頑張ろうなって言われても
ブックマークありがとうございます。
更新遅くなりすみませんm(__)m
みんなが集まり、そろそろダンジョンに入るのだろうと思っていたんだけど、少し様子がおかしい。
――何で?
先生とダの国王、各国の使者の方々が真剣な表情を浮かべ、俺たちの前で横一列に並んでいる。
「みんな聞いてくれ」
先生のその一言で、騒ついていた生徒たちが静かになった。
それを確認した先生は言葉を続けた。
「この世界ガンラルガンラルラルラは我々が思ってる以上に事態は深刻だった」
「ねぇねぇ」
「なに、どう言うこと?」
「さあ」
「みんな静かに」
ザワつき始める生徒たちを、委員長をはじめ副委員長たち数人が、人差し指を口元に当て静かにするようにとみんなを制している。
「みんな、不安に思うかも知れないが、どうか最後まで先生たちの話を聞いてくれて」
その落ち着きはらった言動からも、どうやら委員長を含む数人の生徒たちは前もってこのことを聞いているようだ。
みんなが静まるのを確認した委員長が先生の方を向いて頷くと、再び先生が口を開いた。
「少し創造神様に聞いた話を思い出して欲しい」
――創造神様? ……んーたしか、すでに大地の神が殺されてしまったから、この世界の大地は腐敗し始めているそんな話だったっけ?
急務として大地の石碑に巣食ったカオス神の手下を倒して欲しいという、とんでもない話だったよな。
……そうすれば、創造神様が新たな大地の神を降ろすことができて、大地の腐敗を止めることができる……うん。こんな感じだ。あとは……割愛……
「先生。急いで大地の石碑に巣食ったカオス神の手下を倒して欲しい、でしたよね」
一人の女子生徒がそう言い、委員長にアイコンタクトをした。これは話の流れをスムーズにするために委員長の方が仕込んだのだろう。
だって、先生が「そうだ、よく覚えていた。偉いぞ」と嬉しそうに頷いているんだ。
「石塚が今言った通り、創造神の加護のある我々は、いずれ石碑に巣食ったカオス神の手下を倒さなさればならない、と昨日までは悠長に構えていた」
さらに先生は深刻な表情で話を続けた。
大地の神が宿っていたという石碑は五つ。各大国に一つずつある。大国はユの国、ウの国、シの国、ヤの国、ダの国、この五カ国になる。
世界に一つだと勝手に思っていた俺としては驚きを隠せないが、大地、水流、火炎、疾風、光明、闇暗の石碑を中心に、その国が栄えていったと考えれば、なんら不思議ではないか、と納得もできた。
そして、その石碑が、周りの地形を取り込み俺たちが召喚された日にダンジョン化したそうだ。正確にはその石碑に巣食ったカオス神の手下なんだろうけど……
――なんてことしてくれるんだ。カオス神の手下……
口を挟んできたダの国王の話では、その兆候は俺たちが召喚される以前からあったそうだ。
十日ほど前から地震が頻繁に発生し、その震源を調査に向かった調査隊が石碑を取り込んだダンジョンを発見した。
各国の使者も頷いているところを見ると同じようなことが各国でも起こっていたのだろう。
それが昨日のことで、今に至っているらしいが、みんなの頭の上には、それぞれ疑問符が飛び交っている。かく言う俺も……
――時間の流れ……おかしくない??
そう思っているとダの国王が一匹の小さな翼のあるトカゲらしき生き物を見せてくれた。
これは伝書鳩のような役割をしている伝書竜。サイズも同じくらい。可愛らしい竜だ。
この竜は、人懐っこく人の言葉を理解する賢い竜で、各国を一時間足らずで行き来できる高速竜でもある。
普段は遥か上空を飛び回っているらしく、好物の果実を天にかざして振ると、すぐに伝書竜が寄って来て喜んで目的地まで飛んでくれるそうだ。
そんな馬鹿な話がとも思ったが、ここは異世界。そんな竜もいるんだと割り切るしかない。
みんなの納得した表情を確認した国王が、さらに話を続ける。
「それでだ――」
ダンジョンは迷宮と違い非常に厄介な存在で、ダンジョン核を破壊しない限り、地上に永遠と魔物を送り出してくる災悪機関だそうだ。
「つまり、早くそのダンジョン内にある核と石碑をどうにかしないと、そのダンジョンからは魔物が永遠に湧き出し近隣の町や村に被害をもたらすことになるんですね」
委員長が、みんなに理解しやすくそう言うと――
「そうなる。騎士団も昨日のうちに手配した。幸い今はまだ、出てくる魔物の数も少なく比較的弱い。その調査隊で処理している状況だ」
伝書竜から受け取った手紙を広げたダの国王がそれに応えた。
「それでだが……」
ダの国王は言いにくそうに先生の方を見ると、先生が小さく息を吐き出し口を開いた。
「そのダンジョンにカオス神の手下がいると分かっている以上、加護のある我々も向かわなければならないそうなのだ」
「……」
先生のその言葉に息を呑む者や、ため息を吐き出す者など、全体的にピリッとした緊張が走った。
「場所は五ヶ所。一ヶ所ずつ攻略していては後になる国ほど被害が大きくなる」
先生は国王や各国の使者から懇願の目を向けられ居心地の悪そうな表情を浮かべた。
――そりゃそうだよな……みんな自国が大事だろうし。
「そこで、不本意であるが班を六人ずつに分ける。疑問もあると思うが、とりあえず六人のパーティーを作ってくれ」
みんながザワつきながらも六人のパーティーに分かれていく。
楽しそうにしている者や、面倒くさそうにしている者もいる。
途中、委員長をはじめ男子生徒が先生を誘っていたが――
「すまない。あとで説明するから私以外とパーティーを組んでくれないか」
「ええ……」
断られ渋々と他のメンバーとパーティーを組んでいるようだった。
委員長も目を見開き意外そうな顔を先生に向けているので、ここからは先のことは聞いていなかったように見えるけど……
――やっぱりこうなるわな。
俺のクラスは先生を入れて三十二人。
六人のパーティーだと五つのパーティーができあがるけど二人余る。
そのうちの一人が先生がとなると、残る一人は当然、俺だ。
「ぷっ、タロウだっさ」
「え?」
「あれ?」
山田はにやにやと俺を見てくるのでイラッとくるが、小西さんと大野さんは少し驚いているようにも見える。なんで? いつものことだよ。
「あまりは……やはり山野木か」
――やはりって……
そりゃあ自分でもこうなることは分かっているんだけどさ、担任の先生から口に出して言われると、地味にショックを受けるんだよな……
――はぁ……
けど、先生の次の言葉を聞いて、俺のそんな気持ちは一瞬にしてぶっ飛んでしまった。
「山野木、すまんが私の隣に来てくれ」
「え?」
みんなの視線が一斉に俺を向く。
――な、何これ、拷問!?
「山野木、早く来い」
「はい」
みんなから居心地の悪い様々な視線を浴び、背中に変な汗を流しつつも、平静を装い前に出てて先生の横に並んだ。
――うっ!
前に出るとみんなの顔がまともに見えて、さらに居心地が悪い。
これは拷問だ。適当に視線を泳がせ拠り所を探すがなかなか見つからない。
――……おうふ、メイドのお姉さんまで俺を見てる。
そうこうしている間に先生が話を始め、みんなの視線が先生の方へ移った。よかった。
「本来なら、安全を期して、みんなで一つのダンジョンに挑みたかったのだが、今の状況ではそうも言ってられない。
もう分かっている者もいると思うが、今の分かれてもらった六人のパーティーで各自、どこか一つのダンジョンに向かってもらうことになる」
「「ええ!」」
「マジか」
「そうだと思った」
「少なくね」
「危険じゃない」
「色々と意見はあると思うが、何が起こるか分からないダンジョンでは、私も六人では少ないと思っている」
「では……」
委員長をはじめ、ほとんどの男子生徒が不満そうな顔を向けている。
先生は何やら口を開こうとした委員長を手で制するとそのまま話を続けた。
「そこでだが、私には生徒名簿という適性スキルがある。
これには生徒の現在の健康状態のほかに……山野木。私の手を握ってくれ」
「え」
男子生徒から一斉に殺気混じりの視線が飛んでくる。
――ひぇぇ、勘弁してくれ。
狼狽している俺をみかねた先生が俺の手を握ってきた。その手が意外に硬く驚いたが……
それが竹刀ダコだと分かるのはもう少し先の話なんだけど、俺の意識が先生の手の方に向いている間に俺と先生は委員長の隣に一瞬で移動していた。
「は?」
つい、間抜けな声を出してしまったが、皆が皆、驚愕の表情を浮かべいる。
「このように、私はこの適性スキル、生徒名簿を使い生徒名に触れることで、その生徒の傍に一瞬で移動できる」
――何それ、先生すごいんだけど……俺の適性スキルって軟化だよ?
委員長まで驚いているということは、このことは他の誰も知らなかったことのようだ。
「私は君たちの担任だ。君たちだけを危険な目に合わせるようなマネはしない」
そう言って先生は俺の肩をポンと叩いた。
「連れて行ける生徒は一人だが、これでダンジョン内は八人で挑むことができる。山野木、頼むぞ」
――ま、マジですか……
「頑張ろう、な!」
「……はい」
よりにもよって創造神の加護のない俺がとも思うけど、先生から拒むことを許してくれそうにない爽やかな笑みを向けられた俺は、ただただ頷くことしかできなかった。
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