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【折れてくれ】折れない【第一話】

 風が鳴る。砂埃が舞う。真上に登った太陽の日差しよりも、周りの歓声が熱い。


 コロシアムの中心。二つの人影が、じっと互いを見据えている。片や頑強な肉体を持つ、大剣を構えた大男。片や背中に刀を携え、また別の小さな剣を手に持つ、黒いマフラーの少年。

 体格差も体力差も、歴然としていた。きっと少年の細腕では、男の一撃を受け止める前に折れてしまうだろう。だが、観衆はそれを承知で、やっちまえ、と野次を飛ばす。


 もはや、会場の中に少年の味方はいない。男は、にやりと下卑た笑みを浮かべて少年を見下ろしていた。



 先に動いたのは、男。自分の身長ほどもある大剣を大きく振りかぶり、その重さに任せて地に叩きつける。

 少年はすぐさま横に飛びそれを避けるが、自分のいた場所に突き刺さった大剣を見て、顔色を悪くした。



「ゴリラかよぉ……」

「んだと?」

「ひぇっ」



 遠心力に乗った脇腹を狙う斬撃に追われて、男から距離を取る。そのまま一瞬の読み合い。また男が少年に向かって走り出した。

 引き摺られた剣が、地面を抉って線を描く。男の間合いの中で、それでいて少年の間合いからは外れた位置。大剣と比較的小ぶりな剣という、武器のリーチの差から生まれた隙間。

 男はそこで、左下から少年の首目掛けて斜めに切っ先を振り上げた。


 軌道を逸らすことでそれから辛うじて逃れた少年だったが、剣が弾き飛ばされた上に体勢を崩し、さらに右から襲い来る横薙ぎの一撃を避けられない。そして、そのまま、少年の胴が切り裂かれて――。





 ギィンッ、と金属がぶつかり合う音がして、男の勝利を祝福する歓声が止んだ。

 少年の体は、どうしてか五体満足のまま、吹き飛ばされて地面に着地する。その手には、背に携えているだけだった刀が鞘に収まったまましっかりと握られていた。


 ふら、ふら。少年の体が不気味に揺れる。くつくつと押し殺したような笑い声が、次第に高笑いへと変わり、俯いた顔がゆらりと男に向いた。その歪みきった表情は、嘲りか、愉悦か。




「そんな(なまく)らで俺様を折れると思うなよ、ヴァーカ!」



 乱暴に響き渡った罵声を始まりに、今度は少年が駆け出した。我に返った男が咄嗟に大剣を少年に振り下ろす。少年はそれを、真正面から受け止めた。



 ばきんっ、と嫌な音が鳴り、何かが男の背後に落ちる。男の持つ大剣の剣先が、折れたのだ。

 少年は、驚きに硬直した男の顎下に思い切り刀の柄を叩き込む。そして、膝を付いた男の喉元に刀を突きつけ、悪辣に笑った。



 武器を破壊された男は、戦闘継続不可能と見なされる。よって、少年の、勝利だ。



 会場は、予想外の結果にしんと静まり返っていた。が、やがて試合終了の宣言がなされると、手の平を返したように拍手が起こり、逆転劇を演じてのけた少年への賞賛で埋め尽くされる。



「ハッ、身勝手なもんだなァおい」



 屈辱に体を震わせる男と沸く観衆を見比べて一等愉快げに喉を鳴らし、少年は刀を背に戻した。そして、取り落としてそのままになっていたもう一本の剣を回収すると、そっと男に近寄り、小さく頭を下げてその場を去る。



「また駄目だったかぁ……」



 少年の悔しげな呟きは、誰に聞かれるわけでもなく、熱気にかき消された。

喋る刀を折るために旅をする少年の話。刀に宿った悪魔を自分に憑依させることで強くなれるが、口調やら何やらも悪魔に乗っ取られる。

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