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私の魔法使い  作者: 小高まあな
第一章
2/27

1−2

 だけど、今日はいつもと違っていた。

 彼が迎えに来た時、彼女は丁度、ぼろぼろと大泣きしているところだった。

 彼女がずっと泣いているから気になって、さっき後ろを通るとき、何を読んでいるか確認してしまった。

 『くまとやまねこ』。私も読んだことがある絵本。確かに悲しい話だ。くまと仲が良かったことりが死んでしまうお話で。

 ぼろぼろ泣いている彼女を見ると、彼は一瞬、ぎょっとしたような顔をして、いつもゆったり歩いているのに、やけに早足で彼女の隣に立つ。

「何?」

 言いながらも、彼女の手から絵本を取り上げ、ぱらぱらと捲っていく。

 彼の手が最後のページを捲り、

「ああ」

 納得したかのように頷くと、ぽんぽんっと彼女の頭を叩いた。

「熊に山猫がいて、よかったな」

 そして何の躊躇いもなく、そう言った。彼女も、小さく頷く。

 それになんだか、なんだか胸がどきどきした。

 やまねこは物語の中盤、ことりの死を受け入れられず閉じ籠ってしまったくまのもとに現れる。ことりのことを忘れなくちゃ、と言う周りの友達とは違い、やまねこは仲が良かったのだね、とあるがままを受け入れ、くまの心の傷を癒す。そんな重要な役割をしている。

 ことりが死んでしまって悲しいから泣いているのではなく、ことりが死んでしまって悲しんでいるくまを立ち直らせてくれたやまねこがいた。そのことに、彼女は感動して泣いていた。

 そして彼は、ほんの少し絵本を捲っただけで、その理由に思い当たったのだ。いとも簡単に。

 だって、ただ見ただけならば、ことりが死んだことが悲しいともとれるのに。

「ほら、帰るぞ」

 くしゃくしゃっと頭を撫でる、その手は傍目に見ていても優しい。

「どれ借りる?」

 彼女は黙って、いくつかの本を彼に手渡した。その中には、『くまとやまねこ』も入っていた。

 彼は頷くと、もう一度軽く彼女の頭を叩いて、貸出カウンターに向かった。

 彼女はぐいっと左手の袖で目元を拭うと、いつものように本を元の場所に返して、彼のあとを追った。

 ほんの少し見ただけで、彼女が泣いた理由にいきあたる。

 同じ本を読んで、同じ感想を抱く。相手がどう思ったかが、わかる。

 その距離感に、どきどきした。だってそれ、ちょっとやそっとの仲の良さじゃできないことだもん。

 あの人達は、何者なのだろうか。

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