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ふたり並んで  作者: さく
11/11

不器用男子

 試験休み明けのテスト返却日。


 ほうほうの体で学校を脱出したわたしは、いつものようにマユと一緒に電車に乗り、マユが降りてから車内を移動した。


 三つ前の車輌で、ひょろりとした人影はすぐに見つかる。

 黙ってその隣に立つと、ナカはちらりとわたしに視線を向けた。

 目が合うと、慌てて本に視線を戻してしまうのだけれど、前までと違って、今のナカはきちんとわたしのことを認識してくれている。

 だから、そんな些細なやりとりでもすごく嬉しい。


 ナカがいつも立っている理由も、話をしているうちになんとなくわかってきた。

 ナカは、別に他人と接するのが嫌なわけでも、他人に興味がないわけでもない。ただ、どのように他人と接すればいいのか判じかねているだけなのだ。


 他人とのやりとりに自信がもてないから、他人とできるだけ関わらないようにしている。だから、誰かに席を譲るという行為も苦手なのだ。


 けれど一度座ってしまったら、他人に席を譲る機会が多くなる。

 ナカの性格上、近くに立ったままの人がいるのに自分が座っているという状況はどうにも落ち着かないらしい。

 たとえそのとき空席があったとしても、すぐに次の駅から人が乗ってくるだろう。それなら、最初から座らずにいるほうがよほどいい、ということらしい。


「おれは若いし男だし、立っていても別に苦痛じゃないから」


とナカは言っていた。


 ナカの話を聞いて、最近は他人とコミュニケーションをとることが苦手な若者が増えている、とテレビで言っていたのを思い出す。

 現代っ子らしいと言ってしまえばそれまでなのかもしれない。

 けれど、ナカの不器用だけど優しいところも、わたしは素敵だと思う。


 もう、わたしは自覚し始めていた。

 こうして、わたしはどんどんナカのことが好きになってゆく、ということに。


 ふたり並んで立っているだけで、すごく幸せな気持ちになる。

 ナカの横顔を観察するのも楽しい。


 最近、少し頬が緩んだとか、微かに顔をしかめたとか、そういう些細な変化にも気づけるようになってきた。


 ナカが読んでいる本のタイトルを教えてもらって、自分でも読んでみたりする。

 難しい本は途中で眠くなってしまってなかなか読み進められなかったりするけれど、ナカがときどき解説してくれるので、それもまた幸せだなぁって思う。


「なに? 気持ち悪いんだけど」


 にやにやしているのに気づかれてしまった。わたしは慌ててにやけていた顔を引き締める。


「だって、嬉しいんだもん」

「一緒に立ってるのがか?」


 ナカが理解できない、というように眉根を寄せる。


「一緒にいられるのが、だよ」


 わたしが訂正すると、ナカがなにか言いたそうに口をぱくぱくと二、三度開け閉めしたけれど、結局諦めたように小さく息を吐いた。


 そんなナカの様子を見て、わたしはほっこりとした気持ちになる。


 一緒にいられれば幸せ。それは本当。

 でも、できればいつか、せめて空席がふたつ並んでいるときくらいは、ふたり並んで座れるようになれたらいいな。


 ナカをその気にさせるにはまだまだ時間がかかりそうだけれど、そんな日を夢みて、今日もわたしは彼の隣にいる。



                                               了

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