第01話
俺は北見 優。都内の都立高校に通っている。
その日の学校帰り、俺が交差点を渡っていると、「退いてー!」という叫び声と共に自転車に乗った女の子が突っ込んで来た。
俺と自転車に乗った女の子は衝突して吹っ飛び、地面を転がる。
「痛……!」
起き上がる俺だが、違和感があった。
背中まで伸びた黒髪。
色白の肌に少し膨らんでいる胸。
「まさか……」
嫌な予感がした。
「重い……」
下から男の声。
見ると俺の体があった。
「退いて……」
俺はその上から退いた。
俺の体が起き上がる。
「ごめんね」
俺の体が顔をこちらに向けて口を開いた。
「え?」
彼は今の俺の姿を見て疑問符を浮かべた。
「どうして私が二人も?」
「二人じゃなくて入れ替わっただけだよ」
「嘘?」
「嘘じゃないよ。鏡見てみなって」
俺はカーブミラーを指差した。
彼がカーブミラーの下へ行き、自分の姿を見て驚く。
「何でよ!?」
「どうやら事故の衝撃で入れ替わってしまったみたいだね」
「そんな……」
落ち込む彼。
「気にすんなって。その内戻るさ」
「こうなったら、貴方に戦ってもらうしかないわね」
「戦う?」
「私は城ヶ崎 聡美。またの名を、ミラ・カタルーシア。貴方から見れば、私は宇宙人よ」
「……頭、大丈夫か?」
「大丈夫よ! どこもおかしくないわよ!」
「で、戦うって?」
「地球侵略を企むピナッツ星人から地球を救うのよ」
「ピーナッツが地球を救うって?」
「ピナッツよ、ピナッツ。そして私はそのピナッツ星人から地球を守る為に派遣されたバハムートよ。でもそのバハムートの体は今、貴方が持ってるから貴方が戦うしかないの」
「とてつもなくスケールのでかい作り話だね」
「本当の話よ。飛べと念じてみなさい」
言われた通り、飛べ、と念じてみると、俺は空中に舞い上がった。
「と、飛んだ!?」
ならこれも?
俺が右手を前に翳し、光弾を放つイメージをすると、ドラ○ンボールのように光弾が手の平から飛び出した。
「わーお!」
飛び出した光弾は電柱に当たり、それをぶっ壊してしまった。
やば! けど面白い!
俺は地上に降りた。
「すげえ!」
「信じてくれる?」
「信じるよ! で、具体的に俺はどうすればいいの?」
「そうね……。取り敢えず、ピナッツ星人が来たら戦ってちょうだい」
「分かった。で、そのピナッツ星人ってのは、どうやって見分けるの?」
「人間を一撃で殺せるような奴がピナッツ星人よ。例えばあの人とか」
彼が指を差した先を見ると、老人を若者が襲っていた。
「うっ!」
老人は若者に攻撃されて気絶した。
「おい、お前──っ!」
俺は若者に向かって叫んだ。
「弱い者いじめよくないな」
「何だ、貴様? 我々の任務を邪魔しようというのか?」
先制攻撃だ!
俺は光弾を若者に向かって放った。
素早く身をかわす若者。
「バハムートか。俺はピナッツ星人のナッツだ。お前は?」
「ミラ・カタルーシア……らしい」
ピナッツ星人のナッツは無言を回答に襲い掛かってきた。
ブン!──パンチを食らい、投げ飛ばされる俺。
「痛えなてめえ!」
地面を転がった俺は立ち上がり様にナッツに接近し、飛び蹴りを浴びせようとするが、空へと舞い上がって回避されてしまう。
「お前も飛べるのか」
俺は空中へ浮かび上がり様にナッツの顔面を殴りつけた。
「はあ!」
「ぐっ!」
俺はラッシュ攻撃を浴びせ、最後に渾身の力でナッツを蹴り飛ばし、「フラッシュバスター!」と、思いついた技名を口にしてナッツに向けて光線を放つ。
「うおおおおお!」
光線をまともに食らったナッツはバラバラに砕け散って消えた。
俺は地上へと降りる。
「初めてにしては上出来じゃない」
「勝てるとは思わなかった」
「その調子よ。次も頑張ってね」
「うん。ところでさ、行く所があったんじゃないの?」
「そうよ! ピナッツ星人が降りたって聞いて、上野公園まで行くんだったわ!」
「じゃあ行ってくるよ」
俺は自転車を起こし、上野公園を目指した。
そして、辿り着いた上野公園は、既に荒れ果てていた。
至る所に人々の死骸が転がっており、異臭が漂っている。
「可哀想に……」
「可哀想だ? 地球人なんて下等な生物は消えてなくなればいい!」
その言葉と共に若い男がやってくる。
「これをやったのはお前か?」
「だったらどうする? 俺を倒すってか? 無駄無駄。人間にそんなことが出来る訳がない」
俺は男の懐に一瞬で潜り込み、殴りつけた。
「ぐわっ!」
吹っ飛ぶ男。
「少しは出来るようじゃねえか。だが……」
男が光線を放ってくる。
俺は光線を撃ち返して相殺した。
「貴様、バハムートか!?」
俺は無言で男に接近。ラッシュ格闘をした。
「がっ!」
男に吹っ飛ばされる。
そこへ駆け付けてくる彼。
「まだ下等生物が残っていたか」
「下等生物言うな!」
俺は男が彼を見ている隙にフラッシュバスターを放つ。
「しま……!」
男はフラッシュバスターを受けて爆裂霧散した。
地上に降り立つ俺。
「何とか倒したけど……」
俺は公園の有様を見る。
「こればかりはどうにも出来ないわ」
「さて、帰るか」
「どこに?」
「家」
「その姿で?」
「あ……」
俺は今、女の子になっていることを思い出した。
「貴方の家には私が帰るわ」
「俺はどこへ帰ればいいんだ?」
「私の家。私、宇宙警察機構で、上司と一緒に暮らしてるの。上司には事情は説明してあるわ」
「ふーん。それで、家はどこにあるの?」
「ここにあるわ」
彼が俺に住所を書いたメモ帳をよこす。
「俺ん家の隣か──っ!」
「じゃ、私は帰るわよ」
「言葉遣い気を付けろよ」
「分かってるわ」
彼はそう言って去って行った。
俺もそれを追い掛けるように自転車で公園を後にした。