激突男子
「やめて、ユウキ!」
両手でユウキの体を押しやろうとするけれど、毎日の部活で鍛えられたユウキの体は、わたしの力ではびくともしない。
どうしてこんなことになったの?
涙で視界が歪む。
みんなから好かれている人気者のユウキ。いつも笑顔のユウキ。わたしは、彼をこんなにも追い詰めていたの?
そのとき、背後でドアの開く音がした。玄関に光が射し込む。
「なに、やってるんだ?」
頭上から、かすれ気味の声が降ってきた。
「ナカ? おまえ、どうして……」
ユウキが動揺したその隙をついて、わたしはユウキの腕の中から逃げ出した。ナカが、わたしをかばうように体を割り込ませる。
「おまえがなんの目的もなくおれに関わってくるなんて、考えられない。なにかあるんだろうと思った」
「どういう意味だよ」
ユウキの顔が引きつったように歪む。
「おまえがおれに近づくのは、おまえにとってそれがなんらかのメリットになるときだけだ。そのことを思い出した。たとえば内申書のために、先生に好印象を与えたいときとか、気になる女子の気をひきたいときとか、な」
「たとえそうだとしても、他人に関心のないおまえには関係のないことだろ」
「ああ。だからこれまで関与しなかった」
「じゃあ、なんでここに現れるんだよ!」
「おれのせいで誰かに迷惑がかかるのは嫌なんだ。こいつは連れて帰る。じゃあ」
ナカがわたしの手をつかんで外に出る。
「待てよ!」
呼び止めるユウキの声を聞きながらも、ナカは足を止めない。
道路に出たところで、わたしは振り返った。
ユウキが泣きそうな顔で玄関に立っているのが見えた。
「ユウキ、ごめん」
「ミサちゃん……」
「本当に、ごめんなさい」
それだけ伝えると、わたしはユウキに背を向けた。
ユウキに対する気持ちはぐしゃぐしゃで、まだ整理できていないから。
相変わらずふらふらしているナカと並んで、歩き出す。
こんな状態なのにわたしのために来てくれたんだと思うと、涙が出るほど嬉しかった。
「ありがとう」
「自分のためだから」
ナカはうつむきがちにぼそっと呟く。
そんなナカの不機嫌そうな横顔を見つめていたから、気づくのが遅れた。
「あ!」
わたしの声と、ナカが電信柱にぶつかった鈍い音が響くのは、ほぼ同時だった。