1−5
次の日は、土曜日。学校は休みだったので、朝から図書館に向かった。あの人達がいつくるかわからなかったから。
私が行くと、すでにあの人達は来ていた。
レファレンスカウンターで、彼女がなにか必死に訴えている。
「ノート、昨日忘れてっ」
「昨日ですか? そうですねー、ノートの忘れ物はなかったですねー」
「でもっ」
ぐっとカウンターに身を乗り出す彼女のを、ややぞんざいに彼が引き止める。
「声でかい」
「だって」
振り返った彼女は涙目だった。
「ないものはないんだってば。あきらめろって」
「でもっ」
「なんのノートだか知らないけど、そんな大事なものならちゃんと持っとけ」
「……そうだけど」
「すみません、万が一あったらとっておいてください」
「あ、はい、それは勿論」
「お願いします。……だから、真緒、今日は帰ろう」
「だけどっ」
カウンターからてこでも動かない、と言った顔をした彼女に、彼は苦虫をかみつぶしたような顔で頭を掻く。
これ、のことだ。
鞄からノートを取り出す。
本当は今日、しれっとカウンターに渡しておいて、素知らぬフリをしておくつもりだった。ずるいことだとは、わかっていたけれども。
どうしよう。
こんなに大事になって、今更でていくなんて怖くてできない。恥ずかしい。
「真緒」
だけど、彼女はあそこで、あんな風に泣きそうになっている。それを見過ごすこともできない。
しちゃいけない、と思う。
大きく深呼吸。
仕方ない。
持って帰ったのも私で、拾ったのも私で、悪いのは私だ。
どきどきと、心臓がうるさい。
カウンターに近づいて、声をかける。
「あのっ」
盛大に裏返った。
咳払い。
「あ、あのっ、こ、これですか?」
言いながらノートを差し出すと、泣き出しそうな顔をした彼女がこちらを見て、ノートを見て、ぱああああっと顔を明るく、笑顔にした。
「あたしのっ!」
ぴょんっと跳ねるようにして、私の手からノートを受け取る。
嬉しそうにそれを胸に抱く。
「あ、あのっ、昨日落としたの、拾ってて、あの、間違えてっ、持って帰っちゃってて、すみませんっ」
彼女はまったく訊いてはいないが、言い訳を繰り広げる。
彼女は浮かれたようにノート見つめて笑っている。
「礼を言え、おまえは」
そんな彼女の頭を、彼は軽く叩き、
「すみません、ありがとうございました」
私に向かって頭を下げる。
「あ、あ、いえ、すみません」
私も慌てて頭を下げる。
持って帰っちゃって、すみません。
「ありがとうっ!」
彼女もぴょこんっと頭をさげた。
「お騒がせしました、すみません」
彼はカウンターの人にもそう言って頭をさげ、
「ほら、帰るぞ」
彼女の手をとると、すたすたと、流れるように図書館から出て行ってしまった。あまりに速い動きに、なにも言葉がかけられなかった。
カウンターのお姉さんを見ると、展開の早さに圧倒されたような顔をしていた。
が、私が見ていることに気づくと、
「忘れ物は届けてくださいね」
感情を持て余したかのように言われた。
「……すみません」
ぺこり、と頭を下げると、逃げるように奥に向かった。




