2
三人称視点はやはり難しい というか出来ていない…
もう少し三人称視点について勉強します…
イヴァンスはその台詞を聞いて少し笑顔を崩した。
「ま、まぁそれはさておきましょう。イヴァンスさんは竜討伐隊に入隊したいと聞いていますが、むしろこちらからお願いしたいぐらいですので入隊は大歓迎でさせて頂きます」
「いや、ええ。その件については大変有難いのですが……。一人で防衛というのはそれ程の事なのですか?竜討伐隊の皆さんなら簡単に出来る事だと思っていましたが」
「はは。流石イヴァンスさんは違いますね。正直にお答えしますと全員は不可能です。隊長、副隊長クラスなら規模によりけりで出来るかも、という程度ですよ。ただ、それは十分に訓練しているからで、イヴァンスさんみたいにフリーで活躍された方は初めてですよ。後、非常に申し訳ないことですがある程度の実力が無ければ中途入隊なんて許可されませんから、現状こそがイヴァンスさんの実力のお陰という事なのです」
だからこそ、とラックルは続ける。
「本来はここでお話するのではなく、中央区の城に招待するべきお相手なのですよ。イヴァンスさんは。ただそれをしてしまうと有名になりすぎますからね、秘密裏に迎え入れることにしたのです。とはいえ、結局噂として情報は流れてしまっていますが」
申し訳ないです、と頭を下げるラックル。それを見てイヴァンスは慌てる。
「そんな。ラックルさんが頭を下げることではないですよ。むしろそんな配慮までさせてしまって申し訳ないぐらいです」
「そう言って貰えると助かります。では、知っているかもしれませんが一度竜討伐隊について簡単に説明させて頂きます」
イヴァンスの驚愕な発言から落ち着きを取り戻したラックルはイヴァンスに説明を始める。
「竜討伐隊は読んで字のごとく、竜を討伐する事を目的とした部隊です。ここ、アルイストにしかありませんがクレセールという教育機関を卒業出来た者だけが入隊出来、その実力は世界随一と言っても過言ではありません。さらに竜討伐隊だけの特徴がありまして、全種族分け隔てなく実力があれば入隊出来るという事です。昔の戦争の影響で各国、各種族の仲はあまり良くなかったのですが、共通の敵が出来たので協力し合おうって事になった様ですね。まぁこれはアルイスト連合国自体の特徴でもありますが、種族混合部隊というのは竜討伐隊が初めての様です。ただその仕様上、まぁ現在の情勢ではどこでもですが、実力主義の風潮が出来つつあるのが悩みのタネですが…これは今話す事ではありませんね」
そこまで言うとラックルは一度息をつく。
「詳しくはまた後日で良いでしょう。今回の本題なのですが、アルイストに着いたばかりでお疲れでしょうが、イヴァンスさんには試験を受けてもらいます」
「試験、ですか」
「イヴァンスさんも察しているかもしれませんが、一部のハンターはその情報に半信半疑の状態です。流石にそう簡単に信じる様な事でもありませんしね」
イヴァンスの様にいきなり現れた実力者の情報を疑うのは当然の事だが、それだけが理由ではなかった。
イヴァンスが成し遂げたのは一人でドラゴンからの防衛。それは竜討伐隊において隊長と認められる程の実力があるという事なのだ。そんな人物がいきなり現れて、はいそうですかと納得できる人は早々居ない。
と言う事でイヴァンスは疑われている訳だ。
「いえ、それは仕方のない事でしょう。こう言っては何ですが、私自身も未だに実感が湧いていませんから」
ラックルの言葉にイヴァンスも答える。遠い目をしながら答えるイヴァンスはまるでその光景を思い出している様だった。
「はは。それで、ですねイヴァンスさん。僕達竜討伐隊としては、もしイヴァンスさんの実力が本当ならば喉から手が出る程欲しい存在なのです。竜討伐隊はいつでも実力者を募集していますからね。ただ、クレセールを卒業せずに入隊するには条件があり、その条件が今回の情報の真偽を決めるいいものだと思うのです」
イヴァンスの回想を遮る様に多少強引に話し始めたラックルにイヴァンスは慌てて会話を続ける。
「分かりました。私としても竜討伐隊に入隊出来る機会を頂けるのは大変有り難い事です」
試験を受けてくれるという言葉にラックルは安堵していた。試験を無しに流石に入隊させる訳にはいかないがイヴァンス程の実力者を逃すのは惜しい、と思うのは竜討伐隊隊長なら当然の心理かもしれない。
「では早速ですが試験の方に移らせていただきたいと思います」
ラックルは急いで準備を整える。その様子を見ていたイヴァンスは羨ましそうに「ソレ」を見る。
「通信魔法ですか。…羨ましいものです、今の私はもう魔法を使えないのですから」
「えっ!?」
思わず動揺してしまい、ラックルの発現していた魔法が中断されてしまった。
この人は一体何を言っているんだ?とラックルは直ぐに言いたいのを堪えて、再び通信魔法を発動する。中断された通信に相手も怪訝に思っていたが、ラックルはそれには答えず直ぐに訓練場を空けるよう伝えて通信を終えた。
「今の言葉は本当ですか?…魔法が使えないというのは」
「ええ、本当です。昔は使えたのですが、ある時から使えなくなりましてね。魔力が無くなってしまったのですよ」
そう言ってイヴァンスは左目に付けている眼帯を撫でる。
眼帯でも隠しきれていない縦の斬り傷が原因なのかとラックルは推測するが、それはあまり重要視する事ではないと即座に切り捨てた。
魔法。
それは古から伝えられし万能の理。自身の内に眠る魔力と呼ばれる力を使い、世界の法則を捻じ曲げ現象を具現化させる。その力は人類にとって最強の力と言っても過言ではなく、魔法無くして「ドラゴン」に対抗する事は不可能だっただろう。
そして、イヴァンスはその不可能を可能にした。勿論、嘘を言っている可能性もラックルは考えているようだが、ここで言う意味は無いし何よりイヴァンスの言っている事は本当だ。大体十年程前までは彼も魔法を使っていたのだ。ラックルの推測通り、左目が原因で使えなくなってしまったが。
「つまり、イヴァンスさんは……魔法無しで『ドラゴン』を撃退したという事ですか」
問いかけではなく、自分に言い聞かせるようにラックルは呟く。
とてもじゃないが、信じられることではない。百歩譲って『ドラゴン』の撃退を認めたとして魔法を使ってないなど誰が信じられるだろうか。
「よく言われることですが……。信じられないのでしたら『魔力探知』で私を探知してみてください。魔力がないので反応しないと思いますよ」
慣れた事の様にイヴァンスは相手を信じさせる方法としていつもの方法を提案する。魔力探知魔法である『魔力探知』は魔力を持った存在を察知するレーダーを展開するものだ。注ぐ魔力によって範囲は広くなるが、常時発動するには消費が大きいし何より『ドラゴン』には反応しない。『ドラゴン』は魔力を持たないからだ。とはいえ、発動自体は難しい物ではないし魔物には反応するので、戦闘を行う者なら誰もが使える程度にはありふれている。
「…っ!?確かに、反応しませんね…」
目の前に居る筈のイヴァンスの反応がないという事は魔力を持っていないという事であり、魔力を持っていないと言う事は魔法が発動出来ないということだ。一応、大気中にも微量ではあるが魔力、もとい魔が漂っているのでそれを使えば簡易魔法を発動する事は出来る。イヴァンスもそれらを使う事は出来るが、普通は戦闘に使えるようなものではない。
「…規則なので試験は行いますが、勝敗に関係なくイヴァンスさんは入隊出来るでしょう。少なくとも僕は絶対に入隊させます」
「いやいや、魔力が無いだけでそんな事を仰らなくても。実際に必要なのはいつだってこっちの腕ですよ」
本気でそう思っているのか、イヴァンスは腰の剣を指しながらラックルへと言う。ラックルとて、そう言いたい所ではあるがこれまでに幾度となく魔法に助けられている身としては何も言えないのだ。見かけだけかもしれないが、イヴァンスの態度を見ていると剣技にも自信はありそうだとも予測出来るし、実際にそうなのだとも思わせられた。
数分後にラックルに通信が入り、試験の準備が整った事が伝えられた。
「準備が整ったようです。僕以外の隊長も審査員として来ますが、僕と同じような反応をするでしょうね」
少し自棄になっている様子のラックルはそう呟くと応接間の扉を開け、イヴァンスを試験場へと案内するのだった。
応接間から少し離れた別館、特殊訓練所と名付けられた場所に二人は到着した。
「ここは特殊訓練所と言って他の訓練所とは違った特別な訓練が出来るようになっています。今回の試験はそれを利用します」
「特別な訓練というのはどういった意味ですか?」
仮にもクレセールの教育期間をスルーして入隊出来るのだから、その実力を示すのに適した試験が出てくるのは想像に容易い。しかし、あえて特別と付けるからには何か理由があるのだろう。
そのイヴァンスの予想は正しく、今度はイヴァンスが答えを聞いて驚く方だった。
「ええ。ここではこれまでの『ドラゴン』との戦闘を元に各種『ドラゴン』の情報が集められ、擬似的にその力を再現し戦うことが出来ます。あくまで再現ですので実際の『ドラゴン』とは違いますし、操作するのも人間です。ですが、この訓練は実体化させて行うことも出来るので限りなく実戦に近い形で『ドラゴン』と戦えます。今回の試験は仮想空間での『ドラゴン』との戦闘になります」
「!!なるほど、実戦と何ら変わらない訓練ですか…」
イヴァンスも思わず驚いて言葉を返す。
「今回は使用しませんが、『伍色竜』と『竜騎士』も再現可能ですよ。とはいえどちらも、特に『竜騎士』の方は情報不足なので再現性は微妙な所ですけどね」
「黒竜、赤竜、青竜、黄竜、白竜からなる伍色竜、そして竜騎士もですか…」
『伍色竜』と呼ばれる『ドラゴン』は人類が数いる『ドラゴン』の中で特に恐れている、黒竜、赤竜、青竜、黄竜、白竜の五体の事だ。それぞれが特質した力を持っていて、その一体を止めるのに一部隊が必要な程。『竜騎士』は『伍色竜』には数えられていないが、遊撃兵の役割なのか戦場を縦横無尽に動き回る『竜騎士』の姿はめったに捉えられる事は無く、しかしその実力は『伍色竜』に勝るとも劣らないとされている。『竜騎士』とまともに戦って生き残れた者は居ない事もあり、最も竜討伐隊に恐れられている。見た目は銀の鎧を着込んだ人型であり、『ドラゴン』に協力する人類が居るのではないかとも噂されているが、『人型ドラゴン』じゃないかとも言われている。
「流石に驚きました。まさか『ドラゴン』勢の力を再現して訓練をしているとは。特殊の名は伊達じゃないってことですね」
そう言いつつイヴァンスの口は笑っていて、ラックルもまたその反応を好ましく思っていた。竜討伐隊の面々は多少、というには抑えが効かないほどに戦闘狂が多い傾向にある。強者との戦いに思わず笑みを浮かべるのはそんな彼らの特徴であり、イヴァンスもまたそういった者だとラックルは推測した。
「さて、試験の前にまずは他の隊長達に会いに行きましょう」
特殊訓練所の扉の前には警備兵が二人並んでいたが、ラックルが合図すると扉の前から離れ通れるようになった。警備兵の二人は一緒にいるイヴァンスに興味深く視線を飛ばしているが、イヴァンスは特に反応すること無くラックルに続いて扉の中へ入っていく。扉の先は入り口よりも一回りほど大きい扉と二階へと続く階段があり、イヴァンスとラックルは二階へと上がっていった。
二階に着くと前面に巨大なガラスがあり、その先には白くだだっ広い空間が見えている。その空間は一階にあった扉の先の場所であり、今回の試験場でもある。そしてその訓練を観察出来るのが二階にあるこの場所だ。そこには今来た二人を先客が出迎えてくれた。
「ようこそ地獄の試験場へ、なんてな。俺は一番隊隊長ギリアムだ」
一番隊隊長、ギリアム・スカード。短い黒髪と茶色い目を持つ。ドワーフと呼ばれる種族で、身長は小さいが肉体は筋肉質な特徴があり、小さいながらも振るわれるその力は素手で地面を割れるほど。ギリアムは過去には鍛冶職として名を馳せていたが、自前の武具を使ってみたいという理由で戦闘に参加すると思いの外、戦闘力が高く戦争参加を許可された等という逸話もある。がさつではあるが、非常に仲間思いで隊員にはかなり慕われている。
「俺は四番隊隊長サムだ」
四番隊隊長サム・アーマン。肩まで伸びる灰色の髪で黒目。獣人と人間のハーフで、若干狼の特徴を引き継いでおり耳や歯がそれにあたる。アーマン家は裏では有名な暗殺一族でその力は過去の戦争で重役殺しに一役買っていたとか。『ドラゴン』との戦いにもその力を大いに振るい、死角からの強襲や奇襲を得意とする。隠密系の魔法が得意で気配を消した彼を見つけるのは至難の業である。
「どもども、僕は五番隊隊長キリアンズ。これからよろしく~」
五番隊隊長、キリアンズ・レバート。緑髪ショートで蒼い目。中性的な顔立ちのせいで勘違いされやすいが女性。大家族でその食い扶持を稼ぐために竜討伐隊に入隊し、その実力を認められ隊長に。姉弟が多いため子供の扱いは得意である。特徴的な隊長が多い中、万能に何事もこなす器用貧乏でその事を本人は少し気にしている。
「俺は八番隊隊長ラルアだ。よろしく頼む」
八番隊隊長ラルア・モルディ。橙色の目で頭髪はスッキリしている。ダークエルフで三番隊の隊長と種族敵には仲が悪い。が、しかし当人同士は別に何とも思っていない様で仲がいい。戦場での命の預け合いなどもある為か、そんな些細なことを気にしていられないというのも理由の一つらしい。ダークエルフの特徴として不死じみた回復力を持っていて、片腕程度なら数分で復活する。その回復力を利用した特攻攻撃があるが、あくまで切り札的な物であり、普段は卓越した棒捌きで敵を圧倒する。
「リーンハルトだ。九番隊隊長をしている」
九番隊隊長、リーンハルト・ボルカン。燃える様な赤髪と蒼い目を持つ。その姿と性格から聖騎士と呼ばれ民衆から支持を得ている。弱きを助け強きを挫くをモットーに、ドラゴンは勿論人類同士の諍いへも介入することが多い。戦闘スタイルは盾役ではあるが、魔法と剣術を合わせた攻防は見た目とは裏腹に聖騎士というより魔法騎士の様で戦いにおける堅実さを感じさせる。
「やはり君だったのか」
リーンハルトはイヴァンスの姿を見ると納得した様に頷いている。
「私はイヴァンス・ロア。竜討伐隊ハンター見習いといった感じでしょうか?それと、リーンハルトさん。先程は助かりました、ありがとうございます」
イヴァンスも気付いている様子で再びお礼を言っている。そして、それを気にならない他の隊長達は居ない。
「へぇ、既に知り合いだってぇのか。どういった関係だ?」
「いえ、つい先程不良に絡まれていたのを助けただけですよ。英雄候補の到着が遅いとギリアムさんが言うので迎えに行ったときです」
「あぁなるほど~。だから思ったより早く帰ってきたんですね~」
「銀の剣に眼帯、特徴にぴったりあう奴なんて早々居ないだろうしな」
「ふんっ。そんな事さっさと試験を始めようじゃないか。俺はまだ他に仕事が残っているんだ」
他の隊長もソレ以上の突っ込みはせずにイヴァンスへと試験の内容を伝える。
「試験つっても、まぁ大体はラックルから聞いているだろう。今からあの中で『ドラゴン』と戦ってもらう。お前さんが噂の通りなら余裕で倒せるだろう?」
「頑張らせていただきます」
「君の準備が出来たら下へ降りて扉に入れば試験は開始だ。まぁあまり気負いすぎないように。仮想空間とはいえ、痛みは伴うのだから」
リーンハルトがイヴァンスへと忠告する。
「肝に銘じておきます」
その忠告を素直に受け、イヴァンスは隊長達に見送られて階段を降りていった。




