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余計な警告再び2(終) 信じられるか? まだ二日目なんだぜ?

「そうね、関係なさそうに見えるけど、貴方はつい今し方『これを無関係と決めつけるのも』と言いかけたわ」 


 嫌過ぎることに、その部分を聞かれていたようだ。

 しかし、ここは演技力を要するところである……まだ挽回できるっ。


「実は俺、いじめられっ子なんだよ」


 とっさに思いついた大嘘を、俺は悲壮感たっぷりに演じた。


「だから、ついにうちにまで、いじめの仕込みが来たかと誤解したのさ」


 しばらく返事がなかったものの、ようやく「ふぅん? もっともらしい理由ね」と言われた。


「本当だって!」

「……どうかしら? どちらにしても、時間切れみたい。今日は黙って帰るけど、貴方の言い訳が嘘だったら、後々面倒なことになるわよ?」


 いや、もう面倒ごとに首まで浸かってんだよ、俺はっ――そう喚きたかったが、とにかくこの子に消えてもらいたくて、俺は素直に「わかった」と答えた。


 途端に、背後の少女が俺の腕を捻って、無理にマンション入り口の方へ向けた。





「いたっ」


 声が出た瞬間、ぱっとフラッシュが光る。

 驚いたことに、スマホを持った母親が、笑顔で出てくるのが見えた。どういう気だ?


「そのまま、動かずに」


 また背中から声がして、少女の声が遠ざかった。


「もしも振り向けば、愉快なお母さんごと撃つから!」


 脅しついでに俺から、自分が貼った警告文の紙を引ったくりやがった。

 くそっ、唯一の証拠だったのに。


「わ、わかったっ」


 俺は中途半端に両手を上げ、そう答えた。

 情けないが、仕方ない。かっこつけて死んだら、馬鹿だしな。

 やがて楽しそうに近付いてきた母親が、首を傾げて俺を見た。


「なにやってるの、俊介。彼女、帰っちゃったわよ? 送らなくていいの?」

「彼女じゃないしっ」


 俺は慌てて、状況を説明してやったが、馬鹿馬鹿しそうに笑われた。


「銃って……あの子が手にしてたのは、ボールペンみたいなのが数本だけど? キャップの方を、なぜかあんたの背中にくっつけてたのなら見たけど……どういう遊びなの、あれ?」

「ポールペンっ!?」


 そこまで聞いて、俺は馬鹿みたいに手を上げるのをやめ、ぱっと振り向いた。

 しかし、もはや女の子の影も形もない。


 走って追いかけようかと思ったが……追いついたところで、あの子ほど気の利いた脅し方は、俺にできそうもない。

 一応、ごまかしきったのだけが、救いか。




「俊介の、初めての彼女とのツーショット写真、撮りたかったのにねー」


 脳天気な母親がスマホを見てため息をつくので、俺は横から画像を覗き込んだ。そこに映っているのは、射殺の恐怖に引きつった顔の俺と……俺の背中に隠れきれず、顔の半分だけ写ってる、やたらキツそうな女の子である。


 ため息つきそうになる美人だが、何者なんだこの子はっ。


 



 夕飯を食べ、風呂に入った後、俺は即座に眠ってしまったらしい。


 布団の中でいろいろと考えよう思ったのだが、横になった瞬間、底なし沼みたいな深い眠りに引きずり込まれた。

 次に目が覚めると、見事に翌朝である。


 寝ぼけた目で周囲を眺め、俺は昨日の出来事が夢ではなかったことを確認する。相変わらず俺は、十年前にいるらしい。


「……信じられるか? まだ二日目なんだぜ?」


 あえて声に出し、起き上がった。

 デッドラインまで、あと九日だ。




 歯磨きを終えて制服に着替えた俺は、母親の朝食を有り難く頂き、マンションを出た。

 出る時にひどく用心深い気分になり、ポストを覗いてマンションの周囲も確かめたが、特に異状はなかった。


 ようやく安心して歩き出したんだが、学校への最初の角を曲がったところで、声がかけられた。


「おはよう、片岡君」


 ぎょっとして後ろを見ると、なんとあの深森が立っているではないか。

 いつもの、極薄の学生鞄を持って。


「え、ええっ」

 

 素っ頓狂な声が出てしまった。


「駅の北側に住んでるはずじゃ?」

「そう」


 バツが悪そうに、深森が頷く。


「早めに起きて、迎えに来たの……一緒に、学校まで歩きたいと思って」

「えーーっ」


 あまりに愛情深すぎる一言に、俺は頭がぐらぐらした。

 それもう、属に言うヤンデレの領域では?

 しかし、そこまで女子に想われたことのない俺としては、いたく感激したことも否定できない。


「迷惑だったら、明日から控えるから……気味悪がらないでね」


 上目遣いに深森が言う。

 俺は笑って首を振り、手を伸ばした。


「着くまで数分しかないと思うけど、一緒に登校しよう」

「……嬉しいわ」


 深森は俺の手を握り――そしてそのまま、腕を組んでくれた。


 まるで、命綱に縋りつくように。



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