ズレている現実2(終) たとえば俺をタイムリープさせる意図で、とか
アニメポスターが貼られ、高二どころか中二病バージョンとなっている自室で、俺はベッドに横たわり、とっくりと考えてみた。
しかし……あいにく疑問が増えるばかりで、確かなことはなに一つ思いつかない。
そもそも、疑問というなら、コトの始まり――つまり、俺がタイムリープした時点で、既に疑問がある。
今の俺はなんとなく、深森を助ける使命を背負った気になっているが、実は熟考すれば、誰かが俺をタイムリープさせたという方が、現実的だ。
自然と戻りましたなんて都合のいい話、あるわけがなかろう。
明らかに、俺を飛ばした相手がいるのだ、相手がっ。
「あのビデオレター、もっと調べる時間があったらな」
思わず息を吐く。
というのも、あの動画には、少なくとも二人の人間が映っていたからだ。
一人はもちろん、深森雪乃当人だが、実は彼女も気付いてなかった子が、もう一人いた。
部屋の奥にあったキッチン横の窓……そこが少し開いていたのだが、レコーダーの機能で拡大表示すると、窓の隙間から女の子が覗いていた。
多分、せいぜい小学校高学年というところだったはず。
背伸びして顔だけ出していた様子だが、その子がじっと見ていたのだ……深森ではなく、カメラ――言い換えれば、俺の方を!
静止画を拡大して大写しになった時、その子とはっきりと視線がぶつかった俺は、思わずぞっとしたほどだ。
理性で考えると有り得ないんだが、それでもまともに視線の焦点が俺に合っていた――ように見えた。
夜も更けてただろうに、そんな時間に他人の部屋を子供が覗いているのもおかしいが、深森本人ではなくカメラを注視していたのも、ひどく不気味ではないか。
というより、俺自身がひどく気になっている。あの視線、なんらかの意図があってこっちを見ていた気がしてならない。
動画は十年前の映像だから不可能なのだが、たとえば俺をタイムリープさせる意図で、とか。
そこまで考え、俺は馬鹿らしくなってベッドから降りた。
「いやいやいや、そこまで考えたら、もう現実的じゃない。完全にホラー映画だろっ」
自分に言い聞かせるように声にだしたが、疑いが晴れるところまではいかない。
なぜなら、意識を失った俺がタイムリープしたのは、明らかにその子の視線とかち合った直後だからだ!
あの後、俺は失神して、次に目覚めたら……もうこの有様だった。
あれが過去の動画じゃなければ、絶対にあの子が原因だと思うところだ。
「いずれにせよ、別にタイムリープは後悔はしてないけどな」
当時はどうしてもする勇気が出なかった、あの深森雪乃に告白できたし。
カーテンを少しだけ開け、俺は部屋の窓を開けた。
少し空気を入れ換えれば、きっとよい考えが浮かぶはず……いつの間にか、外は夕方だけどな。
「……む?」
深呼吸した俺は、ふとマンション前の道路を見て、首を傾げた。
見覚えのない女の子が一人、こちらを見上げている……気がする。
白いブレザーの制服を着た子で、金色のワッペンが胸についている……制服にしか見えないから、高校生なんだろうが、あんな制服はこの辺りで見たことがない。
なによりも気になるのは、深森と並んでも見劣りしない美人だってことだが、あいにく俺は全く記憶にない。
それとも、もしや見られているのは俺の気のせいか?
街灯の下に立っているとはいえ、ここは十階だしな。
……というわけで、俺はわざと視線を逸らして、また戻してみた。
う……こりゃ気のせいじゃないな。彫像と化したみたいに動かないで、ずっとこちらを見上げているぞ。
マンションを出て、御用聞きに行くか? 用件があるなら、とっと言えと。
普段はそんなことする俺じゃないけど、これだけ不思議なことが起きてるんだから、もう一つ不思議が追加されても、今更である。
だいたい、余計な警告便せんをポストに入れたの、あの子かもしれん!
そこに思い至った俺は、私服のまま急いで部屋を出た。