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実は今回の殆どは前回の話の時には出来ていたりなんだり
だから今回はちょいと修正しただけですぐ投稿できるんですね
次回はまたいつになるやら
「おまたせしました。それとすみません、二人も一緒で大丈夫でしょうか」
太陽が傾いてきた頃、ディーネはクレセール第二訓練所2-2にやってきたが、その後ろにはカインとネルの二人も居た。
「いえいえ、構いませんよ。むしろ丁度良いぐらいです」
皮紙を物を見ていたイヴァンスがディーネとその後ろを見ながら、訓練室内へと案内する。ディーネは安心した顔で、カインは怪訝そうに、ネルは楽しそうに三者三様の反応をしながら入室する。
「ヴァンさん、まずはこちら、朝はありがとうございます」
ディーネはイヴァンスから丁寧に畳まれている黒い外套を渡す。イヴァンスはそれを受け取るとその場で着る。
「やはりこれがあると落ち着きますね。こちらこそありがとうございます」
服を渡して一息吐くとディーネはイヴァンスに面と向かう。
「…朝の件の返事ですけど」
そこで一度顔を伏せて言い淀むディーネ。彼女の後ろに居るカインとネルはお互いに言いたい事がある様子だったが、ディーネに言われているのか何とも言えない表情で立ち、イヴァンスは急かさずにただ彼女の言葉を待っている。
数秒も立たずに顔を上げたディーネの目には確かな意思を感じさせる綺麗な緑の輝きが見えるが、意思を固め決意をしてもなお、緊張は収まらないのだろう。胸に当てられた手は緊張ゆえか揺れていた。
「私を、零番隊に入隊させて下さい!」
「喜んで歓迎させていただきます」
言い終えて気が緩んだのかディーネの顔が緩もうとした時、彼女は顔を振り気を引き締めた。
「それであの、まだお時間がよろしければ二人の話も聞いていただけませんか?もし忙しいのでしたら二人には言って聞か」
「時間なんて取らなくていい、すぐに済む。俺もその零番隊に入隊させろ」
ディーネの言葉を遮り前に出るカイン。竜討伐隊の隊長に対してあまりにも失礼な態度で接するカインにディーネは慌ててカインへと詰め寄ろうとするが、カインはディーネの頭に手を当て止めている。
「ちょっとカイン!」
「ディーネから聞く感じだと別に戦力を重視しているわけじゃないらしいが、あって困るもんじゃないだろ。その点で俺は役に立てると思うぜ」
「ええ、それについて不満はありません。朝の事もありましたし、貴方の事を調べてみると一度特進として名を呼ばれていた事もあるようですしね。戦力として十分という事は分かりますが…。話は聞きますので、一度ディーネさんを離して下さい」
ディーネの頭から手をどかしたカインは仁王立ちをしながらイヴァンスを睨んでいる。その後ろではディーネが少し痛かったのか頭を押さえつつカインへと告げる。
「カイン、お願いする立場なんですから態度はちゃんとしてくださいよ。そんなのじゃ通る願いも通りません」
「はんっ俺だって相手は選ぶ。ただこいつは敬意を払うべき相手だと思えねぇだけだ。紋章こそ本物だったが、だからこそそれを手放す奴を尊敬しろってのも無理な話だろ」
「それは、その…」
ディーネもその件に関しては強く言えない様子で、小さくうめき声を上げて何も言わなくなる。イヴァンスも流石に苦笑を浮かべていた。
「カインさんの言うことは最もですし、自業自得でしょう。私は別に気にしませんし大丈夫ですよディーネさん。それで単刀直入に言いますけど」
一度咳払いをして空気を改めるイヴァンス。反抗的な態度を取っているカインはつばを飲みながらも、背負っている剣に手を伸ばそうとしている。返事次第では、と考えているのは目に見えていた。だがイヴァンスから出た言葉にその手を下ろすことになる。
「カインさんも勿論歓迎させていただきます。それと、ネルさんも同じ要件でしょうか?でしたら是非にと思いますが」
「ネルかにゃ!?」
まさか自分が呼ばれるとは思ってなかったのかネルはその場で飛び上がり、驚きを示した。
「にゃーはただ野次馬もとい心配で見に来ただけにゃんだけどにゃ~。それににゃーは自分で言うのも悲しくにゃるけど別にコレと言って優れてる要素はないにゃ。あっいや勿論入隊出来るにゃら喜んで入隊するけどにゃ!」
「…俺が言うのもなんだけどよ。あまりにも入隊基準が緩いんじゃねぇのか?」
ディーネは自身もだが、二人も一緒にという事で舞い上がっているようでガッツポーズをしながら笑みを浮かべている。それをチラリと見たイヴァンスは先程見ていた3つの皮紙の裏側を見せる。
「これには貴方方三人の事が書かれてましてね。別に即決している訳ではありませんし、ちゃんと判断していますよ。簡潔にそれぞれの入隊理由を述べるのなら、ディーネさんは人柄と成長性、カインさんは性格と戦力、ネルさんは俊敏さと思慮と言ったところでしょうか。それに仲良しの三人を引き離すのも悪いですしね」
「思慮、だぁ?ネルがそんなもの持っているようには見えないけどな」
「そうにゃそうにゃ。こういっちゃにゃんだけどネルは特に考えずに行動してるにゃ!」
「もう、そこは良いじゃないですか。これからも三人で居られることを喜びましょうよ。本当にありがとうございますヴァンさん」
「しかしその皮紙、ディーネは分かるとしても俺とネルの分まで用意してるなんて準備が良いな。俺とネルが来るのは予想通りってか?アンタの手のひらで踊らされてるみたいで嫌になるぜ」
イヴァンスの前に三人が並びそれぞれの反応を示すが、誰もが喜んでいるのは三人の笑顔を見れば誰でも分かるだろう。イヴァンスはそれを見て満足気に頷いていた。
「さて、この後正式に入隊してもらうために駐屯地にて手続きをしてもらうことになりますが、一先ずこちらを」
イヴァンスが皮紙を懐にしまってから取り出したのは三つの銀色に光る小さな紋章、竜討伐隊の証だ。それを見せながら先程までの柔らかい声ではなく、緊張感を伴わせる声でイヴァンスは言う。
「私からお誘いして言うのは酷い事だとは思いますが、これは言わば危険への片道手形です。ここでの生活が安寧に満ちている、とまでは言いませんがクレセール、アルイストでの生活とは違う苛烈な戦場に赴くことになります。過酷な生活なのは当然ですし、命の危険も当然あります。例えば、こんなふうに」
イヴァンスの発言と同時に三人の背筋が凍ったかのようにピンと張る。先程までの空気とは全く違う、目の前の男が醸し出す死の気配、殺気と形容すべきそれを感じているのだ。彼が本気を出せば瞬きする間もなく自分達は死んでしまうのだと、三人共がそう実感させられた。
「人間とドラゴンとは全然空気が違いますが、少しは命の危険を感じていただけてますか?これを受け取るということは自分の死を常に感じるという事と同じです。それでも本当にこの紋章を受け取りますか?」
殺気に押しつぶされそうになっている三人だったが、しかしディーネがパンッと自分の頬を両手で叩き自分を奮い立たせた。
「私は友人を、家を、世界を守るために竜討伐隊に入ると決めてここに来たんです!自分の死なんかで怖気づくわけには行きません!紋章を受け取らせて下さい」
「入隊ありがとうございます。こちらをどうぞ」
ディーネはイヴァンスから紋章を受け取りそれを手で強く握りしめた。
「…今のでアンタを少し見直していた。間抜けな隊長だとは思っているが、少なくとも隊長足り得る死線は乗り越えてきたんだってな。俺にも紋章をくれ」
「入隊ありがとうございます。私はただ運が良い、いや悪かっただけですよ」
イヴァンスのその発言にカインは首を傾げたが、紋章を受け取りソレを掲げながらニヤリと笑みを浮かべてディーネの隣に並ぶ。
「ネルは正直あんまり実感わかにゃいにゃ。でも大切な人が危機ならそれを助ける為に動きたいとは思っているにゃ。気弱なディーも、向こう見ずなカインもにゃーにとってそういう人にゃんだ。紋章を貰うにゃ」
「入隊ありがとうございます。安心して下さい。私にとっても隊員は大切な人達ですから、必ず守りますよ」
そりゃ良かったにゃと真面目な顔から一転朗らかな笑みに戻り、紋章を受け取ったネルもディーネの隣へと向かう。
三人に紋章を渡したイヴァンスは放っていた殺気を抑え、最初の柔らかな声色へと戻る。
「正式な手続きは駐屯地でしてもらうことになっています。皆さんは寮生との事ですが、荷物の方はどれほどでしょうか?多くなければ今日中に、多ければ明日に零番隊宿舎に来て頂きたいのですが」
「私はあまり私物はないので今日中に行けます」
「俺もだ。ぶっちゃけこのままでも良いぐらいだしな」
「にゃーも同じくにゃ。でも少し時間は欲しいにゃ」
「分かりました。では私もクレセールの方と話がありますので、その時間を荷造りに当てましょう。集合は日が完全に沈んだ後にクレセールの正門にしましょう。それで大丈夫でしょうか?」
三人共がイヴァンスに向かって頷きそのまま解散の流れとなった。各々が訓練室から去っていく中、最後に残ったイヴァンスは腰の剣に触れながら呟いた。
「三人共、誰かを守りたいという意思で紋章を受け取りましたね。…そんな理由じゃない私には貴方方が眩しく見えますよ」




