チープトーク
気がつけば600PV。ポイントも18p。
段々と増えているのが嬉しいけど、後半の内容を若干変えてるため更新頻度が落ちてるのが悔しい今日この頃。
散華は関心していた。
父親から教えてもらった帝王学――
勝つためには、人と同じことをやってはいけない。
それが忠実に実行されている方策。
それでいて自分のことも夕治は考えてくれていた。
最初は夕治だけの目論見で行動を起こすと思っていたのに。
だが、散華はあまのじゃくだった。それでいてどこか気持ちが晴れない。
自分が優位に立っていないからなのか、それとも他の要因があるからなのか分からないが、夕治の行動に対していつも胸が昂ぶっていた。
「嫌なものは嫌! 最初に言ったことを曲げないのが青山財閥の帝王学よ!」
「あら、反抗期。若いわねー。でもそうやって人は、反抗は時として身に降り注ぐナイフだと気付くのかしらねー」
「あんたは黙ってなさいよ! 今は夕治としゃべってるんだから!」
その原因の一つと考えられるのが、夕治にいつも付き添っているこの朝宮未夏だった。
学校では夕治を独り占め出来るのだが、夕方になるとすぐ未夏のターンに変えられる。
今日も、やる予定だった宝探しゲームを邪魔された。
散華は正直、どうしてもこのゲームがやりたくて仕方がなかった。
昔遊んでいたゲームを執事から教えられる。そのたびに散華は興味が湧いた。
今の時代には誰もやらない遊び。一人でやる物。二人以上でやるゲーム。
どれをとっても単純で面白かったと執事から聞かされていた。
宝探しゲームもその一つだ。
「あんたが居なかったら、いまごろ夕治と勝負が出来たのにどうしてくれるのよ! 庶民の分際で……なんの取り柄も無いくせに!」
急に思いついたような散華の横暴極まりない態度に、未夏が小首をかしげる。
「取り柄なら有るわよ? 例えばね……」
言って、未夏は目前にある紅茶が入ったティーカップを指し示す。
そしてスマートフォンを取り出して幾何学模様を画面に描くと、光が照らしだされた。
その光を掌に当て、ティーカップの中に人差し指をそっと入れる。
と、瞬く間に紅茶の表面がガラス細工のように固まった。
「あまり遣り過ぎるとカップが割れちゃうから、このぐらいにしてと……」
スマートフォンをポケットに仕舞い、ティーカップから指を出す。
そのあとにハンカチを取り出し、綺麗に指を拭きとってから散華に差し出した。
「……何よこれ。どういう原理なの?」
与えられたティーカップの中を見て散華が眉をひそめる。
チューリップの形をした氷の結晶体がカップに浮かび上がっているのだ。
「魔法よ。私の血液型はB型RHマイナス。色んな物を凍らせることが出来るのよ」
涼しげに笑みを浮かべながら未夏が返答する。
朝宮未夏の魔法は氷属性。
B型の中でも百人に一人の存在――RHマイナスの特性。
特段使いやすい魔法というわけではない。
水がないと氷が作れないし、物を生み出すというより液状を固体にするしか出来ない魔法だった。
「その程度、アタシだって出来るわよ! 見てなさい! じいや、腕時計を持ってきて!」
言って散華が背後に目を向けると、執事から腕時計を手渡された。
画面が大きく正方形に模られた銀色の腕時計を片手に巻く。
用途は様々だが、おもに予め登録しておいた魔法陣を呼び出す時に使われる。
傍らに付属してある小型のペンを使って散華が操作をすると、画面から光が照らしだされた。
そして液晶部をめくるようにして反転させ、掌に光を当てると、
「見なさい! これがアタシの持って生まれた能力よ!」
そう豪語して立ち上がる散華。闇の魔法を使って姿を消そうとする。
徐々に身体の色素が薄まって半透明になっていくと、やがて散華の姿が完全に見えなくなった。
だがひとつ、この魔法には欠点があった。
「……服が透けてないみたいだけど、透明になった意味があるの?」
「服を全部脱げば良いだけよ! 腕時計も絵の具を使って身体に描いたら、何もかも見えなくなるわ! これがアタシの特技よ!」
透明になった散華が声を上げる。
服が小刻みに揺れていて、どこに居るのかが一目瞭然に分かる。
腕時計が前方で宙を待っているので、おそらく散華は今、指を突きつけいるのだろう。
「外に居る時はどうするのかしら? まさか服を脱いで行動するの? ただの痴女よねー?」
冷然に欠点を指摘する未夏。
この魔法も特段使いやすいという魔法ではない。
光を吸収する特性――闇。
その性質ゆえ、赤外線センサーを当てればすぐに存在が分かってしまう。
また夜襲など犯罪の道具としても利用出来るため、各自GPSの発信機を身体に埋め込むことを義務付けられている。
どこに居るのかが逐一記録されるので、自身のアリバイにもなるからだ。
発信機は主に小指の一部に埋め込む場合が多いのだが散華も同様らしい。
突きつけたであろう指の近くにマイクロチップがあるのが見てとれた。
「それともうひとつ。これをみなさい! こっちが本命よ!」
強く主張する散華の声が聞こえ、スカートからスマートフォンが引き出される。
上下左右に動く通信端末。傍から見ればポルターガイスト現象に見えるだろう。
宙を舞ったスマートフォンを夕治と未夏が目で追っていた。
やがて眼前まで来て画面を閲覧する。
と、そこには文字がびっしりと書かれてあった。
携帯の日記に刻まれている過去の内容。
中でも投資についての書き込みが多いようだ。
「これは凄いな。日記がすごい注目されてるじゃないか。主に逆の意味で……」
「……多分、他の人には、わざと売り買いを逆に書いているのだと思われてるんでしょうね」
目にした日記には、色んな人からの返信レスが書き連なっていた。
赤い文字で大きく書かれてある、的中率十二%の数字。
売りと買いの二択――五割の確率をここまで外すのは相当まれだろう。
意図的に外しているのか。それとも人智を超えた天啓なのか。
さまざまな議論のレスが散華の投資日記の中で溢れかえっていた。
「なぜかアタシが書いた銘柄は逆の値動きになっちゃうのよ。意図的に逆に書いても結果は同じだし……」
そう声が聞こえると同時にスマートフォンの画面が遠ざかると散華の姿が色濃く浮かび上がった。
執事に銀時計を返し散華がそのまま二の句を継ぐ。
「資産ランキングでは上位なのに――的中率ランキングではワースト十位。これは人には真似できない特技のはずよ!」
別に自慢できるものでも無いのに、誇らしげな態度をとる散華。
特技でも長所でも無いのに、人はここまで勝気な性格になれるのかと雄二は思案する。
「なんか俺がすべて悪かったように感じてくるんだが……まぁなんとなくわかったよ」
納得いかない様子で頭を下げる夕治に散華は鼻をならす。
「ふふんっ! わかればいいのよっ! んで夕治の特技はなんなのよ?」
「俺か? 俺は前にも言ったが……人よりも聴覚が優れてることぐらいだよ」
「……それだけ?」
「それだけってなんだっ! ある程度遠くの音も聞こえるし情報収集だってできる。投資には一番必要なことだろうがっ!」
情報の必要性を必死に夕治が説明する。
遠くの音が聞こえるだけで大して役に立たない能力と思っているらしい。
他の能力と違って抽象的で目に見えないのも散華に理解されない一因ではあるのだろうが。
「でもそんなんじゃランキングの上位は目指せないでしょ? 何でもありなのよ?」
「……なにも正当法でやろうとは思ってないさ。だからこそ、この三人でやるんだよ」
怪訝に思う散華を横目にして夕治が説き伏せる。
当たり前のことをして三人で力を合わせても効率が上がるわけではない。
散華の言うとおり何でもありというルールなら、こちらとしても出せるものを全て出して戦わなければいけない。それが魔法であろうとも。
「散華の特性は闇で姿を消せる。未夏は水を凍らせることができて、俺は音を聞き分けることが出来る。上位のやつらはどんな魔法が使えるんだろうな。未来予知や、時を止めたりすることが出来たりするのかもな」
たとえ投資に関係ないスキルだとしても、このゲームには対戦がある。
ルールに準拠してやるなら投資でコツコツと稼ぐより、個人同士で対戦することがランキングを駆け上がる一番の近道だろう。
企業としても対戦で大きくランキングが動けば、それだけ多人数を巻き込むことになるし、市場も動いて利益を呼びこむことになる。
市場と連動するように値が動くだけでは、このゲームを作った意味がないからだ。
「未来予知って……。そんなのが居たら絶対に勝てないじゃないの」
「このゲームの勝者なんて、みんなそういうものさ。誰もが出来ないような特技を使える人材こそ企業も欲しいんだよ。大人の身勝手と――子供の遊び心を掛けあわせたもの。それこそが、このゲームの真髄なのさ」
現代工学で無理だと思われてきたことが出来るようになると、そこに歪が生まれる。
その歪を修復するためには、法整備や知識などさまざまな適応環境が必要になる。
今は魔法全体の実態がまだ確立されておらず、それぞれの特性にどんな能力があるのかが把握されていないが、いざ確立された状況下になると、それはもう程よく調整された只のゲームになってしまう。
だからこそ、ルールが無い状況の今、このゲームの上位に君臨するということは、将来的に全てを掌握できる人物だという証明にもつながる。
このランキングの上位に入るのは、そういう意味合いが込められているのだろうと夕治は推測する。
「だからまずはこの三人で投資ファンドを作りたいんだ。ファンドにはリーダーがかかせない。最初のリーダーはまず、散華にやってもらうもらおうと思ってるんだがどうだ?」
「わたしがリーダー?」
「それなら文句はないだろ? ただし代表権は無しだ。こと有るごとに多数決で決めた方が責任も分散しやすいからな」
未夏にも目線を向けるが、首肯して了承の意思を見せる。
おそらく夕治の意図することを汲み取れているのだろう。
代表権が無くて多数決で決まるのなら、結局は代表者である意味が無くなることを。
夕治にとっても苦肉の策だったが、散華の性格上仕方がない。
夕治や未夏をリーダーにしても散華は絶対に了承しないだろう。
散華も「あたしがリーダー……」とブツブツと呟いている。
よほど嬉しいのだろう。顔に笑みを浮かべていた。
「それにさ、三人の資金を合わせれば上位にも対抗出来るし、資金を奪い取るんだからランキングも変動していくはずだ。散華もここらへんで頭打ちだっただろ?」
「……まだ本気を出してないだけだけど、分かったわよ」
「じゃあ決まりだな。未夏もそれでいいか?」
「私は……ただ金を稼ぐことだけ。それ以外には考えてないから」
言って、未夏が席を立つ。椅子を引きながら礼儀正しく執事に礼をする。
もうそろそろ時刻も六時半になる頃だ。
帰宅の途につく未夏を見て、散華が訝しがる。
「ちょっと――逃げる気?」
「ふふ、逃げるなんて心外ね。そういう発言は、せめて私のランキングに近づいてから言ったほうが良いわよ? 足手まといのリーダーさん」
未夏が軽く返事をしてそのまま帰ろうとする。
まだ最後まで話が終わってないのにと思う夕治だったが、
「おい、ちょっと待てよ未夏……俺も帰るから。じゃあ散華、また週明けの学校でな」
そう言って夕治も、未夏の後を追おうとする。
ファンドの利点を話したのは良いが、肝心のデメリットをまだ言ってない。
三人のまとまった資金を動かす分、
得る時の恩恵も大きいけど――負けた時の代償も大きいことだ。
だがそれを言ったところで、今の散華は聞く耳を持たないだろう。
変に思われて夕治も被害を食いかねない。触らぬ神に祟りなしだ。
後方で騒ぎ立てる散華を尻目にして、帰路につく夕治であった。