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第38話


「ふう、こんなもんか」


 俺は自身の極秘のアイテム達をアイテムポーチに収めて一息吐いた。

 ドアに鍵を付けて貰ったとはいえ、不測の事態に備えて俺はそれらのアイテムを常に持ち運ぶ事にした。


(これで、一安心だな・・・)


 このポーチはアームから買った時に既に登録していて、俺以外の人間が中身を取り出す事は出来ない。

 俺がもし何らかの理由で死んだ場合は中の物も消滅するとの事だ。

 その安心感はどんな大手銀行の金庫よりも優れていた。

 そうして作業を終えた後、俺は演習場へと移動した。

 日中の為演習場にはアナスタシアは居らず、独占状態だった。


(助かるな、今から試す事は他の人間を巻き込みたく無いし・・・)


 俺は今日、冒険者登録をして現在パーティは俺とローズの二人だけだ。

 これは普通に考えても少ないし、何より偏った編成と言えるだろう。

 人数については二人という事はどちらかが、一時的でも戦闘不能に陥れば、その間残り一人が戦闘を行いながら、もう一方の防御も請け負うという事で、そんな事は比較的安全に戦えたワーウルフ戦でも無理だっただろう。

 何よりこのパーティ最大の欠陥は俺もローズも魔法を主体とした戦闘スタイルという事だ。

 あのダークエルフが使った魔封の術、あれに再びかかる様な事があれば、俺達の現在の実力では即全滅を意味していた。

 そう思い俺は取り敢えずルチルの勧誘をしてみたのだが、その答えは・・・。


「う〜ん、保留」

「保留?」

「うん、二人と一緒なら楽しそうだし、何より稼げそうだけど・・・」

「それなら・・・」

「でも、返事は待って欲しいな、僕自身の修行もあるし」

「そうかぁ、わかった」

「ごめんね、でもお声が掛かったのは嬉しかったよ」


 との事である。

 感触は悪くは無かったが、即加入とはいかなかった。

 他にアナスタシアにも声を掛けようと思ったのだが、こちらはローズから屋敷の警備もあるのでアナスタシアを冒険に連れ出す訳にはいかないと言われた。

 確かにアナスタシアはローズの専属で、ローズも俺との婚約が正式に成立し次期当主へ一歩前進したとは言え、現当主はリールであり、リアタフテ領内に於ける最重要地はこの屋敷なので仕方ない事だった。

 そうなってくると今は個々の実力を上げるのが肝要と言えた。

 剣術についてはアナスタシアから、基礎体力上昇についてはルチルから、停学中も毎朝トレーニングを受けていた。

 これらは一朝一夕にして、飛躍的向上は望めないし、継続こそ己が力になる。


(そうなると賭けてみたいのが・・・)


 俺はアイテムポーチから大魔導辞典を取り出した。

 この辞典は俺が日本にいる時から日々書き足していた物だった。

 そして、昨日の夜新たなページを書き加えた・・・。

 何故か?

 それにはローズとリールと交わしたやり取りがあった。


「え、俺がリーダー?」

「勿論でしょう」

「いや、それはローズが」


 ある日の食後、俺、ローズ、リールは食卓でお茶を飲んでいた。

 ルチルは食後の腹ごなしに、アナスタシアはアンを引き連れ片付けに行った。


「お母様が昔パーティを組んでいた時も、リーダーはお父様だったのよ?」

「そうなんですか?」


 リールに問いかけると答えはイエスという事だった。

 ただ俺はこの歳まで生きてきて、学校や職場に於いて全くリーダー経験が無かった。

 そういう事は責任感の強いローズがやるべきだと言ったが、ローズの答えはノーだった。


「冒険者パーティに於けるリーダーに責任感が要らないとは言わないけど、最も重要なのはその相手に命を預けられるかよ、私はこの命司になら預けられるわ」

「だが・・・」

「とにかくこれは決定事項だから」

「あらあらぁ」


 決定事項と言い一方的に話を打ち切ったローズに俺は何も言い返せなかった。

 このまま結婚まで行ったら、完全に尻に敷かれる事だろう。

 まあ将来的に俺がリーダーなのを理由にパーティ入りを断られる事とかあれば、ローズの気も変わるかもしれないので、取り敢えず受け入れる事にした。


「でもぉ、懐かしいわぁ」

「?」

「ふふ、昔ダーリン達と冒険者をしていた時の事を思い出しているのぉ」

「ああ、なるほど」

「ダーリンは立派なリーダーだったわぁ」

「やっぱり強かったんですか?」

「うふふ、そうねぇ、でもぉ今程では無かったけどぉ」

「そうですか」


 リールは度々旦那の惚気を俺に聞かせるので、今夜も始まるのかと思い少しゲンナリしたが、今夜は少し真面目な顔をして俺に告げてきた。


「司君?」

「は、はい」


 あれ?今日は何もしてない筈だけど、そう思いながら姿勢を正した俺だった。


(少し前までこの口調でかなり厳しい事を言われ続けたからなぁ)


「優れたリーダーって、どんな人だと思う?」

「優れたリーダーですか?やっぱりリーダーシップに優れた人ですか?」

「それが間違いだとは言わないわ、でも・・・」

「でも?」

「ケンイチさんは私が知る中で最も優れたリーダーよ」

「はぁ」

「今はパーティは解散して、皆んな其々の道を歩んでいるわ。何故か解る?」

「・・・」


 パーティ解散って、優れたリーダーだって言えるのか?

 だが、リールから告げられた優れたリーダーの条件は余りに当たり前で、冒険者としてデビューしてない俺でも理解出来るものだった。


「其れは数々の冒険を経て、私達パーティは一人もその命を失う事が無かったからよ」


 それはそうだろう。

 そして俺は新たな一歩を踏み出す為の実験に入るのだった。

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