↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の魔法使い  作者: 小高まあな
第二章
PR
9/27

2−3

 朝、下駄箱を見たら泥団子がつめこんであったのは、澪とトイレで話したあの一件から数日後だった。

 さっと血の気が引く。

 辺りを見回す。

 誰もいない。

 通りかかった一年生が、私と下駄箱に気づいてぎょっとした顔をしたが、すぐに視線を逸らして行ってしまった。

 その方が、いいんだけれども。下手に反応されるよりは。

 どうしよう。

 泥にまみれた上履きをひっぱりだす。

 先生にバレたら面倒なことになる。叔母さんにもお母さんにも、知られてしまう。どうにかしなくっちゃ。

 仕方なく、靴下のまま流し場にむかい、上履きの泥を洗い流す。

 雑巾とちりとりを、廊下の掃除用具置き場から借りてくると、下駄箱を掃除した。

 作業をしている私の後ろを、何人かのクラスメイトが通りすぎる。

 みんな、一度ぎょっとしたように私を見てから、それでも何も言わずに通り過ぎていった。

 手伝ってくれるようなひとなんて、もちろんいなかった。

 ようやく、なんとなく綺麗になった、ような気がする。

 雑巾とちりとりを片付けていると、

「あんた、なにしてんの」

 背中に声をかけられた。

 びくっと肩が震える。

 振り返ると、ジャージ姿の澪が仏頂面で立っていた。

 テニス部の彼女は、今日は朝練だったのだ。私よりも先に叔母さんの家を出ていた。今終わったところだろうか。

「上履き、どうしたの?」

 流しに置いたままの上履きを見た彼女に、重ねて詰問される。

「……ちょっと」

「ちょっとなに」

 誰かにやられた、なんて言いたくなかった。言えなかった。

 そんなこと澪に言ったら、叔母さんに知られてしまう。叔母さんに知られたら、お母さんにだって。

 そんなの、困る。

「汚しちゃって」

「なんで?」

 廊下の流し場で仁王立ちになった澪に、次々と尋ねられる。

 そんな私達は一目をひくのか、ちらちらと通り過ぎる生徒達が視線を向けて遠ざかっていく。

 どうしようどうしよう。

 必死に頭を働かせる。

「誰か、が」

「誰かが?」

「……泥だらけのまま、校舎に入ったみたいで。廊下が汚れてて。それを、その、掃除してたら、汚れたの」

 苦し紛れの言葉だったが、我ながらいい嘘だと思った。手に持った雑巾のいいわけにもなる。

「……ふーん」

 澪は私を見下ろすようにして呟くと、

「いい子ちゃんしてるからそういうことになるのよ。廊下なんて汚したやつが綺麗にすればいいんだから」

 ふんっと鼻をならして続けた。

「……うん」

 いいわけにはなったけれども、澪からの評価をまた、下げてしまった。まあ、いまさらだけれども。

「職員室の横」

 はやくどこかに行ってくれないかな、そう思ってうつむいていると、上からつまらなさそうな澪の声が降って来た。

「え?」

「お客様用のスリッパがあるから、それ履いてなさいよ」

「……そういうの、勝手に借りたらまずいんじゃないの?」

「いい子ちゃんねー」

 また鼻で笑われる。

「みんなやってるわよ。そのまま靴下で過ごす方がなんか言われるよ」

 それもそうかもしれない。

「……わかった」

 ありがとう、と小声で続ける。

 澪は一度軽く頷くと、颯爽と教室に戻って行く。

 私は濡れた上履き片手に、教室とは反対側、

職員室に向かって歩き出す。

「ねぇ」

 その背中に、また声をかけられた。

 振り返ると、澪が廊下の真ん中で腰に手をあてて立っていた。

 通りすがりの人が、邪魔そうな顔をしている。

「なんかあったらいいなさいよ」

 真っすぐに目を見て、そう言われた。

 思わず逸らす。力強い瞳に耐えられなくなって。

「……ないよ」

 そうして小さい声で呟いた。

「あったらって言ったでしょう。あんたに何かあったら、母さんに怒られんのあたしなんだからね」

 不満そうにそう言うと、今度は私の返事も待たずに歩き出した。

 何もないし、言えないし、言わない。

 そんなこと、できるわけがない。

 ああ、誰か、ここから、連れ出して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。