『あの日から、先輩のことが大好き、なんです!!』
艶やかな長い黒髪と大きな瞳を潤ませて、自分の名前の果実に負けないほど真っ赤な顔で、可憐な少女は告白をした。
『ーーごめん、嬉しいけどその気持ちには答えられない』
『ーー!!分かって、ました。先輩の気持ちが私に向いてないのは。でも、この気持ちが無くなるまで、先輩のことを好きでいさせてください』
泣きたくて、泣きたくて仕方ないはずなのに、その少女は、涙を堪えながら、美しく微笑んだ。
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「はぁああああ!!!!????なんでマイエンジェル林檎たんが振られてんだよ!!!!この主人公目が腐ってんじゃねぇの!????」
「おねえ、うるさい」
ポコンと投げられたティッシュ箱が私の頭に当たる。
そんなことよりも、今はこの漫画の!!!私の愛読書である「恋する果実」の展開が気に入らない!!
この漫画は、少年漫画誌に連載されているちょっとエッチなラブコメディである。元々私は、この少年漫画誌を別の漫画を目的で買っていたのだが、ある時の表紙を見て一目惚れしたのだ。
ーー「恋する果実」のヒロインの1人である筒野林檎に。
艶艶とした腰まである黒髪に、雪のような白い肌、そしてパッチリとしたお目目に、林檎のような赤い唇。
紛れもなく、美少女である。
まじで、私の好みであったのだ。別に百合とかそんなじゃなくて、単に私の好みの顔がたまたま女の子であっただけである。
気がつくと「恋する果実」を一気買いしていた。
そして、それを読んでからは私は筒野林檎という少女にどハマりしていったのだ。
外見もさることながら、中身も私の好みであったのだ。
林檎は、初めは内気な地味っ子であったのだが、親友をいじめから庇ったことにより、自分もいじめられていたところを、主人公に助けられたのだ。
そして、主人公に恋をしてからは、強くなろう!可愛くなろう!と努力している女の子である。
本当に初めの林檎は内気すぎる子であったが、とても優しい子であるのだ。親友の虐めを止めるところの「私は、もう逃げません!」っていうところはすごく心に響いた。
主人公に恋してからは、そこから花開くように可愛くなっていったのだ。まじ、夏祭りのあの変わりようは可愛すぎて拝んだ。美少女の浴衣って最高やんな。
努力している彼女の姿に私はずっと応援していた。
物語は、メインイベントのバレンタインデーであった。
その日に、林檎はすべての勇気を出して主人公に告白をしたのだ。
告白をした時の林檎は赤くなる頬に、赤いマフラーと茶色のダッフルコート
と完璧に最高に可愛かった。
それだというのに。
「なんでうちの可愛い林檎たんが振られてんじゃあああああ!!!!!は????この男まさか、あのツンデレに行くわけ?あの???ほとんどツンデレと金持ちと胸ぐらいしか特徴のない金髪ポニテールにいくわけ?け???????は?????舐めてんの???」
「おねえ、怖い」
林檎たんの胸は慎みを持っているんだからな!!
弟が何やらドン引きしているが、私はそれどころではない。
は????え????嘘だろ?あんなに努力して可愛い子を選ばないとか主人公本当にどうかしてない???頭大丈夫???
「林檎がくっ付かないことぐらい分かってたじゃん。どうみても、その漫画は檸檬が正ヒロイン枠だろ」
「マジレスやめろ」
あと、今の私にその名は禁忌だ。
ちっ、どいつもこいつもツンデレ巨乳金髪お嬢様にハマりやがって。あれ、絶対に現実にいたらイラつく奴だからな。めっちゃイライラする奴だからな。
ツンデレ、ヤンデレ、俺様は2次元に限る。
「そもそも、それ漫画だから。2次元だから」
マジレスはやめなさい、弟。
お姉ちゃんが傷心中ってわかんない??察せない男はモテないわよ。
現実では、絶対に林檎たんみたいな子の方がモテるのに。
やはり、この主人公が節穴なのでは?
まじ、あり得ない。
こんなに健気で可愛くて天使で、可愛くて天使で、ずっと主人公のことが大好きだったのに。あんなに努力して、悩んで、勇気を出したのに。
「林檎、たん……」
「うわ、マジ泣きしてる」
うるせぇ!!お前も自分の推しが死んだ時ガチ泣きしてたの知ってんだからな!!姉弟の血を感じるわ。
林檎たんの気持ちを考えると、ほんとまじしんど過ぎる。
別に、檸檬が嫌いなわけではないのだ。確かに、檸檬のツンデレにきゅんきゅんと胸がときめいてしまうこともあるが。ちゃうねん!浮気じゃないのよ!!林檎ちゃん一筋だからな!!!
いくら、檸檬が魅力的であっても、林檎たんとの恋敵であるだけで、もうダメなのだ。
この後の展開において、恐らく檸檬がクソ(主人公)くっつくのだろう。非常に、誠に、本当まじで遺憾であるが、祝福しないわけではない。だって、檸檬自身も頑張っていたことを、知っている。
しかし、林檎たんがちゃんと幸せになった前提ならな!林檎ちゃんの未来が幸せじゃないのなら、絶対に許さない。
「いっそ、私が幸せにしてやるのに」
あんなクソハーレム主人公よりも、めちゃくちゃ愛してる自信ある。
絶対に、泣かしたりしないのに。
あんな、顔させないのに。
もう、林檎ちゃんを溺愛するしかない。
弟が投げつけてきたティッシュを鼻を思いっきりかむ。
「皐月ー!!あら?泣いてるの?それじゃあ、顔洗ってから、買い物行ってきて」
「それじゃあ、の使い方おかしくない!?」
なぜ、よりによって私を選ぶのですか、お母様。
そこにゲームをしている弟がいるじゃないですか!!
「だって、お米とかたくさんあるのよ。貴女なら、車でいけるでしょ?」
「おねえ、がんば」
「くそう!!!傷心中の社畜には優しくしろよ!! 」
母からメモとお金、タオルを貰って、顔を洗ってから外に出る。
あとで、ハピエンの林檎たんエンドのSSを探しまくろう。
現実逃避だと?ほっとけ。
それが、日向皐月の最期になるなんて、私は思いも知らなかった。