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余計な警告再び1 つ、使えないっ、使えないぞ、かーちゃんっ

 時間が時間だったせいか、エレベーターがなかなか最上階まで来てくれず、俺はもどかしい思いを味わった。


 ようやく上がってきたケージに乗って一階まで下りると、俺は駆け足でエントランスホールを抜け、外へ走り出た。




「……遅かったか!」


 半ば予想した通り、目当ての街灯の下には誰もいなかった。

 だろうと思ったよ、くそっ。

 道路の左右を見ても、それらしき人影はない。まあ、ここらは住宅街なので、細い路地は幾らでもある。いつまでも姿が見えるはずもないが。


 それでも未練がましく、俺は問題の街灯まで歩み寄り、そこから自室の窓を見上げた。 

 ……やはり、どう考えてもこんな場所から見上げたところで、うちの窓以外に見えるものなんてないな。他の階はまだ電気点いてないし。


 ため息をつき、街灯付きの電柱に向き直る。




「――っ! うお」


 思わず声が出た。

 ちょうど、俺の顔の位置に当たる部分に、黒い文字が書かれた紙が貼ってあったのだ。急いで貼ったらしく、セロテープで一箇所を止めただけだが。


 そこには、神経質そうな綺麗な字で、こう書かれてあった。



『私が来た心当たりがもしあるなら、即刻、やろうとしていることを中止しなさい。心当たりがないなら、この警告は忘れてもいい。でも、きっとそうじゃないわね?』



「おいおいっ」


 三度読み返した後、俺は唸った。

 ポストに警告文入れた奴と同じかと思ったが……これはどうも、違うな。だいたい、筆跡が素人でもわかるくらい違う。


 同じ綺麗な字でも、こっちは右上がりだけど、ポストに入ってた方はそうじゃない。

 それに、こちらの方は俺のやっていることに確信があるってわけでもないようだ。


「とはいえ、これを無関係と決めつけるのも――」


 そこで俺はふと独白をやめた。

 というのも、背後からふんわりとよい香りが漂ってきて、不審に思って振り向こうとしたからだ。

 しかし、相手の方が早かった。


 何かがぐいっと背中に押しつけられ、俺は別の意味で声を失った。





「振り向くと撃つわよ」


 銃、銃だってか! この日本でっ!? 

 確かに、固い物が当たってるのはわかるが、まさかの銃!


 驚きのあまり、心中で連呼してしまう。

 その間に、冷ややかな少女の声が、語りかけてきた。


「本当のところ、どうなの? その警告の返事は?」

「いや……返事求めるの早すぎ――いてっ」


 押しつけられた固いものを、さらにねじ込むように押しつけやがるっ。


「余計なことは言わない、関係ない返事もしない、そしてイチかバチかで馬鹿な動きもしない。簡潔に質問に答えて! その警告文を読んで、貴方の返事はっ」

「お、俺は知らんっ」


 すっとぼける方を選んだ俺は、苦し紛れに自分の部屋を見上げ、ガッツポーズをしそうになった。実際には、撃たれたら嫌だからしないが。

 というのも、若作りの母親が部屋の窓から俺を見下ろしていたのだっ。


(ナイス、かーちゃん! 今のうち、ダッシュで警察を――)





 そう思いかけたが、あいにく母親は鈍かった……俺並に鈍かった。

 背後についてる制服女をどう見たのか知らないが、こっちが期待するような感想は持たなかったらしい。


 なぜか満面の笑顔で、俺に向けてピースサインなどしてやがるっ。しかも、両手で!


 つ、使えないっ、使えないぞ、かーちゃんっ。





「残念だったわね……貴方の彼女だと勘違いされたみたいよ」 


 背後の声が、愉快そうに言いやがる。

 こんな時だが、俺は赤面した。ああ、どうせうちのかーちゃんはあんなんだよっ。

 しかも、眺めて満足したのか、もう引っ込みやがったしなっ。


「関係ないというのは本当かしらね?」

「あんなファンキーな母親を持つ俺が、重大事件に関わってそうに見えるか、おいっ。なんのことか、さっぱりなんだよ!」


 ヤケクソで俺は囁いた。

 大声出さなかったのは、ヤケクソでも撃たれたら嫌だからだ。


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