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私の魔法使い  作者: 小高まあな
第二章
13/27

2−7

 のに、やっぱりあっさり眠ってしまったようだ。

 気づいたらテーブルに突っ伏して眠っていた。

 肩に薄手の毛布がかけられている。

「あ、起きたー?」

 真緒さんが私に気づくとそう言った。

 ダイニングテーブルの向かい側で、その隣に座る隆二さんと、話をしていたみたいだった。

「……あれ、すみません」

 目を擦りながら顔をあげる。

 恥ずかしい。

「ううん」

 真緒さんは軽く首を横に振った。

「だいじょーぶ?」

 ふわっとした問いに、小さく頷く。

「ん、ならよかった」

 真緒さんがくしゃっと笑った。

「そろそろ起こした方がいいかなって、話してたところなの。今ねー、五時をちょっと過ぎたとこだよ」

「あ、はい」

 じゃあ、そろそろ、帰らなくちゃいけないのか。

 考えて憂鬱になる。

 普通の笑顔を作れるだろう。叔母さんの前で。

「制服はねー、お風呂場のとこに干してあるよ」

 干して?

「あー、悪い。勝手に洗った」

 隆二さんが苦虫をかみつぶしたような顔で言った。

「一応、目立った汚れをとったぐらいだから、もう乾いているとは思うんだが。……全部終わってから思った。男に洗濯されるのって、嫌だったよな、悪い」

 本当に、申し訳なさそうな声で言われるから、恐縮してしまう。

「え、いえ、そんな」

 確かに、よく知らない人に自分の衣服を扱われるのって嫌だけれども、そんなこと言える立場じゃないのは十分よくわかっているし、それに、

「そんな、嫌じゃないです」

 この人になら、まあいいかな、と思ったのだ。

 完全なる善意でしてくれたことだと思うし、別に変な下心がなかったこともわかっているから。

 なんとなく、隆二さんならいいかな、と思った。

「……ならいいんだが」

「あの、ありがとうございます。すみません、なにからなにまで……」

 というか、

「なんでもできるんですね」

 パンク直して、洗濯までして。

「こいつがなんにもできないから仕方ない」

 隆二さんは、皮肉っぽく笑いながら隣の真緒さんを指差した。

「むー、テレビの録画できないくせに」

「見ないから構わない」

「またそういうこという! この機械音痴が!」

 むすっと真緒さんが膨れる。

 楽しそうで、羨ましい。

「っと、着替えてくる?」

 ひとしきり隆二さんを睨んだあと、真緒さんが私の方を向いて言った。

「あ、はい」

 頷く。立ち上がったところで、

「あ、あの、この服は、今度、洗濯してお返ししますね」

 今着ているルームウェアを指差す。

「良いよー別に、洗濯機の上にでも置いといてくれればー」

「だけど」

 悪いじゃないか、それじゃあ。

「持って帰ったところで、洗うの大変だろ。叔母さんにばれないように」

 隆二さんが言った言葉に、すっと冷静になる。

 そうだ、叔母さんにバレないように洗うなんて。

 澪とか目敏いし、新しい服持っていたら問いつめられるかもしれない。

「ホント、置いといていいよー。どうせ洗うのは洗濯機だし」

「……まあ、確かに洗うのは、俺じゃなくてましてや真緒でもなくって、洗濯機様様だなー」

 のんびりとそんなことを言う二人を交互に見比べて、

「……えっと、じゃあ、すみません。お願いします」

 お言葉に甘えることにした。

「うん、気にしなくていいよー」

「お願いします」

 今度、お菓子かなんか買って来よう、また改めてお礼に来よう。そう決めた。

 お風呂場に行くと、制服がハンガーにかかっていた。

 言われたとおり、目立ったシミがとれて、綺麗になっている。

 制服に袖を通す。

 まだ少し湿っているけれども、あのままよりはよっぽどマシだ。本当に、とってもありがたい。

「本当にありがとうございました」

 パンクの直った自転車。

 綺麗な制服。

 あたたかいお風呂。

 何から何まで、甘えてしまった。

「ううんー、気にしないでー」

「真緒に貸し三だから」

「あれっ、増えてない!?」

 真緒さんが驚いたように隆二さんを見て、隆二さんが楽しそうに笑った。

 本当にこの人達は、とっても楽しそうに笑う。

 なんの憂いもないかのように、屈託なく、子どものように。

 それが眩しくて、羨ましい。

「送らなくて平気? 道、わかる?」

「大丈夫です」

 まっすぐ行って、交差点を右、で図書館ですよね? と確認すると、真緒さんが大きく頷いた。

「図書館までわかれば平気です」

「うん、よかった。じゃあ、気をつけて帰ってね」

「はい、ありがとうございます」

「また、図書館でねー」

 ひらひらと手をふられる。

 それに手をふりかえすと、自転車に跨がり、勢いよく踏みこんだ。

 パンクが直った自転車は、すぃっと軽く進む。

 どこまでも、軽く。私を連れて行ってくれる。

「気をつけてねー」

 背後からかかった声に、ちょっとだけ振り返ると、小さくなった真緒さんが手をふってくれていた。

 見えないかもしれないけれども、ぺこりと頭を下げる。

 気持ちはだいぶ軽くなった。

 少なくとも今日は、叔母さんの家に帰っても乗り越えられる。

 そう、思えた。

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