第261話
「どうだ?」
「そうねえ・・・、あとはテストして結果を見ない事にはねえ」
「そうかぁ。ただ、転移の護符自体の数がなぁ・・・」
「無駄遣いし過ぎなのよ」
「うっ」
「ふふふ」
今日はディシプルへと、フェルトの船の改造に同行していた。
「此の船室ってどういう仕掛けになってるんだ?」
「ふふ、説明しても分からないわよ」
「それはそうだろうけど・・・」
「ふふふ、不貞腐れないの」
「・・・」
船室の1つ、其処はフェルトにより改造を施され、制御装置で壁が埋め尽くされていた。
「簡単に言うと、多少の位置のズレを補正してくれるわ」
「なるほど、何キロ位だ?」
「ふふ、流石にキロは無理ね。数百メートル位よ」
「そうかぁ」
ただ、それでも十分と言えるだろう。
「それで、いつ出航する気なの?」
「あぁ、フォール将軍が近いうちに船乗りの紹介をしてくれるから、それからだな」
「ルーナは連れて行くのでしょう?」
「そのつもりだが、メンテナンスは大丈夫かな?」
「あまり荒事が続く様なら、私の所へ連れて来なさい。出航迄にはメンテナンスと転移の護符の追加も行うから」
「あぁ、助かる」
フォールは既に船乗りに連絡を取り、準備を始める様、指示をしてくれているとの事だ。
「あ〜あっ、あああ〜」
「あぁ、ただいま、凪、颯」
「・・・っ」
「颯、おかえりでしょ?」
「・・・あ〜」
「はは、ただいま」
ディシプルでの作業を終えたフェルトを送り届けた俺は屋敷で、ローズと子供達の出迎えを受けていた。
「どう?順調?」
「あぁ・・・。ローズ」
「何?」
「すまない、また家を空けてしまう」
「・・・良いの」
「ローズ・・・」
「言ったでしょう?私、男の人の仕事の邪魔をしたりしないわ」
「・・・」
「でも、気を付けて行ってきてね」
「あぁ」
子供達の事をローズに任せ、ドワーフの国への旅を決めた俺。
ドワーフの国はディシプルから北に半月程行った所にあり、秋迄には出航したかった。
「でも、急よね」
「冬になると海が荒れるから、俺達にはキツイっていうのが船長の判断だからな」
「そう。ドワーフの国の正確な場所は?」
「・・・ううん」
「もうっ、あの女も隠す事無いのにっ」
「仕方ないさ」
結局、あの後シエンヌに掛け合ってみたが、情報は得られず、フォールを通じて頼んではいるのだが・・・。
「幾つかの島々の中の、1つに有るらしいんだけど・・・」
「1つずつ当たるの?」
「あぁ、最悪はな」
ただ、島国なら海近くでの戦闘に持ち込めれば、ゼムリャーとの戦闘を優位に進める事が出来るだろう。
「ミニョンとフレーシュはどうするって?」
「フレーシュの方は許可が下りたけど、ミニョンは・・・」
「そう・・・。あの娘も大変ね」
今回の旅、ミニョンとフレーシュからも同行の申し出が有り、俺はデュックから許可を得る事を条件に受けたのだが、ミニョンはデュックの妻、つまり彼女の母が反対しているらしかった。
「でも、本当に良いのか?」
「何が?」
「アナスタシアの事だよ」
「ええ、本人からの申し出だし、私も心配だから」
アナスタシアは自ら同行をローズに申し出て、其れをローズも了承したのだった。
「でも、屋敷の事は・・・?」
「アンが頑張ってくれるわ」
「守りは?」
「お爺様も居るし、ルチルも来てくれるって言ってるし、バドーも暫く滞在するしね」
「そうかぁ」
ケンイチは既に任務の為、王都に戻っていたが、バドーは屋敷を拠点にディシプルと王都を行き来していた。
グランは本気で凪を育てるつもりらしく、メールと共に屋敷に残っていた。
(ルチルは旅に誘ってみたが、学院もあるし断られていた)
曰く、僕は皆んなと違って庶民なのだから、親に学費を払って貰っているのだから、学院を長期で欠席する事なんて出来ないそうだ。
「まぁ、尤もだな」
「え?どうかしたの?」
「いや、こっちの話だよ」
「そう?」
「そういえば、アンジュはどうするつもりなんだろうな?」
「・・・」
「ローズ?」
「本当にしょうがない娘なんだからっ」
「は、はは・・・」
アンジュは、結婚式の時に此方に来ていたエヴェックと共に、王都に帰る様リールに言われたのだが、当初の予定通りヴィエーラ教本部からの返答が来る迄此処に残ると言って聞かなかった。
「あ〜あっ、うう?」
「ん?凪、ママの言う事聞くんだぞ?」
「う〜‼︎」
「ふふ、大丈夫よね?」
「颯もだぞ?」
「・・・っ」
「ふふ、颯は本当に・・・」
「ローズ、頼んだぞ」
「司・・・、ええ」
俺の出航の日は近づいて来ているのだった。




