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【生死流転】再、邂逅【第一話】

 勇者は、孤独な人間であった。良き王に、良き親に、良き仲間に恵まれているくせに、友人(りかいしゃ)と呼ばれる者には終ぞありつけなかった、哀れな青年であったのだ。

 それも、世界が彼の英雄たるを望まれたのであらば、致し方ないこと。英雄たる彼の孤独は、ごく当然のものなのだから。


 魔王(わたし)勇者(かれ)に殺され、そして世界はハッピーエンドを迎える。そのために、勇者が勇者であるためには、勇者に安寧は許されないのであるし、彼はそれをよく自覚していたと思う。

 だから、魔王(わたし)を殺した瞬間の彼の瞳には、世界を救った達成感よりも、その役割から解放される安堵が色濃く揺れていた。


 そうして、それは、私も同じであったのだ。魔王たる私も、魔王たれと才を(たまわ)り、しかし、その役割が為に孤独であった。


 勇者が魔王を殺す。そのストーリーは、世界が世界である以上、絶対に変わることのないもの。にもかかわらず、彼は死にゆく私に向けて言うのだ。


――ごめんな。


 わざとらしく澄まされたアメジストから、はらりと一片、涙をこぼして。だが、私は知っている。そうせざるを得なかったことも、どれだけその結末を拒絶しようと、無駄だったということも。


 私も彼も変わりない、世界の望むまま、望まれるように踊るオートマタなのだ。プログラムされた以上の行動をしたが最後、壊されて、塗り替えられて。その行く末は、闇の中。


「だから謝ってくれるなよ、英雄。仕方がなかったんだ」


 からり。すっかり変わってしまった彼の顔を眺めながら、アイスラテを喉に流し込む。ひんやりとした心地よさが、ここが現実であることを告げる。不思議と気分は落ち着いていた。


「いや、お前に会ったら謝るって決めてたんだよ。自分の前世を思い出した時から、ずっとな」

「律儀な奴。それは前世の影響かい?」

「さぁな。ただ、俺はお前を殺した。これは紛れもない事実だ。本当に、悪かった」


 深々と頭を下げた彼。さらりと、ごく一般的な黒髪が揺れる。


「少し、残念だなあ……」


 ぽそりと、口から言葉が漏れた。彼は、僅かに頭をあげて、訳が分からないという顔をする。その間抜けな顔が面白くて、私は小さく笑いながら彼の髪を軽く梳く。


「いやなに、あの美しい金色がもう見られないと思うと、惜しいなと思っただけさ。君の髪、実は結構好きだったのだよ」


 本当のことを言えば、ぼぼぼと顔を赤らめた彼。


「おや意外、照れているのかい? なんだ、言われなれていると思ったんだけれど、えらく初心な反応をするじゃないか」

「お、驚いたんだよ……お前、そんな、優しそうな顔できたんだな」

「あっはは、もう魔王じゃないからね、眉間に皺を寄せておく必要もないのさ……そしてそれは君も同じ。君だってもう勇者なんかじゃないんだ、気楽に生きるといい」

「あぁ……そうか、俺たちはもう、自由なんだよな」


 其奴は噛み締めるようにそう言うと、安心したような、泣きそうな顔になる。なるほど彼は、どこまで行っても真面目らしい。つくづく損な性格だ。だからこそ、私は彼を気に入っているのだけれど。


「ねぇ英雄くん」

「……なんだよ」

「友人になろう」

「……は?」


 きょとんと瞠目した彼。期待通りの反応に、にまりと笑いかける。


「君と私、なかなか相性は良いと思うよ?」


 君は、友人を作るには些か不器用すぎる。私は、誰かと親しくする術を少しも知らない。ほら、丁度いいじゃないか。きっと、良き友になれる。

 彼の瞳に期待が宿る。人間らしい、欲望のこもった目。勇者であった頃の彼が、絶対に出来なかった顔つきだ。


「ほら、友好の印に握手でもしよう」


 差し出した手に、恐る恐る重ねられた彼の手。たこ一つない、無骨だが綺麗な手だ。剣を持つ必要のない世界だからこそ、実現したこの状況。私は、それが、酷く嬉しかった。


「これからよろしくね」

「あぁ、よろしく」


 一度目は散々だったんだ。二度目の人生、目一杯楽しんでやろうじゃないか。

一般人に転生した勇者と魔王の話。

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