものが見える。
――あれかな……?
なんとなくそこに行きたい、行かないといけないような気がした俺はその光の渦を目指して歩くことにした。
――ん?
歩き始めるとすぐに実感する。その光の渦から溢れる光が温かく俺を迎え入れくれている、呼んでいる、そんな気がした。
――うん。やっぱり俺はあそこに行かないといけないようだ……
そう思った俺は少し足を早める。
――……あったかい。
その光の渦に近づけば近づくほど優しい光が俺を受け入れてくれるように纏わり付く。温かくて優しくて、気持ちがふわふわする。
――きっと、あの光の渦の中に入ればもっと気持ちがいいはず……
そう思った俺はさらに歩む足を早める。駆け足にも近い。
――ああ、やっぱりだ。近づけば近づくほど、温かくて気持ちがいい……
俺はもうそのことしか頭になく、気づけば光に向かって全速力で駆けていた。
――もうすぐだ……もうすぐ。
『少年よ』
しかし、あと数メートルという所、光の渦はすぐ目の前だという所で俺の前を立ち塞ぐ大きな存在が現れた。
『待つのじゃ少年よ』
――……?
なんとなく聞き覚えのある声だが、遮られた俺は不愉快でならない。人の前に突然現れて行く手を阻む。なんて失礼な奴だ。
――俺はあの光の渦に入るんだ。邪魔するな……
俺はその大きな存在を見上げた。
『ほう自我は残っておったか。これは手間が省けたわい』
どこかホットした様子の大きな存在。その大きな存在がみるみる縮んで俺とそう変わりないサイズにまでなった。
――爺さん? 爺さん? なぜ爺さんが?
『爺さん爺さんと失礼な奴じゃの、ワシは大地神じゃ、だ・い・ち・し・ん』
――大地神?
聞いたことあるような、ないような神の名。しかし、その姿にはどこか見覚えがある。
――大地神、大地神……大地神!? って、没地神か!
『おお、どうやら思い出したようじゃのぉ。なかなか優秀じゃな。じゃが、ワシはお主に加護を与えた大地神ではなく、その記憶を引き継いだ大地神に過ぎぬがの』
――そうなの。でも今さら俺に何の用か知らないけど、生憎と俺は急いでいるんだ。あの光の渦に早く入らないといけないんだよ。
『そう慌てるでない。まず、それに入るとお主は次の輪廻に入りことになる』
――へ?
『つまりお前の魂が浄化リセットされ生まれ変わることになる。つまり今ある記憶をも失うことになるのだ』
――次の輪廻……生まれ変わる……それじゃあ俺は。
『まあ、まずはこれを見るのじゃ』
大地神が杖を振りかざすと、その先に楕円形状の大きな鏡が現れた。すぐに鏡面が歪むとその鏡面に何かが映し出される。
――!? これは、俺……だよな……
『ふむ。これは少し前の映像じゃな。お主に見せようと創造神さまから借りてきたのじゃ』
横たわる俺の姿を映し出す鏡。特に目立つのが腹部に空いた穴。それは野球ボールサイズの穴でその傷口の穴の周辺はもぞもぞと蠢き腐敗が進行している様子が見て分かる。
――うげっ!?
腐敗進行しているのはそこからだけじゃなかった。俺の両手は手首から先を失っていて、たぶん俺の未熟な闘気着装では防ぎきれなかったのだろう。そこからも腕に向かって腐り始めてた。そして理解する。
――そうか、俺はあの時腐神に……殺されたのか、殺されたんだろうな。最後のほうなんて痛いという感覚すらなかったから忘れてたけど、相当酷いない俺の姿……
ふぅ、腐神の言った通りだ俺の身体、本当に腐っていってる。勝手に動いたりするのかな。皆んなを襲ったりするのかな……嫌だな……
『ワシもこの辺りは見ておらんかったが、お主相当酷いのぉ』
そんな俺に駆け寄る人物が映し出された。黄金に輝く神装を纏った先生たちだ。
「山野木!!」
「タロウくん!」
「タロッ!」
「てめぇ、許さねぇ!」
「「「「うおぉぉぉ!!」」」
意外にも田中たち四人は真っ先に腐神に向かっていき、具現化した神具で果敢に攻めている。
――あいつら、一体どうしたんだ……
『ふぉふぉふぉっ、創造神さまの神装のおかげじゃ。神装が恐怖を払う。邪神の手下を討てと勇気を与える。そして神に近い強大な力を引き出す』
――それは……すごいな。
『そうじゃの』
一方の先生、小西さん、大野さんの三人は一度俺の周りに集まると、俺の姿を見て顔を歪めた。
――そうだよな。見たくないよな。俺だって腐っていく身体なんて見られたくなかったよ。なぁ、爺さん、お願いがあるんだけど……
『なんじゃ』
――俺の身体、みんなに迷惑かけないよう燃やしてくれないか……
『……れ』
――? なあ……頼むよ。頼みます。俺、死んでまでみんなに迷惑かけたくないんだ。
『いいから黙って見ておれ』
――もしかして爺さんじゃ無理なのか……?
『そうではない。いいから黙って見ておれ』
――……
映像に視線を向けたままの爺さんに一蹴された。すこしムッとするが、やはり俺も映像は気になっている。爺さんに言われた通り俺は映像に視線を向けた。
すると先生が具現化した日本刀を力いっぱい握り締めた。
「小西、山野木を頼むっ」
そして、絞り出すような口調でそう言うと、腐神を睨みつけ雷を伴って駆け出した。
「ノリちゃんお願い。タロを回復してあげて、絶対絶対回復してあげて、私回復できないから。だから私は代わりにあれを殺る」
今にも泣き出しそうな口調でそう言った大野さんが、氷の結晶を身体の周囲に漂わせ奴に向かって肉薄した。
「もちろんだよアキちゃん。絶対絶対タロウくんは回復してみせる」
一人残された小西さんは呟くようにそう言うと、俺の身体をそっと抱き上げたかと思えば、そのまま腰を下ろして横座りになる。俺は小西さんに膝枕をされた形になる。
――なんと……膝枕、だと……
意識のない俺の身体に少しばかり嫉妬するが、映像の中の小西さんは俺の身体に神装時に具現化していた神秘の杖を胸の辺りに軽く当てると瞳を閉じて回復魔法を展開し始めた。
「神さまお願いします……」
浮かび上がった神紋から、なんとなく特上回復魔法の陣、エクストラヒールだと分かるが、いつものように取得することはできなかった。棺桶に片足を突っ込んでいるようなものなのであたり前といえば当たり前だ。
しばらくすると、黄金に輝く小西さんの回復魔法の光が腐敗していく俺の身体の進行を止めた。
「これじゃ足りない。もっと、もっと魔力を……」
小西さんの身体が更に輝くと、今度は逆に腐敗していた身体が逆再生するかのように元の状態に戻っていく。それは腹部に空いた穴を、失った両手までも回復させていく。
――すごい……
俺の身体は小西さんの回復魔法によって、綺麗に、元の状態に戻っていた。
一方、先生たちの方は、まるで戦女神や戦神や鬼神をも思わせるような戦いっぷりで、攻撃させる隙を与えず、防戦一方の腐神をジワジワと追い詰めていた。
『おのれ、おのれぇぇ!!』
川田が大量の水でできた球体で腐神を拘束すれば、先生の放った雷がその球体を何度も貫き、水の球体が弾けるが、今度は水に濡れたままの腐神に大野さんの氷結晶が襲い奴を氷付けにする。
『ぐがっ!』
次に鈴木の鋭い植物が氷ごと削り、氷から解放された腐神の身体を小谷の放った風の刃が執拗に襲う。
身体を刻ざまれ満身創痍の奴に最後とばかりに田中の真っ白く今にも弾けそうな白炎が奴に纏わり付き、腐った身体を蒸発させていく。
『ぬぁぁぁ……』
さすがにまずいとでも思ったのだろう、白炎に襲われどろりと身体を崩した腐神だったが、起死回生を狙って小さな丸い球体となり、白炎から逃げ出す。
『ふぅ……ふぅ……』
無理もない話だった。先生たちは神装解放によって制限つきだが神に近い力を得た。それつまり一神に対して六神が相手をするようなものだったのだ。
『貴様ら覚えておれっ! この借り忘れはせぬ』
その球体がとんでもない速度で空いたままだった黒い空間に逃げ込もうとするが、
『なにっ!』
空間と空間の境目、その境目で腐神の球体は何かにぶつかりそれ以上先には進むことは叶わなかった。
「逃がすわけない」
それは大野さんが展開した氷の壁だった。薄くて透明な氷壁。腐神の球体はその氷壁に何度もぶつかり強行突破しようとしていたようだが神装して展開したその氷壁の強度はそう簡単に崩せるものでもなかった。
「当然だ! 貴様は私のかわいい生徒を、くっ」
『まて、まて待てぇぇ、ぐきゃぁぁぁ』
最期は肉薄した先生が雷を纏った日本刀を振り抜く。目にも留まらぬ速さ。一瞬だった。日本刀によって真っ二つに両断された球体は、激しい電流を浴びてそれぞれ燃え上がり跡形もなく消滅した。それはもう呆気なく。
それだけにやりきれないのか、再びに俺の周りに集ったみんなの顔に笑顔はない。動けるようになった騎士たちも姉さんも。
「勇者、さま……」
「山野木……」
「タロ……」
「どうして、どうしてなの、キズは治ってるの。状態だって、欠損だって元に戻った、なのになんで、なんで起きてくれないのタロウくん。目を覚ましてよ」
涙を流す小西さんの悲痛の叫びが、静まりかえった部屋中に響くのみだった。
――――
――
『どうじゃ、今のお主の状況を少しは理解できたかのぉ』
――う、うん……
正直みんながあんなに悲しんでくれるとは思わなかった。
『ワシも勇者の活躍によって腐神が消滅したからこそ、大地神としての役目を与えられたのじゃ。この世界の大地を守れとな。元はただの山神、創造神様に昇格していただいたのじゃよ』
――へぇ、そんな感じでなるんだ。でも、俺は神装の解放もできないし、みんなの足を引っ張るだけだと思うんだよね……
それに、もうバレているだろうから、どんな顔してみんなに会えばいいのか分からないや。
『うむ。そこはワシにも責任があるからのぉ、ワシはお主の状態を創造神様に報告したのじゃ。少しでもお主の助けになればとな。まあ、それでも普通なら無理な話なのじゃが、お主は運がいい』
――そうなの? 俺何度か死にかけてるけど。
『ふむ……そ、そこは横に置いといてのぉ。今回お主の勇気ある行動にいたく感動された創造神様がその褒美を下さった』
――へえ、そんなこともあるんだ。
『普通ならばない。しかしお主に与えろと、この〈神紋全集〉というギフトを預かったのじゃ。禁術扱いとなる神紋以外の全ての神紋が理解できるギフトじゃ。ほれ』
大地神の杖から黄金色の光が飛び出し俺の胸の中へと入っていく。
――うそ、だろ……信じられない。
光が入った瞬間からありとあらゆる神紋が頭に浮かび、その全てが使えることを理解した。
――これっていいのか……それこそチートだよ。
『いいのじゃよ。それに創造神様の加護のある勇者は、適性のある魔法を初めから全て使えるのじゃからな。使えなかったお主の方が問題だったのじゃ』
――うっ、でもそれって、俺のせいじゃないと思うが……
『そ、そうじゃったな』
――でも、いいや。これで少しはやれそうな気がしてきた。
俺は皆が映る鏡に視線を向けた。
――ギフトまで授けてくれたってことは俺の意識を元の身体に戻してくれるってことだろ。そろそろお願いしてもいいかな。みんながお通夜のような顔していて申し訳ないや。
『お、おお、そうじゃのう。じゃがちと待て。ワシからもお詫びというか、なんというか、お主の加護に神装解放を宿す』
――なんと神装解放を俺にも……
あまりにも自分に都合が良すぎる展開に、なんか一生分の運を使い果たしたような気がする。
『じゃが、ワシは昇格したばかりの大地神、それほど力は出せぬよ。創造神様の神装のようにはいかんのじゃ』
――なるほど、そんなことだろうと思ったわ。
『そこでじゃ。ワシは考えたのじゃ。どうすればワシの与える神装で、お主が活躍できるのかを』
――おお、俺のためにそこまで考えてくれたんだ。
『うむ。会心のできじゃ。ふぉふぉふぉ、喜ぶがよい。なんとその能力は即時解放の防御特化型にしたのじゃ。ただし、活動時間は皆の十分間に対してお主は三分間じゃ』
――え! それってつまり……
『うむ。皆が創造神様の神装を解放するまでの繋ぎとなるのじゃな。これでお主は目立つし、皆の役に立てるふぉふぉふぉ』
――なんでだよ。また死ぬ目に会うかもしれないじゃないか……
『あと気をつけるのことと言えば、解放してからのことじゃが、活動時間を終えた後のな。
じゃがまあそこは皆と同じく丸一日加護の力を失うだけじゃし、お主は神紋紙があるから大丈夫かと思うのじゃが、油断などするでないぞ、十分に気をつけるのじゃ』
――え、活動時間を終えたら、そんなことになるの。もっと使いやすくしてくれても……
『ふぉふぉふぉ』
――それに、たったの三分ってウルト○マンじゃないんだし、短すぎない?
『ふぉふぉふぉ』
――ねぇ……?
『ふぉふぉふぉ』
――ねぇってば……
『ふぉふぉふぉ』
――ふぉふぉふぉ、じゃなくて。
『ふむ。ではさらばじゃ』
――ああ、逃げたな……
『ふぉふぉふぉ……』
爺さんの笑い声がだんだんと遠くなる。俺の意識が元の身体に戻ろうとしている。俺の意識はそこで途切れた。
――――
――
ぷに。
――ん?
次に意識を取り戻した俺は、ふと、後頭部に感じる柔らかさに戸惑いを感じた。
――こ、これって……鏡で見ていた状況なの?
俺はゆっくりと目を開ける。すると。
「あっ」
一斉に皆の視線が集まるのを感じた。
「タロウ、くん……?」
そして一番近くには、泣きはらした顔の小西さんがいる。しかも、やはり俺は小西さんから膝枕をされていた。慌てて起き上がろうとしたがなぜか小西さんが俺の両肩を押さえつけて起き上がれない。
「タロ!」
そんな状態なのに今度は大野さんが俺の胸目掛けて飛び込んでくる。
「ぐぇ」
「山野木!」
「勇者様!」
「「勇者殿!!」」
さらには小西さんと大野さんと俺ごと、まとめて抱きついてくる先生とお姉さん。俺にはもうなにがなんだか。
「あ、あの……」
そこで嬉しそうに泣いてるマルスさんとダンテさん俺を助けてくれないだろうか。
「いでっ」
「バカが、いつまでも寝てるなっつうの」
「ほんと」
「マジで」
「アホ」
田中たちが俺の頭を一発ずつはたいていったことは覚えておくからな。
最後まで読んでいただいてありがとうございます^ ^




