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食事回ですが、イヴァンスさんは食レポする性格ではありませんし、地の文演じる自分もまぁ、出来ませんので← 全然飯テロにはなりませんよ
「ふーむ。パンフレットでお勧めされている場所も捨て難いですが、現地で見ると魅力的なお店が多くて目移りしてしまいますね」
「なぁなぁおにーさん!店探してるんやったらうちの店とかどう?」
イヴァンスがザンサに着き何処の店に入ろうか悩んでいると、長い銀髪をなびかせた狐の獣人の女性が声を掛けてきた。藍色の服装に包まれた彼女は、肌の露出が多く一部の人の視線を寄せてしまっている。
「そういった夜のお店には興味無いので、申し訳ないですが…」
「あーちゃうちゃう。こんな格好してるから誤解しとると思うんやけど、普通の店やで!ほら、これ見てーな」
イヴァンスの問いかけに彼女は否定すると、手に持っている看板を前に出す。そこには『迷える貴方にここがお勧め!閑古鳥の鳴く隠れた名店、食事処マリーベルへ!』と変な誘い文句と閑古鳥らしきものが書かれていた。
「それは失礼しました。…では折角のお誘いですし、お邪魔させてもらいますね」
「やった!じゃ、うちに付いて来てな」
その答えを聞いてガッツポーズを取り彼女は喜びを表し、イヴァンスを案内し始めた。イヴァンスも特に何かを言うわけでもなくそのまま後ろを付いていく。
「せやせや、うちのなまえはアンナっちゅうねん。よろしゅーな」
「私はイヴァンスと申します。宜しくお願いします」
案内の最中、アンナと名乗った女性はイヴァンスへと話を振り続けた。どうやら目的地が多少歩くため、ちょっとした暇潰しの様だ。
「イヴァンスはんはハンターさんなんよね?その紋章付けとるし」
「ええそうです。とは言っても、今日ハンターになったばかりの新人も新人ですけどね」
「ほな、今日はお祝いの日やな!って、そんな日にうちに来てええのん?誘っといてなんやけど」
「私はあまり贅沢するたちではないので、今日は何処でも良かったのですよ。なのでお誘い頂いたわけですし、と」
「せやったか。まぁ安心しい、うちの店はそこらの店になんか引けは取らへんで!イヴァンスはんのお祝いも兼ねて目一杯サービスさせてもらうな」
「ありがとうございます。楽しみにさせて頂きます」
「とは言ってもうちが店主になったのも最近なんやけどね。知り合いに騙されてもーて、厄介事を引き受けてもうたわ」
「それは、ご立派なお知り合いをお持ちで…」
「ほんまやわ。ま、厄介ちゅうてもこっちも好き勝手にやってるんやけどね。管理を頼まれてるだけやからね」
「はは。でもちゃんとお店は経営しているのですね。客引きをしていた訳ですし」
「うち好みのお客さんだ・け・な?」
「…やはりそういうお店なのでは?」
「いややわー、冗談冗談。ちゃんとしとるよ」
「それなら良いのですが…。もし私の想像が当たった場合は即座に帰らせてもらいますからね」
「もーいけずー。イヴァンスはんも男なら女に興味津々であるべきやで」
「そういうものですかね」
「そんな肩を竦めながら言われてもなぁ、自分の事やで?まぁイヴァンスはんがそのつもりならこれ以上言わへんけど」
「今は空腹の方が勝っていますよ。なにせ、朝から何も食べてないもので」
「ありゃりゃ、そりゃお腹も空くやろ。ならちょっと急ごか」
そこから少し足を早めて二人はザンサを行くことになった。
「よーし、到着。ここがうちの店『マリーベル』や!ささ、入って入って」
数分後到着したそこは民家を改造した場所で、『食事処マリーベル』と書かれた暖簾が掛けられたぐらいしか外見的には変わらない。その暖簾も今アンナが店に入って付けたものであり、電気も点いていなかった先程までの状況ではまずもって店と認識されないだろう。閑古鳥が鳴くというのは店主が居ないからなのではないか、とイヴァンスも流石に怪訝な様子だったが促されるまま中に入った。内装は流石に改装されていて、カウンター席が七席程とテーブル席が二つ用意されている。
「狭い所で堪忍な。うちは準備してくるさかい、メニューは壁に掛かってるから決めといてなー」
「分かりました」
イヴァンスがカウンター席に座るとアンナはそういって店の奥へと去っていった。アンナの言う通り壁には商品名が書かれた木札があり、そこには様々な名物料理があった。移動国家のアルイストは色々な場所を巡るので各地の名産品等が手に入りやすく、この国の大体の飲食店では商品の多さを謳っている所が多い。この小さい『食事処マリーベル』でそんなに用意出来る事には驚きではあるが、そこが隠れた名店と自分で言っている部分なのかもしれない。掛けられた木札の中に一つだけ紙が貼られてあり、そこにはおすすめ!と書かれている商品があった。イヴァンスはそれにしようと決め、アンナが帰ってくるのを待つ。
「お待たせ。メニューは決まったん?」
イヴァンスが注文を決めて十数秒後にアンナは帰ってきた。アンナの服装は変わっており、露出が多かった先程の服から全身を白い服で覆っていた。頭には耳用の穴が空いた帽子を付けていて、尻尾も無理矢理服の中に入れているようで背中が少し、いやかなり膨らんでいる。見たところ、調理する側として獣人であるアンナの毛が入らないようにする服装なのだろう。アンナは何だかんだと真面目に店主をやっているようだ。
「ええ。このおすすめメニューの『うちの気まぐれ』をお願いします」
「お、ええ所に目を付けはるやん。苦手なもんとかあったら言ってな。これうちが適当に作っていくもんやから」
「特には無いです」
「ほうか。じゃすぐに作ってくな」
アンナは慣れたように庫内から食材を取り出し調理を始める。それをイヴァンスは興味深そうに眺めていた。
「そういえば、この『時価』という値段設定はどういう意味なのでしょう?」
「ん?知らへんのか。簡単に言うと食材によってやっぱり入手しやすい時期とそうじゃない時期があるねんな。例えば今日はミナトリアで停泊してる訳やけど、その間に食材とかを入手すんねんな。そうするとミナトリア周辺の特産品が大量に手に入るっちゅう事でその辺の食材が安うなんねん。で、逆に反対方向のキッカドゥの食材はそろそろ底を尽きかけてて高うなるねん。だから時価っちゅうんは時期によって値段が変わりますよって事やと思っててええよ。ちゅうか時価を知らんで頼みはったんかいな。うちはそんな事せやんけど、高い食材をあえて使って商品の値段を上げるとこもあるから気をつけるんやで」
イヴァンスの質問にアンナは調理しながら説明をしてくれ、イヴァンスは礼を言う。説明の間も手が止まることは無く、順調に料理が出来てきているようで美味しそうな匂いが漂い始めてくる。
「取り敢えず一品目や」
イヴァンスの前に小さな器に載ったサラダが出される。所謂前菜というもので量こそは少ないが、色とりどりのサラダに食欲がそそられることは間違いない。
「頂きます」
手を合わせそう呟くとイヴァンスは早速サラダへと口を付ける。
「美味しいです。失礼かもしれませんが、やはり野草とは全然違いますね」
「流石に野草と比べるんはちょっとなぁ。美味しいならええんやけど、っと二品目出来たで」
少し困り顔のアンナが次に出したのはこれまた野菜である。しかし今回のは少し焼き目がついてあり、野菜炒めとなっている。
「絶妙な噛みごたえと味付けですね。こうなるとアレが欲しくなりますね」
「うーん、生憎酒はあんま置いてないんよな。適当なもんで良ければ出すけど」
「あぁいえいえ違いますよ、私はあまり飲みませんし。ミナトリアの特産品なので多分あると思うのですが、黄色くて酸っぱいアレですよ」
「あーなるほどなぁ。そんなら用意できるわ」
アンナははい、と使いやすいように切られた例のアレを出してくれた。それをイヴァンスは先程の野菜炒めに満遍なく掛けた後に再び食べ始める。
「実は私が前まで居た場所にこれが沢山自生してまして、良く使っていたのですよ。少し懐かしく思ってつい我儘を言ってしまいました。ありがとうございます」
「ええよええよ。流石に用意できん物は出されへんけど、用意できるもんぐらいはいくらでも出させて貰うわ。お代が上がることは良い事やからな」
笑いながら言うアンナにイヴァンスも笑い返す。
「ほい、じゃあ三品目。あ、そうそう『うちの気まぐれ』やけど、お客はん、この場合はイヴァンスはんやけど、が止めるまで出し続けるもんやから腹が膨れ始めたら言ってな」
「分かりました。…汁物は久しぶりに頂く気がします」
次は卵スープ。アンナのサービスか、汁と卵の比率が卵寄りのなっているのを除けばごく普通の物だ。
「そうなん?だったら汁もんもう一個用意するわ」
「ありがとうございます。…次は出来れば汁成分を多めで」
あははは、と何故か笑い流すアンナ。別に美味しくない訳ではないので、イヴァンスも不満を感じるほどではなくどちらでも構わないのだが。
「よっしゃ、次はお待たせの肉やで」
ジュウジュウと未だに音を立てている小さな四角形に切られたステーキ。とても美味しそうな匂いを放つそれを、何故かイヴァンスは手を付けずに見るだけだった。
「あれ、もしかして肉アカンかった?それとも種類?何にせよもし無理なら全然残してくれてええからな」
「心配をおかけして申し訳ございません。あまりにも美味しそうな匂いなので、記憶に残そうと思いまして。これまで中々まともな料理を食べてこれなかったものですから。肉類が好みだというのもありますけど、これはとても惹かれました」
その後豪快に、しかし礼品を弁えながらステーキを頂くイヴァンスの姿があった。
「どないしよ。肉が好みなんやったら多めの方がええの?」
「…お願いします」
「分かったわ。取り敢えず次はこれな」
種類は分からないが、魚の蒸し焼きが出てくる。銀色の包み紙の中にはきのこも一緒に蒸されていてこれまた食欲をそそる匂いである。
「アレの風味も感じますね。これは中々食が進みます」
「なんや好物っぽかったからまぶしといてん。気に入ってもらえて良かったわ」
イヴァンスとの会話もしながらずっとアンナは忙しなく料理を続けている。その姿は決して仕方なくや嫌々やっている様には見えず、笑顔を浮かべながら料理する彼女は好きでやっている様に見えた。
「ほな、汁物とお肉一緒にどうぞ」
肉の入った汁は脂が浮いていて、それがどうしてかとても映えていた。こちらはイヴァンスに合わせ肉が多めに入っていた。
「この肉も美味しいですね。いいダシも取れていますし、一緒に入っている具材も良い感じです」
「うちも結構これ好きやねん。次はちょいと早いけど箸休めにデザート行こか」
そんな調子で次々と料理が出てきて、そのどれもにイヴァンスはとても満足していった。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした。食後のお茶や。あ、これはサービスやで」
薄緑色の温かいお茶をゆっくりと飲みながらイヴァンスは息を吐く。イヴァンスは何だかんだと食べすぎてしまっていた。時間も気付けば夜も遅く日を跨ぐまでそう遠くないだろう。
「いやはや、誘われて良かったです。こんなに良い店をしれたのですから。また来てもよろしいですか?」
「今後ともご贔屓にってな。こちらこそよろしゅうやで!と言いたいけども、イヴァンスはんも気付いての通りここはうちしかやっとらんし、そのうちも今日みたいに客引きしとるからなぁ。こうみえてうち本業もあるしね」
「それは残念です。ではまた機会があれば、ということで」
「せやね。でも折角の常連さんが出来るんやし、客引き中とか開店してるけど留守中とかは店に張り紙でもしとくわ。待たせることにはなってしまうんやけど」
「いえいえ、待っていればこの店で食事できるなら待ちますよ。…さて、夜も遅いですしそろそろお暇しますね」
イヴァンスはお茶を飲み干すと椅子から立ち上がり、懐から財布を取り出してアンナに値段を尋ねた。
「うーん。ま、こんなとこやね」
アンナが提示した金額はかなりの高額であったが、今回イヴァンスは質と量のどちらも得てしまった故に当然の結果である。まだ竜討伐隊としての給金が出ていないイヴァンスでは厳しい…という訳は無かった。
「サービス料金として少し上乗せさせてもらいました。またお会いしましょうアンナさん」
イヴァンスは提示された金額よりも少し多めに支払い扉を開けて店を出る。アンナとしてはまぁ払えなければ初回割引ってことで割り引くことも考えていただけに、少し驚いていた。まさか全額プラス上乗せしてしまう程とは、イヴァンスの懐事情はどうなっているのか。今日入隊したばかり、という事は元々自分で持っていた金銭なのは言わずもがな。しかし、それを問いかける事は出来る訳も無く。
「ほな次回はもっとサービスしたるわ!」
アンナも店の扉の近くへ行き、イヴァンスを笑顔でそう言って見送る。ただ、振り返って言った次のイヴァンスの台詞にアンナは驚愕することとなる。
「…では、彼にこう伝えておいてください。三日後にまた会いましょう、と」
「んなっ…」
それでは、と最後に残しイヴァンスは去っていった。残ったのは『マリーベル』の前で立つアンナ、と。
「なんやバレてるくさいで」
「ふんっ、流石に少し甘く見すぎていたか」
「うちは見てないけど相当な実力者なんやろ?今回の事は妥当やないかな、サムはん」
突如として、何もない場所から現れた半人半獣の灰色の髪をした男だった。
「しかし、アンナさんの料理は美味しかった。折角ですし機会があれば教わるのも良いかもしれませんね。料理は…覚えて損ではないでしょうから」
帰路、宿舎に向かっているイヴァンスは一人呟く。イヴァンスも決して料理が出来ない訳ではないが、如何せん修行をしていた長い期間を野宿していたのだ。基本的に焼くぐらいしか調理法の無い場所で料理をしろと言うのも酷な話である。
「宿舎の台所を活用したい所ですが…まずは保存魔法を使える人材を呼ばないと、ですかね。タレント、ハンター共に殆どが習得しているでしょうからそこまで優先事項ではないですが、やはり居ると居ないとでは食材管理に差が出ますしね」
保存魔法とは物の状態を保たせる効果を持つ魔法系統を指し、効果的に必須と言える為習得者は多い。属性魔法、空間魔法の中の一部がこれに含まれているが、効果の高い保存魔法となれば双方合わせた複合魔法も存在する。しかし後者に関しては習得・発動難易度が共に高い為に早々見ることは無いだろう。
「それを抜きにしても零番隊として考えると『ウロ』とまでは言いませんが、『ウル』までは欲しい所ですがその辺りはどうなっているのでしょうか。あぁ、ラックルさんに聞いておけば良かったかもしれません。、…過ぎた事を悔やんでも仕方ありませんね。明日はクレセールに行くわけですしそこで色々と分かるでしょう。取り敢えず今日すべき事は早く帰って寝る、ですね」
独り言をそう締めくくるとイヴァンスは少し歩く速度を早めて、帰路を急いだのだった。
関西弁はよく知っているつもりだったのですが、全然知らなかったようです。
はぁ、でも関西弁狐ってやっぱ需要あると思いますよ、自分の中でだけ




