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若気の至り

作者: わらみ
掲載日:2026/09/13

その日、俺は人を殺した。




忘れもしない

あれはまだ日の長さを実感するような夏の事


きっかけは些細なことで、ムカついたから

きっと若気の至りでは許されないだろう


文化祭実行委員になった俺は

もう1人の委員と一緒に暗くなるまで

準備をしていた


そいつは小中高と同じ学校に通っていたが

友人という訳ではなかった


思えばそいつは小学校の頃から

ガキ大将気質で、周りの人間を

力に任せて取り巻きにするような奴だった


奴は高校でもその傲慢さを遺憾無く発揮して


「楽しそう」


と実行委員になったものの

全ての準備を俺に丸投げしては

それを見ているだけだった


何もしない癖に偉そうに指図する男に

嫌気がさし、持っていたカッターで首元を切りつけた


殺害というのは案外呆気ないもので

何故か涙と共に笑みが零れた事以外

特段変わったことはなかった


殺しがなかなか重い罪というのは理解していた

だから死体も凶器もそのままに

学校を後にし、最寄りの駅から乗り換えを繰り返し


5時間ほど揺られた後に

名前も知らない無人駅で降りた

うるさいだけの携帯は、電車に置き去りにして。


その時降りた場所は、町と言うには小さく

村と言うには大きい集落だった


長く電車に乗って疲れていたから

適当な壁に寄りかかってその日は寝た


朝になった頃

知らない声に話しかけられて目が覚めた


「なあ、お前何してんだ?」


やけに馴れ馴れしいその声は

昨日の俺がした悪行を思い出させた


「そうか…俺は……」


「ん?」


「いや、なんでも…」


「ここさ、小さい町だからよ

タメの奴はみんな顔覚えてんだよ

でも見たことない顔だからさ」


「まあ、東京から来たから」


「東京!?なんでそんな奴が、朝の7時に

外で寝てんだよ」


初対面の相手にここまでズケズケと

踏み込むものだろうか


「色々…あったんだ」


成り行きで人を殺した。

そんなことを話していい訳がない


「あっそ、でこれからどうすんの?」


「どうするって?」


「さしずめ、大掛かりな家出ってとこだろ?

うち来るか?飯と布団くらいなら用意できるぜ」


突拍子もない提案が飛んできて、一瞬フリーズした


一定の場所に留まれば、捕まる確率が上がるだけ。

そんなことをするよりもっと遠くへ行った方がいい


「……」


「ま、俺学校行くから。

帰ってくる時に返事聞かせろよー」


そう言って歩いていく背中を見ていると

いつの間にか眠りに落ちていた


相当な疲れが溜まってたようで、

夕方まで目が覚めることは無かった


「お、まだ居た」


今朝と同じ声が、また寝起きの俺に話しかけてきた


「でどうすんの?来る?」


答えはひとつ。

逃げ延びるために遠くへ行く。

だと言うのに俺は


「…行く」


「良し!じゃあ着いてこい」


手を引っ張られ歩くこと10分

何の変哲もない一軒家の前で立ち止まり


「着いた。ここが俺ん家」


「ほんとにいいのか?家族とか」


「いいって、母ちゃん優しいから」


どうやらこいつは、かなり楽観的らしい


「あら、アンタ今日は友達連れてきたの?」


家の中から、どこか包容力のある声が聞こえてきた


「見ない顔だね。こんにちは」


軽くお辞儀を返す


「こいつ、色々訳ありなんだと

しばらく泊めてあげたいんだけど、いい?」


「もちろんさ、賑やかになるなら大歓迎だよ」


親子揃って、俺の事情は全く気にしない。

自然と心の中に、僅かな罪悪感が湧いていた。


家に上げてもらい、夕飯を食べた

角の方にある仏壇には、父親と思わしき写真が置いてある


風呂に入り、2階の部屋で2人で寝る。


そんな普通の生活が、一瞬だけ自分の罪を忘れさせた。


そんな日々が1週間ほど続いたある日、

この家に客が来た


たまたま1階へ降りてきた俺とその客は目が合い、

軽く会釈した。


「ねぇ、あの子…」


なにかヒソヒソと話し始めたのを感じ、

俺は背中に汗が伝うのを感じた。



その晩、けたたましいサイレンが

聞こえてきた瞬間に俺は逃げる準備を始めた。


「おい、どうしたんだよ」


「悪い、もうここには居られない

今までありがとう」


「は!?意味わかんねえよ!」


玄関には、警察と話すおばさんが見えた


「殺人だなんて、そんな子には見えないけどねえ」


「指紋が残されていたんです。

容疑者のものと思われる携帯も、

ここの最寄り駅を通過しています。」


表からは出られそうにない。

裏口から出ようと思ったその時


「裏口も見ておきましょうか?」


「ああ、頼む」


その会話が聞こえた瞬間、猛ダッシュで外に出た


どうすれば逃げられるか考えながら走っていると


「おい!」


「!?」


「なんで着いてきた!?」


「そりゃなんの説明もなく逃げ出したら

追いかけるだろ!普通!!」


後ろからは警官と思われる男の怒号が響いていた


「隠れるならこっちだ!」


咄嗟に手付かずの森に逃げ込み、更に走った。

一旦警察を振り切り、一段落ついて

そこから質問攻めにあうのは想像に容易かった


「説明しろ。なんで警察から逃げる?」


「俺は……人殺しなんだ」


「っ…!」


思いもよらぬ返答に、一瞬顔が歪んだように見えた


「人殺しって…それでここまで逃げてきたのか」


「もうついて来ないでくれ。

共犯者にしたくない」


そう言って更に森の奥へ走って行くと

まだ着いてくる影と、新たに追いかけてくる影があった


無我夢中で走ってるうちに、数十メートルはある崖に

突き当たって動きを止めた。


「「おい!」」


青年の叫び声と警官の声が同時に飛んでくる


その瞬間、一つの事しか俺の頭にはなかった。




今でも、あの殺人が悪いこととは思っていない


申し訳ないとも、償おうとも思わない


だが、やり直しは効かない


ゴールを失ったこの人生にもう用はない


そんなクサイことを考えながら


まるでベッドに飛び込むかのように力を抜いて


坐禅を組むように無心で


クッションなんかあるわけがないその崖に


俺はゆっくり体重をかけ


やがて視界が真っ逆さまになった




激突の瞬間、激痛と共に

スイッチを切ったように俺の意識は途切れた。




あの後、俺を匿った2人は


「共犯者」


ではなく


「事情を知らずに利用された被害者」


として処理されたらしい














------------------------




「とまあ、俺が死んだのはそんな感じですね」


「はえー、若いのになかなか壮絶だったんやなあ

まあ若気の至りってやっちゃ」


歳もバラバラな男達が円になって話している


「お、そろそろじゃないですか、生まれ変わり」


「ほんまや、ほな行ってくるで

皆も頑張りや、いつか生まれ変われるからな」


1人の男は歩いていき、円は欠けた


「さて、じゃあ俺達も新たな人生に向けて頑張りますか!」


「「「「オー!」」」」



新たな人生…生まれ変わりか……


次の人生では、違う結末を迎えられるのだろうか…


…そんなこと、もう暫くは考えなくていいな





罪人は今日も働く


“やり直す“ために。

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