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第99話


 ルーナの射撃によりゴブリンソーサラー2匹が立て続けに絶命し、その事で魔物達は此方の存在に気がついた。

 突然の事にも関わらず連中は直ぐに戦闘隊形を整えた。

 残り1匹のゴブリンソーサラーが詠唱を始めたが、ルーナの射撃により仕留められ、魔法陣は霧散してしまった。


「ミニョン、相手の出方を待とう」

「了解ですわ」


 ゴブリンソーサラーによる遠距離攻撃の可能性が無くなり、俺達は無理に距離を詰める事はせずに相手を迎え撃つ態勢をとった。


「ガアァァーーー‼︎」


 低く重い咆哮を腹から吐きながらゴブリン達が先陣を切って来た。

 其の背後からワーウルフ達が続いて来た。


(もしかしたら種族的にゴブリンの方が好戦的なのか?)


 俺はそんな風に思ってしまった。

 それというのも、俺達へと向かうゴブリンとワーウルフの背後には、何を考えているのかスライム達がその場でわちゃわちゃと、己達の身体をぶつけ合ったりよく分からない動きをしていた。


「ルーナ、とりあえずワーウルフの方を狙ってくれ」

「了解です」

「来ますわよっ」

「ああっ‼︎」


 棍棒を振り上げ俺へと向かって来たゴブリン。

 振り下ろした其れをバックステップで躱すと、木製にも拘らず地面を激しい音とともに抉っていった。


(まともに喰らったらミンチ確定だな・・・)


 少し身震いしそうになったが、再びゴブリンが棍棒を振り上げた刹那、ガラ空きとなった首元にネックレスを剣へと変化させ刺突を喰らわせた。


「カッ・・・、ッ」


 魔物が人間と同じ身体構造をしているのかは分からなかったが、喉を潰された事で声を上げる事も許されず絶命したゴブリン。

 俺は其れを確かめ、ミニョンの迎え撃ったもう1匹のゴブリンを背後から仕留めた。


「グルゥゥゥ」

「司様、1匹残りました」

「了解、ミニョン抑えてくれ」

「分かりましたわっ」

「ルーナはワーウルフを仕留めた後、スライムに狙いを移行してくれ」

「了解です」


 俺は2人に指示を出しスライムへと駆けた。

 俺が距離を詰めたにも拘らず、未だに膨れ上がったり、萎んだり、謎の動きを続けるスライム達。


(半透明な身体の中には魔石しか浮かんでない所を見ると、もしかしたら思考を行う脳的なものは持って無いのか?)


 俺がスライム達の眼前まで迫ると、背後でワーウルフの断末魔の叫びが聞こえてきた。

 俺は心の中で良しと頷き、其の勢いでスライムに斬撃を放った。


「・・・」

「・・・なっ⁈」


 手応えの無い一撃だったのだが、斬撃によりスライムは一度は真っ二つになった。

 だが然し二つに別れたゲル状の身体は、再び一つに集まり元の状態を形成したのだった。


「・・・」

「おっ⁈」


 俺から斬られたスライムが元の形状に戻った瞬間、奴等の纏う空気が一変し、其の身を鞭の様にしならせ突如として俺へと飛びかかって来た。


「司さんっ」

「ミニョン、来るな‼︎」

「で、でも・・・」

「有効な攻撃手段が無いんだ、近づいてはダメだ‼︎」

「うっ・・・」

「司様っ」

「ルーナ牽制を頼む」


 矢継ぎ早に俺へと攻撃を仕掛けて来るスライム達に、ルーナは射撃を仕掛けたが其の身は弾丸を受けると、某仲良く喧嘩するネズミの大好きなチーズの様な穴あき状態になるのだが、直ぐに穴は閉じ、其の動きは活性化していく様に感じた。


「・・・」


(う〜ん、初手は避けれない攻撃では無かったけど、徐々にキツくなってきたなぁ・・・)


 スライム達の攻撃は決して俊敏とは言えなかったが、如何せん数が多かった。

 此のままではジリ貧になり結果的に危険な状態になるかもしれない。

 そう思い俺が諦めて魔法を使おうかと考えていると、ルーナの射撃がスライムに着弾した瞬間、まるで雨垂れが水面を打つ様な静かで軽く消え入りそうな確かな高音が耳を撃ち、其のゼリー状の身が水風船を地面に落としたかの様に破裂し、地面に残されたのは、先程までスライムの体内をプールの様にし泳いでいた魔石のみだった。


「な・・・?」

「司様」

「ルーナ、今何を?」

「はい、弾丸がスライムの魔石に着弾した瞬間、此の様な状態になりました」

「なるほど、そう言う事か」


 聞いて仕舞えばどうと言う事もない。

 単純なスライムの弱点に俺は一気に攻勢に出た。


「はあぁぁぁ‼︎」

「・・・」


 俺の刺突とルーナの射撃で次々と、其の身は破裂し倒れていくスライム達。

 其処から全滅させるまではそれ程手間は掛らなかった。


「ふぅ〜、終わったか・・・」

「そうですわね、大丈夫ですの司さん?」

「ああ、問題無い。ミニョンこそどうだ?ルーナも?」

「勿論、問題ありませんわ」

「私も大丈夫です」

「そうか、なら良かったよ」


 ミニョンとルーナと互いの状態を確認しあい、俺達は魔石の剥ぎ取りと回収を進めた。


「こんなものか・・・、ん?ルーナ?」

「司様、あれを・・・」


 俺達が一通り魔石を回収し終わった頃、ルーナの視線があらぬ方向を向いているのを見つけ声を掛けると、其の先に1匹のワーウルフが立っていた。


「新手か・・・。ルーナ」

「了解です、司様」


 ルーナは俺の指示より先に銃を構え終えており、声が掛かると同時に射撃を開始した。

 一つの音も鳴らさずに、無数の弾丸が放たれワーウルフを襲ったが、其奴は其の全てを軽く躱した。


「やるなぁ・・・」


 俺の素直な感心した。


「あの動き・・・、もしかしたら魔石が成長しているのか?」

「そうかもしれません、どうしますか?」

「私がやりますわっ‼︎」

「ミニョンっ」


 そう言って駆け出したミニョンに、仕方なく俺もルーナに牽制の指示を出し続いた。


「やぁっ‼︎」

「・・・」

「はぁっ‼︎」

「・・・」

「何⁈」


 スピードで言えば此の中ではトップであるミニョンの攻撃すら軽く躱すワーウルフ。

 ミニョンの左の拳撃を、自らの左足を軽くすらせ半身を作り、隙だらけとなった小さな背中に向かい、丸太の様な右手を振り上げた。


「たあぁぁぁ‼︎」

「っ・・・」


 間一髪の所で俺の斬撃が間に合い、ワーウルフは其れを躱す為、攻撃を中止し俺達から距離をとった。


「つ、司さんっ・・・」

「大丈夫か、ミニョン」

「はいっ‼︎」

「ルーナっ、構わんから炸裂弾を喰らわせてやれ‼︎」

「⁈了解っ‼︎」


 此奴は何処か他の奴等とは違う。

 理論的なものでは無く感覚的にそう判断し、俺は魔石回収よりパーティの安全を優先した。

 丁度奴は俺達から距離を置いている今なら、炸裂弾に巻き込まれる心配は無い。


「行きます」

「・・・っ」


 ルーナが炸裂弾を放ち其の弾丸がワーウルフへと迫った。

 此処から弾丸に描かれた紋章が輝きを放つ・・・、そう思い自然と右手を握りしめガッツポーズの様な事をした瞬間。


「・・・」

「な・・・⁈」


 ワーウルフは其の右手で地面にアッパーカットを放ち、抉られた土がまるで噴火した火山の噴石の様に天に向かい放たれ、炸裂弾の弾丸を飲み込んで行った。

 其の先で紋章が輝き爆音と共に弾丸は破裂してしまった。


「此奴・・・。開けっ、混沌を創造せし金色の魔眼‼︎」

「・・・」


 昨日の激戦のくぐり抜けた成果か、俺は直ぐに此の異様な状況に対処出来た。


「静寂に潜む死神よりの誘い‼︎」

「・・・っ」


 大陸最強の剣士とも呼ばれるフォールも倒した此の魔法。

 ワーウルフの首を狙い、確実に仕留めたそう確信した一撃だった。

 然し・・・。


「な、何・・・⁈」

「・・・」


 魔法陣も形成されない真の無詠唱とでも呼ぶべき此の魔法を、奴は半歩後ろに下がり躱してしまった。


(馬鹿な⁈此の躱し方は・・・)


 俺が魔法を唱えた事で闇雲に躱したのならばマグレも有るだろう。

 然し、最小限の動きを見るに奴は、俺が何処を狙って、どのタイミングで魔法を放ったか確信出来ていたのだ。


「・・・ふっ」

「え・・・?」

「・・・」


 今此奴・・・、嗤った?


「狩人達の狂想曲‼︎」

「・・・」


 俺が闇の狼達を放ち、奴との距離を詰めに掛かった。


「・・・っ」

「ま、待てっ‼︎」


 俺の放った狼達を躱し其の場から駆け、立ち去るワーウルフ。

 当然、俺の声に応える筈も無く其の距離は開いていった。


「司様」

「馬で追おう、此のままには出来ない」

「了解しました」

「ミニョン、悪いが街に戻ってアームさんに連絡してくれ」

「私も追いますわっ」

「いや、万が一にも住民に被害が出てはいけないんだ。直ぐに人数を掛けて捜索した方が良いんだ。頼む」

「わ、わかりましたわ・・・」

「ルーナ、行くぞっ」

「はい」


 ミニョンに連絡を頼み、ルーナと追撃を開始した俺だったが、ワーウルフを発見する事は出来なかった。

 その後、アームも数人のリアタフテ私兵団を引き連れ合流してくれたのだが、結局陽が落ちても奴を発見するには至らなかった。


「司様、もう厳しいですよ」

「あ、あぁ・・・」


 辺りが夜の闇に包まれてきた事でルーナが俺にそう進言してきた。

 俺は正直ルーナの銃のスコープや灯りを使ってでも捜索を続けたかったのだが、疲弊した状況で奴を見つけたとしても仕留められる確信も無く、状況をルーナに報告し各所の守りを万全にして貰う様に頼み其の日の捜索は終了した。

 俺はその夜ベッドに横たわり奴の事を考えていた。

 あのワーウルフ、奴はその強さもさる事ながら、身に纏う雰囲気が他の奴等とは全く違うものだった。


(獣臭く無かったんだよなぁ・・・)


 通常の魔物なら吠える様な叫び声を上げる様な状況でも奴は無言を貫いた。

 そして何より・・・。


(あの時確かに嗤っていたよな・・・)


 その後の会話でミニョンもルーナも其れに気がついていない様だったが、確かに嗤っていたんだ。

 俺は其の短な嗤い声がリフレインの様に響き、その度に不安が増していくのだった。

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