俺だけ加護は没地神
眩しくて思わず目を閉じたが、ふらふらして酔いそうになったので、すぐに目を開けた。
――あれ、真っ白。
『いやぁ、良かったわい。ワシと波長が合う坊主がいてのぉ』
――あれ、おかしい。俺の目の前にボロボロのやつれたお爺さんがいる。
俺は思わず目を擦った。
「教室……」
――……じゃない、これって……
『ふおふお。お主たちは創造神様から異世界に召喚されたのじゃよ』
「創造神、様? 異世界?」
――嘘、だろ。
『ほんとじゃ』
――あれ? 何で?
『お主の心の声などワシには丸聞こえよ。これでもワシは地神じゃ。神じゃからな……と言っても元じゃがの』
――そう、ですか。丸聞こえ‥‥‥
『それでじゃが……』
俺の頭に透き通るような心地よい声が聞こえてきた。
【あなたたち32名は異世界の勇者となりました】
『おお、今のが創造神様の声じゃよ。綺麗じゃろ? 大変、お美しい方じゃぞ。お主も後で拝見できよう』
――そうか……でも今、勇者って言ったような?
『まあ、黙って聞いておれ……』
創造神様からの声は、世界を腐敗へと導く混沌神カオスが異世界ガンラルガンラルラルラに巣食って困っているとの内容だった。
これは千五百年前にも一度、起こった出来事だと語った。
すでに、その異世界ガンラルガンラルラルラの大地の神は殺され、これからゆっくりとその世界の大地が腐敗し始めると語った。
急務として大地の石碑に浸食したカオス神の手下を倒して欲しいそうだ。
その手下さえ倒せば代わりになる大地の神を降ろすことができ、大地の腐敗を止めることができると言う。
それでも、水流の神、火炎の神、疾風の神、光明の神、闇暗の神が殺されのも時間の問題でその助けもして欲しいというのだ。
なぜ、神様でも敵わない相手をただの一般人が相手しなければならないのかと思っていると――
その為の力『創造神の加護』と『適性魔法』『適性スキル』を授けるから大丈夫だと言っている。
――これは……無理だな。普通の高校生に何ができる? できるのは異世界観光だけだよ。これでできると言ったアホがいたらゲンコツをプレゼントしたい。
『なあに、お主はワシと波長があったラッキ―ボゥイじゃぞ。
これでワシの加護と創造神様の加護があれば問題あるまい』
――じいさんの加護と創造神様の加護?
『じいさんとは失礼な……と言っても仕方ないか。ワシが異世界ガンラルガンラルラルラで殺された大地の神なのじゃからな』
――異世界名長い……っえ? じいさんがさっき殺されたって言う大地の神だったの?
『そうじゃ、何もできなかったのじゃ。不覚なのじゃ。ゴロゴロ気持ちよく昼寝などしなければよかったわい』
――それ……自業自得じゃないのか……
『ポカポカ陽気が悪いのじゃ』
――……
『コホンッ! そこでじゃ! ワシはせめてワシの加護を誰かに与え憎っくき奴の手下を……ガンラルガンラルラルラの為に役に立てて欲しいと思ったのじゃ』
――それはまた‥…
『むほっ!! むほっ!!』
――どうしたじいさん?
『むほっ! これは……あまり時間がないようじゃ。ちゃちゃとやるぞ。ほい!!』
《タロウは没地神の加護を得た》
――へっ? うおっ!? な、なんだよ没地神って!!
『うむ。ワシは殺されておるからの。没後の地神って意味じゃ』
――ちょっと……違う意味に聞こえるんだけど……
『と言ってもワシは既に没っしている身、大した力などないのじゃよ……ふおふお。
精々大地を柔らかくする〈軟化〉スキルが使えるくらいじゃな。
これでワシの愛しいのガンラルガンラルラルラの大地を開墾してくれると嬉しいぞい』
――んまぁ、貰えるならもらっとくよ。んで、俺はあと、創造神様からも加護が貰えるんだよな?
『そうじゃ。ワシの役目も終ったでな、ちょっと待っておれ……ふぉ? ……!? ……!! ……』
ボロボロのじいさんが額に汗を浮かべ、目を泳がせ始めた。俺と目を合わせてくれない。
――なぁ、どうしたじいさん? 創造神様はまだなのか?
『そ、それがのぉ』
――なんだ。
『ふぉふぉ……』
――早く言えよ……
『普通なら、没した神の加護は消えるそうなのじゃが、ワシがその加護を無理……コホンッ。……好意で授けたから創造神様の加護が弾かれたそうなのじゃ……』
――へっ? 弾かれたって……えっ? ちょっと待って。因みに創造神様の加護ってどんなの?
『そうじゃな。ステ―タス強化補正、本人の適性魔法レベルMAX、適性スキルレベルMAXじゃな』
――な、な、何それ……それで、ちなみに俺は?
『お主の加護はワシの加護のみじゃ。頑張れ、ふぉふぉふぉ……』
――ちょっと待ってくれ、この加護って大地を柔らかくするだけだろ? 神の手下や魔物相手にどうやって生き延びればいいんだよ?
『そ、そうじゃ……軟化スキルの制限を外すのじゃ。そうすれば大地だけじゃなく、何でも軟らかくできるのじゃ。固くなったパンも柔らかく食べれるぞい。な? な? ほれこれでどうじゃ?』
――固くなったパンって……おぃ、マジで待ってくれよ。俺、ほんとに死んじゃうって。ほかに何かあるだろ? そ、そうだ、魔法だ。せめて魔法はないの? 魔法?
『うぐっ、魔法かね、魔法はの……今のワシでは……そ、そうじゃった、思い出したぞい……
今は廃れた陣魔法『神紋魔法』というのじゃが、これなら陣を大地に描き他の神の力を借りれるはずじゃ。
いいか、これは誰にでも使える魔法じゃないのじゃぞ。神の加護と神紋魔法の使用許可がいる特別な魔法なのじゃ』
――特別?
『そうじゃ。陣とは神の神紋示す。神紋は神の誇りなのじゃ。
これならば、今は忘れ去られた魔法でも、その神紋を描くことで神が快く力を貸してくれよう。望む現象を起こしてくれるはずじゃ。どうじゃすごいじゃろ?』
――へ、へぇ、なんか凄そうだ……それなら、ん? あれ? でも、なんでそんな凄そうな魔法が廃れたんだ?
『うぐっ……』
没地神のじいさんが目を泳がせている。
――なんで?
『……のじゃ』
――え? 聞こえないよ……
『……神紋を描くのに時間がかかるのじゃ』
――時間がかかるって……
『つまり発動に時間がかかるのじゃ。そして、それは地面に描かなければならない。どこでも描けぬのじゃ。不便なのじゃ。それが廃れた理由じゃ』
――……
『……あ〜、ほら、じゃが、安心するがよいぞ。お主には軟化スキルを与えたからのう。どこにでも描けるぞい。これで最強じゃのぉ。ふぉふぉふぉ……
おお、そうじゃた。無論、水とか空とかは無理じゃからな、ふぉふぉふぉ』
――どこにでも描けないじゃん。じゃあ、ちなみに他の皆は……
『今の時代の適性魔法は無詠唱で発動にするぞい。近代化じゃな。時代が進むのは淋しいものよう』
――はあ? なんだよそれ……
『理由も簡単じゃ、適性魔法は取得した時点で体内に神紋が刻まれておるのじゃ。だから無詠唱で発動できるのじゃ……
まあ、それだから神の加護が必要じゃし適性がある魔法しか使えぬのじゃよ‥‥‥ほれっ!!』
《タロウの適正スキル〈軟化〉は〈軟化制限無〉へ進化した》
《タロウは適正魔法〈神紋魔法〉を獲た》
『では、頑張るじゃぞ』
――へっ!! ちょっと……俺、死んじゃうよぉぉぉ。
そこで、タロウは真っ白い光の波に呑み込まれた。
俺の修学旅行先は異世界ガンラルガンラルラルラのようです。