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ふたり並んで  作者: ユウリ
8/11

嘘つき男子

 ユウキの家は、本当に近所だった。


「どうぞ」


 鍵のかかっていないドアを開けて、ユウキが促す。

 ユウキのお母さんがいることは、さっきユウキがメールで確認していた。

 おじゃまします、と家の中に向かって声をかける。

 けれど、応える声はない。


「あれ、出かけたのかな? これじゃあ、前もって連絡した意味がないよね。でも鍵を閉めてないくらいだから、きっとすぐに帰ってくると思うよ。あ、ぼくの部屋二階ね」


 とんとんと階段を上ってゆくユウキの背中を見て、わたしは少し躊躇する。ここまできておいてなんだけれど、実はまだ迷っていた。


「ミサちゃん?」


 しんと静まり返った家の中に、ユウキの声がいやに大きく響く。


「やっぱりわたし、今日は遠慮しとくよ。アルバム、また今度見せて」


 靴はまだ脱いでいない。踵を返して、玄関のドアに手を伸ばす。けれど強い力で肩をつかまれ、指先がノブをかすめただけだった。


「ユウキ!?」

「ぼく、これでもミサちゃんのことをずっと見てたんだよ。だから、すぐにわかった。ぼくのことを恋愛対象として見られないのは仕方がないことかもしれない。でも、なんであいつなの?」


 振り向くとすぐそこにユウキの強張った顔があって、息を呑む。


「ちょっ、ユウキ……」

「あいつはいつもあんな感じだよ。体育の授業中だって、ぼくが声をかけてやらないと組む相手がいない。修学旅行の班行動だって、影のようにみんなのあとをついてくるだけ。一緒にいたって少しも楽しくない。そんなあいつの、どこがいいの?」


 肩をつかむユウキの手に力がこもる。


「ユウキ、痛い……」

「ミサちゃん、ナカはやめといたほうがいい。君がもしあいつを選ぶっていうなら、ぼくは君のことを諦められない」

「そんな……」


 困惑しながらも、ユウキの視線を受け止める。こんなユウキは初めて見る。いつもにこやかなだけに、笑っていないユウキの顔はすごく怖くて、痛ましい。

 ユウキにこんな顔をさせたのは、わたしなんだ。そう思うと、罪悪感に胸が押しつぶされそうになる。


 でも――。


 自分でも、まだわからない。

 ナカのことをどう思っているのかなんて。

 彼のことが気になるし、放っておけない。

 今わかっているのは、たったそれだけなのに……。


「ごめん、ユウキ」


 わたしは目を伏せて謝る。


「謝ってほしいわけじゃない」 


 強い口調に、鋭い視線。このままじゃいけない。頭の中で警報が鳴り響く。

 ユウキのお母さんはまだ帰って来ないの?


「無駄だよ。母親には、さっきメールで買い物を頼んだんだ。すぐに帰るから、鍵は開けたままでいいって言ってね」


 わたしの思考をよんだように、ユウキが言う。


「嘘だったの!?」

「君とゆっくり話がしたかったんだ」

「話なんて、嘘をつかなくてもできるはずよ」

「できないよ。ミサちゃんはぼくのことなんて少しも考えていない」

「そんなことない」

「じゃあ、ぼくとつきあって」

「それは……」


 もう、断ったじゃない。

 答えようとしたその瞬間、つかまれていた肩をぐいとユウキのほうに引き寄せられた。ユウキの腕の中に捕らわれる。


「ユウキ⁉」

「どうしたらぼくとつきあってくれる? 強引に、ぼくのものにしてしまうしかない? それならぼくは、もう手段を選ばない……」


 耳もとで囁かれる声。

 その近さと吐息の熱に、わたしは体を竦めた。

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