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第162話


 リエース大森林の捜査から解放された翌日。

 再びダンジョンへと向かった俺達一行。

 今日は前回と対照的に魔物との遭遇が少なくなっていた。


「どうかしたのかな・・・」

「そうですね、静か過ぎる気がしますね」

「・・・」

「ディア」

「何じゃ?」

「魔物の気配は感じるか?」

「う〜ん・・・」


 考え込む様に、其の切れ長で端麗な双眸の上の眉間を歪めるディア。

 1ヶ月程のダンジョン探索で分かった事だが、ディアの察知能力は俺達の中ではトップだが、決して優れた獣人の持つ其れには及ばなかった。

 そんな事実も有り、ディアに助けられる事も有ったが、逆に危機に陥る事も有った。


「無いな・・・」

「う〜ん、そうかぁ・・・」

「どうしますか、司様?」

「そうだなぁ、どちらにせよ進まないといかないからな」

「当然、進むべきですわっ」

「そうですね・・・、現実問題、今日は疲労も有りませんし」

「そうだな、良し行こう」


 俺がルーナから顔を覗き込む様に問い掛けられ悩んでいると、何時もは対照的なミニョンとフレーシュの意見が一致し、俺の選ばなければならない答えの背を押した。

 そうして、ダンジョン奥へと進む俺達。

 其処から二時間程進んだが、結局魔物とは遭遇しなかった。


「う〜ん・・・」

「司、そろそろ帰らない?」

「そうだなぁ」

「今日は成果無しだったね」

「あぁ、こんな日もあるだろう」

「そうだね、まあ、先頭は僕達だろうし、焦る事は無いだろうしね」

「そうだな。良し、皆んな戻ろう」


 少し肩透かしを喰らった形だが、次回の為の帰還の護符をセットし、ダンジョンから脱出する俺達。

 様子見の為に明日は休暇にし、明後日朝から探索を再開する事にした。


 翌日、ギルドへとアイテムの買い出しに来ていた俺とルーナとディア。

 最近は懐も暖かく大量にアイテムを買い込み、俺達は街を歩いていた。


「ちゅかさ〜」

「駄目です」

「まだ、なにもいってないっ」

「お菓子は買いません」

「ぶぅ〜」

「・・・」


 俺はディアに駄々を捏ねさせる隙も与えず、馬車へと急いだ。


「これは、真田様」

「え?ルグーン殿・・・」

「買い出しですかな?」

「はい、ルグーン殿は?」

「少し早いですが、朝を抜いていたので昼食を」

「そうですか」

「・・・」

「・・・」


 街の入り口、馬車を停めている場所に着くと、ルグーンと出くわした。


「どうですか、ダンジョン攻略は順調ですかな?」

「ええ、何とか」

「そうですか、それは良き事ですね」

「はい」

「・・・」

「・・・」


 その後、ルグーンと別れて、馬車で屋敷へと戻る途中。


「あたし、あのひときらい」

「え?あの人って、ルグーン殿の事か?」

「なんか、いや」

「どうしたんだ、ディア?」

「私も余り好ましく感じませんね」

「おいおい、ルーナまで・・・」


 馬車の中で突如として、ルグーンに対し嫌悪感を示し始めたディアとルーナ。

 俺が理由を聞くと2人共、雰囲気や何となく等抽象的な理由を述べた。


(何となくも非道いが、雰囲気って・・・)


 俺の感じるルグーンの印象は、全く特徴が無いのが特徴という感じの、他人に嫌悪感を与えるものでは無かったのだが、どうやら2人にはちょっと違って見えるらしい。


(ディアだけならともかく、ルーナまでそんな事を言うとはなぁ・・・)


 俺はそんな2人をどうする事も出来ず、屋敷へと馬車を走らせるのだった。


 翌朝、待ち合わせ場所のダンジョンへと向かうと、既にルチルが待っていた。


「おはよう、早いね司」

「あぁ、おはようルチル。此奴が寝坊しなければ、もっと早かったんだがな」

「むにゃむにゃ・・・」

「そういえば、泊まりに行ってだ時も、早かったよね」

「まあな、また来いよ。ローズも喜ぶし」

「うん、赤ちゃん生まれたら、行かせて貰うよ」

「ぐう〜・・・、すう〜・・・」

「・・・」


 未だ幼児形態で俺に手を引かれ、寝ているディア。

 俺はその頭にげんこつを落とした。


「いたっ・・・。なにすんのっ、ちゅかさっ」

「俺じゃ無いぞ」

「ちゅかさいがい、こんなことしないっ」

「・・・さあて、どうかな?」

「むう〜」

「・・・早く、戦闘形態になれ」

「ぶう〜・・・、ふんっ」

「・・・」


 頬を膨らませながらも、九尾の銀弧の姿になるディア。

 そうしていると、ミニョンとフレーシュも合流し、俺は昨日買ったアイテムを其々に配り、帰還の護符を使いダンジョン探索の再開場所に向かった。

 其処から魔物に出くわす事無く30分程歩いた所・・・。


「・・・むっ」

「どうしたディア?」

「この先、集団がいる」

「久々だな、数は?」

「・・・」


 確認が取れないのか、首を傾げるディア。


「ディア?」

「此方の倍位かの?」

「・・・そうか」


(察知の精度が高く無いのは仕方無いかぁ・・・)


 そもそも、他にその能力を持つ者が居ないのだし、敵の存在に気付けただけマシだろう。


「良し皆んな、其々の役割通り頼むぞ」


 俺の言葉に皆、一斉に頷き、俺達は魔物達が待つ地点へと進んだ。

 着いた先は、此のダンジョンの空間の中では1番の広さだったが、学院の武道場よりは一回り狭かった。


「居るなぁ」

「うん、200万オールだね」

「・・・」

「司?」

「あぁ、そうだな・・・」


 ルチルの中で、アークデーモンは既に値段で表現される存在になっていた。

 空間の中で待ち構えていたアークデーモンは10匹だった。


「司様っ」

「どうした、ルーナ?」

「後ろです‼︎」

「え?」


 後衛に控えていたルーナから、日頃は聞かれない声色で呼ばれた俺。

 其のルーナの方に視線を向けると、其の先の俺達が先程歩いて来た通路・・・。


「な、な・・・⁈」

「どうしたの、司?」

「皆んな‼︎前方の敵を頼む‼︎」

「え⁈司さん?」

「集中しろっ‼︎」


 問い掛けに応える間も惜しく感じ、通路の入り口に向かい駆ける俺。

 駆けながらも詠唱を行う。


「狩人達の狂想曲・・・、フルバースト‼︎」


 描かれる九十九門の魔法陣。

 其処から闇の狼達が生み出され、一斉に通路に向かい駆けた。

 待ち受ける通路の先迄を埋め尽くすアークデーモンの群れ。

 其の数は100は超えているだろうが、数える事は出来なかった。

 俺達は挟み撃ちを受けていた。

 先頭のアークデーモン達を押し潰して行く狼達を見て、俺は再び魔法の詠唱を行う。

 鳴り響く魔物達の阿鼻叫喚の咆哮に、俺は何処か歪んだ興奮を覚え3度目の詠唱を行なった。

 動悸を覚え、身体の節々が地面に飲み込まれて行きそうな程の脱力感を覚えるが、未だ視界の先には健在なアークデーモンが見えた。


「はぁはぁ・・・。狩人達の狂想曲フルバースト‼︎」


 4度目の詠唱に膝は遂に地面へと落ちた。


「はぁ・・・、はぁ・・・、くっ‼︎」

「司様‼︎」

「ルーナ‼︎集中しろっ‼︎」

「・・・はいっ‼︎」


 俺を心配し此方に声を飛ばすルーナに、怒声で応え自らに気合いを入れ直す。

 アイテムポーチから魔力回復薬を取り出し一気飲みし、僅かに膝に力が戻るのを感じ立ち上がる。

 既に残るアークデーモンは20前後。

 俺は5度目の詠唱を行い、止めを刺したのだった。

 合計495匹の闇の狼の群れが駆け抜け、通路にはアークデーモン達の角や手にしていたであろう、短剣、槍、斧や鋼の肉体を形作っていた肉片等が散乱していたが、其の全てが鮮血で深紅に染め上げられていた。


「はぁはぁはぁ・・・」


 俺はアイテムポーチから魔力回復薬を乱暴に取り出し5本流し込む。


「・・・ふぅ〜」


 やっと動悸は解消され、節々の言い様の無い脱力感が引いて、脳が働く。


(そういえば、皆んなは・・・)


 慌てて振り向くと其処には既に倒れた9体の魔物達の死体と、最後の1匹を射撃で倒すルーナが映った。


「ルーナ」

「司様、大丈夫ですか⁈」

「あぁ、もう大丈夫だ」

「そうですか、良かった・・・」

「あぁ、ありがとう」


 俺の無事を確認し胸を撫で下ろしてくれるルーナ。

 他の皆んなにも安堵の表情が見え、俺は嬉しく思った。


「うわ〜、其れは・・・」

「ん?あぁ・・・」

「魔石取るのが大変そうだね」

「そうだなぁ」


 ルチルからの言葉に俺は心底げんなりした。


(どうしようかなぁ・・・、此のままにしとくのはもったいないし・・・)


 数もそうだが、血の海と化した通路を見て俺が魔石の取り外しに苦慮していると・・・。


「あれ?ルチル?」

「え?何、司?」


 ルチルの足下に、何か違和感を感じた。


(魔力の流れが変なんだ・・・)


 そう思った・・・、刹那。


「ルチルッ、後ろだ‼︎」

「え⁈」


 ルチルの背後、足下の影から現れたのはアークデーモンを一回り大きくした様な、然し明らかに雰囲気の違う者だった。


(魔物か・・・、いやあれは鬼?)


「な、何だ、此奴っ」

「ルチル‼︎」

「分かってるよっ、とりあえず・・・倒す‼︎」


 ルチルの拳が鬼の姿を持つ敵に襲い掛かるが・・・。


「な⁈・・・っ」

「ルチルーーー‼︎」


 敵は其れを叩き落とし、前傾になってルチルへとカチ上げる様に、己の右の二の腕を振り上げた。

 声も上げる事も出来ずに、まるでその場だけ重力が無くなったかの様に、空中で一回転するルチル。

 うつ伏せで地面に叩きつけられたルチルは、ピクリとも動かず、俺の咆哮だけが虚しく響くのだった。

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