始まった瞬間に、終わった恋1 あなたがコレを見ている十年後、わたしはもう、この世にいないことでしょう
大学を卒業した俺は、卒業してから無事に就職できたはいいが……齢二十七を越えた今、どこへ出しても恥ずかしくない社畜と化していた。
忘れもしないその日の夜も、俺は二十三時過ぎという有り得ない時間にマンションに帰宅し、郵便物やら請求書の山やらをテーブルに放り出したのだが。
珍しく封書で来た手紙がゴトッと床に落ち、舌打ちして拾い上げた。
どうせなにかの勧誘だと思いつつ、なんとなく差出人を調べる。
「……うおっ」
思わず声が洩れた。
というのも、差出人は「深森雪乃」となっていたのだが――その子はちょうど今から十年前、高校二年生の秋に自殺しているのだ。
俺がその場で固まったとしても、誰が責められよう。
そりゃ俺は、当時は両親と同居とはいえ、十年前もこのマンションに住んでいたが、だからって納得できるはずない!
なぜ、どうして、自殺した同級生から今頃手紙が!?
(お、落ち着け、落ち着け!)
ひとまずスーツからジャージに着替え、俺はようやく問題のブツを再び手にした。
封筒は普通よりやや横幅があるタイプで、消印は昨日になっている。外から封筒の中を探ると、なにやら固いものが。
一分ほど悩んだ挙げ句、俺は警察に駆け込むのを断念し、一気に封筒を開けた。
だが、拍子抜けすることに、中に入っていたのは、ケースに入っていたDVDが一枚のみだった。
もはやブルーレイディスクさえ消えつつある2028年現在、DVDというのは珍しい。
しかも、送ってきたのは死者ときた!
深夜時間帯の今、死者から来たDVDを見るのは非常に気が進まなかったが、当時俺は、深森に気が合ったことだし、そのまま気にせず寝るというわけにもいかない。
これまた考えた末、結局リビングにある古いレコーダーのスイッチを入れ、DVDをトレーに置いた。
このレコーダーも既に十年以上経過した年代ものだし、ちゃんと映るはず。
ソファーに座った俺は、生唾を飲み込んで砂嵐の画面に注目する。
すると……三十秒ほど経過した時点で、ふいにセーラー服の女の子が映った。
「ふ、深森!」
漆黒のロングヘアーと、光を吸い込むような真っ黒な瞳、それに色白の肌と、間違いようもなくあの深森である……自殺した、同級生だ。
小さなテーブルにまっすぐ座った彼女は、切れ長だがやや吊り目がちの見覚えの瞳で、こちらをじっと見つめていた。
どうも固定カメラを自分に向けて撮影しているらしく、少し固い表情だったが、すぐに思い切ったように声を出した。
『お久しぶりです、片岡俊介君。あなたがコレを見ている十年後、わたしはもう、この世にいないことでしょう。なぜなら、この録画を終えた後、わたしは部屋を出て自殺するつもりだからです。理由は……いくら相手が片岡君でも、言えないわ。ごめんなさい』
おいおい……と俺が注目する中、彼女は一瞬だけ申し訳なさそうに眉を下げた。
『驚かせて、ごめんね。もしかしたら「死者から手紙がっ」なんて思ったかもしれないけど、それについては簡単に説明できます。ネットで探して、そういうサービスを見つけたのよ。○○年後に、希望した手紙を届けるっていうの。その有料サービスに申し込んでおいただけだから。別にホラーな事情じゃないのよ』
記憶の中で薄れかけていた深森の美貌が、儚そうな微笑を広げた。
本作は、後で不定期連載になる予定です。
今のところ、短編~中編を意識していますが、いつものごとく、長さは未定としておきます。