【Life are in game】Life is game 【第一話】
デスゲームが書きたかったのに全然違うものになったので没ったやつです。
人生とは、ゲームである。月並みな表現ではあるが、私は確かにそう思うのだ。御生憎様、私の人生はとんでもなくつまらない、いわゆるクソゲーなのだろうが、それは作者である私の裁量。
私ごときの残念なオツムでは、美しいストーリーなんてものは作れない。せめて出来ることといえば、自らを、切って、貼って、出来うる限りの主人公に成りすますくらいだ。
だがしかし、それすらなんとも儘ならぬ。もどかしさと羞恥に赤らんだ顔を悟られないようにするのがやっとで、理想像には近づけそうもない。
だからこそ私は、小説やゲームを創るという行為を好むのだろう。
小説やゲームは私にとって、自分の頭の中にある理想を実現させられる数少ない場所であり、憧れを昇華する唯一の方法でもある。
そして、出来上がった作品が誰かに面白いと認められたとき、この上ない幸せを感じることが出来るのだ。そのために必要なものを、必要なことを、たくさんに詰め込む作業が、何よりも好きだと宣言できる。
とはいえ、こんなにもアイデアに恵まれないと、辛いものがあった。今日も今日とて動かせなかった鉛筆を放って、机に突っ伏す。
その拍子に、ぽてり、と落ちた消しゴムを見つめていると、それが不意にひょいと摘み上げられた。
「お待たせ、ごめんねー用事長引いちゃって」
顔を上げると、友人――加賀美奈緒――の申し訳なさそうな笑みが目に入る。いつの間に来ていたのか。彼女の近づく足音にすら気が付けないほど考え込んでいたのかと自覚すると、脳みそが思い出したかのように疲労感を訴え始める。
はぁ、と溜め息を吐いた私の苦悩の内容を察したのか、加賀美はどこか呆れたように眉を下げた。またか、と言いたげな視線に抵抗する気も起きなくて、上げていた顔をまたぺしゃりと机に伏せる。
「スランプ、ねー」
「んー……なんかいいアイデア無いもんかね」
彼女は確か、そんなに本を読むほうではなかったはず。しかし、いっそ藁にもすがる思いでアイデアを求めてみると、一瞬考える素振りをした彼女はぱちんと手を打った。
「異世界召喚ってどう? ほら、最近流行ってるじゃん!」
「あー、面白いけど難しいかなぁ。そういう異世界ものを書こうとすると、魔法の原理から何から設定しないと気が済まなくなっちゃうから」
「へー、そういうもの?」
「少なくとも私はね。で、結局やりきれくて諦める」
「変なところで律儀だねー」
我ながら、厄介な性格だとは思う。全てに理由を求めてしまう、なんて、まるで聞き分けの悪い子どもみたいだ。
漠然としたものや不明瞭なものが苦手で、なんで、どうして、は最早口癖。まぁいいか、で割り切れないのは、きっと私の内面がまだ幼く未熟だからなのだろう。
はぁ、とまた一つ溜め息を落とすと、加賀美の指先が突然眉間に埋もれた。そのままむいむいと皺を伸ばそうとする彼女の、やけに真剣な顔が可笑しくて、私は思わず噴き出してしまう。
「ふ、あはは、何、そんなに皺寄ってた?」
「そりゃあもう、跡になるんじゃないかってくらい。あんまり根詰めすぎると、好きなものも嫌いになっちゃうよ?」
「それは困る」
「でしょ? ってことで、考え事は一旦終わり!」
彼女なりに心配してくれたのだろう。私が笑ったのを見て、安心した顔をする彼女は、本当に良き友人だと思う。そして、そんな良き友人を出会えたことが、この平凡な人生で数少ない非凡な出来事だったとも思うのだ。
筆記用具をしまいながら窓を見れば、灰色に染まった雲が空を埋めていっているのに気付く。
「雨なんて予報あったっけ」
「うわ、ほんとだ、めっちゃ曇ってる!」
「降り出す前に帰ろうか」
「うん!」
教材の詰まった重たいリュックを背負って、とたりとたりと歩く友人の隣に並んで、他愛のない話をする。今日の授業のこと、楽しかったこと、失敗したこと、嬉しかったことと、少しばかりの愚痴。
目まぐるしく変わる表情を眺めながら、相槌を打っていれば、いつの間にかお互いの帰路の分かれ道に着く。
「んじゃ、また明日ね!」
「はいはい。じゃあね」
いつものように手を振って、一つ先の曲がり角に消えていく加賀美を見送った。そして、完全に彼女が見えなくなってから、私はくるりと踵を返す。
訪れた静けさと日暮れの暗さ。ぱたり、ぽたりと、ついに降り出した雨が、アスファルトに模様をつけだした。私は、道路を塗り込めていく物憂げな黒に急かされるように、早足で一歩を踏み出す。
――その時だった、地面が、どぷんと沈み込んだのは。
「はぁっ!?」
驚いて足元を見ると、アスファルトが底なし沼のように、私の足を呑みこみ波打っているではないか。
更に、混乱する私を囲うように、漫画の中でしか見たことのないような魔法陣が現れる。その複雑な白線が一際眩く輝いたかと思うと、私の体は拠り所をなくし、落ちていった。
――日常の終わりは、思っていたよりも劇的で、呆気ないようだ。