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設定だけを書いていた作品ですが、文章にできたので投稿
予定では不定期更新(一年に一話あれば良いな程度に思っていて下さい)
~竜争歴16年 アルイスト連合国~
「対ドラゴン連合国アルイストへようこそ。あんたが英雄さんか?」
旅の為の軽装と鞄、そして腰には銀色に輝く剣を差した青年に門番は尋ねる。
「英雄?少なくとも私はそんな大層な人物ではないですよ」
青年は突然意味の分からない事を言う門番に驚いていた。
「そうだったか、突然すまないな。実は今日は英雄候補の奴が来るって言うんで皆気になっているんだ」
確かに門番の言う通り辺りは騒がしい。門を行き来する人も居るが、国側の門には住人たちが所狭しと陣取っていた。少し通りづらそうだ。
「英雄候補、ですか。何をした人なのですか?」
青年はその言葉が気になるようで門番に聞き返す。
「やっぱり気になるよな。俺も聞いた話なんだが何処かの国をドラゴンの襲撃から守ったって話だ。別にそれ自体は竜討伐隊でもやっている事だから不思議ではないんだけどな。噂によるとそいつ一人でって話だ」
へぇ、と青年は思わず息を呑んでいた。
門番はそれを驚きの反応だと感じ、続けて話す。
「とは言ってもあくまで噂だからな。襲撃の規模も分からないし、一人ってのもいまいち信用できない。だがまぁ、国から直々にお呼びがかかる人物なんでな。そういう人は珍しいって事で野次馬が湧くってわけだ。俺も門番じゃなかったとしても、来ていただろうしな」
「そうですか。そんな人物が居るなら私も見てみたいですね」
青年もやはり興味が出たようで、件の人物を見てみたい気持ちになっていた。
しかし。
「ですが、先約がありましてね。そちらを済ましてからまた覗きに来ますよ」
「そうか。まぁいつ来るかは分からないし、運がよけりゃ見れるかもな。…そうだ。お前さんここは初めてだろう?良ければこれを持っていくといい。この国の大抵の事は載っているはずさ」
門番はパンフレットを青年に渡し、去っていく青年を見届けるとまた門へと視線を移していた。
青年も貰ったパンフレットを見ながら、人混みを難なく避けて先へ進んでいった。
世界初の移動型城塞であるアルイストは対ドラゴン国として、日夜ドラゴンに関しての問題が舞い込んでくる。
そこで活躍しているのが竜討伐隊と呼ばれる組織と、ハンドマンと呼ばれる便利屋達だ。
竜討伐隊とは、名前の通り竜を討伐する事を目的として部隊であり、基本的にクレセールという育成機関を卒業した者だけが入隊できる。
クレセールは現在アルイストにしか存在しておらず、ある程度の素質が無ければ入学する事は出来ない。
その為設立してから八年で人数自体は千人程度と、かなり少ないが一人一人の実力は一騎当千であり、現状ドラゴンに対抗出来る唯一の部隊である。
はぐれ竜の討伐やドラゴンの襲撃の際の防衛、竜の被害場所の復興など、ドラゴン関係の仕事を全て任せられている。
ハンターと呼ばれる彼らは対ドラゴンとして、人類の希望の1つなのだ。
逆にドラゴンとは関係の無い依頼を受けて、生活しているのがハンドマンと呼ばれる便利屋達。
依頼は基本的に住民から寄せられ、依頼所という場所で受諾が出来る。
あくまで依頼所は仲介場所であり、依頼の内容と報酬、危険度など全て依頼人が決める事になっている。提示されている依頼を請けるのはハンドマンの自由であり、強制力はない。更にハンドマンには特に資格なども不必要で、誰でもいつでも成れるのが特徴的だ。
迷子探しや案内人、資源収集や素材回収、建物の修繕や道具の作成、大陸の偵察や国を移動する人の護衛、魔獣の討伐や指名手配犯の捕獲など、おおよそドラゴン以外の荒事や細事が主な依頼である。
ハンドマンと依頼所は世界各地に存在し、竜争歴の前の王帝歴から続いている職業の一種だ。
ハンドマンが居るからこそ、竜討伐隊はドラゴンに集中でき、竜討伐隊が居るからこそ、ハンドマンは細事に集中する事ができる。
両方共にアルイスト連合国、引いては人類にとって無くてはならない存在なのだ。
アルイスト連合国は全5つの都市から出来ており、クレセールや竜討伐に関する場所がある育成区「クルセ」、ありとあらゆる品物が売ってある商業区「ザンサ」、宿屋や住居が存在する居住区「ジーチ」、外周の壁で敵に備える防衛区「ムール」、各国の主要人物が集う中央区「クーリア」という名前になっている。アルイストは丸い城塞であり、北部にクルセ、西部にザンサ、東部にジーチ、円の中央にクーリア、外周は全てムールになっている。
それぞれの都市は巨大な門で区切られており、通行に制限が掛かっている場所が殆どで、ザンサとジーチとムールを繋ぐ門だけは開放されており行き来は自由となっている。
簡単に纏めるとこんなモノだろうか、と青年はパンフレットの内容を考えていた。
アルイストの目玉という事もあってかなり長く書かれているのが読む人を選びそうだ、と青年は思う。
パンフレットには他に観光地や名所なども載っていたが、青年はあまり興味が無いようでそれらを流し見てパンフレットを閉じた。
「クルセは北ですか」
青年の現在地、居住区ジーチから育成区クルセは北へ真っ直ぐだ。
アルイスト自体が円形の国なので直線という訳ではないが、迷う事はないだろう。
「あぁ。でも先に依頼所を見に行った方が良さそうですね」
青年の現在地からクルセへと向かう先を少し寄り道すれば依頼所へと辿り着く。
ついでという事で青年は先にそちらへ向かうことにしたようだ。
先程の場所から歩いて十分程、青年は依頼所に着いた。
「こんな時間から大賑わいですね」
時刻は朝早く、まだ日が昇ってすぐだというのに依頼所では沢山の人が行き交っていた。
依頼人やハンドマンが行き交っているこの場所を通るのは骨が入りそうだ。
青年もそれが分かったのか不用意に近づかず、遠巻きに依頼所を覗くだけだ。
「見ている分には特に他の国との違いは無さそうです」
本当に寄り道だったのだろう。青年は数分程度の観察を終えると道を戻りクルセへの道へと進んでいた。
「お前さん、いい代物を腰に差しているじゃねーか。お前さんみたいなひょろっ子が使うには勿体無いようなもんだ。この!最高最強なロドリゴ様にその代物をプレゼントしてもいいんだぜ?」
しかしその道中、青年は面倒そうな人物とその取り巻きに絡まれていた。
その人物はロドリゴ。一応ハンドマンの彼は実力者ではあるが、その評判は殆どが悪評だった。新人いびりのロドリゴ、と二つ名が付く程度には周知されていて、彼に近付こうとする人はあまり居ない。彼に付いていくのは脅された者か、彼に似た行動をする者達だけだろう。
とはいえ、なぜそんな人物が未だにこの国に居座れるかだが、ハンドマンとしての実力は優秀なためだ。各地で何度も起きているドラゴンや魔物による襲撃や天災により、人類は減少の一途を辿っている。その為、実力社会というのが出来つつあり、優秀な人材は各地で優遇されているのだ。
量より質。
それが現在の世界が認めつつある常識であり、こうしてロドリゴの様な者でも実力があれば認められてしまうのだ。
「これがいい代物だと気付いた貴方の観察眼は認めますが、渡す気はありません。そちらへ行きたいのですが、通してくれませんか?」
「はんっ。ここを通りたかったらその剣を寄越しなって事だ。簡単だろ?」
青年は断りをいれて通させてくれと願ってみるが、ロドリゴがそれを許すわけが無かった。
青年は周りの人に助けを求めて辺りを見たが、それは期待できないようだ。
周りの人が何も騒がない、という事はこれはよくあることなのだろう。青年に対して同情的な視線を送る人物も居た。
青年は困ったような顔をして立ち止まる。ただ、本当に困っているように見えないのは気のせいだろうか。彼からは未だに余裕を感じさせる雰囲気があった。
「貴様ら!何をしている!」
暫くの沈黙を壊す声が、ロドリゴ達の後方から聞こえてくる。
凛とした整った声はこの辺りに響き、遠巻きに見ていた住人もその声を聞くや皆去っていった。
「これはこれはハンターのリーンハルトさん。なに、新人に街案内をしていただけですよ」
ロドリゴはその声の主に心当たりがあるようで、慌てもせず後ろを振り向き言い訳する。
この状況の救世主がハンターとは、と青年は小さくつぶやき何故かくすりと笑っていた。
「ハンドマン、ロドリゴ。貴様らの悪評は街のあちこちで聞いている。それを私が鵜呑みにするとでも?眼帯の君、実際は何をされていたんだ?」
ロドリゴと会話していたリーンハルトはロドリゴの横を抜け、青年の前に姿を表した。
真っ赤に燃える髪をなびかせて現れたのは正しく騎士といった姿だった。
白を基本にしているその鎧姿は聖騎士と言った方が良いかもしれない。胸元にはドラゴンにX印の紋章があり、竜討伐隊の証明だ。
青年はリーンハルトへ姿勢を正し先程のあるがままを答える。
「この道を通りたければ剣を寄越せと言われました」
彼は疑われないようにかリーンハルトの蒼い眼を見続ける。リーンハルトは頷いた後、ロドリゴの方へと向き直る。
「だ、そうだが?何か他に言い訳はあるか?」
「けっ!おめえら、帰るぞ」
ロドリゴも流石にハンターに抵抗する気はないのか、取り巻きを連れて何処かへ去っていった。
「助かりました。お礼もできずに申し訳ありませんが、時間が無いので失礼します」
ロドリゴ達に絡まれていたせいで、青年の約束の時間が迫っていたのだ。寄り道したのも原因の一つだが…。
「いやなに。礼を言われることでもないさ。ああいう連中はよくいるから気を付けるんだぞ」
青年は頷くとクルセへと向かい、すぐに姿が見えなくなった。
それを見届けるとリーンハルトは手を顎に当てて、少し考えていた。
「今日来る人物は確か……眼帯をしていて銀の剣を持っていると聞いたが……まさかな」
「この先は許可なき者は通れん」
「えぇと。これで良いですか?」
ジーチとクルセを繋ぐ門の前に到着した青年は、門番に鞄から紙を出しそれを渡す。
「こ、これはっ!!お待ちしておりましたっ、すぐにご案内させてもらいます」
それを見た門番は驚き声を出すが、直ぐ様道を開放し、もう一人に青年の案内を頼んだ。
大勢が通れるようにと大きな門ではあるが、個人単位で行き来することが多いため、門には普通の大きさの扉も用意されている。そちらは年中開いているが門番が数人居て、無理やり通ることは出来ないようになっている。
「すみません、お手を煩わせてしまって」
「いえ!そんな事はありません!」
どうも門番は緊張しているらしく、何処か機械的な動きをしている。
青年は建物の合間から見える空を見て、満足げな顔をしていた。間に合ったことに対しての安堵感だろう。
「すみませんがここで少しお待ち頂けますか?」
「はい。分かりました」
竜討伐隊と書かれた門を超えた先の建物の中の応接間。そこに青年は案内され待たされていた。
青年が案内された場所は恐らくアルイスト連合国で最も有名な竜討伐隊の駐屯地だ。
クレセールを卒業した者はここへ移動し、ドラゴン関連の依頼が国から発行されそれを遂行しに行く。
竜討伐隊はチームを組んでいて、基本的にはそのチームごとに依頼を達成する形だ。依頼を受けていなければ他は自由で、国外にも許可さえ出れば行くことも可能だ。
とはいえ基本的には帰郷目的が多い、というかそれ目的ぐらいしか出る必要はないぐらいにアルイスト国内が栄えている。
青年が通されて十分程度が過ぎると、部屋の扉がノックされて人が入ってきた。
「やあ、初めまして。僕の名前はラックル・ミンスター。竜討伐隊で二番隊の隊長をやってるよ」
部屋に入ってきた金髪の男は挨拶と共に青年に手を差し出した。
先程見たリーンハルトと違って鎧は着ていないが、竜討伐隊の紋章が服の襟元に付いていた。
青年は立ち上がり差し出された手を握る。
「本日はお招きいただきありがとうございます。私はイヴァンス・ロアと申します。宜しくお願いします」
握手が終わるとラックルはソファに座り青年、イヴァンスもまた座り直した。
イヴァンスは促されるまま対面に座り、ラックルと向かい合った。
「いやぁ、光栄だね。貴方みたいな人と僕がこうやって会話出来るなんて」
ラックルは笑顔でそう言った。イヴァンスは差し出されていた飲み物を飲みこみ、こう返す。
「会話ぐらい私は誰とでもしますよ。理不尽な事さえなければ、ですが」
先程のロドリゴの件を思い出しながらイヴァンスは苦笑する。
その笑いをどう取ったのかは分からないがラックルもまた飲み物を飲み込み、こう切り出す。
「貴方自身はどうとも思ってないようですが……ドラゴンの襲撃を退けるなんて事到底一般人には無理なことですよ。ましてや………それもお一人で、なんて」




