第268話
「此れが先程の?」
「あぁ、土龍だと思われる」
「では、此の島にドワーフの国が?」
「いや、それはどうだろうな」
「え?」
不思議そうな顔をしたルーナに、俺はラプラスから仕入れていた、ゼムリャーの情報を伝えた。
「・・・本当でしょうか?」
「疑わしいですわっ」
「信じられませんね」
「・・・」
ルーナ、ミニョン、フレーシュは3人共に、ラプラスの発言を信じる事は出来ない様だった。
「そんな巨大な龍なら既に発見出来てると思いますが?」
「そうですね。それに噂が伝わって来るかと」
「何より、あの男の言う事など、信じられませんわっ」
「・・・」
「そうでしょうか?」
「アナスタシア・・・」
「私はラプラス様が、そんな嘘を吐くと思えないのですが?」
「「「えー」」」
「・・・?どうしたのですか?皆様?」
「信じられませんわ・・・」
「え?」
「司様、アナスタシア様は、あの男に何か弱味でも握られているのですか?」
「ルーナ・・・。それは無いぞ」
「はぁ・・・」
「・・・」
本当に困惑した様子のアナスタシアに、3人は若干引き気味だった。
(まぁ、アナスタシアはラプラスに世話にはなっているし、3人の様に殺されかけて無いからなぁ・・・)
「それで、どうするの、司?」
「ん?」
「私の分からないところで、話を進めないでよっ」
「あ、あぁ・・・」
此処に居る中でただ一人ラプラスと面識の無いアンジュ。
彼女は既に落ち着きを取り戻している様で、いつもの調子で自身の加われない話を打ち切り、俺へと結論を急かして来た。
「とりあえず、船に戻るか」
「ええー、どうしてよ?」
「此の島を本格的に探索する為だ」
「なら、今から・・・」
「いや、探索は明日の朝からで、お前には船に残って貰う」
「ええー、何で⁈」
「・・・当然だろ?さっきの事を忘れたのか?」
「うっ・・・、あ、あれは」
「それが嫌なら、今すぐ転移の護符で帰って貰う」
「うぅぅぅ」
「・・・はぁ〜」
分かりやすく不満げな表情で頰を膨らませたアンジュ。
俺は溜息を吐き、船へと歩み出した。
「・・・ディア?」
「・・・」
「おい、帰るぞ」
船へと移動を開始した一行だったが、一人だけ固まった様に船とは逆の方向を見据えているディア。
「ちゅかさ、なんかいるっ」
「え⁈何処だ⁈」
「あっち」
「・・・どの位の距離だ?」
「あのたかいとこ」
ディアの指差した先は、岩の丘になっていた。
「ん?ルーナ」
「はい・・・・・・、何も無い様ですけど?」
「ちがう、うえじゃない。あのなか」
「中って、洞窟になってるのか?」
「しんないっ」
「・・・なら、どうして?」
「はぁ〜・・・」
「・・・」
ディアは態とらしい動き交えつつ、溜息を吐きながら、両手の親指と人差し指を、鉤括弧の形にすると・・・。
「何を・・・、っ⁈」
「・・・しっ‼︎」
「・・・」
両手に魔法陣が詠唱され、寄せていた両手を離すと、長方形の炎の枠が出来あがった。
其の炎の枠を真剣な表情で覗くディア。
(何か見えるのか・・・?ん?何も・・・)
「はぁ〜・・・」
「・・・っ」
「ちゅかさって、ほんとばか」
「・・・」
「これはそういうまほうじゃない」
「なら・・・」
「あたしにはみえる。ちゅかさにはみえない。そういうまほう」
「中に何が居るんだ?」
「はぁ〜・・・」
「いや・・・」
「みえるわけないでしょ?」
「え?じゃあ・・・?」
「そんなべんりなまほうじゃない。けはいをさっちできるだけ」
「そうなのか」
「そう」
ディア曰く、彼女が細かく観察した事のある人物なら、近距離なら特定も可能だという事だった。
然し、この距離ではそれも不可能だし、アルティザンは会った事も無いので勿論だが、ブラートの様に闘った事がある相手でも、特定は容易では無いとの事だった。
「ディア、大人の形態になっても無理なのですか?」
「・・・さあ?」
「試してみなさい」
「・・・」
「ディア・・・、あな・・・」
「まぁ、良いよ、アナスタシア」
「司様・・・、ですが」
「良いんだ。ディア」
「・・・なに?」
「とりあえず、明日近づいてからもう一度頼む」
「・・・しんないっ」
「まぁ、そう言うなって。ほらっ」
俺はアイテムポーチからチョコレートを取り出し、ディアの口へと放り込んだ。
「もぐもぐ・・・」
「なっ?」
「ふんっ。ちょこなんかでつられないもんっ」
「まぁまぁ・・・、そらっ」
「もぐもぐ・・・」
俺がもう一粒チョコレートを放り込むと、ディアは小さな頰を目一杯膨らませ、その甘さと香りを楽しんでいた。
「良いのですか、司様?」
「あぁ、構わんさ」
「そうですか。司様がよろしいのでしたら・・・」
「・・・」
アナスタシアの怒りも分かったが、珍しくディアが協力的になっているのだから、今は無理矢理にやらせるべきでは無いだろう。
(先日の件が効いたのかな・・・?)
「こんなんじゃ、たりないっ」
「はいはい、ほらっ、も一つ」
「もぐもぐ・・・」
俺は再びディアの口へと、チョコレートを放り込むのだった。




