頑固男子
ナカにはすぐに追いついた。
なぜなら、改札を出たところにある伝言板に、まるでボロ布のようにひっかかっていたから。
「ほらぁ、だから無理だってば」
「めまいがしただけだ」
なんでこんなに意地を張るんだろう?
唇が乾燥しているし、目は少し充血している。呼吸も速い。わたしはナカの額にそっと手を伸ばした。
「なっ、なにするんだ!」
ナカが動揺して身を引く。その額は、すごく熱かった。
「熱があるよ。ねぇ、少し休ませてもらう?」
「いい加減にしてくれ。構わないでくれ」
わたしの手を軽く払うと、顔をそむける。
「いい加減にするのは君のほうだよ。ナカが他人と接するのを嫌っているのは知ってるけど、心配してくれてる人に対して、その態度はないんじゃない?」
わたしたちに追いついたユウキが、ナカを諫める。
他人と接するのが嫌い?
わたしには、ただどうすればいいのかわからずにいるだけのように見える。
「おれが頼んだわけじゃない」
相変わらず拒絶を続けるナカ。
わたしはその手から鞄をひったくった。弱っているナカから鞄を取り上げるのはいとも容易かった。
「ユウキ、ナカの家までどのくらい?」
「徒歩で十分くらい、かな」
そのくらいなら、ここでだらだらと説得しているあいだに家まで着けそうだ。
「案内して。鞄を届けるから」
「待てよ」
鞄を手放したナカが、わたしを見て目を眇める。
「鞄が心配なら、一緒に帰ればいいじゃない。家に帰るまでは大丈夫だって、さっき言ったよね?」
「もちろんだ」
「じゃあ問題ないね。あなたが家に帰るのを見届けたら、わたしはすぐにいなくなるから」
ユウキが嫌がるナカに肩を貸し、わたしたちはゆっくりと歩き出した。