表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/64

始まった瞬間に、終わった恋1 あなたがコレを見ている十年後、わたしはもう、この世にいないことでしょう

 

 大学を卒業した俺は、卒業してから無事に就職できたはいいが……齢二十七を越えた今、どこへ出しても恥ずかしくない社畜と化していた。


 忘れもしないその日の夜も、俺は二十三時過ぎという有り得ない時間にマンションに帰宅し、郵便物やら請求書の山やらをテーブルに放り出したのだが。


 珍しく封書で来た手紙がゴトッと床に落ち、舌打ちして拾い上げた。

 どうせなにかの勧誘だと思いつつ、なんとなく差出人を調べる。





「……うおっ」


 思わず声が洩れた。

 というのも、差出人は「深森雪乃ふかもり ゆきの」となっていたのだが――その子はちょうど今から十年前、高校二年生の秋に自殺しているのだ。

 俺がその場で固まったとしても、誰が責められよう。


 そりゃ俺は、当時は両親と同居とはいえ、十年前もこのマンションに住んでいたが、だからって納得できるはずない!


 なぜ、どうして、自殺した同級生から今頃手紙が!?


(お、落ち着け、落ち着け!)




 ひとまずスーツからジャージに着替え、俺はようやく問題のブツを再び手にした。

 封筒は普通よりやや横幅があるタイプで、消印は昨日になっている。外から封筒の中を探ると、なにやら固いものが。


 一分ほど悩んだ挙げ句、俺は警察に駆け込むのを断念し、一気に封筒を開けた。




 だが、拍子抜けすることに、中に入っていたのは、ケースに入っていたDVDが一枚のみだった。

 もはやブルーレイディスクさえ消えつつある2028年現在、DVDというのは珍しい。


 しかも、送ってきたのは死者ときた!


 深夜時間帯の今、死者から来たDVDを見るのは非常に気が進まなかったが、当時俺は、深森に気が合ったことだし、そのまま気にせず寝るというわけにもいかない。

 これまた考えた末、結局リビングにある古いレコーダーのスイッチを入れ、DVDをトレーに置いた。


 このレコーダーも既に十年以上経過した年代ものだし、ちゃんと映るはず。

 ソファーに座った俺は、生唾を飲み込んで砂嵐の画面に注目する。


 すると……三十秒ほど経過した時点で、ふいにセーラー服の女の子が映った。





「ふ、深森!」


 漆黒のロングヘアーと、光を吸い込むような真っ黒な瞳、それに色白の肌と、間違いようもなくあの深森である……自殺した、同級生だ。

 小さなテーブルにまっすぐ座った彼女は、切れ長だがやや吊り目がちの見覚えの瞳で、こちらをじっと見つめていた。


 どうも固定カメラを自分に向けて撮影しているらしく、少し固い表情だったが、すぐに思い切ったように声を出した。



『お久しぶりです、片岡俊介かたおか しゅんすけ君。あなたがコレを見ている十年後、わたしはもう、この世にいないことでしょう。なぜなら、この録画を終えた後、わたしは部屋を出て自殺するつもりだからです。理由は……いくら相手が片岡君でも、言えないわ。ごめんなさい』



 おいおい……と俺が注目する中、彼女は一瞬だけ申し訳なさそうに眉を下げた。


『驚かせて、ごめんね。もしかしたら「死者から手紙がっ」なんて思ったかもしれないけど、それについては簡単に説明できます。ネットで探して、そういうサービスを見つけたのよ。○○年後に、希望した手紙を届けるっていうの。その有料サービスに申し込んでおいただけだから。別にホラーな事情じゃないのよ』


 記憶の中で薄れかけていた深森の美貌が、はかなそうな微笑を広げた。


本作は、後で不定期連載になる予定です。

今のところ、短編~中編を意識していますが、いつものごとく、長さは未定としておきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ