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第65話


「あれ?司出掛けるの?」

「あ、あぁ・・・」

「ふ〜ん、何処に?」

「ちょっと、遠乗りにな」

「へぇ・・・」


 朝食を済ませ、学生トーナメント後用意して貰った馬の準備をしていた俺にローズが声を掛けてきた。


「一緒に行くか・・・?」

「え?う、ううん、良いわ。待ってるわ」

「そうか・・・、じゃあ」

「うん、いってらっしゃい・・・」


 ローズは俺からの誘いを辞退し、屋敷で待つとの事だ。


(正直助かったな・・・)


 今から行く場所にローズを連れて行く訳にはいかないし、かと言って予定を変更したくはなかった。

 ただ、少し寂しそうにしたローズに後ろ髪を引かれるのは感じたが・・・。

 乗馬は最近アナスタシアに勧められ始めたトレーニングの一つだった。

 曰く、ローズと正式に結婚となれば俺も貴族となる訳で、最低限の乗馬技術は必須との事だ。

 本当に最低限なのだが・・・。

 俺は此方に来て魔流脈を流れる魔力の影響で、飛躍的に身体能力の向上を見せていたが、そもそも器用さや感覚の掴み方など人より劣る事は自覚していた。

 乗馬には基本的に運動神経より、コツを掴む事の方が重要な様で、日々の鍛錬の成果が上がらない事に悩まされていた。


(そもそも今日は練習に託けた別の目的が有るのだが・・・)


 俺は毎朝眺める景色を馬で流した。

 そうして着いた先は、通い慣れてきたスタージュ学院だった。


「ふぅ・・・、馬車で来るとあっという間だけど、一苦労だな」


 俺は学院所有の馬を飼育する馬小屋の方に乗って来た相棒を繋ぎ、人気の無い校舎へと入って行った。

 クラブ活動等もあり、基本学院は休日でも校舎を開放していた。


(そうは言っても、本当に人が居るか疑わしいのだが)


 休日活動するのは文化系クラブが多く、校内に平日の様な活気は感じられなかった。

 その静寂の中をただ一人俺を待つ少女の下へ、早足で廊下を進んだ。

 最近では通い慣れたクラブ棟、見慣れたザックシール研究室の扉をノックした。


「開いてるわよ」

「ああ・・・」


 中に入るとフェルトが何やら作業をしていた。


「早かったわね?」

「ん?まあな」

「ルーナは連れて来なかったの?」

「え?あ、あぁ・・・」

「ふふ、突っ立ってないで座ったら?」

「お、おう」


 椅子に座りフェルトの作業を眺める俺。

 休日の校舎の静けさと沈黙の中、フェルトの作業の音だけが時計の針が刻まれる様に響いていた。

 どれ位の刻が過ぎただろう。

 自身の手先に集中していた視線を上げ、フェルトは大きく息を吐いた。


「・・・ねえ?」

「ん?どうした?」

「ふふ、飽きないの?」

「まぁな・・・」

「ふふ、やっぱり変わってるわねぇ」

「そうか?」

「ふふ、えぇ」


 そう嗤いながらフェルトは席を立ち俺の側へとよった。


「・・・」

「本当、変わり者よ・・・」

「お前だってそうだろ?」

「お前・・・、ねぇ?」

「っ・・・、フェルト」

「ふふ、良く出来ました。・・・んっ」


 子供を褒める様な口調でありながら、然し其の声は何処までも艶っぽいものだった。

 そしてフェルトは言葉尻と共にその唇を俺の其れに重ねてきた。

 学生トーナメントの日。

 ルーナの魔力供給のレクチャーに示した其れからもう何度目だろうか?

 フェルトと重ねた口付けはローズとの其れを上回っていた・・・。


「ふふふ、仕方のない子」

「・・・っ」


 揶揄うフェルトの華奢な肢体を乱暴に抱きしめる。


(壊してしまえれば良いのに・・・)


 俺は必死に其の衝動を抑えながらも、机の上にフェルトを横たえ、自身のリビドーを注ぎ込んだのだった。



「・・・」

「どうしたの?」

「いや、器用なもんだなと思って」

「え?ふふ、そう?」


 事後、何時もの様にフェルトは髪を直していた。

 ただ其れは何度見ても、どの様に編み上げているのか構造が解らなかった。


「ふふふ」

「・・・」

「そんなに真剣に見られると、流石に落ち着かないわね」

「あぁ、すまん」

「ふふ、まぁ良いけど」


 その後作業に戻ったフェルトと別れ、俺は馬小屋に向かい廊下を歩いた。


(こういう所も対象的なんだよなぁ・・・)


 フェルトは情事の後でもピロートークの様なものを求める事は少なかった。

 これがローズなら離してくれず、腕枕まで求めてくるのだが・・・。

 俺は少し寂しくもあり、何処か気楽さも感じていた。


(勝手なもんだなぁ・・・)


 そんな風に自身を責めたりしてみた。


「真田様」

「え⁈フレーシュ・・・」

「どうも」

「あ、あぁ・・・」


 丁度、校舎の入り口の扉に差し掛かった時、呼び止める声に振り向くと、其処にはフレーシュが立っていた。


「ど、どうしたんだ?」

「・・・」

「お、おい?」

「はぁ・・・」


 フレーシュは何時もの何をするのも面倒くさそうな態度で溜息を吐き一枚の手紙を取り出した。


「私が真田様の前に来るのはこれしか無いでしょう」

「あぁ、またか・・・」

「ええ、お嬢様からです」

「はぁ〜」


 今度は俺が溜息を吐く番だった。

 俺達が勝利した学生トーナメント以降、ミニョンは時には直接、また時にはこの様にフレーシュが手紙を届ける形で、俺に勝負を挑んできた。


「そろそろ諦めさせてくれないか?」

「それはご自身で頼んで下さい」

「そう言われてもなぁ・・・」

「とにかく間違い無く、お届けしましたので」

「・・・」

「それでは失礼します」

「あっ」

「・・・何か?」


 フレーシュは俺に手紙を押し付け、足早にこの場を去ろうとした。

 俺は何も考えずに、つい呼び止めてしまったが、フレーシュは背を向けたまま応えた。


(確かにそんな親密な関係では無いけど、何かこの娘からは距離を置かれている様に感じるんだよなぁ・・・)


 俺は勿論それで構わないのだが、ついそんな事を考えた。


「何も無いなら失礼します」

「あ、あぁ、じゃあな」

「こんな・・・」

「え?」

「・・・」


 フレーシュは何かを呟いたが、問い掛けた俺を振り返る事はせずに去って行ったのだった。


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